連載「Tines 3B を読み解く」の第11回(最終回)です。
はじめに
AI で自動化を作る製品は増え続けていて、そのたびに「Tines 3B は、何と比べて、どこが違うのか」と聞かれます。
けれど、製品名を並べて優劣を決めようとすると、たいてい議論が噛み合いません。前提にしている「作る人」と「守りたいもの」が違うからです。
この記事では製品の優劣は言いません。「何で比べるか」と「どんな場面で、どちらが向くか」を整理します。
こんな方に向けて書いています。
- 3B と、ほかの自動化・AIエージェントの製品を比べる立場にある
- 比較表を作るとき、どの軸を置くべきか知りたい
- 3B が向く場面だけでなく、向かない場面も知りたい
先に結論です。製品は4つの分類に分けると見通しが良くなります。比べる軸は8つに固定し、軸の重みは顧客(自分たち)の状況から決めます。3B が第一候補になるのは、「多くの部門が AI で作り、IT が統治する」条件がそろうときです。そうでない場面では、ほかの製品が向くことが多くあります。
連載の中では、第1回〜第10回で見てきた3B の設計を、「他との比べ方」の形にまとめ直す回です。
他社製品については、各社の公式ページの記述を取得日つきで書きます。
こんな場面、ありませんか
- 比較表を作ったら、連携の数や「何分の1に短縮」のような数字が並び、何を比べているのか分からなくなった。
- 「記載なし」と書いたはずの欄が、いつの間にか「非対応」と読まれていた。
- 良い製品かどうかの話が、「うちの現場に合うか」の話と混ざってしまった。
どれも、「軸」と「前提」が決まっていないことから起きます。
結論:3つの見分け方
| 見分け方 | 何をするか | 防ぐもの |
|---|---|---|
| 分類を知る | 製品を、4つの分類に分ける | 性格の違う製品を、同じ土俵で比べること |
| 8つの軸で見る | 軸を固定し、各欄に出典と取得日を付ける | 数字の印象と、「記載なし」の誤読 |
| 状況で選ぶ | 顧客の状況から、先に評価する製品を決める | 「どれが良いか」の、水掛け論 |
見分け方1:分類を知る
筆者は、製品を次の4分類に分けています。公式の分類ではなく、筆者の整理です。
| 分類 | 性格 | 例(調べた範囲) |
|---|---|---|
| A セキュリティ運用系 | SOC(セキュリティ運用)の専任が、検知やチケットと一体で動かす | Torq、Splunk SOAR、Google Security Operations の SOAR など |
| B 汎用自動化系 | 業務部門が、多数のSaaSをつなぐ。ノーコード中心 | n8n、Zapier、Make、Workato、Power Automate など |
| C エージェント構築系 | AIエージェントを作って動かす基盤。焦点は製品ごとに違う | Copilot Studio、Retool、LangSmith など |
| D 自作 | OSS や隔離の部品を組み、統制も自分で作る | LangGraph(OSS)、自作の構成 |
製品名は分類の例です。載せていない製品が劣っているわけではありません。
位置づけは、2つの軸で見ると分かりやすくなります。位置は筆者の判断で、優劣を表さず、機能の有無の判定にも使いません。
| ノーコード〜ローコード | コードファースト | |
|---|---|---|
| SOC専用 | A の多く | |
| 全社の業務部門 | B の多く | 3B(IT・セキュリティが統治) |
| 業務部門〜開発者 | C の多く | C の一部、D |
補助の軸として「統制の自前度」があります。基盤が既定で提供してくれるものから、自分で用意するものまでの幅で、D は自分で用意する側の端です。
3B と位置が近いのは「全社で使い、コードが実体」の領域で、ここにはほかの製品も隣接しています。
見分け方2:8つの軸で見る
軸は次の8つに固定します。後から軸を選ぶと、特定の製品に有利になるからです。
| 軸 | 見ること | 3B の整理(公式ドキュメントより) |
|---|---|---|
| 認証情報 | シークレットの保管先、コードや AI からの見え方、外部の保管庫との連携 | コネクタに保管し、コードには現れない。外部の保管庫との連携は、確認できていない |
| 実行の分離 | 生成コードやステップの隔離、外向き通信の制御 | 実行ごとの使い捨てのサンドボックス(gVisor)。宛先が一致しない通信は、既定で公開インターネットへ出る |
| 監視・監査 | 監査ログの範囲、保持、転送、AI費用の見え方 | 監査ログ、Watchtower、ダッシュボード。保持期間の記載は、確認できていない |
| コードファースト | 実体がコードか、画面上の構成か | 実体は、スペース(Git リポジトリ)内のコード |
| モデル | AIモデルの選択、自社契約の持ち込み | 有料プランで、複数のモデル提供元を接続できる |
