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【時間を考える➁】社会と周期

Last updated at Posted at 2025-08-11

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背景と目的

文明が永く続くポイントは、"挑戦"と"応答"の関係だった。
社会に潜む周期を整理し、文明が永く続くポイントとの接続を考える。

1. 社会と周期

1.1. 仕事と周期

仕事は、為事(しごと)が原型と言われている。
"事を為す"ということは、困りごとなどの挑戦に対する"応答の行為そのもの"になる。

a 伊勢神宮の式年遷宮

伊勢神宮の正殿などは20年に一度、現在の建物の隣(東→西→東)に宮を遷す(うつす)。
直近では2013年に62回目の遷宮が実施された。

式年遷宮する思想は、"常若(とこわか)"としてを示している。
"常若(とこわか)"の意味は、常に新しく、常に変わらない姿を保つこととしている。

b 現代住宅の耐用年数

建物構造 法定耐用年数(年)
木造・合成樹脂造 22年
木骨モルタル造 20年
軽量鉄骨造(骨格材3mm以下) 19年
軽量鉄骨造(骨格材3〜4mm未満) 27年
重量鉄骨造(骨格材4mm超) 34年
鉄筋コンクリート造 47年

法的な基準のため、確実に構造体が機能する期間を示している。
実際の木造住宅は、100年を超えるものもある。

c 人の世代と建物

人の世代の"主となる期間"を、30~40年としたとき、
20年周期の場合、2回~3回程度仕事に関われる。
40年周期の場合、1回~2回仕事に関われない。
新人の頃に1回、玄人の頃に1回の関われると、善い仕事が為されると思われる。

1.2. 天災と周期

日本の主な天災(1600年以降)

内容 規模・被害 (M7.9以上:太字)
1707年 宝永地震+富士山噴火(宝永噴火) M8.6、富士山噴火、広域被害
1792年 雲仙岳・島原大変 地震+噴火+津波、死者1万5000人以上
1854年 安政東海地震・安政南海地震 M8.4連動型巨大地震、広域津波
1891年 濃尾地震 M8.0、死者7000人以上
1896年 明治三陸地震・津波 M8.5、死者2万人以上
1923年 関東大震災 M7.9、死者10万人以上
1934年 室戸台風 死者2702人
1944年 昭和東南海地震 M7.9、死者1223人
1946年 昭和南海地震 M8.0、死者1330人
1954年 洞爺丸台風 死者1361人
1959年 伊勢湾台風 死者4697人
1995年 阪神・淡路大震災 M7.3、死者6434人
2003年 十勝沖地震 M8.2、津波発生、死者2人
2011年 東日本大震災 M9.0、死者・行方不明者2万人以上
2016年 熊本地震 M7.3、死者273人
2018年 平成30年7月豪雨 死者237人
2024年 能登半島地震 死者245人

日本圏内では、M(マグニチュード)8.0以上の地震が50年に1回ほどの間隔で発生している。
(1854,1891,1896,1946,2011)
M7.9以上の場合、20年に1回ほどの間隔で発生している。
(1896,1923,1944,1946,1968,2003,2011)
南海トラフ地震と言われているものは、1707→1854(147)→1944/1946(90)→xと
100~150年間隔で発生しており、警戒されている。

日本人の記憶に地震は刻まれているが、100年周期のものは記録にあるが、
4世代以上をまたぐため、体系的な知識にはなりにくい。

1.3. 会社と周期

会社とは何か?
日本では会社法により「営利を目的とする社団法人」と定義できる。

日本最古の会社

西暦578年創業の金剛組、西暦587年創業の池坊華道会が圧倒的な歴史を誇る。
金剛組は2006年に経営破綻しており、名前は残っているが、池坊華道会が最古の会社とも言える。
(創業が史実として正しいかは不明ではある)

