はじめに
クラウド比較の基本:なぜ比較が必要なのか?
こんにちは、皆さん。インフラエンジニアとしてAWSやAzureに触れている方も、これから学習を始めようとしている方もいると思います。クラウドの世界は日々進化しており、新しいサービスが次々と生まれています。その中で、AWSとAzureは二大巨頭として多くの企業に利用されています。
この2つを比較する際、「どちらが優れているか?」と聞かれることがよくあります。しかし、残念ながら明確な答えはありません。なぜなら、プロジェクトの目的、予算、チームのスキルセットによって最適なクラウドは異なるからです。
ちょうど、料理に例えると分かりやすいかもしれません。
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AWSは、様々な調理器具や食材が揃ったプロの厨房のようなものです。自由度が高く、どんな料理でも作れますが、何をどう使うかはある程度の知識が必要です。
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Azureは、Microsoftという大手メーカーの最新調理家電が揃ったキッチンと考えると良いでしょう。使い慣れたWindowsやOffice製品との連携がスムーズで、初心者でも簡単に使いこなせる機能が豊富です。
このように、それぞれの強みと弱みを理解することが、最適なクラウドを選ぶ上で非常に重要になります。
料金(Cost)
概要
クラウドの料金体系は、使った分だけ支払う「従量課金」が基本です。しかし、この「使った分」の計算方法がAWSとAzureで少し異なります。
深掘りポイント
料金体系の透明性: AWSはサービスごとに料金が細かく設定されており、非常に多くの項目があります。透明性が高い反面、すべてを把握するのは大変です。一方、AzureはAWSに比べてシンプルな料金体系を目指していますが、ライセンス料金が複雑に絡むことがあります。
割引制度: 両者とも「予約インスタンス」や「Savings Plans」といった、長期間利用することを前提にした割引制度があります。
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AWS: 予約インスタンスは特定のインスタンスタイプを予約するのに対し、Savings Plansはコンピューティングの利用量を時間単位でコミットするため、より柔軟な割引が適用されます。
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Azure: Azure予約やAzureハイブリッド特典(AHB)があります。特にAHBは、既存のWindows ServerやSQL ServerのライセンスをAzureに持ち込めるため、Microsoft製品を多く利用している企業にとっては大きなコスト削減につながります。
AWSとAzureのPros/Cons
AWS | Azure | |
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Pros | 「無料枠」が充実している。 多くのサービスで無料利用枠があり、まずは試したいという開発者には非常に魅力的。 | Microsoft製品との連携でコストを削減できる。 既存のライセンスを有効活用できるのはAzureの大きな強み。 |
Cons | 料金体系が複雑で、コスト管理が難しいと感じることがある。 | 従量課金とは別に、ライセンス料金が加算される場合があり、全体像を掴みにくい。 |
セキュリティ(Security)
概要
クラウドにおけるセキュリティの考え方は、「責任共有モデル」 が基本です。これは、クラウド事業者(AWS/Azure)と利用者側でセキュリティの責任範囲を分担するという考え方です。
- クラウド事業者: 物理的なインフラやOS、ネットワークのセキュリティに責任を持つ。
- 利用者: ユーザー認証、アプリケーション、データのセキュリティに責任を持つ。
深掘りポイント
ID管理:
- AWS IAM (Identity and Access Management): AWSリソースへのアクセス権限を細かく設定できます。ポリシーをJSON形式で記述するため、最初は難しく感じるかもしれませんが、慣れれば非常に柔軟な権限管理が可能です。
- Azure AD (Active Directory): オンプレミスのActive Directoryと連携が容易で、既存のID管理システムをそのまま利用できます。Microsoft製品に慣れているユーザーにとっては使いやすいでしょう。
セキュリティサービスの豊富さ: 両者とも、脅威検出、脆弱性診断、DDoS攻撃対策など、多岐にわたるセキュリティサービスを提供しています。AWSはサードパーティ製品との連携も非常に活発です。
AWSとAzureのPros/Cons
AWS | Azure | |
---|---|---|
Pros | セキュリティサービスが非常に豊富。 AWS GuardDutyやAWS WAFなど、専門的なセキュリティサービスが充実している。 | 既存のActive Directoryとの連携がスムーズ。 多くの企業がオンプレミスで利用しているADと簡単に統合できる。 |
Cons | IAMのポリシー設定が複雑で、ミスをすると意図しない権限を付与してしまう可能性がある。 | Microsoftのクラウド全体にまたがるセキュリティのため、Azure単独で完結しない部分がある。 |
運用(Operations)
概要
