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はじめに
私たち若手メインフレーム技術者の中で、「メインフレームの魅力は理解しているつもりだが、他と比較した優位性には確信が持てない」という会話がありました。
そこでメインフレームの客観的な魅力を検証するため、当シリーズではまず原点であるメインフレームを、次にクラウドやオープン系ITインフラをまとめてきました。今回はいよいよ、各ITインフラを客観的に比較していきます。
「レガシー」と評されることもあるメインフレームですが、この比較を通じて、その魅力と役割を明らかにしたいと思います。本記事が、メインフレームの魅力をより客観的に語れるようになるきっかけに、各ITインフラの価値を再認識するきっかけになれば幸いです。
シリーズ「他のITインフラとの比較、最新技術の導入状況からメインフレームの魅力を探る」
- メインフレームの概要・強みとされている箇所のおさらい
- オープン系サーバーの情報まとめ (テーマ①:比較)
- メインフレームとオープン系の比較(テーマ①:比較) ★本記事
- 最新技術(テーマ②:最新技術)
1. 比較の前提整理:各ITインフラの特性
本格的な比較に入る前に、今回の土台となる4つのITインフラ形態について、その基本的な特性を改めて確認しておきましょう。
- メインフレーム
- 私たちが日々向き合うメインフレームは、ハードウェアとOS、ミドルウェアが一体で開発されたシステムです。高い信頼性と堅牢性を誇り、社会インフラや企業の基幹業務を支えています。
- オープン系(オンプレミス)
- x86サーバーなど標準化された技術を組み合わせ、自社内でハードウェアからシステムを保有・運用する形態です。ベンダーの選択肢が広く、柔軟なシステム構築を可能にします。
- クラウド
- インターネット経由でコンピューターの処理能力やストレージを利用するサービスです。利用者は、物理リソースの限界などのハードウェア的な制約を受けずに、必要なリソースを必要なだけ利用でき、個々のコンポーネントの購入費用や運用コスト、管理負担を削減することが可能です。
- ハイブリッド構成
- ここまで見てきたオンプレミスとクラウドを連携させ、双方の長所を活かす「適材適所」の考え方です。
以上が今回比較する各形態の概要です。特に、オープン系とクラウドの技術的背景やより詳細な特徴については、前回の記事(以下リンク先)でまとめていますので、ぜひそちらも併せてご参照ください。
オンプレミスとクラウド概論:メインフレームとの比較に向けて
2. 客観比較のための「評価の物差し」
メインフレームの魅力を客観的に見出すためには、評価の物差しが必要です。それぞれのインフラが持つ特性を捉えるため、今回は以下の大きく4つ、合計14個の評価軸を設定しました
技術的要件
1. 拡張性
- 事業の成長に応じて容易にシステムを拡張できるか。
2. 可用性 / 冗長性
- システムのダウンタイムを最小化する設計(フェイルオーバー、冗長構成、災害対策など)。
3. セキュリティー要件
- ファイアウォール、IDS/IPS、暗号化、アクセス制御、ゼロトラストモデルなど。
- 法規制(例:GDPR、個人情報保護法)への対応。
4. ネットワーク設計
- 帯域幅、信頼性、社内外アクセス、VPNやSD-WANの導入可否。
ビジネス要件
1. 業務への適合性
- 自社の業務フローや既存アプリケーションと整合性があるか。
2. TCO(総保有コスト)
- 初期導入費、運用コスト、保守費用、ライセンス費用などの総合的な視点。
3. ベンダーロックインのリスク
- 特定のベンダーへの依存度が高すぎないか。
4. 運用・保守体制
- 自社での運用が可能か、アウトソーシングすべきか。
組織・人材面
1. IT人材のスキル
- 社内での運用・管理が可能なスキルセットがあるか。
2. 教育・サポート体制
- ベンダーやSIerによる導入支援やトレーニングが提供されるか。
ガバナンス・法的要件
1. コンプライアンス対応
- 法規制・業界標準に準拠しているか(例:ISO27001、SOC2など)。
2. 監査ログ・記録保持
- トラブルや監査時に必要なログが取得・保管できる設計か。
将来的なビジョンへの適合性
1. DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応
- データ活用、AI連携、業務自動化などへの将来展開を見据えているか。
2. サステナビリティ・環境負荷
- 環境に配慮したデータセンターやクラウドを選ぶ企業も増加傾向。
次の章から、この14個の評価軸を用いて、いよいよ各インフラの具体的な比較検証に入っていきます。