ちなみに池坊の家元は、現在45世である。
2024-587=1437年, 1437÷45=31.9[年/代]。
平均すると1代の期間は、約32年である。

100年以上続く会社が世界に70000以上ある中、日本に40%以上があるとのこと。

下図周年事業ラボより
image.png

長寿な会社が持つ特徴

要因 内容 補足
🪵 不易流行 変わらない「理念」と、変化する「戦略」の両立 例:虎屋の「おいしい和菓子を届ける」という使命とカフェ展開
🎯 明確な使命 独自の存在意義が言語化され、世代を超えて共有されている 経営理念が「記憶の軸」として機能
🧠 学び続ける姿勢 成長意欲と知的柔軟性を持ち、時代に応じて変化する 変化を恐れず、挑戦を続ける
🧍‍♂️ 人を大切にする 従業員との信頼関係、働きやすい環境の整備 モチベーションと文化の継承
🧱 堅実な経営 無理な拡大を避け、身の丈に合った事業運営 品質重視・リスク管理
🏘 地域・社会との共生 地域貢献・文化継承・社会的責任を果たす 地域に根ざした信頼の蓄積
🧭 継承の仕組み 後継者育成と理念の伝達が制度化されている 「三代目が会社を潰す」問題への対策

いくつか例を見ると3代目に危機が起きやすい。
永く続く会社には、家訓(社訓)があり、会社が行うべき物事の本末を示している。
まさに利休が詠む"本を忘るな"である。

規矩作法(きくさほう) 守り尽くして 破るとも
離るるとても 本を忘るな
『利休道歌』

本(幹)ではなく、末(枝葉)に力をいれてしまうことで、
その会社が持っていた"挑戦"と”応答”の関係が歪んでいくのだろう。

1.4. 学校と周期

教育機関としての学校を見ていく。

最古の大学

現存する最古の大学は、モロッコのフェズ(アル=ファース)にある”カラウィーイーン大学”らしい。
859年に建設。現在はモロッコの国立大学に組み込まれている。

ヨーロッパの古代大学一覧

大学名 創設年 備考
ボローニャ大学 1088年 イタリア ヨーロッパ最古の現存大学。法学中心
オックスフォード大学 1096年頃 イギリス 世界的名門。創設年は諸説あり
サラマンカ大学 1134年 スペイン スペイン最古の現存大学
パリ大学(ソルボンヌ) 1150年頃 フランス 中世ヨーロッパの学問の中心。現在は分割大学群
ケンブリッジ大学 1209年 イギリス オックスフォードから分離した学者によって創設
パドヴァ大学 1222年 イタリア 医学・哲学で革新をもたらした大学
ハイデルベルク大学 1386年 ドイツ ドイツ最古の大学。神聖ローマ帝国時代に設立

ヨーロッパでは12~13世紀に、都市単位で自治権を獲得し、ギルドとしての大学が形成された。

🏛️ 日本における最古の学校制度・教育機関

創設年 名称 概要・備考
701年(大宝元年) 大学・国学 律令制下で設置された官立の教育機関。貴族子弟向けの高等教育。日本最古の学校制度とされる
828年(天長5年) 綜藝種智院(空海創設) 庶民教育を目的とした学校。仏教と儒教を融合した教育。後に閉鎖
1592年 世田谷学園中学校(学寮) 現存する中学校の起源として最古。曹洞宗の寺院教育から発展
1618年 米沢興譲館(藩校) 山形藩の藩校として創設。現・米沢興譲館高校
江戸時代(17世紀〜) 昌平坂学問所・藩校・寺子屋 武士・庶民向けの教育機関。藩校は約270校、寺子屋は数万校に及ぶ

周期に関係するもの

教育機関の周期は、その基礎となる文化が大きく変わることにより変化する。
イスラム教のモロッコは、イスラム帝国が8世紀に制圧されてから基本的に変化がない。
そのため、教育対象が大きく変わらず残り続けた。
"挑戦"に変化があったとしても、適切に"応答"し続けることができたともいえる。

日本においては、江戸時代(17世紀)に朱子学が"正学"して採用され、基礎となる対象となった。
また、1632年に仏教の本山末寺制度が制定され、そこで認められた宗派の教育機関が最古となっている。

教育機関の勃興にはcycleとしての周期性はなく、periodとしての期間での関係がみられる.

