Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算⑥
量子化学計算では、反応がどのような経路で進行するのかを調べるために、遷移状態(Transition State:TS)の探索や極限的反応座標(IRC:Intrinsic Reaction Coordinate)計算が広く利用されています。これらの計算を行うことで、反応物から生成物へ至る最小エネルギー経路(Minimum Energy Path)を解析し、想定した反応機構が妥当であるかを確認できます。
本記事では、GaussianとGaussViewを用いて遷移状態探索を行う方法から、振動計算による遷移状態の確認、IRC計算の設定、さらにIRC計算で得られた反応物・生成物側の構造を最適化する手順まで、一連の流れを解説します。これから反応機構解析を始める方や、TS計算・IRC計算の基本的な進め方を学びたい方は、ぜひ参考にしてください。
TS構造が得られない場合の対処法
TS計算を行っても、目的のTS構造が得られない場合があります。
ここでは、よくあるパターンをいくつか紹介します。
1.TS構造の振動解析の結果で虚振動がない
この場合は、そもそもTS構造ではないため、初期構造を変更したり、別のTS探索を行います。
2.想定していないTS構造が得られた
この場合は、多段階で反応が進行している、目的のTSは別の構造であるなどの可能性が考えられます。
3.虚振動が2つ以上ある
虚振動が2つ以上ある場合は、構造を確認し、初期構造を変更して再度TS探索を行います。また、複数の虚振動のうち、目的とする反応座標に対応する振動が確認できた場合は、以下の対処を行うことで、目的とするTS構造が得られる場合があります。
下記のように虚振動が2つある結果が得られたとします。この場合、Mode 1は目的とする反応座標に対応していると考えられる振動で、Mode 2は反応に関与しないメチル基の回転などの振動であったとします。
そこで、Mode 2を選択した状態で[Manual Displacement]にチェックを入れ、バーを左右に動かして構造をわずかに変位させます。[Save Structure...]で保存した構造を初期構造として再度TS計算を行うことで、目的とするTS構造が得られる場合があります。
この方法は、安定構造の構造最適化計算においても適用できます。また、後述するIRC計算がうまくいかない場合にも応用できる方法です。
IRC計算が上手くいかない場合の対処法
前提として、IRC計算は一度の計算で目的とする反応経路をうまく追跡できない場合も多くあります。
IRC計算で上手くいかない場合、stepsizeを大きくしたり小さくしたりするとうまくいくこともあります。これは実際に計算してみないと分からないことが多いです。
また、IRC計算の設定で[Both directions]を設定していましたが、これを[Forward only]と[Reverse only]と2つに分けて別々で計算することで得られる場合があります。なお、片方のみしか得られないことも多いです。
IRCが全く上手くいかない場合、このTSは求めたいTS構造ではないと思うかもしれませんが、前述したようにIRC計算はうまく追跡できない場合も多くあるので、大丈夫です。
TSの虚振動が正しいと推定されてIRC計算が上手くいかない場合、[Manual Displacement]にチェックを入れ、バーを左右に動かして構造をわずかに変位させ、反応物と生成物方向へ構造最適化計算を行います。これは、振動モードに沿って構造を変位させ、その構造を最適化することで、疑似的に反応経路を追跡する方法です。
次回の記事では、反応物・生成物・TS構造のエネルギーを抜き出し、エネルギーダイアグラムを作成する方法について紹介します。
関連記事
Gaussianのトラブルシューティングシリーズ
・Gaussianのトラブルシューティング①
・Gaussianのトラブルシューティング②
・Gaussianのトラブルシューティング③
・Gaussianのトラブルシューティング④
GaussViewを用いた計算ファイルの作成シリーズ
・GaussViewを用いた計算ファイルの作成①
・GaussViewを用いた計算ファイルの作成②
・GaussViewを用いた計算ファイルの作成③
Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算シリーズ
・Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算①
・Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算②
・Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算③
・Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算④
・Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算⑤
お問い合わせ
量子化学計算、分子シミュレーション、計算科学に関する技術的なご相談や受託解析のご依頼がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
計算条件の検討、結果の解釈、反応機構解析、材料開発・創薬研究への活用など、幅広くサポートいたします。