3.【本編】4つのITインフラ、項目別徹底比較
それでは、設定した評価の物差しを使い、各ITインフラの比較検証を進めていきましょう。
3-1. 各評価基準の比較
技術的要件
技術的要件に関する各項目のより詳細な分析については、こちらの記事で詳しく解説しています。
以下には要点を記載していきます。
1. 拡張性(スケーラビリティ)
拡張性においては、オートスケーリング、迅速なリソース縮小によるコスト最適化、そして計画・運用の容易さなどの観点から、総合的にクラウドが優位な場面が多い傾向にあります。
一方、オンプレミスのオープン系サーバーやメインフレームでも、既存の物理リソースの範囲内で処理内容や規模の変化に応じて機敏にリソースの再配分が可能です。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→△
クラウド→◎
ハイブリッド→〇
2. 可用性 / 冗長性
どのような観点に重きを置くかによって適切な形態が変わってくる項目です。
可用性/冗長性そのものの他にも信頼性や実績を優先するならメインフレームが有力な選択肢です。
一方、地理的な分散の容易さや、可用性の高いシステム構築の容易さを重視するならクラウドが有力な選択肢となります。
また、ハイブリッド構成をとる場合には、各システムコンポーネントの連携部分が障害原因となるリスクを伴います。
メインフレーム→◎
オープン系オンプレミス→△
クラウド→○
ハイブリッド→△
3. セキュリティー要件
可用性/冗長性と同じく、実績ある堅牢性を重視するならメインフレーム、構築のスピード・効率性を重視するならクラウドが有力となります。ハイブリッド構成は、連携部分のリスク対処が必要となるため運用が複雑となります。
メインフレーム→◎
オープン系オンプレミス→△
クラウド→○
ハイブリッド→△
4. ネットワーク設計
「内部処理の安定性と低遅延性、クローズド環境での厳格な管理」では、専用チャネル技術を持つメインフレームに実績があります。
「柔軟性、拡張性、最新技術の導入しやすさ」では評価が異なり、クラウドは迅速かつスケーラブルな構築が可能です。オンプレミスは、自社コントロールの自由度が高い反面、運用・構築のための専門知識が求められます。ハイブリッド構成は、設計・運用が最も複雑となり、高度な知識が求められます。
メインフレーム→○
オープン系オンプレミス→○
クラウド→◎
ハイブリッド→△
ビジネス要件
ビジネス要件に関する各項目のより詳細な分析については、こちらの記事で詳しく解説しています。
以下には要点を記載していきます。
1. 業務への適合性
業務適合性という観点では、メインフレームのような特化型は業務要件に応じた深いチューニングにより、金融・公共系など特定業務での最適化に強みがあります。一方で、柔軟性を求める業務にはIaaSやPaaS、SaaSなどの豊富な形態を取ることのできるクラウドやハイブリッド構成が適しています。
【安定性や信頼性が求められる業務】
メインフレーム→◎
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
【柔軟性が求められる業務】
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◎
ハイブリッド→◎
2. TCO(総保有コスト)
TCOの最適化には、従量課金制により使用量に応じたコスト配分が可能なクラウドや、リソースを業務に応じて適切に配置することでコスト最適化を行えるハイブリッド構成の柔軟性が有利に働く場面が多いです。ただし、業務特性や運用体制を踏まえたうえで、各構成の管理・運用コストまで含めた精緻な見積りが重要となります。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◎
ハイブリッド→◎
3. ベンダーロックインのリスク
ベンダーロックイン回避の観点では、ハードウェアやミドルウェアを豊富なベンダーから選択可能なオープン系サーバーや、それとクラウドを組み合わせたハイブリッド構成がやや有利な傾向にあります。ただし、真に回避するためには、設計段階での意識と技術的分離(例:マルチクラウド設計や抽象化レイヤの導入など)が不可欠です。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◎
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
4. 運用・保守体制
