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「HOW」や「WHAT」よりも先に「WHY」を伝えて、要件定義を行う理論

Last updated at Posted at 2024-05-23

顧客に寄りそった要件定義とWell-Architected Frameworkを考える(3/6)

はじめに

人は論理的な思考だけでなく、感情や直感でもの事を判断します。ゴールデンサークル理論では、まず 「Why」 を伝えることで、相手の感情に訴えかけ、共感を得ることができるとされています。

つまり、「なぜ(Why)」→「どのように(How)」→「何が(What)」

の順で説明することで、より深い理解と納得を得られる という考えです。

最近、つくづく思うのですが、要件定義やWell-Architected Frameworkを使う時に重要なのは、これを理解しているかどうかなんだろうなと。経験上、顧客と話がかみ合わなくなったり、こじれたりするのは、この観点が顧客とズレた時だったと思います。

そこで、改めて、内容をまとめましたので、要件定義のご参考にして頂けましたら、幸いです。

目次

  1. はじめに
  2. ゴールデンサークル理論とは
  3. Appleの事例
  4. 従来の伝え方との違い
  5. マーケティングへの応用
  6. ステップ
  7. ゴールデンサークル理論のメリット
  8. ゴールデンサークル理論の注意点
  9. 要件定義を行う
  10. フレームワークで要件定義を行う Well-Architected Framework

ゴールデンサークル理論とは

ゴールデンサークル理論は、サイモン・シネックが提唱したコミュニケーションとリーダーシップのモデルです。

この理論は、「なぜ(Why)」→「どのように(How)」→「何が(What)」の順で物事を語り、「何をするのか」ではなく「なぜするのか」を優先して伝えることが共感を生み、人の行動を促すという理論です。

Why(なぜ)

なぜその事業を行っているのか、なぜその商品やサービスを作っているのかという、企業やブランドのビジョンや理念を指します。

How(どうやって)

Whyを実現するために、どのような方法で事業を展開しているのか、どのような商品やサービスを提供しているのかを指します。

What(何が)

具体的にどのような商品やサービスを提供しているのか、どのような事業を行っているのかを指します。

企業や組織が自らの存在意義や信念を明確に伝えることで、消費者や従業員の行動を促すことができるとされています。

ゴールデンサークル理論は、人々の 感情に訴えかける商品説明を可能に し、マーケティングにおいて顧客の忠誠心を築くのに役立ちます。企業が自らの信念や価値を伝えることで、消費者は単なる製品を超えたブランドのストーリーに共感し、購入や忠誠につながる行動を取りやすくなります。

アップルならこんな風に伝えます 「我々のすることはすべて 世界を変えるという信念で行っています 違う考え方に価値があると信じています 私たちが世界を変える手段は 美しくデザインされ 簡単に使えて 親しみやすい製品です こうして素晴らしいコンピュータができあがりました」 一つ欲しくなりませんか? 全然違うでしょう? 買いたくなりますよね? 今したのは 情報の順番を逆にすることでした これが示すのは 人は「何を」ではなく 「なぜ」に動かされるということです 人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです

だからこの場にいる人はだれもが 安心してアップルから コンピュータを買っているのです ・・・人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです 自分が提供するものを必要とする人と ビジネスするのではなく 自分の信じることを信じる人と ビジネスするのを 目標とすべきなのです

Appleの事例

本文中にも登場していますが、有名なAppleの事例を挙げてゴールデンサークル理論を見ていきましょう。

Appleの伝え方は、商品の説明である「HOW」や「WHAT」よりも先に「WHY」を伝えているから、人の心を動かすと言われています。

WHY(なぜやるのか?)

我々のすることは全て世界を変えるという信念で行っています。違う考え方に価値があると信じています。

HOW(どうやるのか?)

美しくデザインされ、簡単に使えて親しみやすい製品です。

WHAT(何をやるのか?)

こうして素晴らしいコンピューターが出来上がりました。一つ欲しくなりませんか?

「WHY」の部分で、何を目的で伝えるのかを明確にしてから、「HOW」でどんなことを行うのか、「WHAT」で商品という流れになっていることが分かります。

Appleの事例ではゴールデンサークル理論の中心であるWHYの部分にHOWとWHATが紐づき、Appleの商品とミッションがリンクしているので、受け取る側もイメージがしやすい構造になっています。

従来の伝え方との違い

従来のコミュニケーションでは、製品やサービスの機能や特徴(WHAT)を中心に伝えることが多かったですが、ゴールデンサークル理論では、まず組織の目的や信念(WHY)を伝えることで、より深い共感を呼び起こすことを目指します。

マーケティングへの応用

Apple社のプレゼンテーションは、ゴールデンサークル理論の良い例です。Appleは製品の機能を説明する前に、イノベーションやデザインへの情熱(WHY)を強調し、その後にどのようにそれを実現しているか(HOW)、最終的には何を提供しているのか(WHAT)を伝えます。

ステップ

1. WHY(自社のミッション・ビジョン・バリューの発信)

企業の存在理由や信念を明確にし、それを顧客に伝えます。

2. HOW(自社の強みや差別化ポイントの明確化)

企業がどのようにしてその信念を実現しているか、具体的な手法やプロセスを説明します。

3. WHAT(提供する商品・サービスの紹介)

最終的に顧客に提供している製品やサービスを紹介しますが、WHYとHOWのコンテキストの中で伝えます。

ゴールデンサークル理論のメリット

顧客との信頼関係を築きやすい

「なぜ」を伝えることで、顧客は企業や商品に対して共感しやすくなり、信頼関係を築きやすくなります。

顧客エンゲージメントを高められる

「なぜ」に共感した顧客は、積極的に商品やサービスに関与し、ファンになりやすくなります。

従業員のモチベーションを高められる

従業員が「なぜ」を理解することで、仕事に対する意味を見出し、モチベーションを高めることができます。

ゴールデンサークル理論の注意点

ゴールデンサークル理論は、万能な理論ではありません。

「Why」が明確でない場合は効果がない

「Why」が曖昧な場合は、共感を得られず、逆効果になる可能性があります。

ターゲット層に響かない「Why」は意味がない

ターゲット層が共感しない「Why」を伝えても、効果はありません。

「Why」を伝えればすべてうまくいくわけではない

「Why」を伝えただけでは、顧客はすぐに購入するわけではありません。

要件定義を行う

サイモン・シネックのゴールデンサークル理論を使って要件定義を行うには、プロジェクトや製品の「Why(なぜ)」、「How(どうやって)」、「What(何を)」を明確にすることが重要です。

