119
113

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

More than 3 years have passed since last update.

圏論入門前の準備運動―集合と写像―

Last updated at Posted at 2019-09-16

想定読者と到達目標

Haskell 覚えつつ圏論も一緒に勉強しよう
と思っていたけど結局は圏論に手も足も出ず、
Haskell はある程度できるようになった人へ1

圏論とは何なのかを断片的にでも理解して、
自分が何をやってるのかを多少は把握しながら
圏論に入門できるようにするための準備運動。

目次

集合と写像

集合写像とは何なのか、詳細に関しては
検索すれば幾らでも出てくるので省略する。

ここでは、写像が元の対応により
次のように定められることが分かれば良い。


集合 $A$ と集合 $B$ があるとする。
集合

集合 $A$ から集合 $B$ への
写像 $f \colon A \longrightarrow B$ を考える。
集合と写像

元 $a \in A$ と元 $b \in B$ として、
元の対応 $f \colon a \longmapsto b$ により
写像 $f$ は定められる。

型と関数

集合を型、写像を関数、元を値
にそれぞれ読み替えてみよう。

写像を定めることは、以下のように
関数を定めることと同様だと分かる。

Hask
import Data.Char

f :: Char -> Int
f = const 0

g :: Char -> Int
g = (+ (-65)) . ord

h :: Int -> Bool
h 0 = True
h _ = False

idChar :: Char -> Char
idChar = id

idInt :: Int -> Int
idInt = id

idBool :: Bool -> Bool
idBool = id

絵で描くとこんな感じになる。

対象が型で射が関数な圏の内部構造

id恒等写像に相当する。


丸で囲まれた元の複雑な構造を潰して点 $\bullet$ とみなすと
対象が型で射が関数な圏
のように単純な形が浮き彫りとなる。

こうして、元(すなわち値)という内部構造に触れず
写像(すなわち関数)だけ扱う考え方が圏論といえる。


元の対応により写像は定義されるので、
元に触れなければ何も分からない気がする。

しかし、写像だけで意外と何とかなるもので
具体例を通してそれを確認してみようと思う。

モノイド

モノイドとは何なのか詳細に関しては
検索すれば幾らでも出てくるので省略する。

ここでは、モノイドが元を用いた記述で
次のように定義されることが分かれば良い。


集合 $S$ に
写像 $\diamond \colon S \times S \longrightarrow S$ と
単位元 $e \in S$ の情報を加える。

次の2つの条件を満たすとき、
組 $(S,\diamond,e)$ はモノイドである。

  1. (結合律)$(a \diamond b) \diamond c = a \diamond (b \diamond c)$ が成り立つ。

  2. (単位律)$e \diamond a = a \diamond e = a$ が成り立つ。

ここで、$S \times S$ は直積集合をあらわしている。

モノイド則

Haskell では、
集合(すなわち型) s
写像(すなわち関数) (<>) :: s -> s -> s
単位元(すなわち値) e :: s の情報を加える。

Monoid
import Prelude hiding (Monoid(..))

class Monoid s where
    (<>) :: s -> s -> s
    e    :: s

このときモノイド則は以下となる。

  1. (結合律)(a <> b) <> c $=$ a <> (b <> c)

  2. (単位律)e <> a $=$ a <> e $=$ a


上記の定義では結合律と単位律が
元(すなわち値)を用いて記述されている。

これを写像(すなわち関数)を用いて記述し、
写像だけで意外と何とかなることを感じたい。

モノイドの具体例

集合(すなわち型)として $\mathrm{Bool}$ を考える。
元(すなわち値)は $\mathrm{True}$ と $\mathrm{False}$ のみで単純だ。

写像(すなわち関数)として論理積 $\&\&$ を考えて
単位元(すなわち値)を $\mathrm{True}$ とすれば、
組 $(S,\&\&,\mathrm{True})$ はモノイドである。


Haskell で書くと以下となる。

All
import Prelude hiding (Monoid(..))
import Control.Arrow ((>>>), (***))

alpha :: ((a, b), c) -> (a, (b, c))
alpha ((a ,b), c) = (a, (b, c))

lambda :: ((), b) -> b
lambda (_, b) = b

rho :: (a, ()) -> a
rho (a, _) = a

class Monoid s where
    (<>) :: s -> s -> s
    e    :: s
    mu   :: (s, s) -> s
    eta  :: () -> s
    {-# MINIMAL ((<>), e) | (mu, eta) #-}
    (<>)  = curry mu
    e     = eta ()
    mu    = uncurry (<>)
    eta _ = e

instance Monoid Bool where
    e    = True
    (<>) = (&&)

