はじめまして、りょーつといいます。高専出身の博士課程1年生です。研究の専門は力学や機構学で、Qiitaでは主に制御工学や数学に関する記事を書いています。
最近は数学に関する単発ネタで記事を書いていて,これまでに以下のような記事を書きました.興味があれば読んでみてください~.
①ウォリス積分の基礎
②ウォリス積分の応用
③n次元球のイメージについて
④四次元球の体積の計算
⑤ガウス積分
⑥ガンマ関数
⑦非自然数の階乗
⑧N階積分
⑨非整数階積分
⑩ベータ関数
⑪積分の半群性
⑫非整数階微分
⑬Mittag-Leffler関数
⑭多項式のラプラス変換の一般化
目次
1.はじめに
2.非整数階積分のラプラス変換
3.Caputo微分のラプラス変換
4.おわりに
1. はじめに
今回の記事では,非整数階微積分のラプラス変換について紹介します.なお,これらの元になるのが積分のラプラス変換です.ふつうの制御工学や微分方程式の講義ではあまり積分のラプラス変換に注目しないですよね?ですが,非整数階微積分は積分をもとに定義されているので,積分のラプラス変換が主な解析対象となります.
本稿では$m$階積分を表す演算子を$I^m$とします.たとえば1階積分は以下のようなイメージです.
I f(t)
=
\int_{0}^{t}
f(u)
du
\tag{1}
反対に$n$階微分は$D^n$で表します.以下のようなイメージです.
D^n f(t)
=
\frac{d^n f}{dt^n}(t)
\tag{2}
本稿では非整数階積分$I^\beta f(t)$と非整数階微分$D^\alpha f(t)$のラプラス変換を計算してみます.
計算途中に,多項式のラプラス変換が出てくるので,前回の記事を軽く読んでくことで理解が深まりやすいと思います~.
2. 非整数階積分のラプラス変換
さっそくですが,非整数階積分のラプラス変換を計算してみたいと思います.途中でかなり美しい変換が出てきます.そもそも非整数階積分は以下のように定義できます.
I^\beta f(t)
=
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
\int_{0}^{t}
(t - u)^{\beta - 1}
f(u)
du
\tag{3}
先に結果を述べると,(3)式のラプラス変換は以下のように与えられます.
\displaystyle \mathcal{L}[I^\beta f(t)]
=
\frac{1}{s^\beta}
\mathcal{L}[f(t)]
\tag{4}
これはラプラス変換の講義にも出てくる
\displaystyle \mathcal{L}[I f(t)]
=
\frac{1}{s}
\mathcal{L}[f(t)]
\tag{5}
にも対応してそうですよね.早速(4)式を導出してみましょう.
ラプラス変換の定義にしたがって変換を行ってみましょう.$e^{-st}$をかけて積分します.
\displaystyle \mathcal{L}[I^\beta f(t)]
=
\int_{0}^{\infty}
I^\beta f(t)
e^{-st}
dt
=
\int_{0}^{\infty}
\bigg(
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
\int_{0}^{t}
(t - u)^{\beta - 1}
f(u)
du
\bigg)
e^{-st}
dt
=
\int_{0}^{\infty}
\int_{0}^{t}
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
(t - u)^{\beta - 1}
f(u)
e^{-st}
du
\
dt
\tag{6}
ここでおなじみの積分順序変更をしてみましょう.
(6)式の積分領域は$0 \leq u \leq t$,$0 \leq t$なので,図1に示すような領域となります.これを異なる不等式で表すならば$u \leq t$,$0 \leq u$になるかと思います.
このような順序変更を(6)式に反映すると,以下のような式が得られます.ここで重要なのは,あくまでも積分領域のみが変更され,被積分関数の形は変わらない点です.
\displaystyle \mathcal{L}[I^\beta f(t)]
=
\int_{0}^{\infty}
\int_{u}^{\infty}
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
(t - u)^{\beta - 1}
f(u)
e^{-st}
dt
\
du
=
\int_{0}^{\infty}
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
f(u)
\int_{u}^{\infty}
(t - u)^{\beta - 1}
e^{-st}
dt
\
du
\tag{7}
ここで内側の$t$に関する積分だけに注目してみましょう.とても置換積分をしたくなるような見た目をしていますね.皆さんの予想通り
r
=
t-u
\tag{8}
dr
=
dt
\tag{9}
というふうに置換してみましょう.積分区間は$u \leq t \to 0 \leq r$に変更となります.内側の積分を抜き出すと以下のようになります.
\int_{u}^{\infty}
(t - u)^{\beta - 1}
e^{-st}
dt
=
\int_{0}^{\infty}
r^{\beta - 1}
e^{-s(r + u)}
dr
=
e^{-su}
\int_{0}^{\infty}
r^{\beta - 1}
e^{-sr}
dr
\tag{10}
(10)式を(7)式に代入するとなんと$r$に関する積分と$u$に関する積分が完全に分離できるだけでなく,これらはそれぞれラプラス変換の定義式になっていることが分かります!