1.5. 地域と周期

ある地域で起こる周期的な変化を見てみる。

a 祭り

日本での多くの祭りは1年に一回開催される。
一部の祭りは式年祭として1年以上の周期を持つものもある。

b 人の定着と移動(転出、転入)

🏡 人が定着する主な理由

分類 定着理由の具体例 背景・補足説明
🏛 制度的要因 公営住宅・持ち家・地縁的土地所有 住居の安定が移動コストを高め、定着を促進
🏫 教育・子育て 学区の安定・保育園・学校への信頼 子どもの教育環境を重視し、地域との関係が深まる
💼 雇用・経済 地元企業への就職・自営業・農業従事 職場が地域に根差していることで移動の必要性が低下
👨‍👩‍👧‍👦 家族・親族 親の介護・親族との同居・地元婚 血縁・地縁による生活圏の維持
🧘‍♂️ ライフスタイル 自然環境・地域文化への共感・趣味の充実 自発的な価値観による定着(例:田舎暮らし、地域活動)
🏘 地域共同体 町内会・自治会・祭り・伝統行事への参加 共同体への帰属意識が定着を強化
🧭 象徴的要因 「故郷」意識・記憶の蓄積・アイデンティティ 地域に対する感情的・記憶的な結びつき
🛡 安全・安心 治安の良さ・災害リスクの低さ 安定した生活環境が長期的な居住を促す
🏥 社会資源 医療・福祉・交通インフラの充実 高齢者や子育て世代にとっての生活基盤

🚪 人が転出・転入する主なタイミング

タイミング分類 具体的な時期・状況 背景・制度的要因
🎓 教育関連 進学(大学・専門学校)・卒業 春(3〜4月)に集中。住民票の移動が必要
💼 就職・転勤 新卒就職・異動・転職 春・秋に多く、企業の人事異動と連動
🏠 住宅事情 結婚・離婚・家購入・建て替え ライフステージの変化に伴う住居変更
👨‍👩‍👧‍👦 家族構成変化 出産・介護・同居・別居 子育てや高齢者支援のための移動
🌍 国際移動 海外赴任・帰国・留学 長期滞在の場合は「海外転出届」が必要
🏫 学区変更 子どもの進学に合わせた引越し 小中学校の学区に合わせて転居する家庭も多い
🏘 地域政策 公営住宅の入退去・移住支援制度 地方創生や空き家活用などの政策誘導型
🧭 自然災害・復興 災害による避難・復興住宅への移動 一時的・長期的な移住が発生するケースあり
🧘‍♂️ ライフスタイル 田舎暮らし・Uターン・Iターン 自発的な価値観転換による地域移動

c 地域間で人の動き

地域に定着する理由は、地域での活動に参加することで見えてくる。
活動に参加の必要性がない場合、必要な機能に対して他の地域と比較し、移住検討をすることになる。
インターネットがある現在では、地域ごとの機能を比較しやすくなっており、
見える機能性に対して判断し、その条件判断での傾向がある。

活動に参加することにより、その地域での見えない良さが見えてくる。
長くいた所に愛着がでるのは、見えない良さを半強制的に参加したことに気づくからだと思う。

2. "挑戦"と"応答"の条件

2.1. "挑戦"に含まれるもの

①より挑戦について再掲する。

🔥 挑戦(Challenge)

種類 内容・例
外的挑戦 自然環境(乾燥・寒冷・地形)、異民族の侵略、気候変動など。
内的挑戦 社会的格差、制度の硬直化、精神的空洞、倫理の崩壊など。
複合的挑戦 外的要因と内的要因が絡み合う。例:ローマ帝国末期の蛮族侵入+内部腐敗。

a 自然環境によるもの

a1 天災(地震、噴火、津波)
a2 環境変化(温暖化)

b 技術の変化によるもの

b1 移動域の拡大(宇宙、高速移動)
b2 種の変化(遺伝子、身体拡張)
b3 知識の変化(AI、情報の蓄積と取出し、言語の壁)

c 複合の変化によるもの

c1 格差の拡大による機会の差
c2 制度と実態要求の差
c3 倫理の多様化と倫理の欠如(空白地)

