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【深化のプロセスを考える①】深化のパターン

Last updated at Posted at 2025-06-21

背景と目的

バイアスを考えた中で”プロセス”の深さについて、不明点が多い。
U理論でいう"ソース"に触れるため、深い融合、深い統合の行うときのプロセスがどうなっているのか。
現在分かっている理論や説明を踏まえて、プロセスの細分化もしくは必須条件を検討する。

1. 人類の知とPhDの価値

下記図は、人類の知と学校のカリキュラム、PhDの領域をざっくり整理したものになる。
ちなみにPhD(Doctor of Philosophy:智恵を教える権利がある人の意)は、日本における博士号とほぼ同等の意味になる。(例外も一部あるが)

qiita_shinka1.jpg

PhDは、認知されている知の限界を広げたことの証明になる。
PhDは、深化のプロセスを経験しているだろう。
知の限界を突破するには、今までにない組み合わせの統合や融合が行われていると推測する。

2. 深化のパターン

2.1. 守破離

茶道家の千利休が『利休道歌』にて、作法の規範を短歌で示している。

規矩作法(きくさほう) 守り尽くして 破るとも
離るるとても 本を忘るな

守破離の概要は下記となる。

守:支援のもとに作業を遂行できる(半人前)。 ~ 自律的に作業を遂行できる(1人前)。
破:作業を分析し改善・改良できる(1.5人前)。
離:新たな知識(技術)を開発できる(創造者)。

2.2. 仏教の三学

仏教にも守破離と似たような学びの三要素がある。

戒学:行動・言葉・思考を律することで、心の乱れを抑え、清らかな生活を築く。
定学:禅定によって心を一点に集中させ、散乱を鎮める。
慧学:無常・無我・縁起などの真理を洞察し、煩悩を断ち切る智慧を育む。

整理すると、下記の3段階になる、

  1. 心の乱れを落ち着かせる、安定した心の状態となる
  2. 心の集中により、思考のフォーカスをする
  3. 思考のフォーカスにより、智恵を深く広くする

これは、"バイアスで考える"入出力のフィルタ機能
での身体と感情を整える仕組みと同じことを言っている。
戒学/定学は横道にそれないようにし、慧学がプロセスをどうするべきか方向性である。

2.3. ピアジェの発達理論:同化と調節

ピアジェの発達理論で、同化と調節の往復運動が行われていると示した。
動的なバランスをとる作用を"均衡化"と呼んだ。

均衡化(equilibration)とは、人が新しい情報に出会ったときに、
既存の認知構造(シェマ)を調整しながら、理解のバランスを取り戻していくプロセスを指す。

均衡化の仕組み

  1. 同化(assimilation):新しい情報を、今ある枠組み(シェマ)で理解しようとする
  2. 調節(accommodation):その枠組みでは理解できないとき、枠組み自体を変える
  3. 均衡化(equilibration):この2つを行き来しながら、より安定した理解に至る

例:りんごと青りんごの話

子どもが「りんご=赤くて丸い果物」と思っていたとします(これが既存のシェマ)。
ある日、青りんごを見て「これはりんごじゃない!」と混乱します(認知的不均衡)。
でも大人に「これもりんごだよ」と教えられ、「赤くないりんごもある」と理解を修正します(調節)。
その結果、「りんご=丸くて甘い果物。色は赤とは限らない」というより柔軟な理解に至ります(均衡化)。

この例では、"赤いりんご"、"青いりんご"が統合され、新しい"りんご"の認識を得ている。qiita_shinka1.drawio.png

2.4. SECI

知識創造のプロセスを「暗黙知」と「形式知」の相互変換として捉えた理論です。

共同化(Socialization):経験の共有(例:徒弟制度)
表出化(Externalization):言語化・モデル化
連結化(Combination):形式知の統合
内面化(Internalization):実践を通じた体得

SECI_model2-1024x713.png

このモデルは、東洋的な身体知や場の概念を重視しており、
西洋の知識管理論とは異なるアプローチを示している。
深化とは、単に知識を蓄積するのではなく、知のスパイラルを通じて創造的に再構成が行われる。

3. パターンの整理

安定と不安定の関係

守破離の例で、図にしてみた。(サインカーブの-90度からの開始する遷移に近い)

qiita_shinka3.drawio.png

はじめは、不安定な状態から始まる。[守]
深める対象の知られている型を覚える(第一の型)。
安定な状態がある程度続くと、変化をしたくなり、"第一の型"の外側のことを探求する。[破]
不安定な状態が頂点になったころ、"第二の型"の卵が生まれる。[離]
"第二の型"の安定すると、"型の創始者"としての守が完成する。

