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背景と目的
文明が永く続くポイントは、"挑戦"と"応答"の関係だった。
社会に潜む周期を整理し、文明が永く続くポイントとの接続を考える。
1. 社会と周期
1.1. 仕事と周期
仕事は、為事(しごと)が原型と言われている。
"事を為す"ということは、困りごとなどの挑戦に対する"応答の行為そのもの"になる。
a 伊勢神宮の式年遷宮
伊勢神宮の正殿などは20年に一度、現在の建物の隣(東→西→東)に宮を遷す(うつす)。
直近では2013年に62回目の遷宮が実施された。
式年遷宮する思想は、"常若(とこわか)"としてを示している。
"常若(とこわか)"の意味は、常に新しく、常に変わらない姿を保つこととしている。
b 現代住宅の耐用年数
建物構造 | 法定耐用年数(年) |
---|---|
木造・合成樹脂造 | 22年 |
木骨モルタル造 | 20年 |
軽量鉄骨造(骨格材3mm以下) | 19年 |
軽量鉄骨造(骨格材3〜4mm未満) | 27年 |
重量鉄骨造(骨格材4mm超) | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
法的な基準のため、確実に構造体が機能する期間を示している。
実際の木造住宅は、100年を超えるものもある。
c 人の世代と建物
人の世代の"主となる期間"を、30~40年としたとき、
20年周期の場合、2回~3回程度仕事に関われる。
40年周期の場合、1回~2回仕事に関われない。
新人の頃に1回、玄人の頃に1回の関われると、善い仕事が為されると思われる。
1.2. 天災と周期
日本の主な天災(1600年以降)
年 | 内容 | 規模・被害 (M7.9以上:太字) |
---|---|---|
1707年 | 宝永地震+富士山噴火(宝永噴火) | M8.6、富士山噴火、広域被害 |
1792年 | 雲仙岳・島原大変 | 地震+噴火+津波、死者1万5000人以上 |
1854年 | 安政東海地震・安政南海地震 | M8.4連動型巨大地震、広域津波 |
1891年 | 濃尾地震 | M8.0、死者7000人以上 |
1896年 | 明治三陸地震・津波 | M8.5、死者2万人以上 |
1923年 | 関東大震災 | M7.9、死者10万人以上 |
1934年 | 室戸台風 | 死者2702人 |
1944年 | 昭和東南海地震 | M7.9、死者1223人 |
1946年 | 昭和南海地震 | M8.0、死者1330人 |
1954年 | 洞爺丸台風 | 死者1361人 |
1959年 | 伊勢湾台風 | 死者4697人 |
1995年 | 阪神・淡路大震災 | M7.3、死者6434人 |
2003年 | 十勝沖地震 | M8.2、津波発生、死者2人 |
2011年 | 東日本大震災 | M9.0、死者・行方不明者2万人以上 |
2016年 | 熊本地震 | M7.3、死者273人 |
2018年 | 平成30年7月豪雨 | 死者237人 |
2024年 | 能登半島地震 | 死者245人 |
日本圏内では、M(マグニチュード)8.0以上の地震が50年に1回ほどの間隔で発生している。
(1854,1891,1896,1946,2011)
M7.9以上の場合、20年に1回ほどの間隔で発生している。
(1896,1923,1944,1946,1968,2003,2011)
南海トラフ地震と言われているものは、1707→1854(147)→1944/1946(90)→xと
100~150年間隔で発生しており、警戒されている。
日本人の記憶に地震は刻まれているが、100年周期のものは記録にあるが、
4世代以上をまたぐため、体系的な知識にはなりにくい。
1.3. 会社と周期
会社とは何か?
