避難所の運営は、ひとつの仕事ではなく、いくつもの仕事の集まりです。
- どこに何があって、どこが危ないのか(場所)
- 誰がいま避難所にいるのか(人)
- 水や食料はあといくつか(もの)
- 誰が無事で、誰に支援が必要か(安否・支援)
- 次の見回りは誰がやるのか(人手)
これまでの姉妹記事では、この5つを、それぞれ小さなアプリとして紹介してきました。ただ、5つのアプリを別々に配り、別々のグループで運用するのは、災害の混乱の中ではそれだけで大変です。
この記事では、その5つを**ひとつの添付ファイルにまとめた「避難所運営スターターキット(v1.2.0)」**を紹介します。Raspberry Pi 5で作る避難所内の小さな通信網「箱舟プロジェクト(TinyBox)」とDelta Chatの上で、1回の添付で、5つのアプリと、いまの状況が一目で分かるホーム画面が使える構成です。
そして、v1.2.0の目玉が、**「端末ごとに、見せるアプリを選べる管理者設定」**です。受付の端末には受付だけ、救護の端末には安否確認だけ、本部の端末には全部、というように、役割に合わせて画面を絞れます。
姉妹記事シリーズの最終回です。
本記事は災害対策技術の実験・研究に基づく運用案です。スターターキットv1.2.0の実装に基づいて説明していますが、TinyBoxと複数実機を組み合わせた動作・通信性能・稼働時間の検証結果を示すものではありません。キットに収録された各アプリの個別の限界は、それぞれの記事に書いています。安否・医療・個人情報を含む記録を扱うため、実際の運用は、平時に地域の運営体制や自治体の手順との接続を確認し、訓練で使える範囲を確かめたうえで検討してください。
管理者設定は、「この端末に何を表示するか」を決める機能です。データそのものを隠す機能ではありません。 詳しくは章6と章12で説明します。
1. 5つのアプリを別々に配ると、何が大変なのか
| 現場の困りごと | 5つを別々に運用すると… | スターターキットだと(想定) |
|---|---|---|
| 配る手間 | 5つの.xdcを、それぞれグループに添付して、全員に開き方を教える |
1つの.xdcを1回添付すれば、5つのアプリが入っている |
| 全体の状況が見えない | 5つのアプリを順番に開いて、数字を拾い集める | ホーム画面に、在所人数・受入継続人数・不足物資・安否未確認・今日の当番が並ぶ |
| 同じ人を何度も入力する | 受付、安否名簿、当番表に、同じ人を別々に登録する | 入退場に登録した人が、安否名簿と当番の候補に自動で現れる |
| 担当ごとに必要な画面が違う | 全員が全アプリを開ける状態で、迷う・誤操作する | 端末ごとに、見せるアプリを選べる(管理者設定) |
| 担当が替わると、どこを見ればいいか分からない | アプリごとに別のグループ・別のメッセージ | 同じメッセージの中に、5つがそろっている |
| 練習する場所がない | 5つとも別々に試す | ブラウザーの試用モードで、まとめて練習できる |
必要なのは、インターネットがなくても動く小さな通信網と、避難所運営に必要な5つの情報を、役割に合わせて見られる入口です。
2. 避難所運営スターターキットとは
一言でいうと、**「チャットに送るだけで、避難所運営の道具が一式そろい、端末ごとに見せる画面を選べる、ひとまとめのアプリ」**です。
仕組みの土台
| 部品 | 役割 |
|---|---|
| 箱舟プロジェクト(TinyBox) | 避難所内だけの通信基地。Wi-Fiアクセスポイントとメールサーバー(E-Post)を担う |
| Delta Chat | 各端末で動くメール方式のチャットアプリ。TinyBoxにつなげば、インターネットなしでグループチャットができる |
| 避難所運営スターターキット | チャットに.xdcファイルとして送るだけで動く、5アプリ入りのホーム画面つきアプリ(Webxdcミニアプリ) |
Webxdcは、チャットにファイルとして送るだけで、グループ内で動かせるミニアプリの形式です。アプリ専用のサーバーや追加アカウントは要りません。共有に使うDelta Chat側には、メールサーバーとアカウントが必要です。
Delta Chat自体は事前にインストールが必要で、TinyBoxのメールアカウントも設定しておく必要があります。 被災後はアプリストアも使えないため、平時に準備しておく前提です。
