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本稿では、別記事「メインフレーム技術者が比較検証。クラウド・オープン系と並べて見えた、メインフレームの魅力とは」で記載しきれなかった、4つのITインフラ比較の詳細をまとめていきます。
比較対象
- メインフレーム
- 専用のハードウェアとOS上で稼働する、高い信頼性を持つシステムで、主にオンプレミスで運用されます。
- オープン系(オンプレミス)
- LinuxやWindows Serverなどのオープン系OSを利用し、企業が自社内に構築・管理するシステムです。
- クラウド
- インターネット経由でサーバーやストレージfなどのITリソースをサービスとして利用する形態です。物理インフラの管理はプロバイダーが行います。
- ハイブリッド構成
- オンプレミス環境(メインフレームやオープン系サーバー)とクラウド環境を連携させ、それぞれの利点を組み合わせて利用する構成です。
比較項目
組織・人材面
1. IT人材のスキル
- 社内での運用・管理が可能なスキルセットがあるか。
2. 教育・サポート体制
- ベンダーやSIerによる導入支援やトレーニングが提供されるか。
ガバナンス・法的要件
1. コンプライアンス対応
- 法規制・業界標準に準拠しているか(例:ISO27001、SOC2など)。
2. 監査ログ・記録保持
- トラブルや監査時に必要なログが取得・保管できる設計か。
将来的なビジョンへの適合性
1. DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応
- データ活用、AI連携、業務自動化などへの将来展開を見据えているか。
2. サステナビリティ・環境負荷
- 環境に配慮したデータセンターやクラウドを選ぶ企業も増加傾向。
項目別比較(組織・人材面)
1. IT人材のスキル要件
-
メインフレームではz/OS、JCLなどのメインフレーム環境特有のスキルや知識が必要です。これらの技術は専門性が高く、また教育機会も限られているため、熟練者への依存度が高まりやすくなります。こうした背景から、メインフレーム人材の確保が年々困難になっている状況が続いています。
-
オンプレミスのオープン系サーバーではOSやミドルウェア、開発環境、どの領域でも豊富な選択肢があります。また新たな技術や製品も活発に取り入れられます。幅広い利用者がいることにより学習資源も豊富であるため、社内でのスキル育成が比較的容易です。
-
クラウドにおいてはサービス選定、従量課金のコストの管理など、クラウド特有の知識が求められます。各クラウドベンダー(AWS、Azure、GCPなど)の仕様や特徴の理解も重要なスキルとなっています。
-
ハイブリッド構成は、オンプレミスとクラウドの両方を深く理解し、かつ適切に統合できるスキルセットが求められます。そのため単一構成に比べてより広範かつ高度なスキルが必要となります。
IT人材のスキル要件における比較と結論
スキル要件という観点では、クラウドやハイブリッド構成が新しい技術要素への対応力を求める一方で、オンプレミスは既存技術に対する経験値が活かしやすい土壌があると言えそうです。メインフレームは高度な専門性を持つ一方、後継者育成の観点から組織的リスクも考慮する必要があると考えられます。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◎
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
2. 教育・サポート体制
-
メインフレームに関する教育は、対応可能な機関や教材が限られています。加えて、実環境の準備が容易ではないため、実践的な教育機会を確保しにくいという課題があります。
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オンプレミスのオープン系サーバーでは、IT業界全体で広く利用されている技術が多く、商用研修、書籍、オンライン教材などが豊富に存在しています。実機による社内教育も可能で、学習機会が多いのが特徴です。
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クラウドは、AWSやAzure、GCPといった主要クラウドベンダーによって公式資格・Eラーニング・模擬環境などが提供されており、未経験者でも体系的に学習しやすい土壌が整っています。従量課金の支払いのみで自分で環境構築することも可能なため、知識の獲得にもつなげやすいです。
-
ハイブリッド構成では、それぞれの領域だけでなく、各システムを接続する手法といったハイブリッド環境特有の学習も必要になります。
教育・サポート体制における比較と結論
教育環境の整備という観点では、クラウドやオンプレミスは比較的学習資源が充実しており、学習しやすい体制が整っていると言えそうです。ハイブリッド構成はその延長上にありますが、教育コストの継続性と体制整備の負担がやや高くなる点には留意が必要です。また、メインフレームに関する教育は対応可能な機関や教材が限られており、学習コストも比較的高くなる傾向にあります。
メインフレーム→△
オープン系オンプレミス→◎
クラウド→◎
ハイブリッド→◯
項目別比較(ガバナンス・法的要件)
1. コンプライアンス対応
-
メインフレームは、長年にわたって厳格なコンプライアンス要件に対応してきた実績があり、特に金融・公共などのミッションクリティカル領域では、構成・運用標準が確立されています。これは、専用設計と閉域的な運用環境によって、高いガバナンス水準を実現している点が背景にあります。
