Day14: セキュリティベストプラクティス:クラウドにおけるセキュリティの考え方
皆さん、こんにちは。エンジニアのAkrです。
「徹底比較! AWS vs Azure」シリーズ、Day14へようこそ。
今回は、AWSとAzureという特定のサービスから離れ、クラウドセキュリティにおける普遍的なベストプラクティスについて解説します。これは、両クラウドに共通する考え方であり、どのようなプロジェクトにおいても欠かせない知識です。
1. 責任共有モデルを深く理解する
昨日のDay13でも触れましたが、責任共有モデルは、クラウドセキュリティの最も重要な出発点です。クラウドに移行したからといって、セキュリティの責任がすべてプロバイダーに移るわけではありません。
プロバイダーの責任(セキュリティ・オブ・ザ・クラウド)
データセンターの物理的なセキュリティ、サーバーのハードウェア、ネットワーク、そして仮想化基盤の保護が含まれます。
利用者の責任(セキュリティ・イン・ザ・クラウド)
ゲストOS、アプリケーション、データ、ID管理(IAM/Azure AD)、ネットワーク設定(VPC/VNet)の保護が含まれます。
このモデルを理解しないと、「クラウドだから大丈夫だろう」と誤った認識を持ち、セキュリティホールを生み出すリスクがあります。
重要な注意点: サービスの種類(IaaS、PaaS、SaaS)によって責任の境界線が変わることを認識しておきましょう。IaaSでは利用者の責任範囲が最も広く、SaaSでは最も狭くなります。
2. 最小特権の原則(Principle of Least Privilege)
これはセキュリティの基本中の基本です。ユーザーやサービスに、業務を遂行するために必要な最小限の権限のみを与えるという原則です。
AWS IAMでの実装例
ユーザーやロールに付与するIAMポリシーを、ワイルドカード(*
)ではなく、特定のアクションとリソースに限定して作成します。
// 悪い例
{
"Effect": "Allow",
"Action": "s3:*",
"Resource": "*"
}
// 良い例
{
"Effect": "Allow",
"Action": [
"s3:GetObject",
"s3:PutObject"
],
"Resource": "arn:aws:s3:::my-specific-bucket/*"
}
Azure ADでの実装例
ユーザーやサービスプリンシパルに、Contributor
や Owner
といった広範な組み込みロールではなく、Reader
や Storage Blob Data Reader
など、より具体的な役割を割り当てます。
定期的な権限見直し
権限は定期的に見直し、不要になった権限は速やかに削除する運用プロセスを確立することが重要です。
これにより、万が一アカウントが侵害された場合でも、攻撃者がアクセスできる範囲を最小限に抑えられます。
3. 多層防御(Defense in Depth)
一つのセキュリティ対策だけに頼るのではなく、複数の異なるセキュリティ層を重ねて防御を固めるという考え方です。
ネットワーク層
VPC/VNetでパブリックな通信を隔離し、セキュリティグループ(AWS)やNSG(Azure)で通信を制御します。
認証・認可層
IAM/Azure ADでアクセスを厳密に管理し、多要素認証(MFA)を必須化します。
アプリケーション層
WAF(Web Application Firewall)やAPI Gatewayで、Webアプリケーションへの攻撃を防ぎます。
データ層
データを暗号化し、アクセス権限を最小限に抑えます。
たとえ一つの防御層が破られても、次の層が攻撃を防ぐことで、システムの全体的なセキュリティを高めます。
4. すべてのデータを暗号化する
保存時(at rest)と転送時(in transit)の両方で、データを暗号化することはもはや必須です。
AWS での暗号化
- 保存時: S3のサーバーサイド暗号化(SSE-S3、SSE-KMS)、RDSの暗号化機能、EBSボリューム暗号化
- 転送時: HTTPSの強制、Application Load BalancerでのSSL/TLS終端
Azure での暗号化
- 保存時: Azure Storageのサーバーサイド暗号化、Azure SQL Databaseの透過的データ暗号化(TDE)
- 転送時: Application GatewayでのSSL/TLS終端、強制HTTPS設定
暗号化キーの管理
自分で暗号化キーを管理する場合は、AWS KMSやAzure Key Vaultなどの専用サービスを活用し、定期的なキーローテーションを実施しましょう。
これにより、万が一データが漏洩しても、内容が解読されるリスクを大幅に低減できます。
5. ログと監視を徹底する
システムに何が起きているかを常に把握することは、セキュリティインシデントの早期発見と対処に不可欠です。
AWS での監視体制
CloudTrailでAPIコールを記録し、CloudWatch Logsに集約して、GuardDutyやSecurity Hubで分析します。さらに、VPC Flow Logsでネットワークトラフィックを監視し、異常な通信パターンを検知します。
Azure での監視体制
Azure Monitorでアクティビティログや診断ログを収集し、Microsoft Sentinelで分析します。Azure Security Center(現在のMicrosoft Defender for Cloud)でセキュリティ体制の評価も行います。
監視すべき重要な項目
- 不審なログイン試行(地理的に異常な場所からのアクセス)
- 権限昇格の試行
- 意図しないリソースの作成・削除
- 大量データの転送
- APIの異常な利用パターン
インシデント対応の準備
ログ監視だけでなく、インシデントが発生した際の対応手順を事前に策定し、定期的に訓練を実施することも重要です。
6. 追加のベストプラクティス
ネットワークセグメンテーション
アプリケーション層、データベース層、管理層など、機能ごとにネットワークを分離し、必要最小限の通信のみを許可します。
定期的なセキュリティ評価
ペネトレーションテストや脆弱性スキャンを定期的に実施し、セキュリティ体制の有効性を検証します。
セキュリティ教育
技術的な対策だけでなく、チーム全体のセキュリティ意識向上も欠かせません。フィッシング対策やソーシャルエンジニアリング対策の教育を継続的に実施しましょう。
バックアップとディザスタリカバリ
セキュリティインシデントに備えて、データのバックアップとディザスタリカバリ計画を策定し、定期的にテストを実施します。
まとめ
クラウドのセキュリティは、サービスが多岐にわたるため複雑に感じられますが、以下の基本原則を理解すれば、どのクラウドを利用しても共通の強固なセキュリティ基盤を構築できます。
- 責任共有モデルの正しい理解
- 最小特権の原則の徹底
- 多層防御の実装
- データ暗号化の必須化
- ログと監視の体制構築
- 継続的な改善プロセス
セキュリティは一度設定して終わりではなく、継続的な改善が必要な分野です。定期的な見直しと最新の脅威情報への対応を心がけましょう。
次回は、クラウドにおけるコンプライアンスについて掘り下げます。お楽しみに!
参考資料