はじめまして、りょーつといいます。高専出身の大学院2年生です。研究の専門は力学や機構学で、Qiitaでは主に制御工学や数学に関する記事を書いています。本稿はスクリュー理論の解説(布教)をする41個目の記事です。前回までの記事は以下のリンクを参照してください。
スクリュー理論① 外積の歪対称行列表現
スクリュー理論② 行列の指数関数
スクリュー理論③ 行列指数と回転行列の関係
スクリュー理論④ 回転行列の成分表示
スクリュー理論⑤ 回転行列による座標系の表現
スクリュー理論⑥ 剛体の速度・加速度の座標変換公式の導出
スクリュー理論⑦ 三次元空間における右手系の回転行列
スクリュー理論⑧ 回転行列による座標変換
スクリュー理論⑨ 回転行列によるベクトルの回転
スクリュー理論⑩ 回転行列と多様体の関係
スクリュー理論⑪ 同次変換行列の導入
スクリュー理論⑫ 同次変換行列による座標系の表現と基底変換
スクリュー理論⑬ 歪対称行列表現の回転座標変換
スクリュー理論⑭ 同次変換行列の微分とツイストの導入
スクリュー理論⑮ スクリューの導入と行列指数による同次変換行列の表現
スクリュー理論⑯ アジョイント変換
スクリュー理論⑰ 回転行列の行列対数
スクリュー理論⑱ 回転行列の積分
スクリュー理論⑲ 行列指数を用いた同次変換行列の成分表示
スクリュー理論⑳ 同次変換行列の行列対数
スクリュー理論㉑ シリアルリンクロボットアームの順運動学
スクリュー理論㉒ 円筒座標ロボットアームの順運動学
スクリュー理論㉓ 円筒座標ロボットアームのヤコビアン
スクリュー理論㉔ ボディ座標系を用いた順運動学
スクリュー理論㉕ アジョイント変換の図的イメージ
スクリュー理論㉖ 順運動学とアジョイント変換
スクリュー理論㉗ 空間ヤコビアン
スクリュー理論㉘ ボディヤコビアン
スクリュー理論㉙ 空間ヤコビアンの代数学的な導出
スクリュー理論㉚ Lie括弧積とアジョイント変換
スクリュー理論㉛ 実用的なヤコビアン
スクリュー理論㉜ キャチロボ機体を用いた空間ヤコビアンの具体例
スクリュー理論㉝ キャチロボ機体を用いた順運動学計算(ボディ座標系)
スクリュー理論㉞ キャチロボ機体を用いたボディヤコビアンの具体例
スクリュー理論㉟ キャチロボ機体を用いた実用的なヤコビアンの具体例
スクリュー理論㊱ ヤコビアンのランク
スクリュー理論㊲ 逆速度運動学とその具体例
スクリュー理論㊳ レンチの定義とヤコビアン
スクリュー理論㊴ レンチのアジョイント変換
スクリュー理論㊵ レンチとトルクの関係式の静力学に基づく導出
スクリュー理論㊶ 正定値行列と楕円体
スクリュー理論㊷ 可操作性楕円体
スクリュー理論は剛体の運動を記述する方法で、ロボット工学などでよく使われています。日本の高専や大学ではDH法を使った記述を学ぶことが多いですが、国際的にはスクリュー理論を使った記述が一般的となってきているようです。スクリュー理論を扱う日本語の文献は少ないので、この記事が誰かの助けになればいいなと思います。
目次
1.はじめに
2.可操作性楕円体の復習
3.力楕円体の定義
4.おわりに
1. はじめに
今回は,「マニピュレータの各コンフィギュレーションにおける力の出しやすさ」を定量化する,力楕円体について紹介します.力楕円体はヤコビアン$J$を用いたトルク$\boldsymbol{\tau}$からレンチ$\boldsymbol{\mathcal{F}}$の広がりを可視化するものになります.力楕円体の各軸はレンチ$\boldsymbol{\mathcal{F}}$の各成分,すなわちマニピュレータが出力可能な力やモーメントに対応しており,力楕円体が広がる方向に大きな力やトルクが出力できることを意味しています.可操作性楕円体に似た概念として抑えておくと幸せになれます.
大学の一般教養程度の線形代数の知識や可操作性楕円体の内容を知っているとスムーズに理解できると思います.
2. 可操作性楕円体の復習
力楕円体はほとんど可操作性楕円体と同じ概念です.そのため,可操作性楕円体の内容を熟知していればびっくりするほど簡単に理解できます.そのため,少し冗長ですが,前回の記事で紹介した可操作性楕円体を簡単に復習しておきます.
可操作性楕円体は各関節角度$\dot{\boldsymbol{\theta}}$をヤコビアン$J$によって変換した際に得られるツイスト$\boldsymbol{\nu}$の広がりを表現する楕円体です.楕円体は以下の数式で定義されます.