| デプロイ | SaaS、セルフホスト、リージョン | SaaS とセルフホスト、Tunnel。セルフホストは x86_64 のみ |
| ガードレール | 権限、承認(構築時か、実行中か)、上限 | 承認は構築時のもの。ライブの実行中に人の承認を挟む仕組みは、確認できていない |
| 価格・契約 | 公開価格、課金の単位、認証・契約の範囲 | Explore(無料)は公開。有料プランは、金額が非公開。認証の対象範囲は、確認できていない |
右の列には、3B の弱みになりうる点も隠さず入れています。認証の範囲、実行中の承認、外部の保管庫、金額の非公開、日本語サポートやリージョンの未確認がそれです。一般提供の開始が2026年7月28日で実績が短いことも、比べるときの材料になります。
比較表を作るときの3つの約束
- 各欄に出典と取得日を付ける。他社の欄は、その会社の公式ページの記述に限ります。
- 「記載なし」を「無い」と書かない。取得できたページの範囲の話で、機能が無いこととは違います。
- ベンダーの公表値は優劣の根拠にしない。連携の数や「短縮率」は、数え方や条件が違います。この記事の表にも載せていません。
もう1つ注意があります。「承認」という言葉は2つの意味で使われます。
- 構築時の承認: 作るときに、人が確かめる(3B の Plan mode、push live など)。
- 実行中の承認: 動いている最中に、人が確かめる。
顧客がどちらを求めているのかを先に聞いてください。これだけで比較の結果が変わることがあります。
公式が書いていること(例)
具体例を3つだけ挙げます。いずれも各社の公式ページが書いている事実の一部で、製品の評価ではありません。
| 製品 | 公式の記述(要旨) | 取得日、ドメイン |
|---|---|---|
| Torq | 外部のシークレットストアとして、HashiCorp Vault、AWS SSM Parameter Store、Azure Key Vault を使える | 2026-10-08、kb.torq.io |
| Splunk SOAR(Cloud) | プレイブックの Prompt ブロックで、利用者や、SOAR を使わない個人・グループに確認を求め、応答を必須にして、返るまで進めない設計ができる | 2026-10-14、help.splunk.com |
| Google Security Operations | 手動アクションに承認リンクを付け、メールで、担当者や SOC のロールが承認・却下できる | 2026-10-14、docs.cloud.google.com |
この3つは、3B の「確認できていない」欄(外部の保管庫、実行中の承認)に重なります。比べるときは、こうした点を 3B 側の弱みとして正直に書く必要があります。
見分け方3:状況で選ぶ
分類と軸が決まったら、顧客の状況から先に評価する製品を決めます。「第一候補」は最初に評価するという意味で、優劣の断定ではありません。
状況別にまとめると、次のようになります。
| 顧客の状況 | 先に評価する製品 | 3B の扱い |
|---|---|---|
| SOC専任で、SIEM/ITSM と一体で動かしたい | 分類A(既存の基盤に合わせる) | 補完。SOC の外に広げる局面で比較 |
| 小さく、低価格で始めたい | 分類B | Explore で試す。有料は金額が非公開 |
| Microsoft 365 中心で、既存の統制に載せたい | Microsoft の自動化・エージェント系 | 併用か、対象外の業務で検討 |
| 基盤チームがあり、自作基盤が回っている | 分類D(現行を継続) | 足りない部品を補う用途で比較 |
| 全部門が AI で作り始め、IT が統治したい | 3B | 第一候補の1つ |
| 認証範囲の書面、日本語サポートが契約前に必須 | 掲載が確かな製品 | 範囲が確認できるまで保留 |
| 実行中の人の承認が必須 | 文書化している製品 | 標準機能が確認できていない。実装できるかを確認 |
3B が差を出せるのは、次の3つがそろうほどです。
- 作り手が、少数の開発者に限られず、多くの部門に広がる。
- シークレットを、コードや AI に見せたくない。
- 生成コードを、基盤の側で隔離して動かしたい。
逆に、1つも当てはまらないなら、3B を選ぶ理由は薄くなります。
3B が向かない場面(うまくいかない場面)
次の場面では、3B を第一候補にせず、確認が済むまで待つのが安全です。
- 認証の対象範囲の書面が、契約前に必須。3B が対象に含まれるかは確認できていません。
- ライブの実行中に、人の承認が必須。3B の承認は構築時のものです。
- 日本語サポート、日本リージョン、SLA が必須。確認できていません。
- 金額が公開されないと、稟議が通らない。有料プランは金額が非公開です(Explore は無料で試せます)。
