Gaussianによる遷移状態探索とIRC計算④
量子化学計算では、反応がどのような経路で進行するのかを調べるために、遷移状態(Transition State:TS)の探索や極限的反応座標(IRC:Intrinsic Reaction Coordinate)計算が広く利用されています。これらの計算を行うことで、反応物から生成物へ至る最小エネルギー経路(Minimum Energy Path)を解析し、想定した反応機構が妥当であるかを確認できます。
本記事では、GaussianとGaussViewを用いて遷移状態探索を行う方法から、振動計算による遷移状態の確認、IRC計算の設定、さらにIRC計算で得られた反応物・生成物側の構造を最適化する手順まで、一連の流れを解説します。これから反応機構解析を始める方や、TS計算・IRC計算の基本的な進め方を学びたい方は、ぜひ参考にしてください。
TSモチーフ法
ここでは、SN2反応を例に、すでに求まっているTS構造を利用して、置換基の異なる反応系のTS構造を探索するTSモチーフ法について紹介します。
下記のTS構造が得られていた場合、このTS構造を元に計算を開始します。

新たに求めたい反応は下記で、ブロモエタンが臭化ベンジルに置き換わっています。
TSではC-Br結合の切断とC-O結合の形成が起こるため、これらの結合距離を含む反応部位の構造は維持したまま、メチル基をフェニル基に置き換えます。
その後、C-BrおよびC-O結合距離を固定します(座標固定でも可)。
この構造に対し、計算キーワードを設定します。
%chk=temp.chk
%mem=64GB
%nprocshared=52
# opt=modredundant hf/3-21g 6d nosym
Title Card Required
-1 1
C 3.87472800 1.41441100 -0.18637100
H 3.12320000 2.17157000 -0.08868200
H 4.89846600 1.72702300 -0.28990100
C 3.51723400 0.14805800 -0.17712300
C 4.45767000 -1.02100600 -0.30617500
H 4.36722200 -1.66228500 0.56254200
H 4.18030700 -1.62093300 -1.16468200
H 5.48749600 -0.69716700 -0.40966900
C 2.04826200 -0.22689700 -0.02871000
O 1.76999000 -1.43476900 -0.03080100
O 1.22647200 0.74179500 0.08652000
C -0.79418300 0.16000400 0.19747900
H -0.40326179 -0.82190707 0.08405782
Br -3.09491400 -0.63235900 -0.20056700
H -0.87617198 0.77561715 -0.66099991
C -1.01140618 0.76228789 1.59807466
C -2.26564705 0.68417786 2.20408628
C 0.04573208 1.38577840 2.26084644
C -2.46278800 1.23005827 3.47230226
H -3.09906781 0.19324377 1.68098463
C -0.15104944 1.93100604 3.52986722
H 1.03438086 1.44727277 1.78343567
C -1.40508358 1.85337076 4.13559665
H -3.45152730 1.16908341 3.94976761
H 0.68274837 2.42217821 4.05236636
H -1.56074617 2.28365355 5.13555776
B 14 12 F
B 11 12 F
この計算を行うことで、C-BrおよびC-O結合距離を固定した状態で、それ以外の構造を最適化します。
得られた構造に対し、先ほど設定した結合距離の固定を解除し、TS計算を行います。
# opt=(calcfc,ts,noeigentest) freq 6d nosym hf/3-21g
今回のような比較的簡単な系では、置換基を変更してそのままTS計算を行うことで、TSが得られる場合があります。
一方、より複雑な系では、すでに求まっているTS構造をモチーフとして、反応部位の構造を維持したまま置換基を変更し、構造最適化を行った後にTS計算を行うことで、通常のTS探索よりもTS構造を求めやすくなる場合があります。
次回の記事では、TS構造の振動解析結果の確認から、IRC計算、さらにIRC計算によって得られた反応物・生成物側の構造を用いた構造最適化計算まで、一連の手順について解説します。
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