結合律と単位律を関数だけで記述するために
alphalambdarhomueta
などの関数たちをここで準備している。

>>>写像の合成
***写像の直積をそれぞれあらわす。


$\mu$ と $\eta$ を絵で描くとこんな感じになる。

二項演算と単位元

単集合からの写像 $\eta$ が単位元を示しているのが分かる。


結合律を絵で描くとこんな感じになる。

結合律

五角形の一番上の頂点から左回りと右回りに矢印を辿れる。
2つの合成写像が一致することをもって結合律をあらわしている。

すなわち、次の等式が成り立つことを絵であらわしている。
mu***id >>> mu $=$ alpha >>> id***mu >>> mu


単位律を絵で描くとこんな感じになる。

単位律

写像をどのように合成しても、
始域終域がそれぞれ同じ写像は全て一致することが分かる。

すなわち、次の等式が成り立つことを絵であらわしている。
eta***id >>> mu $=$ lambdaid***eta >>> mu $=$ rho


丸で囲まれた元の複雑な構造を潰して点 $\bullet$ とみなすと、
結合律と単位律をあらわす2つの図は次のようになる。

結合律と単位律

これは、次の2つの条件を図であらわしている。

  1. (結合律)mu***id >>> mu $=$ alpha >>> id***mu >>> mu

  2. (単位律)eta***id >>> mu $=$ lambdaid***eta >>> mu $=$ rho


元(すなわち値)を用いることなく、
写像(すなわち関数)だけで結合律と単位律が記述できた。

構造を潰して点 $\bullet$ とみなすことで
どんなモノイドも同じ図であらわすことができる。

集合と写像の言葉で同じことを繰り返し、
写像だけを用いてモノイドを定義してみよう。

モノイド再び

集合 $S$に
写像 $\mu \colon S \times S \longrightarrow S$ と
写像 $\eta \colon \{*\} \longrightarrow S$ の情報を加える。

次の2つの条件を満たすとき、
組 $(S,\mu,\eta)$ はモノイドである。

  1. (結合律)$\mu \times \mathrm{id}_{S} \ggg \mu = \alpha_{(S,S,S)} \ggg \mathrm{id}_{S} \times \mu \ggg \mu$ が成り立つ。

  2. (単位律)$\eta \times \mathrm{id}_{S} \ggg \mu = \lambda_{S}$ と $\mathrm{id}_{S} \times \eta \ggg \mu = \rho_{S}$ が成り立つ。

写像 $\alpha_{(S,S,S)} \colon (S \times S) \times S \longrightarrow S \times (S \times S)$ を
元の対応 $\alpha_{(S,S,S)} \colon ((a,b),c) \longmapsto (a,(b,c))$ で
写像 $\lambda_{S} \colon \{*\} \times S \longrightarrow S$ を元の対応 $\lambda_{S} \colon (*,b) \longmapsto b$ で
写像 $\rho_{S} \colon S \times \{*\} \longrightarrow S$ を元の対応 $\rho_{S} \colon (a,*) \longmapsto a$ で
それぞれ定義する。

$\{*\}$ は元が1つの集合すなわち単集合である。

$\ggg$ は写像の合成をあらわし、
$\times$ は集合または写像の直積をあらわす。


結合律と単位律を図で描くと次のようになる。

集合の圏のモノイド対象

図中の写像を合成した結果として、
始域と終域がそれぞれ同じ写像は全て一致する。

写像の等価性

写像 $f \colon A \longrightarrow B$ と写像 $g \colon A \longrightarrow B$ が等しい
つまり $f = g$ の意味を最後に考えてみよう。

任意の元 $a \in A$ に対して $f(a) = g(a)$ が成り立つとき
写像 $f$ と $g$ は等しいと言い、これを $f = g$ と書く。

写像だけを用いて、元に触れないとは何だったのか。
誠実に言えば、元に「陽に」触れないとすべきだろう。


$f$ や $g$ として写像だけを考えるのであれば
元を「陽に」用いるモノイドの定義で何も問題はない。

$f$ や $g$ として $f = g$ が定まる何かを考えるとき
元を「陰に」用いるモノイド再びの定義が意味を持つ。

この何かを射と呼び、射でモノイドを記述できれば
より一般的なモノイド対象という概念を定められる。

まとめ

集合と写像のことはみんな知ってるはずなので、
圏論を集合論の一般化と捉えると良い気がする。

ただ、具体例に固執すると誤解の恐れもあるので、
抽象的に群の一般化として捉える2ことも必要かも。

1つの集合 複数の集合
逆元あり グルーポイド
逆元なし モノイド

矢印はベクトルだけどベクトルは矢印とは限らない
みたいな感じで良いんじゃないかと思います。

  1. 関数の概念が分かれば良いので、特に言語は問わないような気もする。

  2. 雑文集「群から圏へ」(2000-02-21)

119
113
6

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
119
113

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?