背景と目的
深い深化が生まれたケースを見たところ、
野中郁次郎の言う"クリエイティブ・ペア"が大きなウェイトを占めているような気がする。
発明やイノベーション、偉業は、“I”ではなく“We”から生まれる──。こうした共創的な関係を、アメリカの作家ジョシュア・ウルフ・シェンクは「クリエイティブ・ペア」と名付けた。彼によれば、似た者同士ではない対照的な関係でありながらも、互いに補完的・依存的であり、だからこそ「1+1=∞」といった相乗的な関係へと発展し、ついには人々を驚かすような成果が創造されるという。
DiamondOnline:藤澤武夫 本田宗一郎と「共感(エンパシー)」で結ばれたクリエイティブ・ペア
本田宗一郎は、藤澤武夫がいなかったら、今の"ホンダ"は生まれなかった。
野中郁次郎は、竹内弘高がいなかったら、「知識創造企業」は生まれなかった。
ソクラテスや孔子は、弟子との対話が書物として残っている。その対話は基本二人だ。
二人という基本構成から、複数の世界を越える越境による深化を深掘りしてみる。
表はCopilot作成のものがほとんどです。
1. "クリエイティブ・ペア(創造的な2人組)"
1.1. "クリエイティブ・ペア"とはどんなものか?
「POWERS OF TWO 二人で一人の天才」という書籍で紹介された概念になる。
この本では、多くのペア(二人)の天才が示される。
"ビートルズ"のジョン・レノン、ポール・マッカートニー。
"アップル"のスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアック。
「ナルニア国物語」C・S・ルイスと「指輪物語」のJ・R・R・トールキン。など
同じ作品を創ったペアもあれば、異なる作品をそれぞれ創ったペアもある。
一人では到達できないであろう高み、深みへ到達したペアを "クリエイティブ・ペア"としている。
1.2. 🔄 ペアの関係のステージ(『POWERS OF TWO』より再構成)
多くのペアは6つのステージを経るとしている。
stage | 段階 | 英語キーワード | 内容 |
---|---|---|---|
1 | 邂逅 | MEETING | 化学反応の始まり。運命的な接触や第一印象 |
2 | 融合 | CONFLUENCE | 信頼と共感の構築。価値観や感情の重なり |
3 | 弁証 | DIALECTICS | 対立と補完による意味の創造。建設的な葛藤 |
4 | 距離 | DISTANCE | 自立と依存のバランス。再接続の契機 |
5 | 絶頂 | THE INFINITE GAME | 革新の爆発。傑作やブレイクスルーが生まれる |
6 | 中断 | INTERRUPTION | 別離と再編。影響の持続と新たな展開への移行 |
これ自体が、易経の"乾為天"の卦のように見える。
2. "クリエイティブ・ペア"のステージ
まずは、各ステージで起こることを「POWERS OF TWO」より抜粋にて、記す。
2.1. 邂逅:磁石の場
偉大なペアは大きく違う2人であり、かなり似ている2人でもある。この相反する要素が同時に成り立つことが、深い感情的な絆を生み、クリエイティブ・ペアに欠かせない衝突を駆り立てる。
「POWERS OF TWO」P29
ジョンとポールは「ホモフィリー」の典型的な例だ。ホモフィリーは、簡単に言えば「同じだから好き」。同じ性質や価値観を持つ人間が強く結びつくという概念だ。
「POWERS OF TWO」P43
果てしのない会話が続くことも、最初の出会いを象徴する。
「POWERS OF TWO」P58
邂逅におけるポイントは3つあると思う。
1a ペアの二人は、とても似ているところがある
1b ペアの二人は、大きく違うところがある
1c ペアの二人は、長い会話を続けられる関係である
2.2. 融合:交わされるもの
2人は言葉にできない次元で、相手に関する知識を共有した。
心理学で言う「暗黙知」だ。このようなプロセスは人間関係を築くカギとなり、直接の触れ合いや交流を通じて、共通の経験がゆっくりと蓄積される。履歴書やウィキペディアの経歴のように、誰でも認識できる客観的な「形式知」とは対極的だ。
「POWERS OF TWO」P65
2人であることを象徴する物理的な振る舞いは、確かな精神的結びつきを表現する共通の手段を伴う。すなわち、言葉だ。多くのペアは、自分たちにしかわからない「私的言語」を持っている。
「POWERS OF TWO」P83
ペアの結びつきを象徴する最も強力な言葉は、最も単純でもある。
すなわち、「私たち」だ。距離が縮まるにつれて、人称代名詞は単数形が減って複数形が増える。
「POWERS OF TWO」P92