クラウド運用は、ただサーバーを立てて終わりではありません。日々の監視、ログ分析、自動化、障害対応など、多岐にわたる業務が発生します。両者とも、これらの運用を助けるための様々なツールやサービスを提供しています。
深掘りポイント
GUI(管理コンソール)の使いやすさ:
- AWS: サービスごとに独立したUIになっており、検索機能が充実しています。多くのサービスが別々に管理されているため、最初は戸惑うかもしれません。
- Azure: サービスが統合されたポータルで管理され、全体的に統一感があります。Microsoft製品のUIに慣れている人には親しみやすいでしょう。
CLI(コマンドラインインターフェース):
- AWS CLI: 非常に強力で、ほぼすべての操作がコマンドラインから可能です。自動化スクリプトを作成する際に欠かせません。
- Azure CLI: AWS CLIと同様に強力で、Azureリソースの管理を効率化できます。PowerShellとの親和性も高いです。
DevOpsツール:
- AWS: AWS CodePipeline、CodeBuild、CodeDeployなど、CI/CDのためのツールが豊富です。それぞれを組み合わせて、独自のパイプラインを構築します。
- Azure: Azure DevOpsは、Gitリポジトリ、CI/CD、ボード管理など、開発のライフサイクル全体をカバーする統合的なサービスです。一つのサービスで完結できるため、使い始めるハードルが低いかもしれません。
AWSとAzureのPros/Cons
AWS | Azure | |
---|---|---|
Pros | Codeシリーズなど、CI/CDツールが豊富。 サービスを組み合わせて、より柔軟な運用パイプラインを構築できる。 | Azure DevOpsが強力。 開発・運用を一つのサービスで完結できるため、チーム開発に向いている。 |
Cons | 監視ツールやログ分析ツールが複数あり、最初はどれを使えばよいか迷うことがある。 | Windows ServerやActive Directoryに強く依存した運用になりがちで、他のOSとの相性が悪い場合がある。 |
AWSとAzure、それぞれに強みと弱みがあります。あなたのプロジェクトに最適なクラウドを選ぶためには、これらの違いを理解し、実際に触れてみることが何よりも重要です。今後の連載で、さらに詳しく深掘りしていきましょう。
シリーズタイトル
第1章:クラウドの基礎知識と主要サービス編(第1回〜第10回)
- Day1: クラウドの歴史を紐解く 〜AWSとAzure、なぜ違うのか?〜
- Day2: 仮想サーバー:AWS EC2 vs Azure VM
- Day3: コンテナサービス:AWS ECS/EKS vs Azure AKS
- Day4: サーバーレス:AWS Lambda vs Azure Functions
- Day5: オブジェクトストレージ:AWS S3 vs Azure Blob Storage
- Day6: リレーショナルデータベース:AWS RDS vs Azure Database
- Day7: NoSQLデータベース:AWS DynamoDB vs Azure Cosmos DB
- Day8: ネットワーク:AWS VPC vs Azure VNet
- Day9: 認証・認可:AWS IAM vs Microsoft Entra ID
- Day10: CDN:AWS CloudFront vs Azure CDN
第2章:コスト管理とセキュリティ編(第11回〜第16回)
- Day11: 料金体系:AWSとAzureの課金モデルを徹底比較
- Day12: コスト管理ツール:AWS Cost Explorer vs Azure Cost Management
- Day13: セキュリティサービス:セキュリティサービス一覧とそれぞれの違い
- Day14: セキュリティベストプラクティス:クラウドにおけるセキュリティの考え方
- Day15: コンプライアンス:主要なコンプライアンス基準への対応状況
- Day16: 責任共有モデル:クラウドにおけるセキュリティの責任範囲
第3章:運用・開発とAI/ML編(第17回〜第24回)
- Day17: CI/CDツール:AWS CodePipeline vs Azure DevOps
- Day18: 監視・ログ:AWS CloudWatch vs Azure Monitor
- Day19: 運用自動化:AWS Systems Manager vs Azure Automation
- Day20: 管理コンソール:AWSとAzureの操作性の違い
- Day21: 開発者サポート:SDKやCLI、ドキュメントの比較
- Day22: AI/機械学習:AWS SageMaker vs Azure Machine Learning
- Day23: データ分析:AWS Redshift vs Azure Synapse Analytics
- Day24: IoT:AWS IoT Core vs Azure IoT Hub
第4章:実践的なユースケースと総合評価編(第25回〜第30回)
- Day25: オンプレミス連携:ハイブリッドクラウドに適しているのはどちらか
- Day26: マイクロソフト製品との連携:Microsoft 365などとの親和性
- Day27: 大規模ウェブサービス構築:最適なアーキテクチャの比較
- Day28: スタートアップ企業向け:コストと手軽さで選ぶなら?
- Day29: まとめ:それぞれのメリット・デメリットを徹底解説
- Day30: 最終回:あなたのプロジェクトに最適なクラウド選びの決定版