- セルフホストを、Arm 環境だけで運用したい。3B は x86_64 のみです。
- 既存の製品で要件が満たせ、作り手も増えない。乗り換える理由が弱くなります。
- SOC 向けの出来合いの部品が、すぐ必要。3B の標準部品の有無は確認できていません。
これらは 3B の欠点というより、「いまの条件では確認が済んでいない」点です。確認できた段階で、評価は変わりえます。
他のやり方との違い
「どれか1つに決める」必要はありません。併用と段階的な移行も、現実的な選択肢です。
| 状況 | 道筋の例 |
|---|---|
| 既存の SOAR/ITSM で足りている | 既存を継続する。SOC の外の部門と、コードが実体の自動化を、3B で受ける |
| Microsoft 365 中心 | M365 の中は現行の製品で、ほかのシステムと複数のモデルは、3B で。権限の二重管理を、先に決めておく |
| 低価格の連携ツールを使っている | 定型の連携は、そのまま。生成コードやシークレットの扱いが重い業務から、3B に移す |
| 自作基盤がある | 統制が足りない部分から、3B で置き換える。自作と3B の連携は、検証してから採用する |
| 従来の Tines(Stories)を使っている | 公式では、Stories と 3B の併用と、移行の支援が書かれている。規制対象のデータは、認証範囲が確認できるまで、慎重に |
併用に共通する課題は、認証情報、監査ログ、権限が二重になることです。統合して見る手段の有無は確認できていません。
また、「3B だけ」とは言えません。隔離や、認証情報をコードに見せない設計は、ほかの製品や部品にもあります。3B の特徴は、作る・動かす・見るを、基盤の側から1つの環境で説明していることです。実際にどこまで効くかは、小さな試行で確かめてください。
他社情報の取得日と再確認
他社製品の記述は、2026年10月8日〜14日に取得したもので、一部は要約を介した確認にとどまります。この記事に載せた3製品(Torq、Splunk SOAR、Google Security Operations)の記述は、保存した公式ページの原文で確認しましたが、版や仕様は変わりえます。載せていない製品の現行の仕様は、ここでは扱っていません。
導入を検討するときは、使う行だけ、各社の公式ページで取得日以降の変更を再確認してください。
おわりに
- 製品を4つの分類に分けて、同じ土俵で比べないようにします。
- 8つの軸を固定し、各欄に出典と取得日を付けます。「記載なし」を「無い」と書きません。
- 顧客の状況から、先に評価する製品を決めます。併用も選択肢に入れます。
この連載は、3B を勧めるためのものではなく、「何を見て決めるか」を共有するためのものです。
連載の他の回
連載「Tines 3B を読み解く」(全11回):
- 第1回 AIが作るコードの乱立に、どう備えるか。Tines 3B の全体像と5つの強みを読み解く
- 第2回 AIが書いたコードを、動かして大丈夫か。Tines 3B の実行とネットワークの分離を読み解く
- 第3回 AIエージェントに、APIキーを渡さない。Tines 3B の認証情報の設計を読み解く
- 第4回 AIに、誰の権限で何をさせるか。Tines 3B の権限とガードレールを読み解く
- 第5回 「誰が何をしたか」と「いくらかかったか」を、どう見るか。Tines 3B の監視・監査・費用を読み解く
- 第6回 AI にチャットで作らせても、実体はコード。Tines 3B の「コードファースト」を読み解く
- 第7回 本番を壊さずに直す。Tines 3B のドラフトと本番、自己修復(Autofix、Autotune)を読み解く
- 第8回 「ベンダーに縛られない」は、どこまで本当か。Tines 3B の接続口と、持ち出せる範囲を読み解く
- 第9回 自社環境で動かすなら、何を引き受けるか。Tines 3B のセルフホストを読み解く
- 第10回 契約の前に、何を書面で確かめるか。Tines 3B の導入・契約・費用を読み解く
- 第11回 Tines 3B か、他の製品か。8つの軸で見分ける(この記事)
参考
3B の公式ドキュメント(docs.3b.tines.com):
- Tines 3B pricing and packaging overview
- Tines 3B Dictionary
- 実行環境、認証情報、セルフホストの各記事(第2回、第3回、第9回の参考を参照)
他社の公式ページ:
- Torq: Integrate External Secret Stores with Torq
- Splunk SOAR: Release notes(Splunk SOAR Cloud)
- Google Security Operations: Assign approval links in actions