2.2. "応答"に含まれるもの

①より応答について再掲する。

🧠 応答(Response)

項目 内容・役割
創造的少数者 挑戦に対して新しい価値・制度・象徴体系を創出するリーダー的存在。
特徴 柔軟性・洞察力・倫理性・象徴的創造力を持ち、模倣される存在。
応答のプロセス 創造 → 模倣 → 形式化 → 硬直化 → 保身化 → 大衆の反抗 → 文明の解体

ra 応答のパターン

ra1 創造的な応答
ra2 模倣的な応答
ra3 形式的な応答
ra4 応答の保留
ra5 無応答

2.3. 文明の挑戦に対する応答パターンとその可能性

応答
パターン
名称 起こる可能性・帰結例
ra1 創造的な応答 新しい制度・象徴・物語が生まれ、文明の再帰的進化が起こる。
例:祭りの再構成、地域通貨の創出、詩的制度設計
ra2 模倣的な応答 他文明・他地域の形式を取り入れるが、文脈不一致による摩擦や空洞化も起こりうる。
例:グローバル都市のコピー、制度の輸入による形骸化
ra3 形式的な応答 表面的な制度変更や象徴の維持にとどまり、実質的な変化が起こらない。
例:儀礼の形骸化、参加型政策の名目化
ra4 応答の保留 問題認識はあるが、制度的・象徴的な応答が先送りされる。
例:少子化対策の遅延、環境政策の棚上げ
ra5 無応答 応答がなされず、断絶・崩壊・忘却が進行する。
例:地域の消滅、祭りの廃止、制度の自然死

現在は、技術の変化起因による"挑戦"が大きい。
模倣的な応答が成立しにくい状況になっている。
また、形式的な応答で満足する状況が減っている。

成立しそうな応答を生み出すには、
進化、深化、探求、調和の思想を含む家訓(憲章、社訓)のようなものが基礎にあり、
一定の方向性をもった組織が仕事を為す。
失敗も含んだ応答を許容するしかなさそうである。

9. リンク

URL

伊勢神宮:式年遷宮
wikipedia:神宮式年遷宮
wikipedia:マグニチュード
wikipedia:地震の年表
wikipedia:南海トラフ巨大地震
気象庁:地震情報等に用いるマグニチュードについて
そもそも「会社」って何?
法令文庫:会社法
周年事業ラボ:世界の長寿企業ランキング、創業100年、200年の企業数で日本が1位
金剛組:沿革
池坊:池坊について
wikipedia:池坊
創業1000年以上の企業
100年企業から学ぶ!長寿企業の4つの特徴と強さの秘密
利休百首(利休道歌)
wikipedia:カラウィーン大学
wikipedia:モロッコ
wikipedia:学校に関する日本一の一覧
wikipedia:昌平坂学問所
wikipedia:日本の祭一覧
人口移動報告「転入・転出数」市区町村別マップ

白書

中小企業庁:2025年版 中小企業白書>第1部>第1章>第8節 開業、倒産・休廃業

論文

桃谷 優香.日本の長寿企業における長寿要因の考察.慶應義塾大学大学院経営管理研究科.2020.
林 侑輝.逆境期における長寿企業の生存戦略.2021.
米田 良夫.日本の長寿企業にみる事業の継続.2015.

書籍

矢野 和男(2025).トリニティ組織: 人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」.草思社.
ケビン・クルーズ, 木村 千里(訳)(2017).1440分の使い方 ──成功者たちの時間管理15の秘訣.パンローリング.
安宅和人(2025).「風の谷」という希望――残すに値する未来をつくる.英治出版.

変更履歴

2025/08/11 新規作成
2025/08/12 2.追記

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