TinyBoxの構築手順は箱舟プロジェクトの元記事を参照してください。
しくみのイメージ
5つのアプリは、同じチャットのメッセージを通して、同じグループの全員の端末と記録をそろえます。管理者設定は各端末の中だけで働き、チャットには流れません。
3. 5つのアプリの役割
ホームには、5つのアプリがタイルとして並び、タップすると、それぞれが開きます。
| アプリ | 扱うもの | ホームの一言 | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|
| ちゃっとピンマップ | 場所 | 地図・設備・危険箇所を確認 | 地図で助け合う |
| ちゃっと入退場 | 人(いま誰がいるか) | 在所・一時外出・退所の人数 | 避難所の「自衛」受付 |
| ちゃっと物資管理 | もの | 在庫と不足の目安を確認 | 物資管理 |
| ちゃっと安否確認 | 安否・支援 | 安否状況と未確認者を確認 | 安否確認 |
| ちゃっと当番表 | 人手 | 今日の仕事と担当者を確認 | 当番表 |
それぞれの細かい使い方、機能、限界は、各記事を参照してください。この記事は、5つを束ねたときに何が変わるかに絞って説明します。
4. ホーム画面:数字で、いまの避難所が見える
ホームには、このキットの中の記録から自動で集計した数字が表示されます。
| 数字 | 何を数えているか | 元になるアプリ |
|---|---|---|
| 在所人数 | 在所中の人数(一時外出を含まない) | 入退場 |
| 受入継続人数 | 在所+一時外出の人数(正式退所した人は外れる) | 入退場 |
| 不足物資 | 「不足」「少ない」の品目、または不足目安以下の品目の数 | 物資管理 |
| 安否未確認 | 安否が「未確認」または「連絡取れず」の人数 | 安否確認 |
| 今日の当番 | 今日の当番の数(開始日で集計、終了した当番は除く) | 当番表 |
各アプリで記録を更新すると、ホームの数字に自動で反映されます。
v1.2.0での改善:人数の表示が2つに
v1.1.0では「現在の滞在人数」という1つの数字でしたが、これは「一時外出中の人を含まない」人数で、「受入継続」の人数とは違うものでした。v1.2.0では、「在所人数」と「受入継続人数」を並べて表示し、それぞれに「一時外出を含まない」「在所+一時外出」という説明が付きます。
「いま建物の中にいる人」と、「避難所として受け入れを続けている人」は別の数字です。 物資の必要量を見るときなど、どちらを使うかは、運営で決めておきましょう。
物資管理の画面の上部にも、入退場が見えている端末では、このキットの在所人数と受入継続人数が表示されます。
この数字の読み方
- これは、その端末が受け取った記録の集計です。 未着の記録や、同時更新の食い違いがあるかもしれません。避難所全員の確定した数字としては扱わないでください
- 通信が不安定なときは、端末ごとに数字が少し違うことがあります。ホームの下部には、共有の状態(「送信待ち」「受付待ちなし」など)が出ます。「受付待ちなし」でも、全員の端末への到達は保証されません
- 管理者設定で見せるアプリを絞った端末では、その分の数字とタイルだけが出ます(次の章)
5. 管理者設定:端末ごとに、見せるアプリを選ぶ
v1.2.0で追加された、いちばん大きな変更点です。
何ができるのか
ホーム左上のアイコンをタップすると、パスワードの入力画面が出て、ログインすると管理者設定が開きます。
| 設定項目 | 内容 |
|---|---|
| この端末の担当名 | 例:「受付端末」「救護」「本部」。ホームに表示される(40文字まで) |
| 表示するアプリ | 5つのアプリのうち、この端末に見せるものを選ぶ(チェックボックス) |
| 管理者設定を開くタップ数 | アイコンを何回連続でタップすると設定画面が出るか(1〜20回) |
| 新しいパスワード | 管理者設定のパスワードを変更する(空欄なら変更しない) |
選んだアプリについて、メニュー(タイル)・ホームの集計・外部JSONの参照が表示されます。選ばなかったアプリは、この端末では開けません(開こうとすると「この端末では表示が許可されていません」と出ます)。
役割に合わせた設定の例(想定)
| 端末 | 見せるアプリ(例) | ねらい |
|---|---|---|
| 受付端末 | 入退場 | 受付の人が、他の記録に迷い込まない |