\displaystyle \mathcal{L}[I^\beta f(t)]
=
\int_{0}^{\infty}
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
f(u)
e^{-su}
\int_{0}^{\infty}
r^{\beta - 1}
e^{-sr}
dr
\
du
=
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
\int_{0}^{\infty}
f(u)
e^{-su}
du
\int_{0}^{\infty}
r^{\beta - 1}
e^{-sr}
dr
=
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
\displaystyle \mathcal{L}[f(t)]
\displaystyle \mathcal{L}[t^{\beta - 1}]
\tag{11}
前回の記事より,非整数乗の多項式のラプラス変換は
\displaystyle \mathcal{L}[t^{p}]
=
\frac{\Gamma(p + 1)}{s^{p + 1}}
\tag{12}
になることを解説したので,
\displaystyle \mathcal{L}[t^{\beta - 1}]
=
\frac{\Gamma(\beta)}{s^{\beta}}
\tag{13}
であり,(13)式を(11)式に代入することで
\displaystyle \mathcal{L}[I^\beta f(t)]
=
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
\displaystyle \mathcal{L}[f(t)]
\frac{\Gamma(\beta)}{s^{\beta}}
\therefore
\displaystyle \mathcal{L}[I^\beta f(t)]
=
\frac{1}{s^{\beta}}
\displaystyle \mathcal{L}[f(t)]
\tag{14}
が得られます.
積分の順序変更の偉大さを感じる証明でしたね.第3章ではざっくりとCaputo微分のラプラス変換を取り上げます.ちなみに(14)式さえ理解していれば秒で終わります.
3. Caputo微分のラプラス変換
Caputo微分は非整数階微分の定義の1つです.自然数$n$と$0 < \beta < 1$を用いて
\alpha
=
n - \beta
\tag{15}
になるような非整数階微分$D^\alpha f(t)$を考えます.このとき,Caputo微分は以下のように定義されます.
D^\alpha f(t)
=
I^\beta \big( D^n f(t) \big)
=
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
\int_{0}^{t}
(t - u)^{\beta - 1}
\frac{d^n f}{du^n}
(u)
du
\tag{16}
ここで重要なのは,(16)式が(14)式によってラプラス変換可能な点です.積分演算子$I^\beta$に注目できるかどうかがカギになります.
\displaystyle \mathcal{L}[D^\alpha f(t)]
=
\displaystyle \mathcal{L}\Big[ I^\beta \big( D^n f(t) \big) \Big]
=
\frac{1}{s^\beta} \displaystyle \mathcal{L} \big[ D^n f(t) \big]
\tag{17}
自然数を$n$としたときの$n$階微分のラプラス変換は
\displaystyle \mathcal{L} \big[ D^n f(t) \big]
=
s^n \displaystyle \mathcal{L} [f(t)]
-
D^{n-1} f(0)
-
sD^{n-2} f(0)
-
\cdots
s^{n-2} D f(0)
-
s^{n-1} f(0)
\therefore
\displaystyle \mathcal{L} \big[ D^n f(t) \big]
=
s^n \displaystyle \mathcal{L} [f(t)]
-
\sum_{k = 0}^{n-1}
s^{n-1-k} D^k f(0)
\tag{18}
であることは良く知られてますよね.制御工学で使うときには簡単のために(零入力応答を無視するために)全初期値$D^k f(0) = 0$として,
\displaystyle \mathcal{L} \big[ D^n f(t) \big]
=
s^n \displaystyle \mathcal{L} [f(t)]
\tag{19}
とすることも多かったかと思います.
以上のことから,Caputo微分のラプラス変換は以下のように表されることが分かりますね.
\displaystyle \mathcal{L} \big[ D^\alpha f(t) \big]
=
\frac{1}{s^\beta}
\Bigg(
s^n \displaystyle \mathcal{L} [f(t)]
-
\sum_{k = 0}^{n-1}
s^{n-1-k} D^k f(0)
\Bigg)
\tag{20}
さらに初期値について$D^k f(0) = 0$の場合を考えると
\displaystyle \mathcal{L} \big[ D^\alpha f(t) \big]
=
\frac{1}{s^\beta}
s^n \displaystyle \mathcal{L} [f(t)]
=
s^{n-\beta} \displaystyle \mathcal{L} [f(t)]
\therefore
\displaystyle \mathcal{L} \big[ D^\alpha f(t) \big]
=
s^{\alpha} \displaystyle \mathcal{L} [f(t)]
\tag{21}
のようにとても直感的な式が得られます!
4. おわりに
本稿では,非整数階微積分のラプラス変換について考えてみました.非整数階微積分のラプラス変換ができたなら,これを使って非整数階の微分方程式を解きたいし,非整数階微分を含むシステムの安定性解析とかもしてみたいですよね!
来週以降はそこらへんに触れられたらいいなと考えています.今週も最後まで読んでいただき,ありがとうございました!