ゴールデンサークルを用いた要件定義のステップ

Step 1 Why(なぜ)

目的の特定
プロジェクトや製品を開発する根本的な理由や目的を特定します。これは、組織のミッションやビジョンに基づいているべきです。
価値提案の明確化
顧客や利害関係者に提供する価値を明確にします。なぜこのプロジェクトが重要なのか、どのような問題を解決するのかを理解します。

Step 2 How(どうやって)

方法論の定義
目的を達成するための具体的な方法やプロセスを定義します。これには、戦略、手法、プロセス、ベストプラクティスが含まれます。
差別化要因の特定
他の競合製品やプロジェクトと比較して、自社のアプローチがどのように異なるか、どのようなユニークな強みを持っているかを特定します。

Step 3 What(何を)

具体的な要件のリストアップ
実際に提供する製品やサービス、またはプロジェクトの成果物に関する具体的な要件をリストアップします。
機能と特性の定義
製品やサービスが持つべき機能や特性を定義し、それがどのように顧客のニーズに応えるかを明確にします。

要件定義の例

Why(なぜ)
私たちの目的は、環境に優しい持続可能な交通手段を提供することで、都市の交通渋滞を解消し、CO2排出量を削減することです。
How(どうやって)
私たちは、最新の電動技術を使用して、高効率で低燃費の電動スクーターを開発します。また、ユーザーフレンドリーなアプリを通じて、レンタルサービスを提供し、利便性を高めます。
What(何を)
私たちは、長距離走行が可能で、都市部での使用に最適化された電動スクーターを市場に提供します。このスクーターは、スマートフォンと連携し、リアルタイムでバッテリー残量や利用可能な駐車スペースを確認できます。

ゴールデンサークル理論を使った要件定義は、プロジェクトや製品が提供する本質的な価値を明確にし、チームメンバーや利害関係者が共通の理解を持つための強力なツールとなります。

フレームワークで要件定義を行う

AWS Well-Architected Frameworkは、クラウドベースのアーキテクチャを設計、実装、運用する際のベストプラクティスを提供するフレームワークです。これを用いた要件定義の例を示します。

Why(なぜ)

目的は、信頼性が高く、セキュアで、効率的かつコスト効果の高いクラウドインフラストラクチャを構築することです。これにより、顧客に対してスケーラブルで持続可能なサービスを提供し、ビジネスの成長を支えることができます。

How(どうやって)

AWS Well-Architected Frameworkの5つの柱(運用上の優秀性、セキュリティ、信頼性、パフォーマンス効率、コスト最適化)に従って、アーキテクチャを設計します。これには、自動化、監視、セキュリティのベストプラクティスの適用、リソースの適切な選択と最適化が含まれます。

What(何を)

具体的には、以下の要件を満たすクラウドインフラストラクチャをAWS上に構築します。

運用上の優秀性 自動化されたデプロイメント、スケーリング、バックアッププロセスを備えたシステムを構築します。
セキュリティ IAMポリシー、暗号化、ネットワークセキュリティ、アクセス制御を含むセキュリティ対策を実装します。
信頼性 マルチAZデプロイメント、フェイルオーバーシステム、災害復旧計画を含む高可用性アーキテクチャを設計します。
パフォーマンス効率 適切なインスタンスタイプとストレージソリューションを選択し、負荷分散とキャッシング戦略を適用します。
コスト最適化 リソースの使用状況を監視し、コスト効率の良いリソースを選択し、不要なコストを削減します。

この要件定義は、AWS Well-Architected Frameworkを基に、クラウドインフラストラクチャの設計と運用における目標と方法を明確にし、具体的なアクションを定義するために使用されます。これにより、効果的かつ効率的なクラウド環境を構築し、ビジネスのニーズに応えることができます。

読んで頂きまして、ありがとうございました。

顧客に寄りそった要件定義とWell-Architected Frameworkを考える(1/6) 
https://qiita.com/kimuni-i/items/aff6339130f160de16af

顧客に寄りそった要件定義とWell-Architected Frameworkを考える(2/6)
https://qiita.com/kimuni-i/items/4da6a2c91a5ecdf2c526

顧客に寄りそった要件定義とWell-Architected Frameworkを考える(3/6)
https://qiita.com/kimuni-i/items/1760874d6eec96fe75d7

顧客に寄りそった要件定義とWell-Architected Frameworkを考える(4/6)
https://qiita.com/kimuni-i/items/496ae4d41c8098f32f21

顧客に寄りそった要件定義とWell-Architected Frameworkを考える(5/6)
https://qiita.com/kimuni-i/items/a893228ce1ab52d3133e

顧客に寄りそった要件定義とWell-Architected Frameworkを考える(6/6)
https://qiita.com/kimuni-i/items/8dadc65f38d06a960f1a

AWS Well-Architected アーキテクチャのベストプラクティスを使う
https://qiita.com/kimuni-i/items/9f08f382ad73a03f601d

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