| 救護の端末 | 安否確認 | 安否・支援の記録に集中できる |
| 物資班の端末 | 物資管理 | 在庫と配布だけを見る |
| 当番の調整役の端末 | 当番表 | 当番の調整に集中する |
| 地図担当の端末 | ピンマップ | 危険箇所や設備の更新に集中する |
| 本部(運営責任者)の端末 | 5つすべて | 全体の状況を見る |
最初に覚えておくこと(重要)
- 新しくキットを開いた端末は、最初は何も表示されません。 「この端末に表示するアプリはありません。左上のアイコンをタップして管理者設定を開いてください」と出ます。各端末で、最初に管理者設定を行う必要があります
-
初期のパスワードは
secretです。 設定を保存したあとも、新しいパスワードを入れなければsecretのままです。 運用の前に、必ず変更してください。パスワードは、この端末の中にハッシュ化して保存されます - 初期のタップ数は1回です。 運用に合わせて、必要なら回数を増やしてください(連続タップは、間隔が4秒以内であることが条件です)
- 設定は、その端末にだけ保存されます。 他の端末には共有されません。端末ごとに、設定が必要です
- 管理者設定の画面は、アプリを閉じたり、画面を切り替えたりすると閉じます。表示言語を切り替えると、ログイン画面に戻ります
管理者設定は「画面の絞り込み」であって、「データの秘匿」ではありません
ここは、いちばん大事なところです。管理者設定の画面にも、次のように書かれています。
この端末の表示設定です。チャットの配信・保存データを秘匿する機能ではありません。
どういうことかというと、見せるアプリを絞っても、チャットのグループに入っている端末には、5つのアプリの更新が届くということです。画面に出ないだけで、データそのものは端末に届いています。
| できること | できないこと |
|---|---|
| 端末ごとに、画面(メニュー・集計・参照)を絞る | グループ内の別の端末から、データを見えなくする |
| 誤って開いてしまう画面を減らす | チャットに入っている人からの閲覧を防ぐ |
| 担当ごとに、使うアプリを分かりやすくする | 強い認証や、アクセス権限の管理をする |
| 画面をのぞき見されるリスクを減らす(目隠し程度) | データを暗号化して、隠す |
つまり、「運営担当者の使いやすさ」と「うっかり操作の防止」には役立つが、「情報の見せ分け」の安全装置ではない、ということです。グループには、5つすべての記録を見られても構わない人だけを入れる前提で運用してください(章12)。
6. アプリ間の連携:同じ人を何度も入力しない
スターターキットの大きな特徴は、入退場に登録した人が、ほかのアプリにも現れることです。
入退場 → 安否名簿
入退場で受け付けた人は、安否確認の名簿に自動で載ります。
| 引き継がれるもの | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | 入退場の登録名 |
| 入退場ID | 人物IDとして紐づく |
| 滞在状況 | 在所/一時外出/退所 |
| 場所 | 入退場で記録された会場名 |
| 安否 | 必ず「未確認」から始まる |
入場したことを、「無事」とは判断しません。 安否は、運営担当者が現場で確認して、自分で「無事」などに変えます。
入退場 → 当番の参加者候補
当番表にも、入退場の人が**「当番候補」**として現れます。
- 「参加未確認」と表示され、当番への参加は自動では確定しません
- 初期状態は「活動休止中」「夜間は未確認」です。本人の意思と事情を確認してから、参加予定にします
- 入退場の記録で、いま在所していない人には、「入退場記録では在所していません」と注意が出ます
連携の約束ごと
- 手入力した項目が優先されます。 運営担当者が安否名簿や当番表で自分で入力した内容は、連携で上書きされません
- 同じ人に当てはまる記録が複数あるなど、紐づけが曖昧なときは、自動連携しません(誤って別の人を結びつけないため)
- 連携名簿は、「選択したアプリ」の画面に含まれます。 見せるアプリの設定によって、どの端末にどの連携名簿が出るかが変わります
- 連携は、キットの中のアプリ同士の話です。 単体で使っている既存のアプリとは、自動では連携しません(次の章を参照)
7. 単体アプリの記録を「外部JSON」で参照する
