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マイクロSaaSのアイデアをどう見つけているか — 「一点突破」で競合と戦う

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Last updated at Posted at 2026-04-24

連載: マイクロSaaS: #1 なぜ米国法人 | #2 Stripe Atlas設立 | #3 年間維持費 | #4 フランチャイズ税 | #5 アイデアの見つけ方 | #6 MVP 1週間 | #7 月$1で運用 | #8 公開後の時期

アイデアの見つけ方 — 「まだFAX使ってるの?」から始まった

前回まで、米国法人の設立・維持費・税金について書いてきた。器の話はこれで終わりで、ここからは中身の話に入る。何を作るか、どうやってアイデアを見つけたかについて書く。

従来の「正しいやり方」

スタートアップの教科書的には、こういう手順が推奨されている。

  1. 市場調査をする
  2. まずはLPだけ作って、会員登録やウェイトリストで需要を検証する
  3. 需要が確認できたらMVPを作る
  4. ユーザーの反応を見ながら本格的に開発する

開発にかかるコストと時間が大きいため、本当に売れるのかを慎重に確かめた上で開発を開始するという方針である。理にかなっている。

ただ、生成AIで開発が爆速化した現在、必ずしもこのプロセスを経る必要はないと感じている。LPを作ってウェイトリストを集めて……という検証をしている間に、もう動くものが作れてしまう。

自分のやり方

自分の手順はもっとシンプルである。

  1. 市場調査をする。競合を徹底的に調べる
  2. 競合に対して、一点でも明確な強みが見つかるか考える
  3. 見つかったなら、MVPと言わず、ちゃんと動くものを作って公開する

一番よくないのは、すでにあるアプリの下位互換を作ってしまうことである。競合調査は十分に行うべきで、ここは手を抜かない。

一方で、すべての観点で既存のアプリに勝てることは稀である。実用上は「ある一点において優っている」ということが明快にアピールできるなら、とりあえず作ってしまえばいいと思っている。既存のアプリよりもかなり安く同じ機能を提供できる、とか、もっと使いやすいUIを思いついた、とか。そういう一点があれば十分である。

一点突破の具体例

手前味噌で恐縮だが、自分の開発したアプリで一番筋がいいと思っているのは incnumber.com である。米国の電話番号を月$7で保持できるサービスで、#3で書いた「OpenPhoneが高すぎる」という不満から作ったものである。

OpenPhone(現Quo)はあらゆる点で自分のアプリより優れている。通話もできるし、UIも洗練されているし、チーム機能もある。正面から勝負したら勝ち目はない。

ただ、自分が狙っているのはそういうユーザーではない。「Stripe Atlasで法人を作ったから形式上の米国電話番号が欲しい。英語は喋れないから電話がかかってきたら怖い。SMSが来たら確認はしたい。なるべく安く。」という層である。この人たちにとって、OpenPhoneの通話機能やチーム機能は不要で、Starter $19/月は高すぎる。

そこで通話以外の機能を全部削ぎ落として、SMSをメールに転送し、電話は自動でテキスト誘導するだけのサービスを月$7で提供している。OpenPhoneと比べたら機能は貧弱だが、「OpenPhoneの3分の1強の価格」「英語を話す必要がない」という二点で勝っている。その二点がちょうど欲しかったという人に届けば、購入につながる。

個人開発者の構造的な優位性

大手の会社が同じことをやろうとすると、1つの事業を維持する管理コストが非常に大きい。サイトの文言を1つ変更するにも上長の承認が必要で、その承認する上長の年収が1,000万円だったりする。だから1つのサービスを作るからには、かなり儲けないと採算が合わない。ニッチすぎる市場には参入できない。

個人開発の場合、維持費をとにかく切り詰めているので、売れるかどうかもよくわからないニッチなものをたくさん作れる。売れなくても1年2年放置できる。会社の維持費のほとんどは税金等の固定費用であって、アプリ1つ追加するコストはドメイン代と若干のGCP使用料を合わせて年間2,000円程度である。この構造的な優位性が個人開発者にはある。

