メリークリスマス!ということで、本日最終日を迎えましたRPA Advent Calendar 2019です。今年初開催でしたが、参加いただいたライターの皆様の記事には読みごたえがあるものが多くあり、私も勉強をさせてもらいながらひとつずつ記事を読みました。
2020年のRPAはどうなっていくのか、皆様の記事や私の見聞も含めて、2020年に重要になりそうな3つのキーワードと、それぞれ3つのサブトピックをピックアップしてみました。
2020年のキーワード
1. 幻滅期を乗り越える「地に足のついたRPA」
これは1日目の記事でも書きましたし、18日目 @Hellomy432 さんの記事でも出てきましたが、Gartnerをはじめ様々な調査から、2019年でRPAは幻滅期に入ったとみられています。これは特に憂うことではなく、ハイテク業界ではごく普通の市場の変遷で、やっとバブルが終わり「地に足のついた」導入が進むことになります。ただし、いまのまま行くと「キャズム」にハマってRPA自体が滅びる可能性もあります。RPAが引き続き成長し、人類の役に立ち続けるために必要なサブトピックを3つ挙げました。
ガラパゴスなソフトウェア/業務選定からの脱出
16日目 @EnterpriseOcean さんの記事にもあるようにRPAは元々ソフトウェアの導入ではなく業務改革の一種として発展してきました。RPAを単純に「パソコンの画面を自動で操作する仕組み」と取っていると、ここを勘違いしてしまいます。6日目 @spaces さんの記事でも出ていましたが、特に日本企業は同じ業務が隣の部門では全く違う方法で行われているなど、昔から現場主導で各自に任せた業務ルールにより業務がなされてきているので、RPA導入をきっかけにして「その業務本当に要るの?」「本当にそのやり方が必要なの?」ということをもう一度見直してください。現場主導で業務を見直さずにロボット化すると、究極はこのようになってしまいます。
【編集部】「自動押印ロボット」は本紙記事ではなく現実です。あしからずご了承ください。 https://t.co/WnYOSTCoeE
— 虚構新聞速報/編集部便り (@kyoko_np) 2019年12月11日
また、同時に、RPAソフトウェアを選定する際は、「現場の標準的な人が扱える難易度のソフトウェアか」「扱いたいソフトウェアの操作ができるソフトウェアか」といったことを事前によく考えましょう。「一番流行っているから」「無料のオープンソースソフトウェアだから」「営業がいつも顔を出してくれるから」といった理由でRPAソフトウェアを選んでしまって後悔している企業がたくさんいます。10日目 @hal220 さんや11日目 @n_oshiumi さん、12日目 @buchiRabbit さんが書いていただいたような期待値設定や事前の検討事項をあらかじめ押さえておくことも重要です。
全社展開
日本では現場主導のRPAが進められてきましたが、日経コンピュータの特集でも明らかなように、まだ大きな成果が出ているところはとても少ないのです。成果を出すためには、やはり複数部門、ゆくゆくは全社的に業務を統一してそれをRPA化する必要があります。もしくは、RPAに取り組む順番として身の回りの小さな業務ではなく、全社ですでに標準化がなされていて共通で行っているような業務からRPA化に取り組むことで、大きな成果を出すことができるようです。
とはいえ、全社展開を行うにはそれなりの時間と体力が必要です。2020年は日経コンピュータの特集に出ていたような90社の大企業で、全社展開がどれくらい進むのかが、日本のRPA市場の健全性を見るバロメーターの1つになるのではないでしょうか。
複数ソフトウェア混在時代のロボット管理
先に述べたように、最初のRPAソフトウェア導入で幻滅して次の方法を模索している企業がそれなりに出てきています。また、RPAを導入済みの企業のうちの3~4割は複数のRPAソフトウェアを導入しているようです。一方、14日目の @Okura_ さんの記事でも出てきましたが、RPAソフトウェアの管理機能を導入している企業は10%にも満たないといわれており、複数ロボットが管理されずに動いてしまうリスクが残っています。そんな中注目なのが、日立ソリューションズがWarkatoの取り扱い開始とRPAソフトウェア用コネクタの提供のニュースでした。
「Workato」向けに日立ソリューションズが独自開発したRPA用コネクタを用いることで、米Automation Anywhereの「Automation Anywhere Enterprise」やUiPathの「UiPath」、NTT-ATの「WinActor」などとの連携を可能にした。稼働中のRPAロボットは、そのまま業務フローに組み込んで利用できる。
この仕組みがあれば、WarkatoというiPaaSを管理ソフトウェアにして、WinActor、UiPath、Automation Anywhereの既存ロボットを管理できてしまう、ということになりますね!このような、ロボット混在前提の仕組みは今後現実的に広がっていくかもしれません。
2. RPA x AI
RPAとAIとの融合はバズワードとしてよく使われてきました。ただ、AI自体がかなりバズワードであり、業務の中で具体的にどのように直近で使えるのか、というところがベンダーからいまいち提示されておらず、導入熱が冷めてしまっているところもあります。AIは偏差値のように1つの軸で性能の優劣が比べにくかったり、中にはAIでないデマカセの製品を売っているベンダーもあったりするので、導入判断が難しいことも影響しているでしょう。24日目 @tyoko さんの記事でもあったように、RPAのブレークスルーに対して引き続き期待値が高いことは確かです。
ディープラーニング理論の発展と、それを下支えするクラウドによるコンピューティング性能の発達で進んできたいまの「第3次AIブーム」をもってしても、AIは鉄腕アトム、ドラえもん等に代表される「日本人が想像する人工知能」からは程遠く、応用できる分野はかなり限られています。