すでに単体のアプリ(たとえば、先に使っていた「ちゃっと入退場」)で記録を取っている場合は、そのJSONバックアップを、ホームに取り込んで参照できます。
重要:キットの中は「別の台帳」です
- スターターキットの中の5つのアプリは、単体で使っていたアプリとは別の台帳です。 既存のアプリからの自動移行はありません
- 取り込んだ外部JSONは、参照用です。変更は元のアプリで行い、JSONを書き出して、再度取り込みます
- 画面の下にも、「取り込んだ時点の参照情報です」と表示されます
取り込みの流れ
- 元のアプリで、JSONバックアップを書き出す
- ホームの「JSONを取り込む」で、元台帳ID(同じ元の台帳には毎回同じIDを使う。64文字まで)を入れる
- JSONファイルを選ぶ(チャットの添付から選ぶこともできる)
- 取り込む内容を確認し、チェックを入れて取り込む
取り込みの約束ごと
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 対応版のJSONのみ。CSVは対象外 |
| 上限 | JSONファイル10MB、履歴2万件まで |
| 同じ台帳 | 同じ元台帳・会場のデータは置き換え。既存の人数や在庫には加算しない |
| 古いファイル | すでに取り込んだものより古い、または同じJSONの場合は、その旨が表示される |
| 同じ書出日時で内容が違う | 元のアプリで確認して、書き出し直す |
| ホームの数字 | キットの自動集計と、外部JSONは合算しません。選択した台帳ごとに表示 |
取り込むと、何が共有されるか
取り込んだ参照情報は、このキットの参加者全員に共有されます。 取り込み前の確認画面に、共有される内容が表示されます。
| 元のアプリ | 共有される内容 |
|---|---|
| ピンマップ | 地図・ピン名・ルート |
| 入退場 | 人数のみ。氏名・住所・連絡先は保存しない |
| 物資管理 | 在庫(参照のみ)。不足は「不足」または不足目安以下。配布は再計上しない |
| 安否確認 | 氏名・安否・在所区分 |
| 当番表 | 当番と担当者名。「今日」は開始日で集計 |
特に安否確認のJSONは、氏名と安否を含みます。 取り込む前に、誰がこのキットのグループにいるかを、必ず確認してください。管理者設定で端末の画面を絞っていても、共有される範囲は変わりません。
8. 使いどころ
場面別:どのアプリを使うか
| 場面 | 使うアプリ(想定) |
|---|---|
| 避難所の開設直後 | 入退場で受付を始め、物資管理で備蓄を登録し、当番表で役割を割り振る |
| 来た人の把握と安否の確認 | 入退場で受け付けると、安否名簿に「未確認」で載る。確認できたら「無事」に更新する |
| 水や食料が足りているかの確認 | 物資管理で在庫と配布を記録し、ホームの「不足物資」で全体を見る |
| 夜間の見回りの手配 | 当番表で、夜間に入れる人を確認して担当を入れる |
| 危険箇所や給水所の共有 | ピンマップで、地図にピンと手描きのルートを残す |
| 担当交代の引き継ぎ | ホームの数字を一緒に見ながら、各アプリの引継ぎ・履歴を確認する |
| 役割ごとに端末を分けたい | 管理者設定で、受付端末・救護端末・本部端末などに画面を絞る |
| 訓練・地域行事 | 5つのアプリを通して、受付から引き継ぎまでを練習する |
スターターキットか、単体アプリか
| こんなとき | おすすめ |
|---|---|
| 運営班がひとつのグループで、受付・物資・当番・安否をまとめて回す | スターターキット |
| まずは全体像をつかみたい、1回の配布で始めたい | スターターキット |
| 端末ごとに画面を絞って、使いやすさを上げたい | スターターキット(管理者設定) |
| 1つの機能だけを使いたい | 単体アプリ |
| 安否確認は救護班だけ、物資は物資班だけなど、データそのものを見せる人を分けたい | 単体アプリを、別々のグループで運用 |
| すでに単体アプリで運用している | そのまま単体アプリ。必要ならJSONで参照 |
ここは大事な違いです。 管理者設定は画面を絞る機能で、データを届く人を分ける機能ではありません。見せる人を本当に分けたいなら、グループ自体を分ける(単体アプリを別のグループで運用する)必要があります。
9. メリット
① 配布が1回で済む
添付するのは、1つの.xdcだけです。5つのアプリを、別々に添付して、別々に使い方を説明する手間がなくなります。