日本では会社法により「営利を目的とする社団法人」と定義できる。
日本最古の会社
西暦578年創業の金剛組、西暦587年創業の池坊華道会が圧倒的な歴史を誇る。
金剛組は2006年に経営破綻しており、名前は残っているが、池坊華道会が最古の会社とも言える。
(創業が史実として正しいかは不明ではある)
ちなみに池坊の家元は、現在45世である。
2024-587=1437年, 1437÷45=31.9[年/代]。
平均すると1代の期間は、約32年である。
100年以上続く会社が世界に70000以上ある中、日本に40%以上があるとのこと。
下図周年事業ラボより
長寿な会社が持つ特徴
要因 | 内容 | 補足 |
---|---|---|
🪵 不易流行 | 変わらない「理念」と、変化する「戦略」の両立 | 例:虎屋の「おいしい和菓子を届ける」という使命とカフェ展開 |
🎯 明確な使命 | 独自の存在意義が言語化され、世代を超えて共有されている | 経営理念が「記憶の軸」として機能 |
🧠 学び続ける姿勢 | 成長意欲と知的柔軟性を持ち、時代に応じて変化する | 変化を恐れず、挑戦を続ける |
🧍♂️ 人を大切にする | 従業員との信頼関係、働きやすい環境の整備 | モチベーションと文化の継承 |
🧱 堅実な経営 | 無理な拡大を避け、身の丈に合った事業運営 | 品質重視・リスク管理 |
🏘 地域・社会との共生 | 地域貢献・文化継承・社会的責任を果たす | 地域に根ざした信頼の蓄積 |
🧭 継承の仕組み | 後継者育成と理念の伝達が制度化されている | 「三代目が会社を潰す」問題への対策 |
いくつか例を見ると3代目に危機が起きやすい。
永く続く会社には、家訓(社訓)があり、会社が行うべき物事の本末を示している。
まさに利休が詠む"本を忘るな"である。
規矩作法(きくさほう) 守り尽くして 破るとも
離るるとても 本を忘るな
『利休道歌』
本(幹)ではなく、末(枝葉)に力をいれてしまうことで、
その会社が持っていた"挑戦"と”応答”の関係が歪んでいくのだろう。
1.4. 学校と周期
教育機関としての学校を見ていく。
最古の大学
現存する最古の大学は、モロッコのフェズ(アル=ファース)にある”カラウィーイーン大学”らしい。
859年に建設。現在はモロッコの国立大学に組み込まれている。
ヨーロッパの古代大学一覧
大学名 | 創設年 | 国 | 備考 |
---|---|---|---|
ボローニャ大学 | 1088年 | イタリア | ヨーロッパ最古の現存大学。法学中心 |
オックスフォード大学 | 1096年頃 | イギリス | 世界的名門。創設年は諸説あり |
サラマンカ大学 | 1134年 | スペイン | スペイン最古の現存大学 |
パリ大学(ソルボンヌ) | 1150年頃 | フランス | 中世ヨーロッパの学問の中心。現在は分割大学群 |
ケンブリッジ大学 | 1209年 | イギリス | オックスフォードから分離した学者によって創設 |
パドヴァ大学 | 1222年 | イタリア | 医学・哲学で革新をもたらした大学 |
ハイデルベルク大学 | 1386年 | ドイツ | ドイツ最古の大学。神聖ローマ帝国時代に設立 |
ヨーロッパでは12~13世紀に、都市単位で自治権を獲得し、ギルドとしての大学が形成された。
🏛️ 日本における最古の学校制度・教育機関
創設年 | 名称 | 概要・備考 |
---|---|---|
701年(大宝元年) | 大学・国学 | 律令制下で設置された官立の教育機関。貴族子弟向けの高等教育。日本最古の学校制度とされる |
828年(天長5年) | 綜藝種智院(空海創設) | 庶民教育を目的とした学校。仏教と儒教を融合した教育。後に閉鎖 |
1592年 | 世田谷学園中学校(学寮) | 現存する中学校の起源として最古。曹洞宗の寺院教育から発展 |
1618年 | 米沢興譲館(藩校) | 山形藩の藩校として創設。現・米沢興譲館高校 |
江戸時代(17世紀〜) | 昌平坂学問所・藩校・寺子屋 | 武士・庶民向けの教育機関。藩校は約270校、寺子屋は数万校に及ぶ |
周期に関係するもの
教育機関の周期は、その基礎となる文化が大きく変わることにより変化する。
イスラム教のモロッコは、イスラム帝国が8世紀に制圧されてから基本的に変化がない。
そのため、教育対象が大きく変わらず残り続けた。
"挑戦"に変化があったとしても、適切に"応答"し続けることができたともいえる。
日本においては、江戸時代(17世紀)に朱子学が"正学"して採用され、基礎となる対象となった。
また、1632年に仏教の本山末寺制度が制定され、そこで認められた宗派の教育機関が最古となっている。
教育機関の勃興にはcycleとしての周期性はなく、periodとしての期間での関係がみられる.
