クロスアビリティ Winmostarサポートチームです。
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#0. はじめに
第一原理計算ソフトQuantunm ESPRESSO https://www.quantum-espresso.org の入力ファイルの書き方について、複数回にわたって解説していきます。今回は第9回目です。状態密度計算およびバンド構造計算にときに設定する、バンド数(nbnd)の見積もり方について解説したいと思います。
この記事では、初歩的な内容しか紹介しません。
入力ファイルの詳細について知りたい方は、マニュアル http://www.quantum-espresso.org/Doc/INPUT_PW.html をご参照下さい。
#1. バンド数
Quantum ESPRESSOでは状態密度計算およびバンド構造計算を実施する場合、事前にSCF計算を行います。SCF計算においては、バンド数は最小限の値で問題ありません。なぜなら、SCF計算では電子密度の汎関数として全エネルギーを決定するため、電子密度を構成するバンドすなわち占有バンドの情報のみがあれば十分だからです。一方、状態密度計算およびバンド構造計算においては、占有バンドのみならず、非占有バンドも物理的に重要な意味を持ちます。そのため、SCF計算の完了後に、入力ファイルにてバンド数(nbnd)を増大させる必要があります。nbndは、以下のように設定します。
&SYSTEM
nbnd = バンド数
/
nbndに設定すべき値は、目的に応じて適宜選択する必要があります。しかしながら、物理的に意味のあるnbndの上限値は一意に決まります。具体的には、ユニットセルに含まれる全原子の価電子軌道の総数が、nbndの上限値となります。擬ポテンシャル法では価電子軌道しか正確に取り扱うことが出来ないため、それ以上のバンド数を使っても意味がありません。また、当該の上限値は、SCF計算におけるnbndの値の概ね1.2~1.5倍程度の大きさです。計算コスト的にも問題となる大きさではないので、特段の事由がない限り、nbndは上限値に設定しておくのが望ましいです。
#2. 価電子軌道の総数
それでは、nbndの上限値たる「価電子軌道の総数」はどのように決定すればよいのでしょうか。該当の情報は、各元素の擬ポテンシャルファイルを読み解くことで、算出できます。しかしながら、状態密度計算またはバンド構造計算の度に擬ポテンシャルの中身をチェックするのは、さすがに面倒です。そこで、もっと簡便な方法として、SCF計算時の標準出力から価電子軌道の総数を取得します。具体的には、標準出力における以下の箇所が該当します。
Initial potential from superposition of free atoms
starting charge 15.99879, renormalised to 16.00000
Starting wfc are 16 randomized atomic wfcs
total cpu time spent up to now is 0.6 secs
Self-consistent Calculation
SCFの反復計算開始前、原子軌道を用いて初期波動関数が生成されます。このとき、原子軌道の総数が"Starting wfc are 16 randomized atomic wfcs"という行に出力されます。上記の例では、原子軌道の総数は16です。大抵の場合「原子軌道の総数 = 価電子軌道の総数」です。したがって、価電子軌道の総数も16となります。
このようにSCF計算の標準出力から取得したnbndの値を、Non-SCF計算(calculation = "nscf", "bands")の入力ファイルに設定すればよいわけです。
#3. 擬ポテンシャルファイルからのデータ取得
先述の通り価電子軌道の数は、擬ポテンシャルファイルからも読み取ることは出来ます。その方法も紹介しておきます。Quantum ESPRESSOで使用する擬ポテンシャルファイルは、XMLにて定義されたUPF形式です。UPF形式にはVer.1とVer.2の2種類があり、両形式が混在して運用されています。ファイルの1行目に、
<UPF version="2.0.1">
という記載があればVer.2です。それ以外は、Ver.1になります。
先ずは、Ver.1のUPFファイルから価電子軌道の数を読み取る方法を説明します。該当のデータは、PP_HEADERというタグ内に記載されています。Siの例を以下に記します。"Wavefunctions"と書かれた行以降に各価電子軌道が記述されています。この場合では、S軌道とP軌道が一つずつあります。S軌道は縮退が無く、P軌道は3重縮退なので、Si原子の価電子軌道の数は4(=1+3)となります。
<PP_HEADER>
0 Version Number
Si Element
NC Norm - Conserving pseudopotential
F Nonlinear Core Correction
SLA PW PBE PBE PBE Exchange-Correlation functional
4.00000000000 Z valence
-7.47480832270 Total energy
0.0000000 0.0000000 Suggested cutoff for wfc and rho
2 Max angular momentum component
883 Number of points in mesh
2 3 Number of Wavefunctions, Number of Projectors
Wavefunctions nl l occ
3S 0 2.00
3P 1 2.00
</PP_HEADER>
Ver.2のUPFファイルでは、PP_INFOというタグからデータを読み取ります。Siの例を以下に記します。"Valence configuration"という行以降に、価電子軌道があります。先ほどと同様に、S軌道一つとP軌道一つで、価電子軌道の数は4となります。
<PP_INFO>
Generated using "atomic" code by A. Dal Corso v.5.1.2
Author: ADC
Generation date: 30Jul2016
Pseudopotential type: USPP
Element: Si
Functional: PBE
Suggested minimum cutoff for wavefunctions: 44. Ry
Suggested minimum cutoff for charge density: 175. Ry
The Pseudo was generated with a Scalar-Relativistic Calculation
Local Potential by smoothing AE potential with Bessel fncs, cutoff radius: 1.9000
Pseudopotential contains additional information for GIPAW reconstruction.
Valence configuration:
nl pn l occ Rcut Rcut US E pseu
3S 1 0 2.00 1.600 1.800 -0.794728
3P 2 1 2.00 1.600 1.800 -0.299965
Generation configuration:
3S 1 0 2.00 1.600 1.800 -0.794724
3S 1 0 0.00 1.600 1.800 6.000000
3P 2 1 2.00 1.600 1.800 -0.299964
3P 2 1 0.00 1.600 1.800 6.000000
3D 3 2 0.00 1.600 1.800 0.100000
3D 3 2 0.00 1.600 1.800 0.300000
</PP_INFO>
なお、Winmostarを利用するとQuautum ESPRESSOをGUI上から簡単かつ高度に活用することができます。学生は無料で利用でき、学生以外も無料トライアルを入手することができますので、是非 WinmostarのWebサイト をご覧ください。
Quantum ESPRESSO入力ファイル作成手順シリーズ
1.結晶構造の作成
2.SCF計算の設定
3.擬ポテンシャルファイルの選択方法
4.原子座標のみの最適化
5.格子ベクトル及び格子内部の原子座標の最適化
6.状態密度の計算
7.局所状態密度の計算
8.バンド構造の計算
9.バンド数の設定
10.van der Waals相互作用
11.LDA+U法
12.NEB法
13.Phonon計算(特定q点)
14.Phonon計算(バンド構造)
15.擬ポテンシャルの作成
16.擬ポテンシャルのテスト
17.SCF計算の入力ファイルの実例