運用・保守体制においては、専門人材の確保が難しい場合はクラウドが有力な選択肢となり、社内に一定のITスキルがある場合はオンプレミスでも対応可能です。メインフレームやハイブリッド構成は、長期的な人材戦略と教育体制が整っている企業に適しています。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◎
ハイブリッド→◯
組織・人材面、ガバナンス・法的要件、将来的なビジョンへの適合性
各項目のより詳細な分析については、こちらの記事で詳しく解説しています。
以下には要点を記載していきます。
組織・人材面
1. IT人材のスキル
スキル要件という観点では、クラウドやハイブリッド構成が新しい技術スタックへの対応力を求める一方で、オープン系サーバーは既存技術に対する経験値が活かしやすい傾向にあります。一方、メインフレームはCOBOLやJCL、z/OSなどの専用言語・環境に関する知識が必要であるため、人材の確保は難しい部類に位置付けられます。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◎
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
2. 教育・サポート体制
教育環境の整備という観点では、クラウドやオープン系サーバーは比較的学習資源が充実しており、導入しやすい体制が整っている傾向にあります。ハイブリッド構成はその延長上にありますが、教育コストの継続性と体制整備の負担がやや高くなる点には留意が必要です。また、メインフレームに関する教育は対応可能な機関や教材が限られており、学習コストも比較的高くなる傾向にあります。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◎
クラウド→◎
ハイブリッド→◯
ガバナンス・法的要件
1. コンプライアンス対応
コンプライアンス対応においては、業務への適合性や長年にわたって厳格なコンプライアンス要件に対応してきた実績のあるメインフレームが依然として強みを持っています。一方で、クラウドについても主要ベンダーがISO 27001、SOC2などの国際認証を取得しており、基本的なセキュリティー・ガバナンス水準は高水準で標準化されており、十分に対応可能と考えられます。また、ハイブリッド構成でも業務特性に応じてオンプレミスとクラウドを使い分けることで、柔軟なコンプライアンス対応が可能です。
メインフレーム→◎
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
2. 監査ログ・記録保持
ログ管理においては、ログ収集・保管機能が標準サービスとして提供されており、機械学習ベースのログ分析や通知機能も活用できるクラウドと、SIEM(Security Information and Event Management)や独自ログ管理システムを自由に設計できるオンプレミスの柔軟性がそれぞれ特長を持っています。
ハイブリッド構成は両者の強みを活かせる一方で、統合的な管理体制の整備が前提となるため、体制構築の難易度はやや高くなります。
また、メインフレームも、システム内に組み込まれた監査証跡管理が高度に設計されており、改ざん耐性の高いログの記録が可能という特長があります。
メインフレーム→◯
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
将来的なビジョンへの適合性
1. DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応
・既存データの活用や堅牢な基盤でのDX推進を目的とする場合:API連携を強化したメインフレームや、オンプレミスのオープン系サーバーが適しています。
・最新技術を迅速に取り入れ、スケーラビリティを重視したDX推進を目的とする場合:クラウドが最も適しています。ハイブリッド構成は、既存資産保護と技術活用の両立を目指す現実的な選択肢となり得ます。
メインフレーム→○
オープン系オンプレミス→○
クラウド→○
ハイブリッド→◎
2. サステナビリティ・環境負荷
「ITリソースの大規模集約と効率的運用による環境負荷低減」という観点では、クラウドが有利な傾向にあります。一方でメインフレームも、最新機種の省電力技術と高い集約率で貢献できる可能性があります。オンプレミスは、自社努力で効率化を図れるものの、大規模最適化はやや難易度が高いです。
メインフレーム→〇
オープン系オンプレミス→△
クラウド→◎
ハイブリッド→△
3-2. 比較サマリー
ここまで見てきた技術的要件、ビジネス・運用要件の比較を、一覧表にまとめました。各インフラの得意・不得意な領域が、一目で把握できるかと思います。
