Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算②
量子化学計算では、反応がどのような経路で進行するのかを調べるために、遷移状態(Transition State:TS)の探索や極限的反応座標(IRC:Intrinsic Reaction Coordinate)計算が広く利用されています。これらの計算を行うことで、反応物から生成物へ至る最小エネルギー経路(Minimum Energy Path)を解析し、想定した反応機構が妥当であるかを確認できます。
本記事では、GaussianとGaussViewを用いて遷移状態探索を行う方法から、振動計算による遷移状態の確認、IRC計算の設定、さらにIRC計算で得られた反応物・生成物側の構造を最適化する手順まで、一連の流れを解説します。これから反応機構解析を始める方や、TS計算・IRC計算の基本的な進め方を学びたい方は、ぜひ参考にしてください。
ミニマムエネルギーパス法・等高線図法を用いた遷移状態探索 : 入力ファイルの作成
ここでは、Diels-Alder反応を例に、Gaussianを用いたミニマムエネルギーパス法・等高線図法による遷移状態探索の手順を解説します。
まず、生成物の構造を作成します。
その後、GaussViewの[R]をクリックすると、[Redundant Coordinate Editor]が表示されます。
[Add]をクリックし、[Unidentified]を[Bond]、[Add]を[Scan Coordinate]に変更します。
次に、生成物側で形成される結合の原子を選択します。ここでは、C(1)とC(2)を順番にクリックし、[Take]を[10]、[Size]を[0.1]に設定します。
同様に、もう一方の結合についてもC(3)とC(4)を選択し、[Take]を[10]、[Size]を[0.1]に設定します。
ファイルを保存し、テキストエディタで開くと、以下のような入力ファイルが作成されています。
%chk=temp.chk
%mem=64GB
%nprocshared=52
# opt=modredundant hf/3-21g geom=connectivity
Title Card Required
0 1
C -3.12499037 -2.69935111 0.05244915
C -1.60676980 -2.73219738 0.06975846
C -1.11092350 -1.25237842 -0.02366308
C -1.71653961 -0.36922270 1.09349589
C -3.27462850 -0.28809115 0.99234272
C -3.80036509 -1.71282999 1.00195797
H -0.04383033 -1.24601995 0.05489731
H -1.26777402 -3.21493187 0.96247861
H -1.23208406 -3.26264903 -0.78061301
H -3.69104177 -3.32189382 -0.60855493
H -1.44981809 -0.79846949 2.03663259
H -1.31928290 0.62161083 1.02044776
H -3.63529805 0.25190524 1.84276696
H -3.59500900 0.20731997 0.09969265
H -4.59039275 -2.01374909 1.65785736
H -1.40775462 -0.84363565 -0.96691311
1 2 1.0 6 1.0 10 1.0
2 3 1.0 8 1.0 9 1.0
3 4 1.0 7 1.0 16 1.0
4 5 1.0 11 1.0 12 1.0
5 6 1.0 13 1.0 14 1.0
6 15 1.0
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
B 5 4 S 10 0.1
B 2 3 S 10 0.1
ここで、計算キーワードに[opt=modredundant]が設定されていることを確認してください。また、入力ファイルの最後には、以下の2行が追加されています。
[B 5 4 S 10 0.1]
[B 2 3 S 10 0.1]
これは、指定した2つの結合距離を変化させながら構造最適化を行うための設定です。
[B 5 4]と[B 2 3]は、それぞれ原子番号5と4、原子番号2と3の間の結合を反応座標として指定しています。
[S 10 0.1]は、指定した結合距離を0.1 Å刻みで10ステップ変化させることを意味します。
この計算によって、2つの結合距離を反応座標としたエネルギー変化を調べることができます。得られた結果を利用して等高線図を作成し、反応物から生成物へ至るミニマムエネルギーパスを探索します。
ミニマムエネルギーパス法・等高線図法を用いた遷移状態探索 : 出力ファイルの確認及びTS計算ファイルの作成
計算が終了したら、出力ファイルを確認します。
今回の計算では、2つの結合距離を変化させながら構造最適化を行っているため、それぞれの反応座標に対するエネルギー変化を確認できます。
[GaussView]の[Results]から[Scan...]をクリックすると、以下の画面が表示されます。
等高線図から、反応物と生成物の間にあるエネルギーの高い領域を確認します。〇で囲んだ付近の構造をTS候補構造として選択し、その構造を初期構造としてTS計算を行います。
まず、GaussViewの[R]をクリックし、ミニマムエネルギーパス計算で設定した反応座標を削除します。
続いて、GaussViewの[Calculate] → [Gaussian Calculation Setup...]をクリックします。
[Job Type]の[Energy]を[Opt+Freq]に変更し、[Optimize to a]を[TS (Berny)]に設定します。
[Force Constants]では[Calculate at First Point]を選択します。
さらに、[Additional KeyWords]に以下のキーワードを入力します。
opt=noeigentest
設定が完了すると、以下のような画面になります。
以上で、TS計算用の入力ファイルの設定は完了です。
ミニマムエネルギーパス法を用いた遷移状態探索
上では、2つの結合距離を変化させてTS候補構造を探索しましたが、1つの結合距離を変化させる方法でもTS候補構造を探索できます。
ここでは、以前計算したコープ脱離反応を例に、Gaussianを用いたミニマムエネルギーパス法による遷移状態探索を紹介します。
最適化した反応物の構造を初期構造として、OとHの距離を変化させながらミニマムエネルギーパス計算を行います。
計算結果から得られたエネルギー変化を確認すると、エネルギーが最大となる付近にTS候補構造が存在すると考えられます。
この構造をTS計算の初期構造として使用することで、遷移状態構造の探索につなげることができます。
これまで、[GaussView]の[Gaussian Calculation Setup]から入力ファイルの設定を行ってきましたが、計算に慣れてくると、テキストエディタで入力ファイルを直接編集したり、既存の入力ファイルをコピー&ペーストして設定したりする方が効率的です。
そのため、これ以降の記事では、基本的にテキストエディタを用いて計算キーワードを設定する方法を紹介します。
次回の記事では、TSモチーフ法を用いた遷移状態探索について解説します。
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