② 全体の状況が、ホームで一目で分かる
在所人数・受入継続人数・不足物資・安否未確認・今日の当番が、ホームに並びます。「いま、何が詰まっているか」を、運営班全員が同じ画面で確認できます。
③ 端末の役割に合わせて、画面を絞れる
管理者設定で、端末ごとに見せるアプリを選べます。受付の端末には受付だけ、救護の端末には安否確認だけ、というようにすれば、
- 迷わない:必要なアプリだけが並ぶ
- 誤操作を減らせる:関係のないアプリを開いてしまわない
- 画面を見られるリスクを減らせる:他の担当の情報が、最初から画面に出ない
- 担当名が見える:ホームに「受付端末」などが表示され、どの端末か分かる
ただし、これは画面の絞り込みです(章5)。
④ 同じ人を何度も入力しなくて済む
入退場の登録が、安否名簿と当番候補に引き継がれます。受付の入力を、あとの運営の入力に活かせます。
⑤ 「自動で決めない」ところは、人が決める
連携で自動に入るのは、名前や滞在状況などの材料だけです。
- 安否は、必ず「未確認」から
- 当番は、「参加未確認」の候補から
- 手入力した内容は、手入力が優先
無事かどうか、当番に入るかどうかを、アプリが勝手に決めることはありません。
⑥ 人数の数字を使い分けられる
「在所人数」と「受入継続人数」が並んで表示されるので、いま建物にいる人と、**受け入れを続けている人(一時外出を含む)**を、区別して見られます。
⑦ インターネットがなくても使える
TinyBoxと組み合わせれば、避難所内の通信だけで、運営班の端末に共有できます。QRの生成・読み取りのライブラリも、ファイルの中に同梱されています(外部への通信は不要)。
⑧ 15の言語で表示できる
日本語・English・中文・한국어・Tiếng Việt・Tagalog・Filipino・Português・नेपाली・Español・Français・Deutsch・العربية・Bahasa Indonesia・Русскийから選べます。ホームでも、アプリの中でも切り替えられます。氏名・メモ・当番名などの入力した文章は翻訳されません。
⑨ 単体アプリの記録も参照できる
すでに運用している単体アプリのJSONを、参照用に取り込めます。
⑩ まずはブラウザーで練習できる
アプリを単体のHTMLとしてブラウザーで開くと、試用モード(その端末のみ)になります。Delta ChatやTinyBoxがなくても、5つのアプリとホーム、管理者設定の動きを、まとめて確かめられます。記録はその端末の中だけに保存され、ほかの端末とは共有しません。
10. 仕組みをやさしく
1つのメッセージ、5つのアプリ
スターターキットでは、5つのアプリが、ひとつのメッセージの中で動いています。各アプリは、画面と保存領域がそれぞれ分かれていて(アプリ同士で記録が混ざらない)、共有のときだけ、同じチャットの通信路を通ります。
これは、便利さと引き換えの注意点でもあります。
- グループ全員の端末に、5つすべてのアプリの記録が届きます。 管理者設定で画面に出さなくても、データは端末に届いています
- 共有の単位は「同じメッセージのアプリ」です。 添付し直すと、別の台帳(別のキット)になります
通信が切れている間
各アプリの記録は、まず端末内に保存されます。うまく送れなかった分は端末に残り、アプリを開いている間に再送されます。ホームには、共有の状態が表示され、必要なときは「共有を再送」を押せます。
「受付待ちなし」は、全員の端末に届いた証明ではありません。 急ぎの用件(救助の依頼など)は、対面や伝令でも伝えてください。
11. 運用シナリオ(想定)
実機での大規模な運用確認ではなく、想定シナリオです。
平時の準備
- TinyBoxを設置し、運営担当者の端末にDelta Chatのアカウントを設定する
-
運営担当者だけが入る通常グループを作り、
.xdcを一度だけ添付する - グループに届いた同じメッセージを、全員が開く
- 各端末で、管理者設定を行う(担当名、見せるアプリ、タップ数、パスワードの変更)
- 各アプリの準備(会場の登録、物資の登録、当番の役割の作成など)を、運営責任者が行う
- 誰がどこまで見られるか、医療情報を誰が扱うか、いつ記録を整理するかを決める
- 訓練で、5つのアプリを通して、受付から引き継ぎまで一度通す。訓練と本番は別の添付にする
端末の役割分担の例
