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はじめに
本記事は、「若手視点で考える、メインフレームの将来像」というテーマのもと始動した、若手主体のプロジェクトにおけるシリーズ記事の1つです。(メインフレームの将来像:20年後の未来を若手メインフレーマーが考える ~プロローグ~ より)
メインフレームの将来像を描くにあたり、まずは考察・提言のための知識獲得を目的として「メインフレームの魅力深堀分科会」と「メインフレームナレッジ継承分科会」に分かれて活動しています。
当記事では、「メインフレームの魅力深掘り分科会」にて取り扱うテーマについてまとめます。
メインフレームの魅力分科会とは
メインフレームの魅力分科会では、「メインフレームの現状における優位性と将来的な可能性を探る」ことを目的とし、私たち若手メインフレーマー自身が下記の2つのテーマに沿って調査しQiita記事として情報を発信していきます。
テーマ① オープン系システムとの比較: オープン系のITインフラと比較することで、メインフレーム特有の強みを分析
【経緯・趣旨】
筆者は、入社以来もっぱらメインフレームに携わってきた有志の若手メインフレーマーたちです。
あるとき私たちの中で、「メインフレームの特徴や良いところは分かったつもりでいるが、他のサーバーも含めて相対的に見たとき、果たしてどれほどの優位性があるのかはイマイチ腹落ちしきれていないよね」という会話がありました。というのも、オープン系サーバーの仕組みや成り立ちについてはまだまだ詳しくないためです。
そこで、確信を持ってメインフレームの良さを理解し伝えられるようにここで一度、私たちからすると「外の世界」であるオープン系サーバーのことも同様に理解した上で、両者を比較していくことにしました。
テーマ② 最新技術動向調査: メインフレームにおける最新技術の活用状況を調査
【経緯・趣旨】
「メインフレーム=レガシー」というネガティブなイメージをよく耳にします。メインフレームはその堅牢性や高可用性といった性質を武器にミッションクリティカルなシステムを支えてきたという、長い歴史を持ちます。ただ、メインフレームは本当に古いだけなのでしょうか?IBMはメインフレーム領域に最新技術を積極的に取り込んでいます。
IBMメインフレームで活用可能な最新技術について調査し発信することで、古くからの技術に加え最新技術も厚く取り込まれているメインフレームならではの魅力に、皆さんも私たち自身も気がつくきっかけとなれば幸いです。
IBMによる技術やツールを中心に、1. HW、2. OS、3. MW、4. SWとレイヤーごとに区切り、メインフレーム領域で取り込まれている最新技術をご紹介します。
魅力深堀り分科会の記事の展開
魅力深堀分科会としては以下の流れで記事を投稿していきます。
シリーズ「他のITインフラとの比較、最新技術の導入状況からメインフレームの魅力を探る」
- メインフレームの概要・強みとされている箇所のおさらい ★本記事
- オープン系サーバーの情報まとめ (テーマ①:比較)
- メインフレームとオープン系の比較(テーマ①:比較)
- 最新技術(テーマ②:最新技術)
メインフレームの魅力再発見に向けて〜メインフレームの基礎知識〜
上述の2つのテーマに沿って、メインフレームの魅力をまずは私たち自身が再発見し、シリーズ記事として発信してまいります。
その前提として、メインフレームについても改めて概要をおさらいし、まとめたいと思います。
メインフレームとは
そもそもメインフレームとはなんでしょう?一言で表すと「企業の基幹業務などに利用される大規模なコンピューター」です。大量のメモリーと、膨大な量の単純計算およびトランザクションを並列してリアルタイム処理できるプロセッサーを有しています。その特性から、銀行や航空をはじめとする幅広い業界において、ミッション・クリティカルなシステム(=業務の遂行上、止まることが許されないシステム)に採用されることが多いです。つまり社会的な責任が大きいシステムにメインフレームは多く採用されています。
メインフレームの成り立ち
世界初のメインフレーム・コンピューターとして知られるHarvard Mark Iは、軍事目的で数学の問題を解くための機械として1937年に設計されました。その後商用化を経て、1964年には最初の現代的メインフレームであるIBM System/360が登場しました。S/360の名前の由来はコンパスの全方向(360°)で、それまで特定用途ごとの専用機で行われていたコンピューターの処理を、ひとつの統合されたコンピューター(汎用機)として実行することができるようになりました。メインフレームはその後も業界全体にわたって中核的なITインフラストラクチャーとして使用され続け、最新のモデルはAI推論処理に特化のオンチップ・アクセラレーターを搭載したプロセッサーを採用するなど、今もなお進化を続けています。
メインフレームを使用するメリット
(1)信頼性
信頼性とは、「システムの壊れにくさ」を意味します。エラー検出と自己回復の機能により、システム障害の際も正確な処理を維持できます。
(2)可用性
可用性とは、「システムが継続して稼働できる能力」を意味します。クラスタリングや論理パーティション(LPAR)の技術により、障害が発生しても別のシステムで処理を引き継ぐことができます。
(3)保守の容易性
ハードウェアレベル・ソフトウェアレベルでのリアルタイム監視や自己診断機能によって、障害の兆候を早期に検出することができます。また、特定した根本原因を取り除く際、システムを停止することなく構成変更や部品交換を行うことができます。
(4)パフォーマンスの最適化
OSによるHWリソース割り当てや、チャネルサブシステムによる効率的なI/O処理によって、高度なパフォーマンス最適化を実行できます。
(5)拡張性
LPARや仮想化の技術により、1台の物理マシンの上に複数の仮想環境を柔軟に構築できます。また、クラスタリングによりシステム全体の処理能力を段階的に拡張できます。
(6)セキュリティー
暗号処理専用チップや、AIを利用したセキュリティー・ソフトウェアによって不正操作の検出や抑止ができます。
(7)レジリエンシー
ハードウェアの冗長構成(CPU、電源、メモリ、I/O装置などを二重・多重に持つこと)により、一部が故障してもシステム全体に影響することなく復旧を行うことができます。
今日におけるメインフレーム
ITインフラとしてクラウドや分散型アーキテクチャーの採用が増加している一方で、メインフレームが持つ強みや役割はこれらオープン系テクノロジーでは完全に代替することが難しい状況にあります。各プラットフォームの特性や強みを活かすべく、オープン系とメインフレームの2つのシステムを組み合わせたハイブリッド・クラウド環境の採用が進んでいます。ハイブリッド・クラウド環境においては、ワークロードごとに最適なプラットフォームを選択し、クラウドとオンプレミスの両方に存在するデータの利点を活用することができます。
まとめ
以上、超概論としてメインフレームの基礎知識をまとめさせていただきました。
メインフレームの魅力再発見およびメインフレームのさらなる活用に向けて、オープン系のテクノロジーとメインフレーム上のテクノロジーの融合は鍵となると考えます。当分科会では、オープン系システムとの比較およびメインフレームを取り巻く最新技術動向調査を通じ、メインフレームが持つ固有の価値を再認識し、将来への可能性を探る手がかりとしてまいります。
参考文献
この記事は、IBM Community Japanの主催する2025年ナレッジモール研究における「メインフレーム若手技術者の広場」の成果物です。