主な分野としては「コグニティブ・インターフェイス」(「音声認識」「音声合成」「画像認識」「感情処理」など)、「機械学習」「自然言語処理」「情報検索」「推論」「データマイニング」などが挙げられています。これらの中で、2020年に実用化しそうな領域についてみてみましょう。
賢い判断・分析機能を備えた業務フロー
AIベンダーの中では、たとえば「機械の故障に対する予測分析 (エレベーターなど)」、「顔面認証 (パスポートなど)」、「感情分析 (ライブや遊園地など)」、「人物、個体検知」、「保険金詐欺検知」、「サイバー攻撃検知」などの分野ですでに完成された製品を市場に提供しているところがあります。このような認識エンジンをRPAに組み込めば、業務フローの特定の部分を自動化することが可能になります。
ただし、各製品には実現されている性能の期待値があり、人間が行う場合の性能と比べて優れている場合、劣っている場合があります。劣っている場合でも、導入する際の関係者の期待値がきちんと合っていれば役に立つように使うことも可能です。
AI-OCR
日本はまだ業務で紙やファックスが頻繁に使われていることもあり、OCRに対する期待値がかなり高くなっています。RPAのイベントでもOCRのブースは引き続き賑わっているようです。ただし、OCRは最近精度の向上スピードが鈍ってきており、またエンジンのつくり (機械学習ありなし)によっても得意/不得意なレイアウトがあって、すべてのレイアウトに万能で対応できる精度100%のエンジンは存在しません。業務で紙をなくす期待値は高いのですが、導入シナリオをうまく選ばないと期待通りの働きをしないことになってしまいます。
人にしか判断できないことを仲介するチャットボット
人工知能エンジンやOCRが適用できる業務領域というのは、全体から見るとまだまだ狭いのが現実ではないかと思います。これら2つが適用できない大多数の業務の場合、直近でRPAxAIをどう活用すればいいか、ですが、思い切って「ロボットに判断できないところは人に聞いてしまう」ということを恥ずかしがらずに実行してしまうのも手です。
RPAはチャットボットと相性がよく、ユーザーインターフェイスとしてはSlack、Microsoft Teams、LINE、LINE Works、ウェブページなどAPIがあるあらゆるものと連携ができますので、RPAやAIエンジンが処理できる定型業務部分はロボットが行い、判断が必要な非定型業務の部分は必要な人にチャットボットのインターフェイスを表示して判断をもらう、といったつくりにすると、直近では現実的なソリューションになるかもしれません。2020年は各RPAベンダーとも、この領域に力を入れてくるものと思われます。
3. RPA-as-a-Service
最後に注目したいのは、「RPA-as-a-Service」のキーワードです。この10年でグループウェアやCRM、ERPなどのSaaSや、仮想マシンやプラットフォームなどのIaaS/PaaSが価格、性能、導入のしやすさなどの面においてハードルを下げてきましたので、RPAもas-a-Service化により同様の効果を期待する人が多いようです。いままでは主要なRPAソフトウェアベンダーは対応していませんでしたが、2019年後半から徐々に対応ベンダーが増えてきて来ており、2020年はトレンドになるかもしれません。
クラウドベース
RPAソフトウェアをインストールしなくても、クラウド上で開発や管理、さらには実行ができるようになれば、RPAを使うハードルはかなり下がりますね。ただ、クラウドベースを謡っているベンダーの多くは管理機能 (サーバー機能)のクラウド化を行っています。Automation Anywhereの新製品「A2019」は、開発までクラウド上で完結するという意味では一歩進んでいます。Microsoft Power AutomateはもともとiPaaSでしたが、RPAの領域にも入ってきており、元々クラウドサービス同士での実行をクラウド上だけで行うことができます (ただし管理機能がない)。このように、クラウドベースになることで、導入の手間が省けたり、RPAとiPaaSの融合が起こったり、クラウドベースのチャットボットとの融合が進むなど、オンプレミスのRPAでは実現できなかった新たな世界が開けてきそうです。
従量課金
RPAソフトウェアがクラウド化されると、次に期待されるのは従量課金です。WinActor Cast On Callは従量課金の対応がなされており、Microsoft Power Automate は2019年末現在はベータ版で無料ですが、2020年前半の正式リリース後には有料化され、ユーザー単位月額課金になる予定で、従量課金ではないものの従来のRPAソフトウェアに比べるとかなり敷居が下がります。これが進むと、対象業務量があまり多くない、より多くの企業にとって主要なRPAソフトウェアが手に届きやすいものになっていくと思われます。
低価格化
RPAのクラウド化や従量課金が進んで来ると、2020年はいまよりも低価格で主要なRPAソフトウェアのライセンスが入手できるようになるかもしれません。そして、外注に頼らず内製化できる仕組みによりメンテナンスコストも下がってくれば、いよいよ8日目 @tomo_tomot さんが書いていただいたような中小企業でも導入が進むようになってくるでしょう。そのような流れが加速することに期待です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。独断と偏見によるところもありますが、参考になれば幸いです。そして、2日目 @irohamaru さん、3日目 @odm_knpr0122 さん、23日目 @myoshidan さんが書いていただいたような社内教育や方法論も、RPAを広げていく上ではとっても重要ですね。
そして紙面の都合上ピックアップできなかったカレンダー参加の皆様、すみません!
それでは、2020年もRPAが人類の役に立ち続けますように...メリークリスマス & ハッピーニューイヤー