はじめまして、りょーつといいます。高専出身の博士課程1年生です。研究の専門は力学や機構学で、Qiitaでは主に制御工学や数学に関する記事を書いています。
最近は数学に関する単発ネタで記事を書いていて,これまでに以下のような記事を書きました.興味があれば読んでみてください~.
①ウォリス積分の基礎
②ウォリス積分の応用
③n次元球のイメージについて
④四次元球の体積の計算
⑤ガウス積分
⑥ガンマ関数
⑦非自然数の階乗
⑧N階積分
⑨非整数階積分
⑩ベータ関数
⑪積分の半群性
目次
1.はじめに
2.非整数階微分の定義
3.定数関数の非整数階微分
4.おわりに
1. はじめに
今回の記事では,いよいよ非整数階微分について紹介します.非整数階微分の定義には派閥があり,Riemann-Liouville(R-L)の定義とCaputoの定義の2種類が使われます.本稿ではこれら2つの定義を説明したあと,それぞれの計算結果の違いについて説明していこうと思います.個人的には,Riemann-Liouville(R-L)の定義は数学的な厳密さ重視,Caputoの定義は実用性重視といった印象を受けました.自分はいちおう工学屋さんですのでCaputo推しです.
どちらの定義にも非整数階積分の定義を使用しますので,こちらの記事を軽く読んでおいていただけるとうれしいです.
2. 非整数階微分の定義
非整数階微分にはRiemann-Liouville(R-L)の定義とCaputoの定義の2種類があります.これらの定義は似て非なるものですが,どちらも定義の根幹にあるのは非整数階積分です.おそらく高校で「積分は微分の逆だ」と学んだかと思います.
たとえば,ある関数を積分して微分するともとに戻りそうですよね.では2回積分して1回微分すると,結局1回積分したのと同じになりそうですよね.逆に1回積分して2回微分すると,結局1回微分したのと同じになりそうです.
$n$階微分することを記号"$D^n$",$m$階積分することを記号"$I^m$"で表現すると,関数$f(x)$に関する上記の文章は以下のように記述できそうです.
D I f(x)
=
f(x)
\tag{1}
D I^2 f(x)
=
I f(x)
\tag{2}
D^2 I f(x)
=
D f(x)
\tag{3}
これらの微分と積分が逆という関係は便宜上以下のように記述できることが分かりますね.なお,非整数階積分の定義において$I^m$の$m$は$m>0$である必要があるため,あくまでも便宜上のものであり,直接負の階数の積分は計算不可能であることに注意が必要です.
D^n
=
I^{-n}
\tag{4}
I^m
=
D^{-m}
\tag{5}
このような定義を考えれば,自然と非整数階微分も定義できそうですね.
たとえば$1/2$階微分を定義してみましょう.便宜上,これは$-1/2$階の積分と捉えることができますね.つまり(2)式から,$1/2$階積分した関数を1階微分すれば得られそうです.
D^{1/2}
f(x)
=
D
I^{1/2}
f(x)
=
\frac{1}{\Gamma(1/2)}
\frac{d}{dx}
\int_{0}^{x}
(x-t)^{-1/2}
f(t)
dt
\tag{6}
では,これを任意の正の実数階微分に置き換えてみましょう.
$\alpha$階の非整数階微分$D^\alpha f(x)$を考えます.このとき,$\alpha$を自然数$n$と実数$\beta$で以下のように表します.このとき$0<\beta<1$です.
\alpha
=
n
-
\beta
\tag{7}
このとき,微分,および積分すべき階数は(4)式の(便宜上の)関係と積分の半群性から以下のように定まります.
D^{\alpha}
=
I^{-\alpha}
=
I^{-n+\beta}
=
I^{-n}I^{\beta}
=
D^n I^{\beta}
\tag{8}
つまり,$\beta$階の積分をした後に,$n$階の微分をすれば,$\alpha = n - \beta$階の非整数階微分ができます!
このように,$\beta$階の積分$\to$$n$階の微分の順に行う非整数階微分をRiemann-Liouville(R-L)の微分と呼びます.定式化すると以下のようになります.
