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スクリュー理論㊷ 可操作性楕円体

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Last updated at Posted at 2026-03-07

 はじめまして、りょーつといいます。高専出身の大学院2年生です。研究の専門は力学や機構学で、Qiitaでは主に制御工学や数学に関する記事を書いています。本稿はスクリュー理論の解説(布教)をする41個目の記事です。前回までの記事は以下のリンクを参照してください。

スクリュー理論① 外積の歪対称行列表現
スクリュー理論② 行列の指数関数
スクリュー理論③ 行列指数と回転行列の関係
スクリュー理論④ 回転行列の成分表示
スクリュー理論⑤ 回転行列による座標系の表現
スクリュー理論⑥ 剛体の速度・加速度の座標変換公式の導出
スクリュー理論⑦ 三次元空間における右手系の回転行列
スクリュー理論⑧ 回転行列による座標変換
スクリュー理論⑨ 回転行列によるベクトルの回転
スクリュー理論⑩ 回転行列と多様体の関係
スクリュー理論⑪ 同次変換行列の導入
スクリュー理論⑫ 同次変換行列による座標系の表現と基底変換
スクリュー理論⑬ 歪対称行列表現の回転座標変換
スクリュー理論⑭ 同次変換行列の微分とツイストの導入
スクリュー理論⑮ スクリューの導入と行列指数による同次変換行列の表現
スクリュー理論⑯ アジョイント変換
スクリュー理論⑰ 回転行列の行列対数
スクリュー理論⑱ 回転行列の積分
スクリュー理論⑲ 行列指数を用いた同次変換行列の成分表示
スクリュー理論⑳ 同次変換行列の行列対数
スクリュー理論㉑ シリアルリンクロボットアームの順運動学
スクリュー理論㉒ 円筒座標ロボットアームの順運動学
スクリュー理論㉓ 円筒座標ロボットアームのヤコビアン
スクリュー理論㉔ ボディ座標系を用いた順運動学
スクリュー理論㉕ アジョイント変換の図的イメージ
スクリュー理論㉖ 順運動学とアジョイント変換
スクリュー理論㉗ 空間ヤコビアン
スクリュー理論㉘ ボディヤコビアン
スクリュー理論㉙ 空間ヤコビアンの代数学的な導出
スクリュー理論㉚ Lie括弧積とアジョイント変換
スクリュー理論㉛ 実用的なヤコビアン
スクリュー理論㉜ キャチロボ機体を用いた空間ヤコビアンの具体例
スクリュー理論㉝ キャチロボ機体を用いた順運動学計算(ボディ座標系)
スクリュー理論㉞ キャチロボ機体を用いたボディヤコビアンの具体例
スクリュー理論㉟ キャチロボ機体を用いた実用的なヤコビアンの具体例
スクリュー理論㊱ ヤコビアンのランク
スクリュー理論㊲ 逆速度運動学とその具体例
スクリュー理論㊳ レンチの定義とヤコビアン
スクリュー理論㊴ レンチのアジョイント変換
スクリュー理論㊵ レンチとトルクの関係式の静力学に基づく導出
スクリュー理論㊶ 正定値行列と楕円体

 スクリュー理論は剛体の運動を記述する方法で、ロボット工学などでよく使われています。日本の高専や大学ではDH法を使った記述を学ぶことが多いですが、国際的にはスクリュー理論を使った記述が一般的となってきているようです。スクリュー理論を扱う日本語の文献は少ないので、この記事が誰かの助けになればいいなと思います。

目次

1.はじめに
2.正定値対称行列と楕円体
3.可操作性楕円体の定義
4.おわりに

1. はじめに

今回は,マニピュレータの「動きやすさ」を定量化する,可操作性楕円体について紹介します.可操作性楕円体はヤコビアン$J$を用いた以下の写像による,ツイスト$\boldsymbol{\nu}$の広がり,を可視化するものになります.学会に行くと可操作性楕円体アンチの方がまあまあ観測されますが,理論として直感的に分かりやすく,知っておくと幸せになれるかなあと思います.

\boldsymbol{\nu}
=
J
\boldsymbol{\dot{\theta}}
\tag{1}

まずは第2章で必要な数学の知識をおさらいし,第3章で可操作性楕円体について紹介します.大学の一般教養程度の線形代数の知識があれば理解しやすいと思います.

2. 正定値対称行列と楕円体

まずは線形代数の知識を使って楕円体を描画する方法について復習します.まず,$n \times n$の正定値対称行列を$A$,任意の$n$次元実数ベクトルを$\boldsymbol{x}$とします.正定値対称行列$A$は定義より以下の2つの性質を満たします.

A^T
=
A
\tag{2}
\boldsymbol{x}^T
A
\boldsymbol{x}
>
0
\tag{3}

このとき,正定値対称行列$A$とベクトル$\boldsymbol{x}$により,$n$次元楕円体は以下の計算式により表現されます.