\boldsymbol{\nu}^T(J^{-T}J^{-1})\boldsymbol{\nu}
=
1
\tag{1}
ここで各関節角度$\dot{\boldsymbol{\theta}}$とツイスト$\boldsymbol{\nu}$の間には
\boldsymbol{\nu}
=
J
\dot{\boldsymbol{\theta}}
\tag{2}
の関係があります.
ツイストの各成分は,関節角速度$\dot{\boldsymbol{\theta}}$が大きくなるほど大きくなるので,うまく制約条件を課す必要があります.(1)式の右辺が"1"になっているのは,以下の制約条件を加えたことを意味しています.
||\dot{\boldsymbol{\theta}}||
=
1
\therefore
||\dot{\boldsymbol{\theta}}||^2
=
\dot{\boldsymbol{\theta}}^T
\dot{\boldsymbol{\theta}}
=
1
\tag{3}
証明は省略しますが,(1)式の左辺にある$J^{-T}J^{-1}$は正定値対称行列なので,(1)式は楕円体を描きます.そしてこの楕円体が冒頭でも述べた通り可操作性楕円体となります.
3. 力楕円体の定義
力楕円体は各関節のトルク$\tau_1, \tau2, \cdots, \tau_6$をまとめたベクトル$\boldsymbol{\tau}$をヤコビアン$J$によって変換した際に得られるレンチ$\boldsymbol{\mathcal{F}}$の広がりを表現する楕円体です.先に結論を述べておくと,楕円体は以下の数式で定義されます.
\boldsymbol{\mathcal{F}}^T(J J^{T})\boldsymbol{\mathcal{F}}
=
1
\tag{4}
まずは$J J^T$が正定値対称行列であることを示しておきましょう.全体の転置を取ります.
(J J^T)^T
=
(J^T)^T (J)^T
=
J J^T
\tag{5}
したがって,転置を取る前後で同じ行列が得られるので,$J J^T$は対称行列です.
また,任意の非零実数ベクトル$\boldsymbol{x}$について,Jが正則ならば
\boldsymbol{x}^T(J J^T)\boldsymbol{x}
=
(\boldsymbol{x}^T J) (J^T \boldsymbol{x})
=
(J^T \boldsymbol{x})^T (J^T \boldsymbol{x})
=
||J^T \boldsymbol{x}||^2
>
0
\tag{6}
なので正定値行列です.
以上より$J J^T$は正定値対称行列となります.
では(4)式の導出をしていきましょう.以前の記事の内容から,トルク$\boldsymbol{\tau}$とレンチ$\boldsymbol{\mathcal{F}}$の間には以下の関係が知られています.
\boldsymbol{\mathcal{F}}
=
J^{-T}
\boldsymbol{\tau}
\tag{7}
(7)式は静力学の有名な式です.(7)式から逆静力学を解くと以下のようになります.
\boldsymbol{\tau}
=
J^T
\boldsymbol{\mathcal{F}}
\tag{8}
したがって,トルク$\boldsymbol{\tau}$のノルムの2乗は以下のように計算できますね.
||\boldsymbol{\tau}||^2
=
\boldsymbol{\tau}^T \boldsymbol{\tau}
=
(J^T \boldsymbol{\mathcal{F}})^T (J^T \boldsymbol{\mathcal{F}})
=
\boldsymbol{\mathcal{F}} ^T (J J^T)\boldsymbol{\mathcal{F}}
\tag{9}
可操作性楕円体において,関節角速度$\dot{\boldsymbol{\theta}}$に制約をかけたのと同様に,トルク$\boldsymbol{\tau}$に対して以下のように制約をかけてやると(4)式が得られます.
\therefore
||\boldsymbol{\tau}||^2
=
\boldsymbol{\tau}^T
\boldsymbol{\tau}
=
1
\tag{10}
つまり,力楕円体は,ある大きさの関節トルク$\boldsymbol{\tau}$によって出力されるレンチの成分の分布を可視化したものと考えられます.まさに可操作性楕円体の力バージョンですね.
4. おわりに
今週は力楕円体について解説しました.元になる写像がレンチ$\boldsymbol{\mathcal{F}}$とトルク$\boldsymbol{\tau}$の関係に置き換わるだけで,可操作性楕円体と全く同じように導出できます.そのため非常に分かりやすかったんじゃないかなと思います.
次回は各楕円体の具体例について紹介できたらいいなと考えています.また,ツイスト$\boldsymbol{\nu}$とレンチ$\boldsymbol{\mathcal{F}}$の双対性についてもどこかで触れられたらいいなと思っています.
今週も最後まで読んでいただき,ありがとうございました!