変化の領域と段階の関係

上記の例をもとに、第一の型と第二の型を簡易な領域として示した。

qiita_shinka4.drawio.png

大事なポイントは3点ある。

  1. 既存の型を学ぶこと
  2. 既存の型の外側へ探索すること
  3. 既存の型をベースに探索した中で、安定できるものを見つけること

4. "深化のパターン"に含まれる要素

4.1. 前提となる要素

1a 型を学べる心と体の状態である
1b 探索したい領域がある
1c 型からの逸脱が許容できる環境である
1d 逸脱の探索をする余白がある

4.2. パターンに含まれる要素

2a 高頻度で”同化”と"調節"が行われる
2b 不安定な状況を楽しむ(ネガティブ・ケイパビリティがある)
2c ”調節”の過程を外部に残している
2d 探索の中からアタリをつける

4.3. 柔らかさと固さ

SECIモデルにおける「暗黙知」「形式知」と「不安定」「安定」をつなげてみる。

「暗黙知」は、「形式知:安定」→「暗黙知:不安定」→「暗黙知:安定」の流れで生成される。
「知=知恵」自体が、"何かに熟達した賢さ"を持つ。
蓄えられた形式知が、"第一の型の改良"や”第二の型の原型”を生み出すきっかけになる。

生み出されるものは、はじめ柔らかく、徐々に固くなる。
柔らかさ=不安定性(混沌:カオス)であり、
固さ=安定性(秩序:オーダー)である。

また、「形式知」を見たり聞いたりし、感じることで、固い「暗黙知」がほぐされていく。
柔らかい「暗黙知」と世界(社会)の均衡化の繰り返しによって、固い「暗黙知」がなりたつ。
そのときにはトライ&エラーが起こり、柔らかい「形式知」が生み出される。
固い「暗黙知」ができたとき、固い「形式知」を作ることができるようになる。

5. 要素の中で制御しにくいもの

4.2.で上げた要素を一つずつ見ていく。

2a 高頻度で”同化”と"調節"が行われる

再度定義を示す。

  1. 同化(assimilation):新しい情報を、今ある枠組み(シェマ)で理解しようとする
  2. 調節(accommodation):その枠組みでは理解できないとき、枠組み自体を変える

"同化"に必要なものは、
a1 新しい情報が手に入る
a2 今ある枠組みがあるということは、枠組みの受け皿が程々にある

"調節"に必要なものは、
a3 枠組みにはまらない新しい情報が手に入る
a4 枠組み自体を変えられる考え方をしている

2b 不安定な状況を楽しむ

b1 ネガティブ・ケイパビリティがある

不確実なものや未解決なものを受容する能力を記述した言葉。
wikipedia :ネガティブ・ケイパビリティ

b2 ラーニングゾーンにいる

2c ”調節”の過程を外部に残している

c1 既存の枠組みと受け入れるための思考のヒントの記録があること
c2 既存の枠組みには含まれていないものの記録があること

2d 探索の中からアタリをつける

d1 探索の中に”ワクワク、衝動、心が躍る”ものを見つける
d2 d1に焦点を絞る

制御の難易度

- 項目 制御の難易度
a1 新しい情報が手に入る ★★☆
a2 枠組みの受け皿が程々にある ★★☆
a3 枠組みにはまらない新しい情報が手に入る ★★★
a4 枠組み自体を変えられる考え方をしている ★★☆
b1 ネガティブ・ケイパビリティがある ★★☆
b2 ラーニングゾーンにいる ★★☆
c1 既存の枠組みと受け入れるための思考のヒントの記録があること ★☆☆
c2 既存の枠組みには含まれていないものの記録があること ★☆☆
d1 探索の中に”ワクワク、衝動、心が躍る”ものを見つける ★★☆
d2 d1に焦点を絞る ★☆☆

★☆☆:行動でどうにかなるもの
★★☆:行動と思考法でどうにかなるもの
★★★:行動と思考法と環境でどうにかなるもの

aの領域は、思考法と環境の依存度が高い。
a3に当てはまる刺激のある環境は、とても貴重だろう。

9. リンク

URL

The illustrated guide to a Ph.D.

『小学校から大学院までの教育』が端的に分かる図@_daichikonno
wikipedia:Doctor of Philosophy
wikipedia:守破離
守破離の提唱者は世阿弥でも利休でもないよ、という話。
戒・定・慧の三学
ピアジェ発達段階論の意義と射程
ピアジェの認知発達理論とは~わかりやくすまとめ直し中~
wikipedia:SECIモデル
「SECIモデル」とは?
wikipedia:ネガティブ・ケイパビリティ

【事例あり】デザイン思考のダブルダイヤモンドとは?向き不向きまで
The Double Diamond - A universally accepted depiction of the design process.
セルフマネジメントに欠かせない”5つのゾーン”に対する捉え方

書籍

阿部 幸大[2024].まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書.光文社.
為末 大[2023].熟達論―人はいつまでも学び、成長できる―.新潮社.
野中 郁次郎, 竹内 弘高[2020].知識創造企業(新装版).東洋経済新報社.
安藤昭子[2024].問いの編集力 思考の「はじまり」を探究する.ディスカヴァー・トゥエンティワン.

変更履歴

2025/06/21 新規作成
2025/06/22 4.3.追記
2025/07/05 タイトル修正、誤記修正

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