1.5. 地域と周期
ある地域で起こる周期的な変化を見てみる。
a 祭り
日本での多くの祭りは1年に一回開催される。
一部の祭りは式年祭として1年以上の周期を持つものもある。
b 人の定着と移動(転出、転入)
🏡 人が定着する主な理由
分類 | 定着理由の具体例 | 背景・補足説明 |
---|---|---|
🏛 制度的要因 | 公営住宅・持ち家・地縁的土地所有 | 住居の安定が移動コストを高め、定着を促進 |
🏫 教育・子育て | 学区の安定・保育園・学校への信頼 | 子どもの教育環境を重視し、地域との関係が深まる |
💼 雇用・経済 | 地元企業への就職・自営業・農業従事 | 職場が地域に根差していることで移動の必要性が低下 |
👨👩👧👦 家族・親族 | 親の介護・親族との同居・地元婚 | 血縁・地縁による生活圏の維持 |
🧘♂️ ライフスタイル | 自然環境・地域文化への共感・趣味の充実 | 自発的な価値観による定着(例:田舎暮らし、地域活動) |
🏘 地域共同体 | 町内会・自治会・祭り・伝統行事への参加 | 共同体への帰属意識が定着を強化 |
🧭 象徴的要因 | 「故郷」意識・記憶の蓄積・アイデンティティ | 地域に対する感情的・記憶的な結びつき |
🛡 安全・安心 | 治安の良さ・災害リスクの低さ | 安定した生活環境が長期的な居住を促す |
🏥 社会資源 | 医療・福祉・交通インフラの充実 | 高齢者や子育て世代にとっての生活基盤 |
🚪 人が転出・転入する主なタイミング
タイミング分類 | 具体的な時期・状況 | 背景・制度的要因 |
---|---|---|
🎓 教育関連 | 進学(大学・専門学校)・卒業 | 春(3〜4月)に集中。住民票の移動が必要 |
💼 就職・転勤 | 新卒就職・異動・転職 | 春・秋に多く、企業の人事異動と連動 |
🏠 住宅事情 | 結婚・離婚・家購入・建て替え | ライフステージの変化に伴う住居変更 |
👨👩👧👦 家族構成変化 | 出産・介護・同居・別居 | 子育てや高齢者支援のための移動 |
🌍 国際移動 | 海外赴任・帰国・留学 | 長期滞在の場合は「海外転出届」が必要 |
🏫 学区変更 | 子どもの進学に合わせた引越し | 小中学校の学区に合わせて転居する家庭も多い |
🏘 地域政策 | 公営住宅の入退去・移住支援制度 | 地方創生や空き家活用などの政策誘導型 |
🧭 自然災害・復興 | 災害による避難・復興住宅への移動 | 一時的・長期的な移住が発生するケースあり |
🧘♂️ ライフスタイル | 田舎暮らし・Uターン・Iターン | 自発的な価値観転換による地域移動 |
c 地域間で人の動き
地域に定着する理由は、地域での活動に参加することで見えてくる。
活動に参加の必要性がない場合、必要な機能に対して他の地域と比較し、移住検討をすることになる。
インターネットがある現在では、地域ごとの機能を比較しやすくなっており、
見える機能性に対して判断し、その条件判断での傾向がある。
活動に参加することにより、その地域での見えない良さが見えてくる。
長くいた所に愛着がでるのは、見えない良さを半強制的に参加したことに気づくからだと思う。
2. "挑戦"と"応答"の条件
2.1. "挑戦"に含まれるもの
①より挑戦について再掲する。
🔥 挑戦(Challenge)
種類 | 内容・例 |
---|---|
外的挑戦 | 自然環境(乾燥・寒冷・地形)、異民族の侵略、気候変動など。 |
内的挑戦 | 社会的格差、制度の硬直化、精神的空洞、倫理の崩壊など。 |
複合的挑戦 | 外的要因と内的要因が絡み合う。例:ローマ帝国末期の蛮族侵入+内部腐敗。 |
a 自然環境によるもの
a1 天災(地震、噴火、津波)
a2 環境変化(温暖化)
b 技術の変化によるもの
b1 移動域の拡大(宇宙、高速移動)
b2 種の変化(遺伝子、身体拡張)
b3 知識の変化(AI、情報の蓄積と取出し、言語の壁)
