Day15: コンプライアンス:主要なコンプライアンス基準への対応状況
皆さん、こんにちは。エンジニアのAkrです。
「徹底比較! AWS vs Azure」シリーズ、Day15へようこそ。
今回は、クラウドにおけるコンプライアンスに焦点を当てます。コンプライアンスとは、法令や規制、業界の基準に準拠することです。特に金融、医療、公共といった分野では、クラウドサービスが特定の基準を満たしていることが必須となります。
AWSとAzureは、どちらも世界中のコンプライアンス要件に対応していますが、その認証取得状況や、それを支援するサービスには違いがあります。
コンプライアンスの基本概念
コンプライアンスの重要性
企業がクラウドサービスを採用する際、単に技術的な要件だけでなく、法的・規制的な要件も満たす必要があります。コンプライアンス違反は、多額の罰金や事業停止のリスクを伴うため、事前の検討が不可欠です。
主要なコンプライアンス分類
多くのコンプライアンス基準は、**「データの取り扱い」と「アクセス管理」**に関する要件を中心に構成されています。
第三者認証(国際標準)
- ISO 27001: 情報セキュリティマネジメントシステムの国際標準
- ISO 27017: クラウドサービス向け情報セキュリティ管理実践規範
- ISO 27018: パブリッククラウドの個人情報保護実践規範
- SOC 1/2/3: サービス組織統制レポート
業界固有の規制
- HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act): 米国の医療情報保護法
- PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard): クレジットカード業界のセキュリティ基準
- FedRAMP: 米国政府機関向けクラウドセキュリティ認証プログラム
地域固有の法令
- GDPR(General Data Protection Regulation): EU一般データ保護規則
- CCPA(California Consumer Privacy Act): カリフォルニア州消費者プライバシー法
- 個人情報保護法: 日本の個人情報保護に関する法律
AWSとAzureのコンプライアンス対応詳細比較
コンプライアンス情報の提供方法
AWS Artifact
- 特徴: セキュリティおよびコンプライアンス関連のドキュメント(SOC、PCIレポートなど)をオンデマンドで提供
- 利点: 直感的なインターフェースで必要な認証書類にすぐアクセス可能
- アクセス方法: AWS Management Console内から直接利用
Azure Service Trust Portal
- 特徴: AWS Artifactと同様に、コンプライアンス関連ドキュメントを一元的に公開
- 利点: Microsoft製品全体のコンプライアンス情報を包括的に提供
- アクセス方法: Web上の専用ポータルサイト
認証取得状況の比較
両サービスとも、主要なコンプライアンス認証は網羅的に取得しています。
認証/規制 | AWS | Azure | 備考 |
---|---|---|---|
SOC 1/2/3 | ✅ | ✅ | 両者とも定期的に更新 |
ISO 27001/27017/27018 | ✅ | ✅ | 国際標準として重要 |
PCI DSS Level 1 | ✅ | ✅ | EC事業には必須 |
HIPAA BAA対応 | ✅ | ✅ | 医療分野で必要 |
GDPR準拠 | ✅ | ✅ | EU市場向けに必須 |
FedRAMP | ✅ (Moderate/High) | ✅ (Moderate/High) | 米国政府案件で必要 |
コンプライアンス支援ツールの比較
AWS のコンプライアンス支援
AWS Config
- リソースの設定変更を追跡し、コンプライアンスルールへの準拠状況を監視
- 事前定義されたルールやカスタムルールで自動評価が可能
AWS Audit Manager
- コンプライアンス監査プロセスを自動化
- SOC 2、HIPAA、GDPRなどの標準的なフレームワークが事前設定済み
- 証拠収集と監査レポートの生成を自動化
AWS Security Hub
- セキュリティ態勢の一元的な可視化
- 複数のセキュリティツールからの検出結果を統合
Azure のコンプライアンス支援
Microsoft Defender for Cloud
- セキュリティ態勢管理とコンプライアンス評価を統合
- 規制コンプライアンスダッシュボードで準拠状況を視覚的に確認