「自分が困っていること」を過信しない

アイデアの出発点として「自分が困っていること」がよく挙げられるし、自分もFAXやOpenPhoneの話をそう書いてきた。ただ、自分はこれを必ずしも重要視していない。

自分語りになるが、昔からミーハーなものが嫌いで、みんなが左と言えば自分は右という天邪鬼な人間である。この癖がいまだに抜けきっていないので、自分が欲しがるものを大勢が欲しがっているとはあまり思えない。

一方で、もし「自分はミーハーで、昔から周りに流されて生きてきた。だから自分が欲しいものは大勢が欲しいものだという自覚がある」という人がいたとしたら、その人はそもそもマイクロSaaSを米国法人で運営しようなどとは考えないのではないだろうか。こんなニッチな連載を読んでいる時点で、読者は多少なりとも自分と似た性質の持ち主だと思う。であれば、自分の好みを市場全体の需要と混同しないように注意した方がいい。

それに、自分の困りごとや好みが出発点になると、つい熱くなってしまう。「これは絶対売れる」「こんな機能みんなも欲しいはず」と思い込んで、客観的な判断ができなくなりがちである。#1で書いた「損をしない設計」の精神に反する。

それよりもクールに、「へえ、こういうのが欲しいんだ。いいよ、作るよ」くらいの温度感で、1つ1つのアプリにはそれほど熱を上げずにさっさと作っていく方がうまくいきそうだと思っている。自分が困っていなくても、他の人の困りごとを解消すればそれでいい。

検索需要を調べる

アイデアを思いついたら、同じことで困っている人がどれくらいいるのかを調べる。自分が使っているのはGoogle検索のサジェストとGoogle Trendsである。

例えばFAXの場合、「コンビニ FAX 料金」「スマホから FAX」「FAX 送付状 書き方」といったキーワードに一定の検索ボリュームがあることがわかった。FAXを送りたい人は確実に存在していて、その人たちはGoogleで解決策を探している。この検索需要があるということは、SEOで記事を書けば広告費をかけずに自然流入が見込めるということでもある。

アイデアの記録

思いついたアイデアはすぐにメモしている。スマホのメモでもNotionでも何でもいいが、とにかく書き留めておく。「今度やろう」と思って忘れるのが一番もったいない。

思いついた時点では実現するかどうかは考えない。まず書き留めて、後から以下のチェックリストで評価する。

チェック項目 基準
競合に一点でも勝てるか? 勝てる点がなければ却下
検索需要があるか? サジェストやTrendsで確認
APIで完結するか? 物理作業や営業が必要なら却下
収益化できるか? 課金の仕組みが明確か
法的リスクはないか? スクレイピング禁止、個人情報等

このプロセスを繰り返した結果、ストックされたアイデアが20個以上になった。

運用しているサービス

この基準で「作る価値あり」と判断して実装まで至ったマイクロSaaSは以下の通り。

  • incnumber.com — 米国法人向けの電話番号維持サービス。月 $7 で、OpenPhone(現Quo)Starter $19/月の3分の1強。SMS はメールに転送、電話は自動でテキスト誘導するので英語を話す必要がない。
  • faxchat.app — 米国・国際向けのオンライン FAX。Pro プラン月 $12(送信 200 + 受信 300 ページ)は eFax 月額 $19.95 の約6割。サブスクが嫌なら登録不要・1回 $1.50 + $0.30/ページの都度課金も使える。
  • quickfaxjp.com — 日本国内向けのオンライン FAX 送信サービス。月額なし、1枚 ¥300 から、登録不要。コンビニまで行かずスマホからそのまま送れる。

全部、自宅サーバー1台で動かしていて、追加コストはアプリごとのドメイン代だけである。


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