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本稿では、別記事「メインフレーム技術者が比較検証。クラウド・オープン系と並べて見えた、メインフレームの魅力とは」で記載しきれなかった、4つのITインフラ比較の詳細をまとめていきます。
比較対象
- メインフレーム
- 専用のハードウェアとOS上で稼働する、高い信頼性を持つシステムで、主にオンプレミスで運用されます。
- オープン系(オンプレミス)
- LinuxやWindows Serverなどのオープン系OSを利用し、企業が自社内に構築・管理するシステムです。
- クラウド
- インターネット経由でサーバーやストレージなどのITリソースをサービスとして利用する形態です。物理インフラの管理はプロバイダーが行います。
- ハイブリッド構成
- オンプレミス環境(メインフレームやオープン系サーバー)とクラウド環境を連携させ、それぞれの利点を組み合わせて利用する構成です。
比較項目
ビジネス要件
1. 業務への適合性
- 自社の業務フローや既存アプリケーションと整合性があるか。
2. TCO(総保有コスト)
- 初期導入費、運用コスト、保守費用、ライセンス費用などの総合的な視点。
3. ベンダーロックインのリスク
- 特定のベンダーへの依存度が高すぎないか。
4. 運用・保守体制
- 自社での運用が可能か、アウトソーシングすべきか。
項目別比較(ビジネス要件)
1. 業務への適合性
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メインフレームは、長年にわたって特定業務(金融・公共系など)に最適化されたアーキテクチャーを有し、安定性と処理信頼性に優れています。これは、ハードウェアからOS、ミドルウェア、開発環境までが一体的に設計されており、業務要件に特化した深いチューニングが可能であるためです。一方で、この一体化された構造は自由度を制限する側面もあり、急激な業務変更や新規システム導入には柔軟に対応しづらい面があります。
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オンプレミスのオープン系サーバーは、汎用ハードウェアと多様なソフトウェア構成を組み合わせることで、自社業務に応じたカスタマイズが可能です。特に既存業務の延長線上での構成・運用に適しており、段階的な業務変更や機能追加に対応しやすい基盤だと言えます。
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クラウドは、IaaSやPaaS、SaaSといった形態を通じて、変化の早い業務ニーズに即応できる柔軟性を持ちます。たとえば、SaaS連携による業務の自動化や、リモートワーク環境の迅速な構築など、新しい業務スタイルへの対応がスムーズに行えます。
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ハイブリッド構成では、業務の性質に応じてオンプレミスとクラウドを適切に使い分けることで、堅牢性と柔軟性のバランスを図ることが可能です。ミッションクリティカルな業務はオンプレミスに、変化の多いフロント業務はクラウドに、といった配置が現実的な選択肢となります。
業務への適合性における比較と結論
業務適合性という観点では、メインフレームのような特化型は業務要件に応じた深いチューニングにより、金融・公共系など特定業務での最適化に強みがあります。一方で、柔軟性を求める業務にはIaaSやPaaS、SaaSなどの豊富な形態を取ることのできるクラウドやハイブリッド構成が適しています。
【安定性や信頼性が求められる業務】
メインフレーム→◎
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
【柔軟性が求められる業務】
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◎
ハイブリッド→◎
2. TCO(総保有コスト)
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メインフレームは、ハードウェアやソフトウェアが専用であり、かつ高可用性を実現するための設計が施されていることから、導入・保守コストが高額になる傾向があります。また、特定ベンダーの専門スキルを持つ人材の確保が必要であるため、人件費もTCOに影響を与えます。
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オンプレミスのオープン系サーバーも初期投資は必要ですが、構成や調達先を自社で選定可能であり、適切な更新計画を立てることで費用コントロールがしやすくなります。ただし、リプレイスごとに一時的なコストが集中するため、長期視点での計画が重要です。
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クラウドは、初期投資を抑えてスモールスタートが可能であり、従量課金制により使用量に応じたコスト配分が行えます。また、オートスケーリングを利用しリソースを最適化することで、TCOを抑えることができます。設計次第では無駄なリソースが発生し、結果的にコストが高騰するリスクもあります。
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ハイブリッド構成は、リソースを業務に応じて適切に配置することでコスト最適化が可能ですが、オンプレミスとクラウド双方の管理が必要になるため、管理負荷・教育コストがTCOに影響します。