\boldsymbol{x}^T
A
\boldsymbol{x}
=
1
\tag{4}

(4)式が楕円体を表す理由(導出過程)や,どのような楕円体が描かれるのかに関しては,こちらの記事を参照ください.

3. 可操作性楕円体の定義

まず,マニピュレータの速度運動学について,ヤコビアン$J$が正方行列かつ正則な場合を考えます.このとき,逆行列$J^{-1}$が存在し,以下の逆速度運動学が成立します.

\dot{\boldsymbol{\theta}}
=
J^{-1}
\boldsymbol{\nu}
\tag{5}

ここで,$\dot{\boldsymbol{\theta}}$はマニピュレータの各関節の角速度$\dot{\theta_1}, \dot{\theta_2}, \cdots, \dot{\theta_6}$を1つのベクトルにまとめたもの,$\boldsymbol{\nu}$はツイストを表します.マニピュレータの関節角速度$\dot{\boldsymbol{\theta}}$のユークリッドノルムの2乗は以下のように計算できます.

||
\dot{\boldsymbol{\theta}}
||^2
=
\dot{\boldsymbol{\theta}}^T
\dot{\boldsymbol{\theta}}
=
(
J^{-1}
\boldsymbol{\nu}
)^T
(
J^{-1}
\boldsymbol{\nu}
)
=
\boldsymbol{\nu}^T
J^{-T}
J^{-1}
\boldsymbol{\nu}
\tag{6}

ここで,$J^{-T}J^{-1}$が正定値対称行列であることを示します.$B = J^{-T}J^{-1}$としたとき,

B^T
= 
(J^{-T}J^{-1})^T
=
(J^{-1})^T(J^{-T})^T
=
J^{-T}J^{-1}
=
B
\therefore
B^T
= 
B
\tag{7}

となり,$J^{-T}J^{-1}$が対称行列ということが分かります.またベクトル$\boldsymbol{x}$について,

\boldsymbol{x}^T(J^{-T}J^{-1})\boldsymbol{x}
=
(\boldsymbol{x}^T J^{-T}) (J^{-1}\boldsymbol{x})
=
(J^{-1}\boldsymbol{x})^T (J^{-1}\boldsymbol{x})
=
||
J^{-1}\boldsymbol{x}
||^2
>
0
\tag{8}

となるので,$J^{-T}J^{-1}$が正定値行列ということも分かります.以上のことから,$J^{-T}J^{-1}$が正定値対称行列であると分かります.

 ツイストの各成分は,関節角速度$\dot{\boldsymbol{\theta}}$が大きくなるほど大きくなります.つまり,マニピュレータの運動を解析するためには,各関節の角速度$\dot{\boldsymbol{\theta}}$に対して適切な制約を考える必要があります.たとえば,「$\dot{\boldsymbol{\theta}}$のノルムを1に制限する」などが挙げられます.数式で書くと以下のような感じです.

||\dot{\boldsymbol{\theta}}||
=
1
\therefore
||\dot{\boldsymbol{\theta}}||^2
=
\dot{\boldsymbol{\theta}}^T
\dot{\boldsymbol{\theta}}
=
1
\tag{9}

(9)式を(6)式に代入してみましょう.すると,(4)式と類似した楕円の方程式が得られます.

\boldsymbol{\nu}^T(J^{-T}J^{-1})\boldsymbol{\nu}
=
1
\tag{10}

ここで,楕円の広がりはツイスト$\boldsymbol{\nu}$に対応しており,楕円が大きければ大きいほど,マニピュレータは多様なツイスト$\boldsymbol{\nu}$の値を取ることができることを意味しています.

 ただし,可操作性楕円体は広がりしか検知しなかったり(楕円の各軸は傾いた方向を向く),すべての関節入力を同列に扱ったりと,少しヤンキーな操作をするところがあるので,その点は使いづらさを感じるかもしれません.

 これと同じような概念として,力楕円体というものが存在します.これは各関節のトルク$\boldsymbol{\tau}$を制限したときに生じるレンチ$\boldsymbol{\mathcal{F}}$の範囲を示す楕円体となります.力楕円体については来週説明しようと思います.

4. おわりに

 今週の記事では,前回までの数学の知識を活かして,可操作性楕円体について紹介しました.来週の記事では可操作性楕円体の力バージョンにあたる力楕円体を紹介しようと思います.また,可操作性楕円体と力楕円体は,ツイスト$\boldsymbol{\nu}$とレンチ$\boldsymbol{\mathcal{F}}$の双対性を説明する際にとても便利な概念となります.
 少し抽象的ですが,入力を制限したときに出力がどのような広がりを見せるのか,という概念を解いたものとして,可操作性楕円体はとても面白い考え方だと思います.

 今週も最後まで読んでいただき,ありがとうございました!

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