シリーズ一覧
- 連載目次
- 第1回 最大電力伝送定理
- 第2回 AC・複素共役編
- 第3回 効率には2種類ある
- 第4回 Roptとは何か
- 第5回 理想電流源 vs 現実FET
- 第6回 ロードラインを時間波形で見る
- 第7回 なぜ50%を超えるのか
- 第8回 最後に
本連載では、最大電力伝送定理から出発し、RFパワーアンプにおける最適負荷抵抗 $R_{opt}$の意味、そして高効率動作の考え方までを順を追って見てきました。
第1回では、負荷と内部抵抗が一致したときに最大電力が伝送されることを確認しました。
しかしRFパワーアンプでは、電力は電源から直接負荷へ流れるのではなく、トランジスタによってDC電力からRF電力へ変換されます。
そのため、第3回で見たように「負荷へ伝送された電力」だけでなく、「DC電力のうちどれだけがRF電力へ変換されたか」という効率の考え方が重要になります。
第4回から第6回では、ロードラインや時間波形を用いて、なぜ $R_{opt}$が存在するのかを考えました。
そして第7回では、導通角を変えることで電流波形に高調波が生じ、その高調波に対する終端条件によって電圧波形が変化することを確認しました。
ここで重要なのは、
高効率化とは、電圧波形と電流波形の重なりを減らす「波形成形」である
ということです。
Class Bではゲートバイアス(導通角)によって電流波形を制御し、Class FやClass Jでは高調波終端によって電圧波形を制御します。どちらも目的は同じであり、トランジスタ内部で消費される電力
$$p(t)=v(t)i(t)$$
をできるだけ小さくすることにあります。
また、高調波終端を変更すると最適な基本波負荷も変化することが分かりました。
つまり、$R_{opt}$はトランジスタ固有の定数ではなく、目指す波形と終端条件によって決まる設計パラメータなのです。
最大電力伝送定理から始まった本連載は、最終的に「高効率PAとは波形設計である」という結論へたどり着きました。
負荷整合、ロードライン、導通角、高調波終端、Class B、Class F、Class J――これらは一見すると別々の話題に見えます。しかし実際には、
「電源から取り出したエネルギーを、いかに無駄なく負荷へ届けるか」
という一つのテーマを異なる角度から見ているに過ぎません。
本連載が、RFパワーアンプ設計を学ぶ際に登場する様々な概念を、一つの物理的な流れとして理解する助けになれば幸いです。
「高効率PAとは、インピーダンス設計によって電圧波形と電流波形を設計する技術である。」
コラム:力率と高効率PA
連載の前半では、
- 最大電力伝送定理
- 複素共役整合
を扱いました。
ここでの目的は
負荷で消費される有効電力を最大にする
ことでした。
交流電力で書けば、
$$P = VI \cos\phi$$
です。
複素共役整合では負荷側の位相差 ϕ をゼロにし、
$$\cos\phi = 1$$
つまり力率100%を実現しようとします。
複素共役整合では負荷側の力率を1にし、その結果として最大電力伝送条件が実現されます。
一方、PA内部では事情が違います。
トランジスタ内部で消費される電力は
$$P_{loss}=\frac{1}{T}\int_{0}^{T}v_{DS}(t)i_D(t)dt$$
です。
高効率PAは$v_{DS}(t)$と$i_D(t)$の重なりを減らそうとします。
高効率PAではトランジスタ内部の瞬時的な電圧と電流の重なりを減らすことで、
デバイス内部で消費される有効電力を最小化
しようとします。
電圧と電流の重なりを極力小さくするという意味では、力率0に近い状況を連想させます。
ただし力率は基本波の電圧と電流の位相差で定義されるのに対し、Class FやClass Jは高調波を含む波形全体を操作しているため、厳密には同じ概念ではありません。
言い換えると、
負荷では力率100%を目指し、「電圧と電流を揃える」
トランジスタ内部では「見かけ上の力率0%」に近づけるために「電圧と電流を離す」
という、対照的な設計を行っているとも考えられます。
複素共役整合とClass F/Jは全く異なる理論に見えますが、どちらも「有効電力をどこで消費させるか」を制御している点では共通しています。
最大電力伝送定理では「電力を負荷へ届ける方法」を学び、高効率PAでは「電力をトランジスタで消費させない方法」を学びました。
両者は対立する概念ではなく、エネルギーの流れを異なる場所から眺めた同じ物理なのです。