- 改善推奨事項を自動的に提示
Azure Policy
- リソースの作成・変更時にポリシーを強制
- コンプライアンス要件を事前に設定してガバナンスを自動化
Azure Blueprints
- コンプライアンス要件を満たすリソース構成をテンプレート化
- 複数の環境に一貫したガバナンスを適用
政府・公共機関向け特別対応
AWS GovCloud
- 対象: 米国政府機関および承認された企業
- 特徴: 米国内の限定されたデータセンターで運用
- 取得認証: FedRAMP High、DoD SRG Level 2-5、ITAR準拠
Azure Government
- 対象: 米国政府機関、州政府、地方自治体
- 特徴: 独立したクラウドインスタンス
- 取得認証: FedRAMP High、DoD SRG Level 2-5、CJIS準拠
日本国内のコンプライアンス対応
共通の対応状況
両サービスとも日本の主要なコンプライアンス要件に対応しています。
- 個人情報保護法: 両者とも準拠体制を整備
- 金融庁ガイドライン: 金融機関のシステム外部委託に関するガイドラインに対応
- 政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP): 両者とも登録済み
データレジデンシー(データの保存場所)
- AWS: 東京リージョン、大阪リージョンでデータの国内保持が可能
- Azure: 東日本リージョン、西日本リージョンでデータの国内保持が可能
実装時の考慮事項
コンプライアンス要件の事前整理
プロジェクト開始前に、以下の点を明確にしましょう。
- 適用される法令・規制の特定
- データの分類と保護レベルの定義
- 監査要件と証跡保存期間の確認
- インシデント対応とブリーチ通知の手順策定
継続的なコンプライアンス管理
コンプライアンスは一度達成すれば終わりではありません。
- 定期的な監査の実施
- コンプライアンスルールの更新対応
- 従業員への継続的な教育
- 新しい規制への迅速な対応
設計時の注意点
データ暗号化の実装
- 保存時暗号化: 業界標準の暗号化アルゴリズム(AES-256など)を使用
- 転送時暗号化: TLS 1.2以上の使用を徹底
- キー管理: AWS KMS / Azure Key Vaultでの一元管理
アクセス制御の実装
- 多要素認証(MFA)の必須化
- ロールベースアクセス制御(RBAC)の実装
- 定期的なアクセス権限の見直し
ログ管理の実装
- 包括的なログ収集
- 改ざん防止機能の実装
- 規定期間の確実な保存
比較結果とおすすめ
観点 | AWS | Azure |
---|---|---|
監査自動化 | Audit Managerによる監査プロセスの完全自動化。証拠収集からレポート生成まで一貫してサポート | Defender for Cloudでコンプライアンススコアを自動算出。推奨事項に従うことで段階的に改善可能 |
既存環境との統合 | サードパーティツールとの連携が必要な場合が多い | Active DirectoryやMicrosoft 365との自然な統合。ハイブリッド環境での優位性 |
カスタマイズ性 | 複雑なコンプライアンス要件に対する詳細な設定と柔軟なカスタマイズが可能 | 標準的なコンプライアンス要件には十分だが、高度なカスタマイズはやや限定的 |
管理の統合性 | セキュリティとコンプライアンスを別々のサービスで管理 | Defender for Cloudでセキュリティとコンプライアンスを統合管理 |
学習コスト | 複数のサービスを組み合わせる必要があり、習得に時間を要する | Microsoft製品に慣れ親しんだチームなら比較的容易に習得可能 |
選択の指針
どちらのクラウドを選んでも、主要なコンプライアンス要件は満たせます。重要なのは以下の点です。
- 自社の業界・事業に必要なコンプライアンス要件の正確な把握
- 既存システムとの親和性
- 運用チームのスキルセットとの適合性
- 継続的な管理・運用の実現可能性
まとめ
クラウドにおけるコンプライアンスは、プロバイダーの認証取得状況だけでなく、利用者がいかにその認証を活用して自社の責任範囲を満たすかが重要です。
AWSは監査プロセスの自動化に強みを持ち、Azureはセキュリティとコンプライアンスの統合管理に優れています。どちらを選択するにしても、事前のコンプライアンス要件整理と、継続的な管理体制の構築が成功の鍵となります。
次回のDay16では、責任共有モデルにおける利用者の「責任範囲」について、より具体的で実践的な内容を掘り下げていきます。お楽しみに!
参考資料