連載「Tines 3B を読み解く」の第8回です。
はじめに
AI を使うワークフロー基盤を選ぶとき、「特定のベンダーに縛られないか」は必ず出る問いです。LLM を変えたくなったら、基盤を乗り換えたくなったら、何が持ち出せて何が作り直しになるのか。
この記事では、AI ネイティブのワークフロー基盤「Tines 3B」がどこまで「縛られない」のかを、公式ドキュメントに沿って整理します。
こんな方に向けて書いています。
- 生成AI を使うワークフロー基盤の、ロックインの範囲を知りたい
- 既存のツールや自社の AI クライアントとつながるかを確かめたい
- 「どこへでも移せる」という説明の正確な範囲を知りたい
先に結論です。LLM、ステップのソース、接続口(MCP、REST API、Git)は、選べるか持ち出せます。一方、ワークフローの構造(config.toml など)、概念(スペース、ブランチ、コネクタ)、認証情報は 3B 固有です。「縛られない」と言える層と言えない層を、分けて考えるのが安全です。
コネクタと認証情報の仕組みは第3回、構築の詳細は第6回で扱っています。
こんな場面、ありませんか
基盤の選定や導入の相談で、よく出てくる場面です。
- 社内で契約済みの LLM があり、その契約のまま使えるかを聞かれる。
- Slack、GitHub、社内の DB など、すでにあるツールとつながるのか確かめたい。
- 数年後に別の基盤へ移るとき、作ったワークフローがどれだけ残るのか分からない。
共通するのは、「つながる」と「持ち出せる」は別の問いなのに、一つの言葉で語られがちなことです。
結論:3つの方向と、3つの層
3B の接続は、3つの方向に整理できます。
| 方向 | 何がつながるか | 主な手段 |
|---|---|---|
| 3B から外へ(LLM) | 構築と実行の AI が使うモデル | AI プロバイダの設定と、コネクタ |
| 3B から外へ(ツール) | ワークフローのコードが呼ぶアプリ、DB、MCP サーバー | コネクタ |
| 外から 3B へ | 外部の AI クライアント、CI、Git、他のワークフロー | MCP、REST API、CLI、Git、GitSync、ワークフローのコネクタ化 |
「縛られない」範囲は、3つの層で見ると分かりやすくなります。
| 層 | 度合い | 内容 |
|---|---|---|
| 選べる | 高い | LLM の接続先、ステップの言語 |
| 持ち出せる | 高い | ステップのソース、外から使う接続口 |
| 3B 固有 | 低い | ワークフローの構造、概念、認証情報 |
設計1:LLM を持ち込む
BYOM という考え方
3B は、利用者が持ち込んだ AI モデルで動きます。これが BYOM(Bring Your Own Model、モデルの持ち込み)です。有料プランでは AI プロバイダを1つ以上接続して既定にするまで、構築も実行もできません。Explore(無料版)では、Tines 管理のプロバイダが使えます。
接続できる先
記事(Connect your AI provider)が画面の「+」の選択肢として挙げるのは、次の4つです。
| プロバイダ | 接続の要点 |
|---|---|
| OpenAI、Anthropic | API に直接つなぐ。エンドポイントはコネクタのものを使う |
| Azure OpenAI | Base URL(必須)とデプロイ名を使う |
| Oracle Cloud Infrastructure(OCI) | OCI Generative AI。リージョンのslug(例 us-chicago-1)を指定。署名はコネクタ。Chat model は必須 |
| OpenAI 互換 | プロバイダの API Base URL を使う |
加えて、2026年9月の製品アップデートには「NVIDIA と Hugging Face を接続できる」という記載があります。設定の詳細は保存済みの記事にはありません。なお、AWS Bedrock と Google Vertex AI は、記事の接続先の一覧に見当たりません。
API キーはプロバイダの設定画面には入力せず、コネクタに保管します(第3回の仕組みと同じです)。
切り替えと統制
- 複数のプロバイダを接続でき、既定はメニューの「set as default」でいつでも切り替えられます。
- チャットごとに、入力欄のモデルピッカーでモデルと推論の強さ(Effort)を変えられます。管理者の権限は要りません。
- OpenAI 互換のコネクタ(Cohere、OCI を含む)には、許可モデルの一覧(Available models)を設定できます。公式では「追加の安全策で、完全に任意」とされています。