融合におけるポイントは3つあると思う。
2a ペアの二人は、高速に知識を共有できる状態になる
2b ペアの二人は、二人しかわからない固有の言語(儀式)を持つ
2c ペアの二人は、一体化した「私たち(we)」の認識を持つ
2.3. 弁証:役割
数多くのペアの役割を調べていくと、
「主演俳優と監督」「液体と容器」「夢想家と実務家」という3つのタイプがとくに多いことがわかった。それぞれのタイプが2人のクリエイティブな人生に弁証法的な発展をもたらす。
「弁証」は格式のありそうな言葉だが、簡単に言えば、相互関係や二重性から1つの結論が浮かび上がる過程のことだ。
「POWERS OF TWO」P113
秩序と無秩序の関係は、古代ギリシャの時代から人々の興味をかきたててきた。ギリシャ神話の神ディオニュソスとアポロンは、弁証法の命題と反対命題を構成している。ゼウスの息子2人は、人間の感覚、自発性、情動的な側面(ディオニュソス的)と、合理性、計画性、自制的な側面(アポロン的)を象徴しているのだ。
「POWERS OF TWO」P134
91人の優れたイノベーションの担い手を調べた。「彼らの性格がほかの人と違う点を一言で表現するなら、『複雑』であることだ」と、チクセントミハイは著書『クリエイティヴィティ』(世界思想社)で書いている。「彼らは大半の人からかけ離れた思考や行動を持つ。そのとき彼らは『個人』ではなく、1人でありながら『多数』であるという極端な矛盾を抱えている」
「POWERS OF TWO」P156
弁証におけるポイントは3つあると思う。
3a ペアの二人は、それぞれ得意な主の役割を持つ
3b ペアの二人は、秩序と無秩序の関係を持つ
3c ペアの二人は、複雑な思考や行動を受け入れる
2.4. 距離:空間と余白
うまく機能しているペアは決まって、良好な関係のカギは、相手に十分な空間を与えることだと言う。一方で、恋愛でもクリエイティブな関係でも、機能不全に陥っているペアが多いという現実がある。その大きな理由は、実際にどのような空間が必要なのか、普段の生活のなかで想像しにくいからだ。
「POWERS OF TWO」P195
心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーも、つねに連絡を取れる関係を大切にしていた。(中略)
そして、言葉を交わさない時間も毎日たっぷりあった。互いに相手の考えが自分のことのようにわかっていたが、「いつも相手を驚かせようとしていた」と、カーネマンは振り返る。
「POWERS OF TWO」P200
距離におけるポイントは3つあると思う。
4a ペアの二人は、違いを生むための空間を持つ
4b ペアの二人は、違いを生むための時間を持つ
4c ペアの二人は、お互いに驚きを持つ
2.5. 絶頂:継続の力(ライバルとコーペティション)
ライバル関係がもたらす3つの重要なカギ
1つめは、ライバルがいると、もっと努力をしようと思う「モチベーション」が生まれる。
2つめは、ライバルが私たちに必要なモデルとなって「インスピレーション」を与える。
3つめは、ライバルが私たちを戦わせつづけることだ。競争に「没頭」する粘り強さと執着は、情熱を賭して使命に取り組むだけでなく、やめたくなっても持続する力となる。
「POWERS OF TWO」P244
ビジネスの世界では、このような「コーペティション(coopetition)」はよくあることだ。フィナンシャル・タイムズ紙はコーペティションを、協力(cooperation)と競争(competition)の「利点を組み合わせて」、「補完し合う領域でより大きな市場を創出する」ことと定義する。(中略)
心理学者のエレイン・アーロンによると、人間関係には2つの基本的な衝動がある。すなわち、結びついて共通点を見つけようとする衝動と、順位をつけて階層的な立場を築こうとする衝動だ。
「POWERS OF TWO」P244
絶頂におけるポイントは3つあると思う。
5a ペアの二人は、お互いに向上へのモチベーションを持つ
5b ペアの二人は、お互いに継続させる力を持つ
5c ペアの二人は、協力と競争の関係を持つ
2.6. 中断:複雑な動きのベクトルによる臨界点
人間の体と同じように、主要なシステムに支障をきたすと、ペアの機能が停止する場合がある。システムは、つねに安定した状態で作動するわけではない。2人を取り巻く世界が変わるにつれて、当然ながらペアとしての経験も影響を受ける。そんな2人のあいだに打ち込まれるくさびは、すでに進行していた問題を悪化させる。
「POWERS OF TWO」P313
