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米国法人を1年間運営するのに実際にかかっている維持費と使っているサービス

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Last updated at Posted at 2026-04-21

連載: マイクロSaaS: #1 なぜ米国法人 | #2 Stripe Atlas設立 | #3 年間維持費 | #4 フランチャイズ税 | #5 アイデアの見つけ方 | #6 MVP 1週間 | #7 月$1で運用 | #8 公開後の時期

米国法人の維持費と使っているサービスの全体像

前回、Stripe Atlasで会社を設立した経験を書いた。会社は簡単に作れるが、作った後にも維持費がかかる。今回は、米国法人を1年間運営するのに実際にいくらかかっているのか、何のサービスを使っているのかを書く。

年間維持費の全体像

まず結論から書くと、自分の米国法人の年間維持費はこうなっている。

費目 年額 備考
デラウェア州フランチャイズ税 $400(約6万円) 売上に関係なく毎年必要
Registered Agent 約$100(約1.5万円) 法的書類の受取代行
連邦法人税申告(Form 1120) $0〜数百ドル 売上が少なければ税額はほぼ0。申告自体は必要
Stripe Atlas 年会費 $0 初回の$500のみ。年会費はない
Mercury 銀行口座 $0 口座維持手数料なし
ドメイン(3つ) 約$40(約6,000円) .com × 3
GCP(Firebase等) 約$80(約12,000円) 月$7程度

合計すると、年間で約$620、日本円にして約9〜10万円程度である。月に換算すると約8,000円。

会社を維持するだけで年間9万円が出ていくと聞くと高く感じるかもしれないが、日本の合同会社でも住民税の均等割だけで年間7万円はかかるので、大きな差はない。そして、この費用のうち大部分はフランチャイズ税とRegistered Agentで、これは売上がゼロでもかかる固定費である。逆に言えば、売上が伸びても維持費はほとんど変わらない。

使っているサービス

法人の維持とSaaS運営のために使っているサービスを一覧にしておく。

Stripe(決済)

本業。SaaSの決済はすべてStripe経由で処理している。手数料は決済額の2.9% + 30セント。売上がなければ手数料も0なので、固定費はかからない。

ダッシュボードから売上の確認、返金処理、顧客管理まで全部できる。APIの設計も良く、決済機能の実装はStripeのおかげで想像以上に簡単だった。この話は別の回で書く。

Mercury(銀行口座)

前回も触れたが、米国のオンラインバンク。口座維持手数料は無料。日本から問題なく操作できる。Stripeの売上はここに入金される。

税金の支払い(フランチャイズ税、連邦税)もMercuryから送金している。国際送金にも対応しているので、日本の口座にドルを送ることもできる。ただし、為替手数料と着金までの日数を考えると、頻繁に送金するものではない。必要なときにまとめて送る程度にしている。

GCP / Firebase(認証・データベース)

ユーザー認証にFirebase Authentication、データベースにFirestoreを使っているサービスがある。無料枠が大きいので、ユーザー数が少ない段階ではほとんど費用がかからない。月$7程度。

ユーザーが数千人規模になれば費用も増えるが、その頃には売上も立っているはずなので、問題にはならないと考えている。

Cloudflare(DNS・トンネル)

ドメインのDNS管理と、自宅サーバーへのトンネル接続に使っている。無料プランで十分足りている。Cloudflare Tunnelのおかげで、自宅のサーバーを固定IPなしでインターネットに公開できている。この仕組みについてはランニングコストの回で詳しく書く。

Sentry(エラー監視)

アプリケーションのエラーを自動で検知・通知してくれるサービス。無料プランで月5,000イベントまで対応しており、マイクロSaaSの規模では十分すぎる。

ユーザーがエラーに遭遇したら、自分のメールに通知が届く。一人で複数サービスを運用する上で、Sentryがないと何が起きているかわからなくなるので、必須のサービスである。

Google Analytics(アクセス解析)

各サービスのアクセス状況を把握するために使っている。無料。ユーザーがどのページを見ているか、どこから来ているか、どこで離脱しているかがわかる。

Google Search Console(検索パフォーマンス)

Googleの検索結果にどのように表示されているか、どんなキーワードでインプレッションが出ているかを確認するためのツール。無料。SEOで集客する上では必須。

Stripe Atlasのおすすめを鵜呑みにしない

Stripe Atlasは法人設立後に各種サービスを紹介してくれるが、ここは注意が必要である。Atlasが紹介するサービスは、必ずしもユーザーにとって最適なものではなく、Stripeがパートナー企業から紹介手数料を受け取る構造になっていると思われる。

