Day25: オンプレミス連携 - ハイブリッドクラウドに適しているのはどちらか
皆さん、こんにちは。エンジニアのAkrです。
「徹底比較! AWS vs Azure」シリーズ、Day25へようこそ。
今回は、多くの企業が直面する重要な課題であるオンプレミスとの連携に焦点を当てます。既存のIT資産を活用しつつクラウドのメリットを享受するハイブリッドクラウドの構築において、AWSとAzureのどちらがより適しているかを詳しく比較・検証していきます。
ハイブリッドクラウドの基本概念
ハイブリッドクラウドとは、オンプレミス環境とクラウド環境をネットワークで接続し、両者を一体的に運用するクラウド活用モデルです。単純なクラウド移行とは異なり、既存環境との共存を前提とした戦略的なアプローチです。
ハイブリッドクラウドの主要メリット
段階的な移行とリスク軽減
大規模な初期投資を伴うことなく、既存のオンプレミスシステムを段階的にクラウドに移行できます。これにより、移行リスクを最小化しながら、組織の変化に合わせた柔軟な移行戦略を立てることが可能です。
動的なリソース拡張
クラウドの計算資源を「バースト拡張」として利用することで、トラフィックの急激な変動や季節的な負荷増加に柔軟かつコスト効率よく対応できます。
コンプライアンスと規制要件への対応
機密性の高いデータや個人情報はオンプレミスに保持し、処理やバックアップなど規制の制約が少ない業務はクラウドで実行するといった、きめ細かなコンプライアンス戦略が実現できます。
災害復旧とビジネス継続性
オンプレミスとクラウドの両方にシステムを分散配置することで、単一障害点を排除し、高い可用性とビジネス継続性を確保できます。
AWSとAzureのオンプレミス連携機能比較
ネットワーク接続
接続方式 | AWS | Azure |
---|---|---|
VPN接続 |
AWS Site-to-Site VPN IPsec VPN接続でオンプレミスとVPCを接続。最大1.25Gbpsの帯域幅をサポート。冗長化構成にも対応。 |
Azure Site-to-Site VPN IPsec VPN接続でオンプレミスとVNetを接続。最大10Gbpsの帯域幅をサポート(VpnGw5のSKU使用時)。 |
専用線接続 |
AWS Direct Connect データセンターとAWSを専用線で直接接続。1Gbps〜100Gbpsの帯域幅を提供。グローバルに展開されたパートナーネットワーク。 |
Azure ExpressRoute データセンターとAzureを専用線で直接接続。50Mbps〜100Gbpsの帯域幅を提供。Microsoft Global Networkとの高速接続。 |
ID管理とセキュリティ
機能 | AWS | Azure |
---|---|---|
統合認証 |
AWS IAM Identity Center(旧AWS SSO) AD ConnectorでオンプレミスADとの連携をサポート。SAML、OIDCベースの認証統合。 |
Microsoft Entra ID(旧Azure AD) Azure AD Connectにより、オンプレミスADとのネイティブな同期とSSO実現。パスワードハッシュ同期、パススルー認証、フェデレーション認証に対応。 |
特徴 | 複数のクラウドプロバイダーとの連携に適している。 | Windows環境との親和性が極めて高く、設定が直感的。 |
管理・運用ツール
ツール | AWS | Azure |
---|---|---|
統合管理 |
AWS Systems Manager エージェントベースでオンプレミスサーバーをEC2と同様に管理。パッチ管理、インベントリ収集、リモート実行が可能。 |
Azure Arc Azureのコントロールプレーンを使って、オンプレミス、AWS、GCP上のリソースを統合管理。Kubernetesクラスターの管理にも対応。 |
特徴 | EC2との運用統一により学習コストが低い。 | マルチクラウド環境での統合管理に優れている。 |
ハイブリッドストレージとエッジサービス
サービス | AWS | Azure |
---|---|---|
ストレージ連携 |
AWS Storage Gateway ファイル、ボリューム、テープゲートウェイを提供。オンプレミスとS3/Glacierのシームレスな連携。 |
Azure Stack、Azure Stack HCI オンプレミスにAzureのサービス環境をデプロイ。完全なAzure互換性を持つローカル実行環境。 |
エッジコンピューティング |
AWS Outposts AWSのフルマネージドサービスをオンプレミスで実行。 |
Azure Stack Edge AIワークロードとデータ処理をエッジで実行。 |
詳細分析:各プラットフォームの強みと課題
AWSの強みと適用場面
技術的優位性
- Direct Connectの成熟度: 2011年からサービス提供を開始しており、グローバルで豊富な導入実績を持ちます。パートナーネットワークも充実しており、世界中のデータセンターからの接続オプションが豊富です。
- Systems Managerの包括性: エージェントベースの管理により、オンプレミスサーバーとEC2インスタンスを区別なく管理できます。パッチ管理、設定管理、自動化など運用業務の標準化が図れます。
