Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算⑤
量子化学計算では、反応がどのような経路で進行するのかを調べるために、遷移状態(Transition State:TS)の探索や極限的反応座標(IRC:Intrinsic Reaction Coordinate)計算が広く利用されています。これらの計算を行うことで、反応物から生成物へ至る最小エネルギー経路(Minimum Energy Path)を解析し、想定した反応機構が妥当であるかを確認できます。
本記事では、GaussianとGaussViewを用いて遷移状態探索を行う方法から、振動計算による遷移状態の確認、IRC計算の設定、さらにIRC計算で得られた反応物・生成物側の構造を最適化する手順まで、一連の流れを解説します。これから反応機構解析を始める方や、TS計算・IRC計算の基本的な進め方を学びたい方は、ぜひ参考にしてください。
TS構造の振動解析結果の確認
ここでは、Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算③で算出したDiels-Alder反応のTS構造の振動解析結果について説明いたします。
TS計算で得られたアウトプットファイルをGaussViewで開きます。
その後、[Results] → [Vibrations...]をクリックします。
まず、[Frequency]で虚振動が1つだけ存在することを確認します。
次に、虚振動が表示されているMode 1を選択した状態で、[Start Animation]をクリックします。
すると、TS構造における反応座標に対応したC-C結合の伸縮運動を確認できます。
このように、TS計算後の振動解析で虚振動が1つ確認でき、さらにその振動が目的とする反応座標に対応していることを確認することで、求めた構造が遷移状態であることを確認できます。
求めた遷移状態が目的とする反応のTSとして妥当であることを確認できたら、IRC計算を行います。
一方、目的とする反応座標とは異なる振動等が確認された場合は、再度TS計算を行います。このTS構造の対処方法については、次の記事で説明します。
IRC計算の入力ファイルの作成
先ほどのアウトプットファイルに対し、下記のキーワードを設定します。
# irc=(calcfc,maxpoints=10,stepsize=10) hf/3-21g geom=connectivity
各キーワードの意味は以下の通りです。
・irc:IRC(Intrinsic Reaction Coordinate)計算を実行します。
・maxpoints=10:IRC計算を進める際の最大計算ポイント数を10に設定します。値を大きくすると、より長い反応経路を確認できます。
・stepsize=10:IRC計算で1回の計算ごとに進む距離を10に設定します。値を大きくすると、より大きな間隔で反応経路を追跡します。
なお、GaussViewから設定する場合は、下記のように設定します。

これで、IRC計算の入力ファイルの設定は完了です。
IRC計算結果の確認及び反応物と生成物の構造最適化計算
IRC計算で得られたアウトプットファイルをGaussViewで開きます。
その後、[Results] → [IRC/Path...]をクリックします。
今回の計算では、IRCプロットの左側が生成物方向、右側が反応物方向の構造になっていることが確認できます。
このことから、今回得られたTSが目的とする反応のTSであることを確認できます。
IRC計算で得られた両末端の構造は、最適化構造ではないため、それぞれについて構造最適化計算を行います。
# opt hf/3-21g freq geom=connectivity
これで、反応物、TS構造、生成物の3つの構造が揃いました。
以上で、TS構造の探索からIRC計算、反応物・生成物の構造最適化までの計算は完了です。
次回の記事では、TS構造が得られない場合や、IRC計算がうまくいかない場合の対処法について紹介します。
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