連載: マイクロSaaS: #1 なぜ米国法人 | #2 Stripe Atlas設立 | #3 年間維持費 | #4 フランチャイズ税 | #5 アイデアの見つけ方 | #6 MVP 1週間 | #7 月$1で運用
米国法人の税金で人生終了しかけた話
前回、米国法人の年間維持費について書いた。今回は税金の話をする。デラウェア州のフランチャイズ税で数百万円の請求が来て人生終了しかけた経験と、実際にはどう対処したかを書く。
米国法人にかかる税金の種類
米国法人にかかる主な税金は2つある。
1. デラウェア州フランチャイズ税(Franchise Tax)
法人が存在しているだけで毎年かかる税金。売上や利益に関係なく、法人を維持する対価として州に支払う。日本の法人住民税の均等割に近い。
2. 連邦法人税(Federal Corporate Income Tax)
法人の利益に対してかかる税金。利益が出ていなければ税額はゼロだが、申告自体は毎年必要になる(Form 1120)。
売上税(Sales Tax)もあるが、SaaSに対する課税ルールは州ごとに異なり、デラウェア州は売上税を課さない州なので、今のところ自分には関係していない。
フランチャイズ税で人生終了しかけた
フランチャイズ税の支払い時期が来て、デラウェア州の税務サイトにアクセスした。法人のファイルナンバーを入力してログインし、支払いページを開いたところ、表示された金額を見て血の気が引いた。
数百万円だった。
マイクロSaaSの売上は数百ドルしかないのに、税金が数十万ドル。画面の表示が間違っているのではないかと何度も確認したが、金額は変わらない。
しばらく呆然とした後、冷静に調べてみると、これにはカラクリがあった。
2つの計算方法
デラウェア州のフランチャイズ税には、2つの計算方法がある。
1. Authorized Shares Method(授権株式数法)
発行可能株式数に基づいて計算する方法。計算式は、5,000株までは$175、以降5,000株ごとに$85が加算される。Stripe Atlasで設立するとデフォルトで10,000,000株(1千万株)の授権株式数が設定されるので、この方法で計算すると税額は約$170,000(約2,500万円)になる。
2. Assumed Par Value Capital Method(みなし額面資本法)
会社の総資産と発行済み株式数に基づいて計算する方法。資産が少ない小規模企業であれば、こちらの方法で計算すると税額は最低額の$400になる。
デフォルトでは1の方法で計算されるため、何も知らずに通知を受け取ると巨額の請求が来る。しかし申告時に2の方法を選択すれば、自分のような小規模法人は$400で済む。
実際の申告手順
デラウェア州のフランチャイズ税は、毎年3月1日が期限である(暦年の法人の場合)。申告はデラウェア州のウェブサイトからオンラインで行う。
手順としては以下の通りである。
- デラウェア州の税務サイトにアクセスする
- 法人のファイルナンバーを入力してログインする
- 計算方法で「Assumed Par Value Capital Method」を選択する
- 総資産額(Total Gross Assets)を入力する。自分の場合は銀行口座の残高程度なので数千ドル
- 発行済み株式数を入力する
- 税額が$400と表示されることを確認する
- クレジットカードまたは銀行振込で支払う
最初に数百万円と表示されていても、正しい計算方法で申告し直せば$400になる。ただし期限を過ぎると延滞金が加算されるので、3月1日は必ず覚えておく必要がある。
期限を過ぎるとどうなるか
延滞金がかかるだけなら数十ドルの話で済むが、本当に怖いのは法人のステータスが「Good Standing」ではなくなることである。
Good Standingとは、その法人が税金や届出をきちんと納めており、州から見て正常な状態にあるという証明である。フランチャイズ税を滞納すると、デラウェア州はこのGood Standingを取り消す。
Good Standingを失うと何が起きるかというと、銀行口座の凍結、Stripeアカウントの停止、契約の無効化といったリスクが出てくる。銀行やStripeは定期的に法人のステータスを確認しており、Good Standingでない法人との取引を停止する場合がある。つまり、フランチャイズ税を払い忘れただけで事業が止まる可能性がある。
Good Standingの回復には、滞納分の税金と延滞金を全額支払った上で、州に復活申請を行う必要がある。手続き自体は可能だが、余計な手間と費用がかかるので、そもそも期限を守ることが最善である。
日本で個人事業主をやっていた人は、確定申告で若干の税金を払う程度の感覚でいるかもしれない。日本の確定申告は期限を少し過ぎても延滞税が少しかかるだけで、事業が止まるようなことにはならない。しかし米国のフランチャイズ税は、滞納するとGood Standingという法人の存在そのものに関わるステータスに影響する。実際にどれくらいの速さと正確さでGood Standingが取り消されるかは定かではないが、日本の感覚で「まあ少し遅れても大丈夫だろう」と考えるのは危険である。
連邦法人税の申告
連邦法人税はIRS(内国歳入庁)に対してForm 1120で申告する。こちらは利益に対して課税されるので、利益がなければ税額はゼロである。ただし、税額がゼロでも申告自体は毎年必要になる。
申告期限は会計年度終了後の4月15日(暦年の場合)。延長申請をすれば10月15日まで延長できる。
自分の場合、売上が小さい段階ではStripe Atlasのダッシュボードに表示されるガイドに沿って自分で申告している。申告ソフトとしてはいくつか選択肢があるが、この規模であれば自力で対応可能である。売上が大きくなってきたら、米国の税務に詳しいCPAに依頼することを検討するつもりである。
日本側の税務
米国法人の所得は、日本の個人所得とは別の扱いになる。ただし、米国法人から自分に給与や配当を出す場合は、日本で確定申告が必要になる。また、海外に一定額以上の資産がある場合は「国外財産調書」の提出義務がある。
この辺りは税制が複雑で、自分もまだ完全に理解しきれていない。現時点では、米国法人の利益を日本に還流させずに法人内に留保しているので、日本側での申告は最小限で済んでいる。売上が大きくなった段階で、日米両方の税務に詳しい専門家に相談するつもりである。
この話の教訓
デラウェア州のフランチャイズ税で学んだことは2つある。
1つ目は、通知が来ても慌てないこと。デフォルトの計算方法で巨額の請求が来るのは仕様であって、バグではない。正しい計算方法を選べば$400になる。これを知っているかどうかで精神的なダメージがまったく違う。
2つ目は、期限を絶対に忘れないこと。フランチャイズ税の期限は毎年3月1日で、遅れると延滞金が加算される。Stripe Atlasに登録しているメールアドレス宛に、税金関連のイベントの通知が届くので、基本的にはそれを読んで対応すればよい。英語のメールが届くが、今時はChatGPTに文章を突っ込めば翻訳も解説もしてくれるので、英語が読めなくても恐れる必要はない。自分もAtlasからのメールは毎回AIに投げて、何をいつまでにやる必要があるのかを確認している。
Stripe Atlasで法人を作ろうとしている人は、この2点だけは頭に入れておいてほしい。フランチャイズ税の存在自体は#3の維持費の記事でも触れたが、初めて支払いページを開いたときの衝撃は忘れられない。
次回は、どうやってサービスのアイデアを見つけたかについて書く。
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