D^{\alpha} f(x)
=
D^{n-\beta} f(x)
=
D^n I^{\beta}f(x)
=
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
\frac{d^n}{dx^n}
\int_{0}^{x}
(x-t)^{\beta-1}
f(t)
dt
\tag{9}
では,もう1つのCaputoの定義について説明します.これはRiemann-Liouville(R-L)の定義とは異なり,$n$階の微分$\to$$\beta$階の積分の順で行うものになります.
D^{\alpha} f(x)
=
D^{n-\beta} f(x)
=
I^{\beta}D^nf(x)
=
\frac{1}{\Gamma(\beta)}
\int_{0}^{x}
(x-t)^{\beta-1}
\frac{d^n f}{dt^n}
(t)
dt
\tag{10}
ここで注意すべきは微分→積分の計算結果と積分→微分の計算結果が一致しないこともある点です.分かりやすいイメージが積分定数で,不定積分してから微分すると積分定数が消えますが,微分してから不定積分すると積分定数が残りますよね~.
定義が2つあると分かりましたが,一長一短でどちらがいいとかは時と場合によります.
Riemann-Liouville(R-L)の非整数階微分は積分の半群性(微分と積分の階数を足し引きする)をもとにしているので,理論解析によく用いられるようです.一方で,Caputoの非整数階微分は力学などの物理現象や直観に沿った計算結果が得られることや,初期条件(積分定数の扱い)がラクという利点があります.
3. 定数関数の非整数階微分
本章では定数関数$f(x)=c$を非整数階微分することで,Riemann-Liouville(R-L)の定義とCaputoの定義の違いを見てみましょう.簡単のために$\alpha = 1/2$階の微分を考えます.
まずはRiemann-Liouville(R-L)の定義で$D^{1/2} c$を計算してみましょう.定義(9)にしたがってゴリゴリ計算あるのみです.ガンマ関数の特性から$\Gamma(1/2) = \sqrt{\pi}$を使用します.
D^{1/2} c
=
\frac{1}{\Gamma(1/2)}
\frac{d}{dx}
\int_{0}^{x}
(x-t)^{-1/2}
c
\
dt
=
\frac{1}{\Gamma(1/2)}
\frac{d}{dx}
\bigg[
-2c
(x-t)^{1/2}
\bigg]_0^x
=
\frac{1}{\sqrt{\pi}}
\frac{d}{dx}
(2c\sqrt{x})
\therefore
D^{1/2} c
=
\frac{c}{\sqrt{\pi x}}
\tag{11}
定数関数をふつうに微分すると$0$になりますが,非整数階微分すると平方根とかが出てくるのが面白いですよね.でもやはり$0$にならないのは若干の違和感があります.
一方でCaputoの定義で$D^{1/2} c$を計算してみるとどうでしょうか?先に微分するので,$0$を積分することになり,計算結果も0になります.
D^{1/2} c
=
\frac{1}{\Gamma(1/2)}
\int_{0}^{x}
(x-t)^{-1/2}
\frac{d}{dt}
c
\
dt
=
\frac{1}{\Gamma(1/2)}
\int_{0}^{x}
0
\
dt
=
0
\tag{12}
Caputoの定義で計算すると,定数関数は非整数階微分でも$0$になる,ということが分かりましたね.これは,定数関数を微分すると$0$になるという直観に沿います.
このように直観に沿うという点で工学的な応用が多いのもCaputoの定義らしいです.その使いやすさはラプラス変換とかをしてみるとより分かりやすくなります.この話はまた今度.
本章で重要なのは,非整数階微分をするとき,もしくはそのような文献を見た時には,まずどの定義を採用しているのかしっかり確認が必要ということです.これを伝えたかった.
4. おわりに
本稿ではRiemann-Liouville(R-L)の定義とCaputoの定義の2種類の非整数階微分を紹介しました.非整数階微分を定義すると微分方程式や力学への応用,ラプラス変換など,やってみたいことが増えて大変です.これらについてはまた別の記事でまとめようと思います.
今週も最後まで読んでいただき,ありがとうございました!