| 端末 | 担当名(例) | 見せるアプリ |
|---|---|---|
| 入口の受付 | 受付A | 入退場 |
| 救護室 | 救護 | 安否確認 |
| 倉庫 | 物資班 | 物資管理 |
| 運営の調整役 | 当番調整 | 当番表 |
| 本部 | 本部 | 5つすべて |
発災後
| 場面 | 操作の例 |
|---|---|
| 開設 | キットを開き、管理者設定で端末の役割を決める。入退場で受付を始める |
| 避難してきた人を受け付ける | 受付端末の入退場で登録する。安否名簿には「未確認」で自動で載る |
| 安否を確認する | 救護端末の安否確認で、現場で確認できたら「無事」などに更新する |
| 支援が必要な人がいる | 安否確認で、要配慮タグと支援を記録する |
| 物資を配る | 物資班の端末の物資管理で配布を記録する。不足は、ホームにも出る |
| 夜の見回りを組む | 当番表で、当番の候補から、本人に確認して担当を入れる |
| 危険箇所を共有する | ピンマップで、地図にピンとルートを残す |
| 担当が交代する | 本部の端末で、ホームの数字と、各アプリの履歴・引継ぎを一緒に確認する |
自治体・支援団体が到着したとき
各アプリから、JSONやCSVを書き出せます(書き出せる形式は、アプリごとに異なります)。個人情報や医療情報を含む場合があるので、書き出す前に共有先を確認し、確認のうえ、手渡す形になります。自治体への自動連携はありません。
12. 情報の扱いと運用上の注意
スターターキットは、氏名、安否、居場所、当番、物資、場合によっては医療に関わる情報を、ひとつのグループで共有します。便利な分、扱いには特に注意が必要です。
- グループには、運営担当者だけを入れてください。 5つのアプリの記録が、全員の端末に届きます
- 管理者設定は、画面の絞り込みです。 データの秘匿や、閲覧権限の管理ではありません。見せる人を本当に分けたい情報は、単体アプリを別のグループで運用してください
-
管理者パスワードの初期値は
secretです。 各端末で、運用の前に必ず変更してください。パスワードを入れなければ、変更されません - 管理者設定は、端末ごとに行います。 他の端末には共有されません。設定を行っていない端末は、何も表示されません
- パスワードを控えておいてください。 忘れたときの復旧手順は、アプリの画面からは確認できませんでした。運営責任者が、管理者の設定を把握しておく運用が必要です
- 全参加者が、全記録を閲覧・編集できる前提で運用します。 アプリ内に、強い権限の仕組みや本人認証はありません。担当者名は自己申告です
- 機微な医療情報は、書かない、または救護担当者に限定してください
- 外部JSONを取り込むと、その参照情報は、キットの参加者全員に共有されます。 取り込み前の確認画面を、よく読んでください
- 安否確認の「表示を伏せる」も、画面の目隠しであり、閲覧権限の制限ではありません
- JSON・CSVには個人情報が含まれます。書き出しは必要なときだけにして、保存先と共有先を確認してください
- どこまで記録し、誰が閲覧し、いつ整理するかを、あらかじめ運営のルールとして決めておいてください
13. 限界と注意点
- 各アプリの限界は、それぞれの記事を参照してください。 この記事では、キットとしての限界をまとめます
- 管理者設定は、画面の表示を絞る機能です。 チャットで届くデータを、端末から隠すものではありません。強い認証でもありません
-
管理者設定は、端末ごとに必要です。 最初は何も表示されません。初期パスワード(
secret)も、変更が必要です - ホームの数字は、その端末が受け取った記録の集計です。 確定した人数ではありません。未着や食い違いがあるかもしれません
- 「在所人数」と「受入継続人数」は別の数字です。 一時外出を含むかどうかで、数が変わります
- 同期は即時ではありません。 「受付待ちなし」でも、全員への到着は保証されません
- 単一のTinyBoxをメール配送に使う構成では、その停止中は端末間の更新共有が止まります。 電源も必要です
- キットの中のアプリは、単体アプリとは別の台帳です。 既存アプリからの自動移行はありません
- 外部JSONは参照用です。 変更は元のアプリで行い、再度取り込みます。CSVは取り込めません。同じ元台帳のデータは置き換えられ、合算されません
- 自動で決めません。 無事かどうか、当番に入るかどうか、物資が足りるかどうかは、人が判断します