-
オンプレミスのオープン系サーバーも、ネットワークやアクセス制御を自社で構成・運用できるため、要件に応じた細かな設定が可能です。ただし、実装と維持にコストやスキルが必要であり、その分運用負荷は上がります。
-
クラウドは、主要ベンダーがISO 27001、SOC2などの国際認証を取得しており、基本的なセキュリティー・ガバナンス水準は高水準で標準化されています。しかし、設定の誤りや監視の甘さにより、運用上のギャップが発生することもあるため、責任共有モデルの理解が前提となります。
-
ハイブリッド構成は、業務特性に応じてオンプレミスとクラウドを使い分けることで、柔軟なコンプライアンス対応が可能です。ただし、双方のガバナンスレベルを均一に保つためには、全体のポリシー設計や監査体制の統一が重要です。
コンプライアンス対応における比較と結論
コンプライアンス対応においては、業務への適合性や長年にわたって厳格なコンプライアンス要件に対応してきた実績のあるメインフレームが依然として強みを持っています。一方で、クラウドについても主要ベンダーがISO 27001、SOC2などの国際認証を取得しており、基本的なセキュリティー・ガバナンス水準は高水準で標準化されており、十分に対応可能と考えられます。また、ハイブリッド構成でも業務特性に応じてオンプレミスとクラウドを使い分けることで、柔軟なコンプライアンス対応が可能です。
メインフレーム→◎
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
2. 監査ログ・記録保持
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メインフレームでは、システム内に組み込まれた監査証跡管理が高度に設計されており、改ざん耐性の高いログの記録が可能です。ただし、外部システムとの連携やリアルタイムな可視化には制約がある場合もあります。
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オンプレミスのオープン系サーバーでは、SIEM(Security Information and Event Management)や独自ログ管理システムの導入により、高度なログ収集・相関分析が可能です。システム構成を自由に設計できるため、要件に応じた柔軟な対応が可能です。
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クラウドは、ログ収集・保管機能が標準サービスとして提供されており、機械学習ベースのログ分析や通知機能も活用できます。ログ保持期間や出力形式などもサービスレベルで管理されるため、効率的な運用が可能です。
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ハイブリッド構成では、クラウドとオンプレミスでログの形式・取得手法が異なることから、統合管理や整合性の確保が課題となる傾向があります。全体のログポリシーとデータ連携設計が重要となります。
監査ログ・記録保持における比較と結論
ログ管理においては、ログ収集・保管機能が標準サービスとして提供されており、機械学習ベースのログ分析や通知機能も活用できるクラウドと、SIEM(Security Information and Event Management)や独自ログ管理システムを自由に設計できるオンプレミスの柔軟性がそれぞれ特長を持っています。
ハイブリッド構成は両者の強みを活かせる一方で、統合的な管理体制の整備が前提となるため、体制構築の難易度はやや高くなります。
また、メインフレームも、システム内に組み込まれた監査証跡管理が高度に設計されており、改ざん耐性の高いログの記録が可能という特長があります。
メインフレーム→◯
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◯
ハイブリッド→◯
項目別比較(将来的なビジョンへの適合性)
1. DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応
-
メインフレームは膨大かつ高品質な基幹業務データを蓄積しており、これはDXの貴重な資産です。API連携などで外部システムと接続しデータ活用を促進できます。AI連携では、Linux on ZやzCX(z/OS Container Extensions)上でAI/ML(人工知能/機械学習)ワークロードを実行可能で、既存データとの親和性を活かせます。業務自動化は伝統的なジョブ管理に加え、RPAツールとの連携で効率化を図れます。ただし、クラウドネイティブサービスとの連携や開発俊敏性には工夫が求められる場合があります。
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オンプレミスのオープン系サーバー環境では、データを自社管理下に置き、柔軟にデータベースを構築し、BIツール等と連携したデータ活用が可能です。AI連携では、高性能GPUサーバーを導入し、独自のAI開発・学習環境を構築できます。各種スクリプト言語やRPAも柔軟に活用可能です。一方、従量課金制のAI/MLサービスや最新の学習済みAPI群の利用は難しく、インフラ維持と技術追従にリソースが必要です。