| 比較項目 | メインフレーム | オープン系サーバー(オンプレミス) | クラウド | ハイブリッド構成 |
|---|---|---|---|---|
| 拡張性 | △ | △ | ◎ | ◯ |
| 可用性/冗長性 | ◎ | △ | ◯ | △ |
| セキュリティー要件 | ◎ | △ | ◯ | △ |
| ネットワーク設計 | ◯ | ◯ | ◎ | △ |
| 業務への適合性(安定性や信頼性が求められる業務) | ◎ | ◯ | ◯ | ◯ |
| 業務への適合性(柔軟性が求められる業務) | △ | ◯ | ◎ | ◎ |
| TCO(総保有コスト) | △ | ◯ | ◎ | ◎ |
| ベンダーロックインのリスク | △ | ◎ | ◯ | ◯ |
| 運用・保守体制 | △ | ◯ | ◎ | ◯ |
| IT人材のスキル | △ | ◎ | ◯ | ◯ |
| 教育・サポート体制 | △ | ◎ | ◎ | ◯ |
| コンプライアンス対応 | ◎ | ◯ | ◯ | ◯ |
| 監査ログ・記録保持 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
| DXへの対応 | ◯ | ◯ | ◯ | ◎ |
| サステナビリティ・環境負荷 | ◯ | △ | ◎ | △ |
この比較結果を踏まえ、次の章では「どのようなビジネスシーンで、どのインフラが最適解となりうるのか」を、より具体的に考察していきます。
4. 考察:比較から見えたメインフレームの「魅力」
ここまで比較を行ってきましたが「どの技術が最適解となりうるか」は要件によってかなり変わってくると感じました。具体的な5つのビジネスシーンを想定し、その最適解を考えていきます。
1. 金融・公共の基幹システム
金融・公共の基幹システムでは、「可用性 / 冗長性」と「業務への適合性 (安定性や信頼性が求められる業務)」が重要な基準となります。
| 比較項目 | メインフレーム | オープン系サーバー(オンプレミス) | クラウド | ハイブリッド構成 |
|---|---|---|---|---|
| 可用性/冗長性 | ◎ | △ | ◯ | △ |
| 業務への適合性(安定性や信頼性が求められる業務) | ◎ | ◯ | ◯ | ◯ |
この要件に対し、ハードとOS、ミドルウェアが一体設計されたメインフレームは「壊れない」思想で信頼性を保証します。対照的に、複数製品を組み合わせるオープン系や、壊れる前提で分散設計されているとも言えるクラウドでは、同レベルの信頼性を実現するには高度な設計が必要となります。
そのため、勘定系などの中核はメインフレームが担い、周辺機能を他で補うハイブリッド構成が現実的な構成です。結論として、信頼性が求められる本ケースの中心的な処理においてはメインフレームが最も良い選択肢と言えます。
2. 急成長するWebサービス・スタートアップ
この領域では、「拡張性」と「TCO(総保有コスト)」が重要な評価軸となります。予測不能な事業成長に柔軟に対応できること、そして初期投資を最小限に抑えることが重要視されるためです。
| 比較項目 | メインフレーム | オープン系サーバー(オンプレミス) | クラウド | ハイブリッド構成 |
|---|---|---|---|---|
| 拡張性 | △ | △ | ◎ | ◯ |
| TCO(総保有コスト) | △ | ◯ | ◎ | ◎ |
この要件に対しては、初期投資ゼロで、必要に応じてリソースを自動拡張できる仕組みを持つクラウドが合致しています。対照的に、高額な初期投資と物理的な拡張に時間を要するメインフレームやオープン系オンプレミスでは、変化のスピードに対応することは困難です。
ハイブリッド構成も、もともとオンプレミス資産を持っていないスタートアップにとっては初期段階での選択肢になりづらいでしょう。したがって、本ケースにおける最適解はクラウドであると言えます。
3. 製造業の生産管理システム
本ケースで重視されるのは、「ネットワーク設計」と「業務への適合性 (安定性や信頼性が求められる業務)」です。ミリ秒単位の遅延も許されない事と、外部要因に左右されない24時間365日の安定稼働が必要なためです。
| 比較項目 | メインフレーム | オープン系サーバー(オンプレミス) | クラウド | ハイブリッド構成 |
|---|---|---|---|---|
| ネットワーク設計 | ◯ | ◯ | ◎ | △ |
| 業務への適合性(安定性や信頼性が求められる業務) | ◎ | ◯ | ◯ | ◯ |