ジョンとポールにとって問題の根源は、すべてのペアと同じように、本人たちの複雑な性格だった。ジョンの獰猛なカリスマ性と病的な二面性、愛情への貪欲さ、夢見がちな性格は、弱まることがなかった。
「POWERS OF TWO」P318
パートナーシップの終わりがこれほどあいまいな理由のひとつは、本書で見てきたようなクリエイティブなパートナーシップの場合、2人の関係から抜け出す決定的な方法がないからだ。他人と創造的な仕事をすること、共同名義で銀行預金を開設するようなものだ。2人がそれぞれエネルギーや時間、創造的な意欲を貯金するが、どちらか1人だけで払い戻しを請求することはできない。
「POWERS OF TWO」P330
中断におけるポイントは3つあると思う。
6a ペアの二人は、維持の主要なシステムを持つ
6b ペアの二人は、許容できる複雑な性格は変化する
6c ペアの二人は、創造的な成果がでる
2.7. ポイントの列挙
1a ペアの二人は、とても似ているところがある
1b ペアの二人は、大きく違うところがある
1c ペアの二人は、長い会話を続けられる関係である
2a ペアの二人は、高速に知識を共有できる状態になる
2b ペアの二人は、二人しかわからない固有の言語(儀式)を持つ
2c ペアの二人は、一体化した「私たち(we)」の認識を持つ
3a ペアの二人は、それぞれ得意な主の役割を持つ
3b ペアの二人は、秩序と無秩序の関係を持つ
3c ペアの二人は、複雑な思考や行動を受け入れる
4a ペアの二人は、違いを生むための空間を持つ
4b ペアの二人は、違いを生むための時間を持つ
4c ペアの二人は、お互いに驚きを持つ
5a ペアの二人は、お互いに向上へのモチベーションを持つ
5b ペアの二人は、お互いに継続させる力を持つ
5c ペアの二人は、協力と競争の関係を持つ
6a ペアの二人は、維持の主要なシステムを持つ
6b ペアの二人は、許容できる複雑な性格は変化する
6c ペアの二人は、創造的な成果がでる
"深化のパターン"に含まれる要素で抽出した要素と多くは似ている。
新たな発見としては、
1c 長い会話、2c 私たちの認識、4c お互いに驚き、5c 協力と競争の関係
あたりだろうか。
3. 思考と行動の世界像
思考における世界像をいくつか示して、状態が遷移する仕組みを検討する。
3.1. 🧩 二人称の関係が重要な理由
観点 | 意義 | 解説 |
---|---|---|
認識論的 | 相互主観の場 | 一人称では閉じた主観に留まりがちだが、二人称は自己認識の相対化と深化を促す。 |
倫理的 | 応答責任の発生 | 「あなた」と呼びかけることで、他者を応答すべき存在として倫理的に認識する(レヴィナス)。 |
創造的 | 意味の生成 | 異質な二人の対話から、新しい意味や知識が生成される場となる(クリエイティブ・ペア)。 |
現象学的 | 他者の現前 | 他者が「私」の世界を開く鍵となる(フッサール、メルロ=ポンティ)。 |
言語的 | 呼びかけの力 | 二人称が関係性を立ち上げ、単なる情報伝達を超えた意味創出の契機となる。 |
手軽に二人称の関係を作るには、
軽い思考の整理にはAIを活用していくことで、オープンループを回すことで視界が広がる。
"異質な"相手をAIに演じさせてもよいかもしれない。
3.2. 6ステージの図
ペアによる創造的なものは、stage2~stage5で生み出される。
創造的なものを生み出すには、ある一定の重なりと固有のインターフェースの精度が必要になる。
3.3. 世界の越境
もし異星人と接触があった場合、どのように意志の交換が進むかを整理してみた。
🛸 異星人との遭遇プロセスモデル
ステージ | ステップ | 名称 | 内容と象徴的意味 |
---|---|---|---|
接触前 | ① 兆候 | 異常の予兆 | 通常世界に異質な兆しが現れる。感覚・技術・夢などを通じて予兆が感じられる。 |
② 接近 | 異物の接近 | 空・通信・感覚領域に異常が明確化。未知の存在が近づいてくる兆候。 | |
接触直後 | ③ 接触 | ファースト・コンタクト | 姿・音・光・振動などによる初対面。既存の認知の枠を超える出会い。 |
④ 解釈 | 意味の探索 | 異星存在の意図や行動を解読。象徴・動作・構造の理解を試みる。 | |
⑤ 揺らぎ | 認知の崩壊 | 常識が通じず混乱・畏怖が生まれる。思考や情動の揺れが発生。 | |
応答フェーズ | ⑥ 応答 | 初期的な反応 | 逃避・交信・観察・模倣など、人間側の応答が始まる。選択の余地が試される。 |
⑦ 対話 | 二人称的関係の構築 | 言語を越えた相互主観的な関係性を模索。共感・葛藤・協調が混在。 | |