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クラウドはDXを強力に支援する多様なサービスを提供します。データ活用では、様々なデータ分析基盤サービスが利用でき、膨大なデータを効率的に収集・蓄積・分析できます。AI連携では、オンデマンドの高性能コンピューティングリソースや、学習済みAPIが豊富です。これにより、企業はAIモデルの開発からデプロイ、運用までを迅速かつ効率的に行うことができます。業務自動化も幅広く推進できます。これらのサービスは継続的に進化・拡充される点が強みです。
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ハイブリッド構成は、オンプレミスの既存データとクラウドのDXサービスを連携させ、双方の利点を活かします。例えば、オンプレミスデータでAIモデルを学習し、推論はクラウドで行うといった活用が可能です。ただし、安全かつ効率的なデータ連携パイプラインの構築、データガバナンスの一貫性維持、両環境にまたがるワークロード管理は技術的に複雑です。
DXへの対応における比較と結論
- 既存データの活用や堅牢な基盤でのDX推進を目的とする場合:API連携を強化したメインフレームや、オンプレミスのオープン系サーバーが適しています。
- 最新技術を迅速に取り入れ、スケーラビリティを重視したDX推進を目的とする場合:クラウドが最も適しています。ハイブリッド構成は、既存資産保護と技術活用の両立を目指す現実的な選択肢となり得ます。
メインフレーム→◯
オープン系オンプレミス→◯
クラウド→◯
ハイブリッド→◎
2. サステナビリティ・環境負荷
-
メインフレームは一台あたりの処理能力が極めて高く、ワークロード集約に優れます。最新機種では水冷システムやプロセッサの省電力設計が進み、部品の長寿命設計も廃棄物削減に貢献します。ただし、旧機種や非最適化運用では電力消費が大きい可能性も考慮が必要です。
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オンプレミスのオープン系サーバーでは、電力効率規格(80 PLUS認証等)を考慮した機器選定や、電力使用効率(PUE)の自社管理・改善が求められます。仮想化による物理サーバー集約でエネルギー効率向上も可能です。しかし、最新省エネ技術の導入・維持やデータセンター全体の最適化には専門知識と継続的投資が必要です。
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クラウドプロバイダーは、超大規模データセンターで最新冷却技術やAIによる運用最適化、高効率電源を導入し、一般に高いPUEを実現しています。多くのプロバイダーが再生可能エネルギー利用を推進しており、間接的な環境負荷低減に貢献できます。リソースの動的割り当ても無駄なエネルギー消費を抑制します。ただし、データセンター建設・運用の影響や透明性には注意が必要です。
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ハイブリッド構成のサステナビリティは、オンプレミスとクラウドの特性と組み合わせに依存します。エネルギー効率の高いクラウドへワークロードを移行しつつ、オンプレミス資産を効率化するなどが考えられます。しかし、全体最適となるワークロード配置の設計・運用には高度な判断が求められます。
サステナビリティ・環境負荷における比較と結論
「ITリソースの大規模集約と効率的運用による環境負荷低減」という観点では、クラウドが有利な傾向にあります。一方でメインフレームも、最新機種の省電力技術と高い集約率で貢献できる可能性があります。オンプレミスは、自社努力で効率化を図れるものの、大規模最適化はやや難易度が高いです。
メインフレーム→〇
オープン系オンプレミス→△
クラウド→◎
ハイブリッド→△
以上、4つのITインフラ比較 その③(組織・人材面、ガバナンス・法的要件、将来的なビジョンへの適合性)でした。
別記事「メインフレーム技術者が比較検証。クラウド・オープン系と並べて見えた、メインフレームの魅力とは」では、その①(技術的要件)やその②(ビジネス要件)も含めた全項目における比較サマリーや、その結果をもとに私たちの言葉でメインフレームの魅力を再定義した記事を掲載しています。合わせてご一読いただけると嬉しいです。
参考文献
「IT予算が年10%ずつ削られる」 メインフレームから生成AIまで手掛けるIBM自身は運用高度化、モダナイゼーションをどう果たしたのか
Azure トレーニングと認定資格 | Microsoft Azure
AWS Training and Certification
ハイブリッドクラウド時代のアプリケーション開発基盤 | IBM
若手が知らないメインフレームと銀行系システムの歴史&基礎知識
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z/OS Connectによるメインフレーム資産のAPI化 ~SoRとSoEを柔軟に連携可能な注目のツールの仕組みと機能 | メインフレーム技術の最新動向② - アイマガジン|i Magazine|IS magazine
IBM z/OS Connect
IBM API Connect 関連メモ - (9)z/OS Connect 連携まとめ #ibmcloud - Qiita
この記事は、IBM Community Japanの主催する2025年ナレッジモール研究における「メインフレーム若手技術者の広場」の成果物です。