c 複合の変化によるもの
c1 格差の拡大による機会の差
c2 制度と実態要求の差
c3 倫理の多様化と倫理の欠如(空白地)
2.2. "応答"に含まれるもの
①より応答について再掲する。
🧠 応答(Response)
項目 | 内容・役割 |
---|---|
創造的少数者 | 挑戦に対して新しい価値・制度・象徴体系を創出するリーダー的存在。 |
特徴 | 柔軟性・洞察力・倫理性・象徴的創造力を持ち、模倣される存在。 |
応答のプロセス | 創造 → 模倣 → 形式化 → 硬直化 → 保身化 → 大衆の反抗 → 文明の解体 |
ra 応答のパターン
ra1 創造的な応答
ra2 模倣的な応答
ra3 形式的な応答
ra4 応答の保留
ra5 無応答
2.3. 文明の挑戦に対する応答パターンとその可能性
応答 パターン |
名称 | 起こる可能性・帰結例 |
---|---|---|
ra1 | 創造的な応答 | 新しい制度・象徴・物語が生まれ、文明の再帰的進化が起こる。 例:祭りの再構成、地域通貨の創出、詩的制度設計 |
ra2 | 模倣的な応答 | 他文明・他地域の形式を取り入れるが、文脈不一致による摩擦や空洞化も起こりうる。 例:グローバル都市のコピー、制度の輸入による形骸化 |
ra3 | 形式的な応答 | 表面的な制度変更や象徴の維持にとどまり、実質的な変化が起こらない。 例:儀礼の形骸化、参加型政策の名目化 |
ra4 | 応答の保留 | 問題認識はあるが、制度的・象徴的な応答が先送りされる。 例:少子化対策の遅延、環境政策の棚上げ |
ra5 | 無応答 | 応答がなされず、断絶・崩壊・忘却が進行する。 例:地域の消滅、祭りの廃止、制度の自然死 |
現在は、技術の変化起因による"挑戦"が大きい。
模倣的な応答が成立しにくい状況になっている。
また、形式的な応答で満足する状況が減っている。
成立しそうな応答を生み出すには、
進化、深化、探求、調和の思想を含む家訓(憲章、社訓)のようなものが基礎にあり、
一定の方向性をもった組織が仕事を為す。
失敗も含んだ応答を許容するしかなさそうである。
9. リンク
URL
伊勢神宮:式年遷宮
wikipedia:神宮式年遷宮
wikipedia:マグニチュード
wikipedia:地震の年表
wikipedia:南海トラフ巨大地震
気象庁:地震情報等に用いるマグニチュードについて
そもそも「会社」って何?
法令文庫:会社法
周年事業ラボ:世界の長寿企業ランキング、創業100年、200年の企業数で日本が1位
金剛組:沿革
池坊:池坊について
wikipedia:池坊
創業1000年以上の企業
100年企業から学ぶ!長寿企業の4つの特徴と強さの秘密
利休百首(利休道歌)
wikipedia:カラウィーン大学
wikipedia:モロッコ
wikipedia:学校に関する日本一の一覧
wikipedia:昌平坂学問所
wikipedia:日本の祭一覧
人口移動報告「転入・転出数」市区町村別マップ
白書
中小企業庁:2025年版 中小企業白書>第1部>第1章>第8節 開業、倒産・休廃業
論文
桃谷 優香.日本の長寿企業における長寿要因の考察.慶應義塾大学大学院経営管理研究科.2020.
林 侑輝.逆境期における長寿企業の生存戦略.2021.
米田 良夫.日本の長寿企業にみる事業の継続.2015.
書籍
矢野 和男(2025).トリニティ組織: 人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」.草思社.
ケビン・クルーズ, 木村 千里(訳)(2017).1440分の使い方 ──成功者たちの時間管理15の秘訣.パンローリング.
安宅和人(2025).「風の谷」という希望――残すに値する未来をつくる.英治出版.
変更履歴
2025/08/11 新規作成
2025/08/12 2.追記