プロバイダの接続は、テナント管理者の作業(Manage AI providers の権限)です。
設計2:コネクタでツールとつなぐ
ワークフローのコードが外部を呼ぶ入口は、コネクタです。
| 種別 | 内容 |
|---|---|
| ライブラリ | 900件以上のテンプレート(公式の用語集による)。カテゴリは AI、Engineering、Security、Identity など |
| カスタム | URL パターンと認証方式(Bearer、カスタムヘッダー、Basic、クエリパラメータ)を指定。公式では「connect to anything」と表現されている |
| データベース | Postgres、MySQL(Data カテゴリ。ほかの DB もビルドによる) |
| リモート MCP | MCP サーバーのコネクタ(Streamable HTTP) |
| ワークフロー | 自分のワークフローを、他から呼ぶ |
MCP の2つの向き
3B から外の MCP サーバーを呼ぶときは、「MCP server」コネクタを作ります。コードは Authorization ヘッダーを自分で付けず、認証情報プロキシが付けます。
外の AI クライアントが 3B を使うときのエンドポイントは、テナントの URL に /mcp を足したものです。認証は2種類です。
| 認証 | できること |
|---|---|
| OAuth | 本人の権限で、全ツール。構築と公開(push live)も |
| サービスアカウントの Bearer | 参照、実行、3B への依頼まで。構築と公開のツールは使えない |
MCP は新しい権限を足さず、変更系の操作は監査ログに「MCP から」と記録されます。
REST API、CLI、Git、GitSync
| 接続口 | 要点 |
|---|---|
| REST API |
/api/v1/docs(Swagger UI)と、/api/v1/openapi.json(OpenAPI 3.1)。API キーは 3b_sk_ で始まり、24時間で失効する |
| CLI | 手順に沿って導入し、3b run などで実行できる |
| Git | スペースは Git リポジトリで、<テナント>/spaces/<スペース>.git をクローンできる |
| GitSync | スペースと GitHub のリポジトリを、双方向に同期する |
常時の連携に24時間で失効する個人のキーを使うのは避け、サービスアカウントの認証情報を使うのがよいでしょう。
GitSync には GitHub App のコネクタを使います。既定ブランチは main が必須で、同期はイベント駆動です。保存済みの記事の範囲では対象は GitHub で、GitLab など他の Git サービスへの同期は記載がありません。
設計3:ワークフローをコネクタにする
ワークフローのヘッダーにある「use this workflow as a connector」で、そのワークフローを他のワークフローから呼べるコネクタにできます。コネクタの作成権限と、そのスペースの編集権限が要ります。
これは 3B の中の再利用の仕組みです。外へ持ち出す機能ではなく、3B の概念(コネクタ)の上に作られている点に注意してください。
縛られる範囲、持ち出せない範囲
ここがこの記事の中心です。
| 対象 | 取り出し方 | 注意 |
|---|---|---|
| ステップのソース | Git のクローン、GitSync、ブランチの Download code(.zip) | コード、Dockerfile、設定を含む |
| チャットの履歴 | Download chat(JSON) | ブランチ単位 |
| ワークフローの構造 | 同上(config.toml、リンク) |
3B 固有。ほかの基盤では作り直し |
| 認証情報 | 取り出せない | 保存後はマスク表示で、上書きだけ可能。移行先で再発行 |
| 実行履歴、ボリューム | 一括出力の手段は確認できていません |
ステップは stdin と stdout を使う標準的な作りなので、コード本体はほかの基盤へ移しやすいと考えられます(筆者の推測です)。一方、トリガー、リンク、権限、コネクタは移行先で作り直します。
公平に言えば、こうなります。
- LLM に縛られない。ただし「任意の LLM」ではなく、記事が挙げる接続先と OpenAI 互換です。
- ソースに縛られない。ただし構造は 3B のものです。
- 構築支援の動き(AI による構築、Autofix、Autotune)は、LLM を選べても 3B の仕組みです。
AI のトークン代は、ライセンスとは別に自社のプロバイダとの契約で払うもの、と筆者は BYOM の説明から解釈しています。契約上の扱いは確認できていません。
