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会社員が副業で米国法人(Delaware C-Corp)を作った理由 — 給与所得の限界とマイクロSaaS

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Last updated at Posted at 2026-04-19

連載: マイクロSaaS: #1 なぜ米国法人 | #2 Stripe Atlas設立 | #3 年間維持費 | #4 フランチャイズ税 | #5 アイデアの見つけ方 | #6 MVP 1週間 | #7 月$1で運用 | #8 公開後の時期

はじめに

日本企業でフルタイムで働きながら、米国デラウェア州にC-Corpを設立してSaaSを運用している。Qiitaなどを調べても日本でやっている人は多くなさそうだったので、経緯と考え方を書いておく。

この連載では、法人設立・維持費・税金・アイデアの見つけ方・MVP・ランニングコスト・公開後の運用・ポートフォリオ戦略・AI推薦時代のSEO・連邦税申告・米国法人vs日本法人の比較まで、順番にカバーしていく。

給与所得の限界

会社員の給与には天井がある。正確に言えば、額面は上がっても手取りの伸びが鈍化していく。

日本の累進課税と社会保険料を合わせると、額面と手取りの関係はこうなる。以下は一般的な目安として引用される数値で、自分自身の年収を示すものではない。

額面年収 手取り目安 実効負担率
500万円 約400万円 約20%
800万円 約590万円 約26%
1,000万円 約700万円 約30%
1,500万円 約950万円 約37%
2,000万円 約1,200万円 約40%

テーブルを見ればわかるように、額面が上がるにつれて、追加の1円を稼ぐための労力に対するリターンがどんどん悪くなる。額面800万円から1,500万円に700万円上がっても、負担率は26%から37%に上がるので、手取りの増加は額面の増加ほどではない。

自分の場合、今の職場はまったりやれていて不満はない。ただ、ここからさらに昇進を目指して社内政治や長時間労働に時間を使うのは投資対効果が悪いと感じ始めた。出世するかどうかは会社の方針にも左右されるので、自分がコントロールできない変数が多い。

同じ時間と労力を使うなら、副業を育てる方が合理的だと判断した。給与所得は累進課税で頭打ちになるが、事業所得はスケールする。

なぜ株式投資ではないのか

副業の前に、株式投資も真剣に検討した。実際、インデックス投資は今も続けている。毎月一定額を積み立てて放置しており、これはこれで合理的な資産形成だと思っている。

ただ、個別株を副業のように扱う気にはならなかった。以前アクティブ投資をやっていた時期がある。値動きを見て、決算を読んで、売買していた。しかし結局のところ、自分ではどうしようもない世界の動きに左右される。金利が動けば株価が動くし、紛争が起きれば市場が揺れる。下がった理由を後から説明することはできるが、それは後付けの理屈であって、自分がコントロールした結果ではない。

上がれば気分がいいし下がれば落ち込むのに、自分の判断で状況を改善する手段がない。ただ耐えるか、損切りするか。この感覚が精神的に良くなかった。

SaaSであれば、自分の裁量で「これは需要がある」と思うものを作って世に出し、データを見て改善できる。売れなければLPを変える、価格を変える、ターゲットを変える、といった打ち手がある。売れた理由も売れなかった理由も比較的明快で、次のアクションにつなげやすい。自分の時間と判断が結果に直結する感覚がある。

インデックス投資は放置して増える仕組みとして継続しつつ、SaaSは自分の判断で育てる事業として別枠でやる、という二本立てにしている。

なぜSaaSなのか

副業にもいろいろあるが、SaaSを選んだ理由は消去法に近い。比較するとこうなる。

副業の種類 スケーラビリティ 固定費 時間拘束 自分との相性
ブログ・YouTube 中(PV依存) 高(常に更新)
せどり・物販 低(物理作業) 中(仕入れ) 高(発送) ×
受託開発 低(時間売り) 高(案件次第)
株式投資 中〜高 △(コントロール感なし)
SaaS 低(作った後)

SaaSは一度作れば、寝ている間も課金される。ユーザーが増えても自分の労働時間は比例して増えない。月額課金であればMRR(月次経常収益)として積み上がっていく。副業の中では最もスケールしやすい形態だと考えている。

もちろん、作っても誰も使わない可能性は高い。ただ、後述するように固定費をほぼゼロにすれば、誰も使わなくても損はしない。

結局のところ、自分の強みがある場所で戦うべきだと思っている。自分はプログラムがそこそこ書けるし、技術について普通の人よりは詳しいと自負している。一方で、せどりで利益が出る商品を見極める目利き力はないし、株の銘柄分析も素人の域を出ない。古物に詳しい人はせどりが向いているだろうし、財務分析が得意な人はアクティブ投資でも成果を出せるのかもしれない。自分の場合はそれがマイクロSaaS経営だったということである。

生成AIで何が変わったか

SaaSを個人で作ること自体は以前から可能だったが、あまり現実的ではなかった。

3年前であれば、Webアプリを一つ作るのに最低でも2〜3ヶ月はかかっていた。デザイン、フロントエンド、バックエンド、決済連携、デプロイまで全部自分でやるか、外注すれば100万円単位になる。本業の傍らでやるには重すぎた。