自分が実際に失敗した例を2つ挙げる。

OpenPhone(現Quo)— 月$19の無駄遣い

米国法人には米国の電話番号があった方がいいと考えて、Atlas経由で紹介されたOpenPhone(現在はQuoに改称)を契約した。Starterプランで月$19(年払いなら$15)。しかし契約してから1年以上、着信もSMSも一度も来なかった。月$19は大きな金額ではないが、「一回も使わないサービスに毎月課金されている」という状態は精神的に気持ち悪い。結局解約して、もっと安い方法に切り替えた。

Google Workspace — プラン変更の罠

Atlas経由でGoogle Workspaceを契約すると「3ヶ月間○○%OFF」のような特典が付いてくる。お得に見えるのだが、問題はStarter・Standard・Plusの3プランのうち、真ん中のStandardで契約させられることである。個人で使うならStarterで十分なのに、割引に釣られて不必要に高いプランで始めてしまった。

さらに厄介なことに、無料期間終了後にプランを変更しようとするとカスタマーサポートをたらい回しにされる。できないわけではないのだろうが、面倒で放置してしまいがちである。

あまりにもったいなかったので、自分で米国のVoIP番号を取得・管理するサービスを作った。SMSをメールに転送し、電話は自動でテキスト誘導するだけのシンプルなもので、月$7で米国電話番号を維持できる。$19から$7になったので、年間$144(約2.2万円)浮いた計算になる。

このサービスは incnumber.com として公開しているので、同じ悩みを持っている人は使ってみてほしい。Stripe Atlasで法人を作ったが米国の電話番号をどうするか困っている、という人は意外と多いのではないかと思う。

教訓としては、Atlasが紹介してくるサービスはあくまでアフィリエイトだと認識して、おすすめされるがままに契約するのではなく、自分で安いものを探すべきである。紹介されるもの全てが悪いわけではないが、「Atlasが勧めているから良いものだろう」とは思わない方がいい。自分の場合は、高すぎると感じたサービスを自分で作り直すところまでやったが、探せばもっと安い既存サービスが見つかることも多い。

使っていないもの

逆に、現在使っていないものも書いておく。

AWS / Vercel(ホスティング)

自宅にサーバーがあるので、AWSやVercelのようなクラウドホスティングは使っていない。これだけで月数千円〜数万円の節約になっている。自宅サーバーの電気代はかかるが、もともと別の用途で動かしているサーバーなので、追加コストはほぼゼロである。

広告(Google Ads等)

広告は一切出していない。集客はSEO(検索エンジン最適化)のみ。ガイド記事を書いて、検索で見つけてもらう戦略を取っている。広告費をかけ始めると月々の固定費が跳ね上がるので、少なくとも事業が軌道に乗るまでは使わない方針にしている。

税理士

現時点では税理士を雇っていない。フランチャイズ税の申告はオンラインで自分でやっているし、連邦税の申告もStripe Atlasが提供するガイドに沿って処理している。売上が大きくなってきたら税理士を検討するが、今の規模では不要だと判断している。

まとめ

米国法人の年間維持費は約9〜10万円。そのうち約7.5万円がフランチャイズ税とRegistered Agentで、これは売上に関係なくかかる固定費である。それ以外のサービスは無料か無料枠の範囲で収まっている。

#1で「損をしない設計にする」と書いたが、この維持費の構造がまさにそれである。月8,000円なら、売上がゼロでも1年は余裕で続けられる。精神的に追い詰められることもない。

考え方としては、つみたてNISAで月1万円を積み立てる代わりに、月1万円で事業を運営していると捉えている。NISAであれば投資額が2倍になれば御の字だが、事業は数百倍、数千倍になる可能性を秘めている。仮に売上が立たずに3年で撤退したとしても、損失は36万円である。個別株で同程度の損失を出すことは珍しくないし、3年間の事業経験という形で残るものもある。そう考えると、マイクロSaaSへの月1万円は悪くない投資だと思っている。

運用しているサービス

この維持費構造で実際に運用しているマイクロSaaSは以下の通り。

  • incnumber.com — 米国法人向けの電話番号維持サービス。月 $7 で、OpenPhone(現Quo)Starter $19/月の3分の1強。SMS はメールに転送、電話は自動でテキスト誘導するので英語を話す必要がない。
  • faxchat.app — 米国・国際向けのオンライン FAX。Pro プラン月 $12(送信 200 + 受信 300 ページ)は eFax 月額 $19.95 の約6割。サブスクが嫌なら登録不要・1回 $1.50 + $0.30/ページの都度課金も使える。
  • quickfaxjp.com — 日本国内向けのオンライン FAX 送信サービス。月額なし、1枚 ¥300 から、登録不要。コンビニまで行かずスマホからそのまま送れる。

全部、自宅サーバー1台で動かしていて、追加コストはアプリごとのドメイン代だけである。


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