守ってくれないこと
- プロバイダの未設定: 有料プランは、接続して既定にするまで何もできません。導入の最初の作業になります。
- セルフホストの HTTPS: AI プロバイダの設定は、平文の HTTP では動きません(第9回)。
- 社内向けの経路: ワークフローのコードから社内宛の通信は、既定で SSRF ガードが遮断します。許可はネットワークとトンネルで行います(第2回)。AI プロバイダの設定から社内の LLM へ届くかは、記載がありません。
- MCP の Bearer では作れない: 構築と公開のツールは OAuth のみです。ヘッドレスな自動構築は約束できません。
- データの扱い: BYOM の通信先は、自分が選んだプロバイダです。ログや学習の方針は、そのプロバイダとの契約で決まります。
他のやり方との違い
「縛られない」の作り方は、一般に次のように分けられます(特定の製品の仕様ではなく、考え方の整理です)。
| 方式 | 持ち出しやすいもの | 作り直しになるもの |
|---|---|---|
| 汎用のコード(スクリプト、CI)を自前で運用 | ほぼすべて | 運用の仕組みを、自前で持つ |
| ワークフロー基盤(独自の定義形式) | ロジックのコード | 定義、トリガー、権限、接続設定 |
| 基盤が出力する標準形式(OpenAPI、MCP)に寄せる | 接続口 | 基盤の中の構造 |
3B は、コード本体と接続口が標準寄りで、構造と概念が独自という位置づけです。自前で運用すれば縛られませんが、運用の負担を引き受けることになります。
おわりに
- LLM は接続先から選べ、既定はいつでも切り替えられる。ただし「任意の LLM」ではない。
- ソースと接続口(MCP、REST API、Git)は、持ち出せるか外から使える。
- ワークフローの構造、概念、認証情報は 3B 固有で、移行時は作り直しになる。
「縛られない」は一つの言葉ではなく、層ごとの話だと思います。
連載の他の回
連載「Tines 3B を読み解く」(全11回):
- 第1回 AIが作るコードの乱立に、どう備えるか。Tines 3B の全体像と5つの強みを読み解く
- 第2回 AIが書いたコードを、動かして大丈夫か。Tines 3B の実行とネットワークの分離を読み解く
- 第3回 AIエージェントに、APIキーを渡さない。Tines 3B の認証情報の設計を読み解く
- 第4回 AIに、誰の権限で何をさせるか。Tines 3B の権限とガードレールを読み解く
- 第5回 「誰が何をしたか」と「いくらかかったか」を、どう見るか。Tines 3B の監視・監査・費用を読み解く
- 第6回 AI にチャットで作らせても、実体はコード。Tines 3B の「コードファースト」を読み解く
- 第7回 本番を壊さずに直す。Tines 3B のドラフトと本番、自己修復(Autofix、Autotune)を読み解く
- 第8回 「ベンダーに縛られない」は、どこまで本当か。Tines 3B の接続口と、持ち出せる範囲を読み解く(この記事)
- 第9回 自社環境で動かすなら、何を引き受けるか。Tines 3B のセルフホストを読み解く
- 第10回 契約の前に、何を書面で確かめるか。Tines 3B の導入・契約・費用を読み解く
- 第11回 Tines 3B か、他の製品か。8つの軸で見分ける
参考
公式ドキュメント(docs.3b.tines.com):
- Connect your AI provider
- Connect an AI client to Tines 3B with MCP
- Connect to your tools by creating connectors / Managing connectors
- Connect a workflow to a remote MCP server
- Use a workflow as a connector
- Find and use the Tines 3B API documentation
- Sync your workflows to GitHub with a GitHub App
- Build a workflow in your own coding tools
- Tines 3B Dictionary / Connectors
- Tines 3B pricing and packaging overview
- Connectivity requirements
Tines 3B 製品アップデート 2026年9月(www.tines.com/3b/product-updates/2026-09/、2026年10月に確認)