今は生成AIにアーキテクチャを相談し、コードを書かせ、デバッグさせ、テストさせることができる。自分がやるのは「何を作るか」の判断と最終的な品質チェックで、以前なら3ヶ月かかっていたものが1週間で形になる。外注費もゼロになった。

「アイデアはあるけど実装する時間がない」という個人開発者にとっての最大のボトルネックが消えたことで、思いついたら翌週にはMVPを公開して、ダメなら捨てて次を試す、というサイクルが回せるようになった。この速さが、SaaSを副業として現実的な選択肢に変えたと思う。

損をしない設計

基本方針として、起業を投資と同じように捉えている。時間と資金を投じてリターンを得る活動であって、世の中を変えたいとか、ビジョンがあるとか、そういう話ではない。大学生の頃はスティーブ・ジョブズに憧れて起業する人が周りにもいたが、自分はそういう価値観を抜きにして淡々とやることにした。必要だけど存在していないものを作って、広告して、誰かがお金を払ってくれたら成功。それを繰り返す。

その上で最も大事にしているのは、損をしない設計にすることである。

「これは絶対儲かる」と確信して数百万円を投じた結果、爆死する。起業の失敗談としてよく聞くパターンだが、これを絶対に避けたい。そのために月々のランニングコストをほぼゼロにしている。

今、事業にかかっている費用の内訳はこうなっている。

費目 月額
GCP(認証・データベース) 約¥1,000
ドメイン(3つ) 約¥500(年額を月割)
サーバー ¥0(自宅サーバー)
開発ツール ¥0
広告費 ¥0

合計で月1,500円程度。飲み会1回の半分で、積立投資が1日で動く変動幅よりも小さい。この金額であれば、1年間ユーザーがゼロでも精神的にまったく問題ない。

大して儲かっていなくても維持費がかからないから続けられる。続けている間にSEOで検索順位が上がって、じわじわとユーザーが増えるかもしれない。この「焦らなくていい構造」が精神衛生上とても重要で、毎月数万円が口座から消えて何の進展もないという状況に耐えられるほど自分はお金持ちでもないし、肝も据わっていない。精神的に追い詰められて変な判断をしないこと、それが一番大事だということは株式投資の経験から学んだ。

会社員を辞めない理由

副業でSaaSをやるなら会社を辞めてフルコミットした方がいいのでは、と思う人もいるかもしれないが、自分はそうは思わない。

会社員であることの最大の利点は、毎月安定した収入があることである。当たり前のように聞こえるが、これが「損をしない設計」の土台になっている。生活費は給与で賄えるから、事業の売上がゼロでも生活に困らない。だから焦らないし、焦らないから冷静な判断ができる。

会社を辞めて事業一本にすると、生活費を事業から捻出しなければならなくなる。売上が立たなければ貯金を切り崩すことになり、精神的なプレッシャーが跳ね上がる。「今月中に売上を立てないとまずい」という焦りから、値下げしたりを博打に出たりなど判断が歪む。

会社員と副業SaaSの組み合わせは、安定と挑戦のバランスが良い。本業で生活を安定させつつ、副業でリスクの小さい実験を繰り返す。うまくいけばスケールさせるし、うまくいかなければ畳んで次を試す。どちらに転んでも生活は破綻しない。

何を目指しているのか

願わくば、数億円で売却できるような事業を育てたいと思っている。
より現実的には、毎月10万円くらいの事業所得を得て、それを投資や事業拡大に回すことで蓄財を加速させたい。事業所得は給与所得と違って経費を使えるので、同じ金額でも手元に残る割合が違う。

幸い良い仕事に恵まれていて、今の生活に不満があるわけではない。ただ、数億円の資産を手にしたら何が見えるのかということには興味がある。毎年の投資リターンだけで生活ができて、資産が勝手に膨れ上がっていく状態になったら、お金というものの自分の中での価値は変わるのだろうか。その過程を経験してみたいと思っている。

運用しているサービス

こうした考えのもと、Stripe Atlasで米国法人を設立し、以下のマイクロSaaSを開発・運用している。

  • incnumber.com — 米国法人向けの電話番号維持サービス。月 $7 で、OpenPhone(現Quo)Starter $19/月の3分の1強。SMS はメールに転送、電話は自動でテキスト誘導するので英語を話す必要がない。
  • faxchat.app — 米国・国際向けのオンライン FAX。Pro プラン月 $12(送信 200 + 受信 300 ページ)は eFax 月額 $19.95 の約6割。サブスクが嫌なら登録不要・1回 $1.50 + $0.30/ページの都度課金も使える。
  • quickfaxjp.com — 日本国内向けのオンライン FAX 送信サービス。月額なし、1枚 ¥300 から、登録不要。コンビニまで行かずスマホからそのまま送れる。

全部、自宅サーバー1台で動かしていて、追加コストはアプリごとのドメイン代だけである。この連載では、法人設立からサービス開発、値付け、運用に至るまでの経験を、技術詳細ではなく「どう考えて何を判断したか」を中心に書いていく。


連載: マイクロSaaS: #1 なぜ米国法人 | #2 Stripe Atlas設立 | #3 年間維持費 | #4 フランチャイズ税 | #5 アイデアの見つけ方 | #6 MVP 1週間 | #7 月$1で運用 | #8 公開後の時期

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