再構成フェーズ | ⑧ 翻訳 | 意味の橋渡し | 異文化・異象徴体系を自文化へとリフレーミング。創造的統合への第一歩。 |
⑨ 統合 | 新たな自己と世界観 | 異星文化と人類文化の複合化。多重視座の獲得と“新たな意味宇宙”の構築。 |
地球外の異文化は、地球上の人間の発達と異なる可能性がある。
意志の交換を行う仕組みも異なるかもしれない。
⑥応答が相互に出来るようになった後は、方法が地球内と異なるだけで、進み方は地球上の異文化と変わらないと推測する。
文化的な違いがあることを前提とすればよいだけである。
地球上の異文化は、人間同士であれば、声と行動による意志の交換が行わえれる。
クリエイティブ・ペアの場合、似た要素があるため、始めのハードルが低いことが多い。
3.4. ポパーの3つの世界
ポパーは、自我を含むすべてのものは、3つの世界いづれかに含まれるとした。
クリエイティブ・ペアが生み出す、最終的な形式知となるものは世界1、世界3に含まれる。
クリエイティブ・ペアの融合状態のとき、
世界3aと世界2の領域に含まれるものが、
世界3bの形式をとらずに交換されていると推測する。
そこで交換された納得されたものを、形式知の形(=世界3bと世界1b)にしたものを
創造というのだろう。
それを行うには、世界2や世界3aに含む感覚を相互に伝える効果的な方法を持つ必要ある。
3.5. "ナラティブ"と架け橋
3.4.で各個人が持つ世界2、世界3aを解釈する手法として、
ナラティブ・アプローチがある。
宇田川元一は「他者と働く」にて、ナラティブ・アプローチを丁寧に整理している。
いくつか抜粋し、即興的なクリエイティブ・ペアに近づくためのてがかりを見ていく。
「ナラティヴ(narrative)」とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことです。
「他者と働く」pos309
ナラティヴ・アプローチは、ナラティヴという言葉から連想されるように「どう相手に話をするか」ということよりも、むしろ、「どう相手を捉える私の物語を対話に向けていくか」を主軸にしたものと言えます。
「他者と働く」pos354
対話のプロセスは「溝に橋を架ける」という行為になぞらえることができます。(中略)
この「溝に橋を架ける」ためのプロセスを、大きく4つに分けることができます。
1.準備「溝に気づく」
相手と自分のナラティヴに溝(適応課題)があることに気づく
2.観察「溝の向こうを眺める」
相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティヴを探る
3.解釈「溝を渡り橋を設計する」
溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探る
4.介入「溝に橋を架ける」
実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く
「他者と働く」pos378
自身と他者にある”溝”は、それぞれの世界1a,2,3aが異なることにより生じる。
"溝"があることをクリエイティブ・ペアは長い会話をし、創造のタネにする。
大きな"溝"を楽しむという橋(新しい関係性)が、とてもヒントになると思う。
9. リンク
Qiita
URL
藤澤武夫 本田宗一郎と「共感(エンパシー)」で結ばれたクリエイティブ・ペア
ほぼ日:野中郁次郎先生は、世界をどんなふうに捉えているか。
wikipedia:ビートルズ
wikipedia:Apple
wikipedia:C・S・ルイス
wikipedia:J・R・R・トールキン
wikipedia:ポパーの3世界論
Three Worlds.Sir Karl Popper
松岡正剛の千夜千冊:1059冊:カール・ポパー&ジョン・エクルズ:自我と脳
書籍
ジョシュア・ウルフ・シェンク,矢羽野 薫(訳)(2017).POWERS OF TWO 二人で一人の天才.英治出版.
Joshua Wolf Shenk(2014).Powers of Two: How Relationships Drive Creativity.Mariner Books.
野中 郁次郎,川田 英樹,川田 弓子(2022).野性の経営 極限のリーダーシップが未来を変える.KADOKAWA.
宇田川 元一(2019).他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論.NewsPicks.
カール.R.ポパー,ジョン C.エクルズ[2005].自我と脳 新装版.新思索社(絶版).
変更履歴
2025/07/19 新規作成
2025/07/20 3.2./3.3./3.4./3.5.追加