クロスアビリティ Winmostarサポートチームです。
WinmostarはQuautum ESPRESSOを簡単かつ高度に利用するための統合GUI環境となっています。学生は無料で利用でき、学生以外も無料トライアルを入手することができますので、是非 WinmostarのWebサイト をご覧ください。
#0. はじめに
第一原理計算ソフトQuantunm ESPRESSO https://www.quantum-espresso.org の入力ファイルの書き方について、複数回にわたって解説していきます。今回は第11回目です。LDA+Uの使い方を解説します。
この記事では、初歩的な内容しか紹介しません。
入力ファイルの詳細について知りたい方は、マニュアル http://www.quantum-espresso.org/Doc/INPUT_PW.html をご参照下さい。
#1. LDAおよびGGA
Kohn-Shamの密度汎関数理論では、基底状態エネルギーを再現可能な交換相関汎関数が存在することを仮定している。当該汎関数が存在することは未だ証明されておらず、且つ、存在した場合にそれが多項式オーダー(P=PN)で演算可能であるかは不明である。そこで、交換相関汎関数には、多項式オーダーで演算可能な近似手法を適用する。現在最もよく使われる近似手法が、LDAおよびGGAである。LDAでは、指定された座標における交換相関エネルギー密度を該当座標における電子密度のみで決定する手法である。GGAでは、電子密度およびその勾配を使用する。いずれも計算コストが低く、多くの系に適用されている。しかしながら、近似手法であるが故に、いくつかの種類の誤差を含んでいる。最も大きな誤差が、自己相互作用誤差と呼ばれるものでる。自己相互作用誤差は、電子を過剰に非局在化させる性質がある。元来LDAおよびGGAは金属中の自由電子を再現するように設計されており、局在化した電子状態の表現に適さないのである。遷移金属酸化物におけるdまたはf軌道の電子は特に局在化が強いことが知られており、このような系においてはLDAおよびGGAは定性的にさえ誤った結果をもたらす。そこで考案された補正方法が、LDA+U(またはGGA+U)と呼ばれるものである。遷移金属のdまたはf軌道に対して、電子が局在化するように外部ポテンシャルを加算するのである。当該のポテンシャルの大きさは、”U”という変数で記される。
#2. LDA+U
Quantum ESPRESSOにてLDA+Uを利用する場合、入力ファイルにて以下の設定をします。
&SYSTEM
lda_plus_u = .TRUE.
hubbard_u(1) = 5.0
hubbard_u(2) = 3.0
hubbard_u(3) = 0.0
/
lda_plus_u を.TRUE.に設定すると、LDA+Uが適用されます。hubbard_u にて元素ごとに、Uの値を設定します。単位は、eVです。 hubbard_u が 0 の元素については、LDA+Uが適用対象外となります。
Uの値は一意的には決まらず、系に応じて適時選定する必要があります。一般的には、3.0~5.0eV 程度を設定するのが通例です。既報の文献値があれば、それを参考とするのが良いです。また、Materials Project https://www.materialsproject.org でも多くの遷移金属酸化物について、U値が公開されていますので、これも参考になります。Materials ProjectのWebでは、個々の化合物のページの「Calculation Summary」に「U Values」として書かれています。
なお、Winmostarを利用するとQuautum ESPRESSOをGUI上から簡単かつ高度に活用することができます。学生は無料で利用でき、学生以外も無料トライアルを入手することができますので、是非 WinmostarのWebサイト をご覧ください。
Quantum ESPRESSO入力ファイル作成手順シリーズ
1.結晶構造の作成
2.SCF計算の設定
3.擬ポテンシャルファイルの選択方法
4.原子座標のみの最適化
5.格子ベクトル及び格子内部の原子座標の最適化
6.状態密度の計算
7.局所状態密度の計算
8.バンド構造の計算
9.バンド数の設定
10.van der Waals相互作用
11.LDA+U法
12.NEB法
13.Phonon計算(特定q点)
14.Phonon計算(バンド構造)
15.擬ポテンシャルの作成
16.擬ポテンシャルのテスト
17.SCF計算の入力ファイルの実例