- サービスの豊富さ: 200以上のサービスを提供しており、複雑なハイブリッド要件にも対応可能な選択肢があります。
適用場面
- Linuxベースのインフラストラクチャが中心の環境
- マルチベンダー製品を組み合わせた柔軟なアーキテクチャを求める場合
- グローバル展開を視野に入れた大規模なハイブリッド環境
課題と注意点
- ID管理の複雑さ: オンプレミスのActive Directoryとの連携設定は複数のコンポーネントを組み合わせる必要があり、Azureに比べて設定の複雑さがあります。
- Microsoft製品との親和性: Office 365やSharePointなどMicrosoft製品との連携においては、Azureに比べて追加の設定作業が必要になる場合があります。
Azureの強みと適用場面
技術的優位性
- Microsoft エコシステムとの統合: Active Directory、Office 365、Windows Serverとの親和性は他の追随を許さないレベルです。Azure AD Connectにより、オンプレミスADのアカウント、グループ、パスワードポリシーがクラウドに自動同期されます。
- Azure Arcの革新性: 2019年に発表されたAzure Arcは、AWS、GCP、オンプレミスのリソースをAzureポータルから統合管理できる画期的なサービスです。GitOpsを使った宣言的な管理も可能です。
- Azure Stackファミリー: Azure Stack Hub、Azure Stack HCI、Azure Stack Edgeにより、真の意味でのハイブリッド環境を構築できます。オンプレミスでAzureのAPIとサービスを利用可能です。
適用場面
- Windows Server、Active Directoryが中心のIT環境
- Office 365やMicrosoft 365を全社導入している企業
- エッジコンピューティングやIoTソリューションとの連携が必要な場合
課題と注意点
- ベンダーロックイン: Microsoftのエコシステムに深く統合されているため、将来的な技術選択の自由度に制約が生じる可能性があります。
- ライセンス複雑性: Windows Server、SQL Server、Office 365などのライセンス形態が複雑で、ハイブリッド環境でのライセンス最適化には専門知識が必要です。
実際の選択指針とベストプラクティス
技術環境による選択
Azureを選ぶべき場合
- 既存環境がMicrosoft製品中心(Windows Server、SQL Server、Active Directory)
- Office 365/Microsoft 365の全社導入済み、または導入予定
- .NET Framework/.NET Coreアプリケーションが主力
- 規制業界でオンプレミス処理が必須の業務がある
AWSを選ぶべき場合
- Linux/オープンソース技術が中心のインフラストラクチャ
- マルチベンダー戦略を重視し、特定のプラットフォームに依存したくない
- 豊富なサードパーティツールとの連携が必要
- グローバルでの高速ネットワーク接続が最優先事項
ハイブリッドクラウド構築のベストプラクティス
段階的なアプローチの採用
いきなり大規模な移行を行うのではなく、まずは開発・テスト環境から始めて、段階的に本番環境に拡張していくことが重要です。
ネットワーク設計の重要性
VPN接続から開始し、トラフィック量と要件に応じて専用線接続に移行するステップアップアプローチを推奨します。また、冗長化構成により単一障害点を排除することも重要です。
セキュリティ境界の明確化
どのデータ・アプリケーションをオンプレミスに残し、どれをクラウドに移行するかの明確な基準を設定し、セキュリティポリシーに基づいたガバナンスを確立します。
結論:戦略的な選択のために
ハイブリッドクラウドの成功は、技術的な機能だけでなく、既存の技術投資、組織のスキルセット、長期的なIT戦略との整合性によって決まります。
Azureの優位性: Microsoft環境が中心の企業にとって、Azureはほぼ自然な選択肢です。特にActive DirectoryとOffice 365の統合、Azure Stackによる真のハイブリッド環境は、他のプラットフォームでは実現困難な価値を提供します。
AWSの優位性: オープンスタンダードを重視し、ベンダーロックインを避けたい企業、またはLinux/オープンソース技術が中心の環境では、AWSの豊富なサービス群と柔軟性が大きなメリットとなります。
重要なのは、単純な機能比較ではなく、自社のIT戦略、コンプライアンス要件、既存の技術投資を総合的に考慮して選択することです。どちらのプラットフォームも優れたハイブリッドクラウドソリューションを提供しているため、適切な評価と設計により、確実に成果を得ることができるでしょう。
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次回、Day26では「コスト最適化戦略」について、両プラットフォームの料金体系とコスト管理機能を詳しく比較します。お楽しみに!