TCO(総保有コスト)における比較と結論
TCOの最適化には、従量課金制により使用量に応じたコスト配分が可能なクラウドや、リソースを業務に応じて適切に配置することでコスト最適化を行えるハイブリッド構成の柔軟性が有利に働く場面が多いです。ただし、業務特性や運用体制を踏まえたうえで、各構成の管理・運用コストまで含めた精緻な見積りが重要となります。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◎
ハイブリッド→◎
3. ベンダーロックインのリスク
-
メインフレームは、ハードウェア・OS・ミドルウェア・開発基盤までが特定ベンダー(例:IBM)によって提供されているため、構造上ベンダーロックインのリスクが最も高い構成です。ソフトウェア資産や業務ノウハウが深く組み込まれているため、アップグレードの難易度も高まります。
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オンプレミスのオープン系サーバーは、ハードウェアやミドルウェアを複数ベンダーから選択可能なため、比較的自由度があります。ただし、特定ミドルウェアやストレージ製品に依存した設計をすると、ベンダー変更時のコストが高くなる場合があります。
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クラウドでは、ベンダー(クラウドプロバイダー)によってAPI仕様やSLA、管理コンソールに違いがあるため、ある程度の依存は避けられません。 特に、PaaS以上のサービスを活用する場合は、ベンダーごとの仕様に合わせた開発・運用となるため、他クラウドへの移行には再設計が必要です。
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ハイブリッド構成は、リソースを複数のベンダーに分散させることで、依存度を下げる設計が可能です。ただし、ベンダー横断のシステムを構築・運用するためには、高度なシステム設計と、複数にわたるコンポーネントの運用・管理が必要となります。
ベンダーロックインのリスクにおける比較と結論
ベンダーロックイン回避の観点では、ハードウェアやミドルウェアを豊富なベンダーから選択可能なオープン系サーバーや、それとクラウドを組み合わせたハイブリッド構成がやや有利な傾向にあります。ただし、真に回避するためには、設計段階での意識と技術的分離(例:マルチクラウド設計や抽象化レイヤの導入など)が不可欠です。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◎
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
4. 運用・保守体制
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メインフレームの運用には、COBOLやJCL、z/OSなどに精通した高スキル人材が求められます。これらの技術は学習の機会や資料が限られており、習得に時間がかかることが予想されるため、継続的な運用の際には相応の人材育成コストを見込む必要があります。
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オンプレミスのオープン系サーバーは、ネットワーク、仮想化、ミドルウェアなど広範な知識が必要ですが、業界全体にノウハウが蓄積されており、社内育成も比較的可能です。社内SEで十分に運用できるケースもあります。
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クラウドは、インフラ管理をクラウドベンダーに委ねる「責任共有モデル」により、基盤部分の保守負荷を軽減できます。特に中小企業や専任のインフラ担当を持たない組織にとっては有力な選択肢です。ただし、設計・設定ミスによるセキュリティー・リスクには注意が必要です。
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ハイブリッド構成は、オンプレミスとクラウドの両方を理解し運用できる体制が求められます。これは高度な知識・経験のある人材の確保と、教育体制の継続的整備を必要とします。
運用・保守体制における比較と結論
運用・保守体制においては、専門人材の確保が難しい場合はクラウドが有力な選択肢となり、社内に一定のITスキルがある場合はオンプレミスでも対応可能です。メインフレームやハイブリッド構成は、長期的な人材戦略と教育体制が整っている企業に適しています。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◎
ハイブリッド→◯
以上、4つのITインフラ比較 その②(ビジネス要件)でした。
別記事「メインフレーム技術者が比較検証。クラウド・オープン系と並べて見えた、メインフレームの魅力とは」では、その①(技術的要件)やその③(組織・人材面、ガバナンス・法的要件、将来的なビジョンへの適合性)も含めた全項目における比較サマリーや、その結果をもとに私たちの言葉でメインフレームの魅力を再定義した記事を掲載しています。合わせてご一読いただけると嬉しいです。
参考文献
@IT | メインフレーム温故知新
Microsoft Azure | サービスとしてのプラットフォーム(PaaS)とは
Microsoft Azure | クラウドのコストの最適化
ITmedia | ハイブリッドクラウド運用の課題を解決した事例
この記事は、IBM Community Japanの主催する2025年ナレッジモール研究における「メインフレーム若手技術者の広場」の成果物です。