この要件に対して、自社内に閉じたネットワークを構築でき、外部影響を排除できるメインフレームやオープン系オンプレミスが適しています。対照的に、クラウドでは通信がリアルタイム制御の妨げとなるリスクがあります。
この分野ではメインフレームはオーバースペックなため高コストになってしまう可能性が高いですが、メインフレームの信頼性・スペックが必要な場合もあります。ハイブリッド構成は、工場のラインを制御するシステムはオンプレミスに置き、生産実績の集計や分析などを行うシステムはクラウドに置く、という役割分担が可能です。
生産ラインを直接制御するシステムにおいては、自社の管理下で信頼性を確保できるメインフレームやオープン系オンプレミスが最適な選択と言えます。
4. 大企業の基幹業務とデータ活用基盤
この領域では、「業務への適合性 (安定性や信頼性が求められる業務)」と「DXへの対応」という、性質の異なる要件の両立が求められます。長年培った業務の安定性を守りつつ、データ活用など新たな価値創出にも挑戦する必要があるためです。
| 比較項目 | メインフレーム | オープン系サーバー(オンプレミス) | クラウド | ハイブリッド構成 |
|---|---|---|---|---|
| 業務への適合性(安定性や信頼性が求められる業務) | ◎ | ◯ | ◯ | ◯ |
| DXへの対応 | ◯ | ◯ | ◯ | ◎ |
この課題に対し、メインフレームやオンプレミス単体ではDXの柔軟性に欠け、逆にDXに強いクラウド単体では既存基幹業務の移行にリスクが発生します。そこで、基幹業務の安定性をメインフレームやオンプレミス(基幹業務の規模によって選択)で守りつつ、データ分析などのDX領域をクラウドに任せるハイブリッド構成が最適解となります。
各インフラの長所を組み合わせることで、企業全体の価値を最大化できます。
5. グローバル展開するECサイト
このケースでは、世界中の顧客への快適なサービス提供をするための「ネットワーク設計」と、各国の法律に関わる「コンプライアンス対応」が重要です。
| 比較項目 | メインフレーム | オープン系サーバー(オンプレミス) | クラウド | ハイブリッド構成 |
|---|---|---|---|---|
| ネットワーク設計 | ◯ | ◯ | ◎ | △ |
| コンプライアンス対応 | ◎ | ◯ | ◯ | ◯ |
この要件に対し、世界中にデータセンターを持つクラウドは、ユーザーに近い拠点からサービスを提供でき、各国の法規制に対応した機能も提供しているため、合致しています。一方、コンプライアンス対応に優れているメインフレームでも、各国の法規制に対応することは現実的ではありません。
ハイブリッド構成も選択肢にはなりますが、アーキテクチャのシンプルさも考慮すると、このケースの最適解はクラウドであると言えるでしょう。
この章では5つの異なるビジネスシーンを見てきました。要件によって最適なITインフラは変わりますが、メインフレームは「信頼性」「安定性」という要件には最適であると考えられます。
まとめ
「他と比べたメインフレームの優位性に確信が持てない」という疑問から始まり「比較」をテーマにメインフレームの魅力を検証してきました。メインフレームの技術を再確認し、オープン系やクラウドを学び、そして客観的な比較検証を行いました。
その結果、各インフラが持つ思想の違いが明確になりました。
メインフレームは「高い信頼性を実現するため、ハードウェアからOS、ミドルウェアまでを『一体で』設計する」という思想。
対するオープン系は、「標準化された部品を『組み合わせる』ことで、アーキテクチャの選択肢・可能性を広げる」という高い自由度の思想。
クラウドは、インフラを必要な機能を必要なだけ「利用する」という効率性の思想。
ハイブリッド構成は、要件に合わせて「適材適所で使い分ける」ことで、全体最適を目指す思想。
様々な思想がある中で、メインフレームの「信頼性・完全性を、ハード・OS・ミドルウェア一体の設計で保証する」というアプローチは、メインフレームの他とは違う優位な点であり、メインフレームの魅力であると感じました。
この調査・考察が、皆様にとってメインフレームの魅力を見つめ直す機会となれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
知らなきゃ損するz機能~キャッピングによるLPAR CPU能力制御|メインフレーム技術解説 - アイマガジン|i Magazine|IS magazine
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この記事は、IBM Community Japanの主催する2025年ナレッジモール研究における「メインフレーム若手技術者の広場」の成果物です。