- 共有の単位は「同じメッセージのアプリ」です。 添付し直すと、別の台帳になります
- 通常のグループチャットで使ってください。 配信用のチャットでは、共同編集できません
- 更新のサイズや送信間隔には、上限があります。 5つのアプリが同じ通信の枠を使うため、大量の記録を一度に入れると、送信が遅れることがあります。JSONで記録を保管してください
- TinyBoxと複数実機の組み合わせ、大人数での性能、連続稼働時間は本記事では未検証です
- Wi-Fi機器は技適取得品を使ってください
14. どんな場面で価値が高いか
- **発災直後から数日の「空白期間」**に、準備済みの運営班が、ひとつの道具で受付・物資・安否・当番・地図をそろえる場面
- 自治体職員が駆けつけられない避難所や、自治会館・公民館など公式の仕組みの外にある場所
- 端末ごとに役割が分かれている運営班(受付、救護、物資、本部など)で、画面を絞って使いやすくしたい場面
- 運営班が少人数で、アプリを何個も使い分ける余裕がない場面
- 運営担当が交代しながら回す場面(ホームで全体を引き継げる)
- 訓練できるグループ(自治会、防災班、学校、公民館など)
- 平時の地域行事(お祭り、清掃活動、学園祭)での、受付・当番・物資の管理
逆に、自治体の公式の仕組みがすでに使える場面や、事前準備がない場合は、メリットは小さくなります。また、データそのものを見せる人を分ける必要がある場面では、単体アプリの別グループ運用のほうが向いています。「万能の解決策」ではなく、訓練しておけば、手が届かない場面の初動で効く一案と位置づけています。
15. 今日からできるチェックリスト
- ブラウザーで試用モードを開き、ホームの数字と5つのタイルを触ってみる
- 管理者設定を開いて、見せるアプリを変え、ホームの表示がどう変わるか確認する
- 管理者パスワードを
secretから変更し、タップ数も決める - 試用モードで、入退場に架空の人を登録し、安否名簿に「未確認」で載るか確認する
- 当番表で、「当番候補」が現れる様子と、「参加未確認」の表示を確認する
- 物資管理で、不足の品目を作り、ホームの「不足物資」に反映されるか確認する
- 「在所人数」と「受入継続人数」の違いを、一時外出を記録して確認する
- Delta Chatを入れて、運営担当者だけのグループを作ってみる
-
.xdcを1回だけ添付し、全員が同じメッセージを開くことを確認する - 2台の端末で、一方の記録が、もう一方のホームに反映されるか確認する
- 見せるアプリを絞った端末にも、データそのものは届いていることを理解しておく
- 単体アプリのJSONを書き出し、ホームで取り込む練習をする(共有される内容を確認する)
- 外部回線を切り、TinyBox内で更新が届くか確認する
- 「誰が管理者か」「不在のときは誰か」「誰が何を見られるか」「パスワードは誰が控えるか」を決めておく
- データごと見せる人を分けたい情報があるかを考え、あれば単体アプリを別のグループにする
- 訓練用と本番用の添付を分ける
- 自治体や防災担当に、地区の自主的な取り組みとして相談しておく
箱舟プロジェクトが目指す未来
災害時に本当に必要なのは、単に「通信できること」ではなく、必要な情報を、必要な人に、分かりやすく届けることです。
場所(地図)、人(受付)、もの(物資)、人手(当番)、安否と支援(安否確認)。避難所で順番に詰まっていく5つの情報を、1つずつ小さなアプリにしてきました。スターターキットは、それらをひとつの入口にまとめ、端末の役割に合わせて見せ方を選べるようにしたものです。
「必要な人に」届けるということは、「必要のない人には」見せない、ということでもあります。v1.2.0の管理者設定は、その第一歩です。ただ、いまは画面の絞り込みにとどまっていて、データの見せ分けまでは届いていません。そこは、正直に「できないこと」として示しながら、改良を続けていきます。
避難所は、誰かにやってもらう場所ではなく、みんなで少しずつ支え合う場所です。その運営を、地域コミュニティ自身が、自分たちの手で回せる形にしていきたいと考えています。
試験運用に協力していただける自治会・防災組織の方や、ご意見・ご指摘をお寄せいただける方を探しています。特に、避難所運営の経験がある方、医療・救護の専門家、各言語の母語話者の方からのフィードバックをお待ちしています。
