Qiitaでお金を稼げると良いのか?
エンジニアがアウトプットする際に、
お金を稼ぐという物理的報酬が、
モチベーション向上につながるのか?
⇒否、つながらない
という考え方もあるよ、と紹介したい。
背景としては以下の記事:
この提言自体は大変素晴らしい提言である。
一見すると、良い報酬があれば良い成果を生む、
という誰もが納得するような話だ。
しかし「行動経済学」の「アンダーマイニング効果」によると、
必ずしもそうとは限らず、報酬を与えることで、
逆にモチベーションが下がる場合もある。
お金が絡むと金儲けに走る人が出るからダメとかそういう理由ではなくて、
人間は必ずしも合理的に動かないという、オモシロ心理学的な話。
Qiitaへの記事投稿に限ったことではなく、もっと一般的に、
エンジニアが個人開発でサービスやアプリを作る場合にもあてはまる。
個人開発したサービスやアプリの価格、有償提供か無償提供か、
考えたことのある開発者は多いハズだ。
また、企業内の、ボトムアップ的な草の根活動にもよくあてはまる。
イノベーションを起こそう、とか、何かのイベントをやろう、等の活動だ。
「物理的な報酬」が発生すると、モチベーションが下がってしまうことがある。
Qiitaに記事を書くにしても、
個人開発を行うにしても、企業内での草の根活動をやるにしても、
モチベーションを上げよう!と思って外的報酬を設定して、
意外な落とし穴にハマることの無いように、初耳の方は下記一読をオススメしたい。
私自身、ごく最近知った概念で、
特にエンジニアにあてはまることが多い気がしており、
上記の記事をきっかけとしてまとめておく。
行動経済学とは?
今までの経済学は「人間は必ず合理的な経済行動をするもの」
という前提で構築されてきました。
ところが普段の私たちは、それでは説明できない
非合理なふるまいを多くしています。
行動経済学とは、従来の経済学では説明しきれない人間の経済行動を
人間の心理という視点から解明しようとする新しい経済学です。
~ 行動経済学まんが ヘンテコノミクス より~
「行動経済学」なんていうとさも知識人っぽいが、実は、
最近ちょっと流行ったビジネス書(まんが)を読んで、
本書には23話の「行動経済学」が書いてあるのだが、
その第一話目、エンジニア業界に最もあてはまりそうな、
「アンダーマイニング効果」(報酬が動機を阻害する)
に興味をもったので、
Web上で調べたことを含め、掘り下げてまとめておこう、という話。
アンダーマイニング効果を考えるエピソード
堀のらくがき
- いたずら好きな子供たちはおじいさんの堀に落書きをしていました
- おじいさんがいくら怒っても、子どもたちはまた落書きをします
- そこで一計を案じたおじいさん
- 子どもたちが落書きをするたびに「元気があってよろしい」とお小遣いをあげました
- 次の日も次の日も、落書きをするたびにお小遣いをあげました
- 数日後、「すまんがもうお小遣いはやれなくなった」とおじいさんは言いました
- 子どもたちは「えー、落書きしてやったのにくれないのかよー」と言いました
- その後、子どもたちは落書きをしなくなり、おじいさんには平和な日々が戻りました
私たち人間は通常、報酬があるとやる気を起こします。
しかし、人間とは不可思議な生きもので、
時として、報酬によって逆にやる気をなくしたりします。
~ 行動経済学まんが ヘンテコノミクス より~
国民栄誉賞を2度も辞退したイチロー選手
国民栄誉賞辞退の理由はなんですか?
「今の段階で国家から表彰を受けると
モチベーションが低下するのではないか、と懸念しています」
「Wikipedia」が「Microsoft」に完勝
- Microsoftが以前だしていた百科事典エンカルタ(Encarta)
- プロに記事の執筆、編集を依頼した最新鋭のデジタル百科
- 90年代に急速に成長した人気製品であった
- しかし、2000年以降、Encartaの人気は衰退
- 最大の原因は、無償で編集された「Web上の無料百科事典Wikipedia」
エジソンの発明
私は一日たりとも、いわゆる労働などしたことがない。
何をやっても楽しくてたまらないから。
~ トーマス・エジソン ~
GoogleやAtlassianの革新性
- Googleの20%ルール
- Atlassianの「FedEx Days」
- 24時間、いつもの仕事以外の好きなことをやる
子供のゲーム
- ある子供は毎日いつもゲームをしていました
- もしかしたらプロゲーマの才能があるかも?と思ったお父さん
- 毎日欠かさず、2時間ゲームをしなさい、とルールを決めました
- ゲームクリアまでの作業工程やノルマを決めました
- 工程やノルマを達成するごとにお菓子とお小遣いもあげました
- うまくいかない場合はアドバイスもしてあげます
- やがて子供はゲームが嫌いになり、別なことをして遊ぶようになりました
Qiitaのらくがき
- いたずら好きなエンジニアたちはQiitaに落書きをしていました
- Qiitaに落書きをするたびに「お小遣い」が貰えることになりました
- ・・・あとはご想像にお任せします・・・
人間の2種類のモチベーション
アンダーマイニング効果は人のモチベーションの話なので、
まず、人間の2種類のモチベーションの話をする
- 外発的動機づけ
- 内発的動機づけ
外発的動機づけとは?
いわゆる「アメとムチ」。
頑張ることで物質的な報酬や評価を得ようとする意欲。
外部から与えられる目的(物質的な報酬・利益・評価)を
達成するためにがんばる意欲のこと。
内発的動機づけとは?
活動することそれ自体がその活動の目的であるような動機。
趣味や仕事などの、内容そのものに面白さや充実感を感じてがんばる意欲のこと。
お金のためでもない、怒られないためでもない、
その活動がしたいからするという、趣味の活動における意欲。
有能感、自己決定感、仲間との交流など、
自分自身の満足感のためにがんばる自主的な意欲。
(実際に報酬や罰が発生するかどうかではなく、気持ちとしてどうか、ということ。
逆に、報酬や罰がなくても、それを狙っているのであれば外発的動機づけになる)
外発的動機づけと内発的動機づけの違い
内発的動機づけによる活動は、外発的動機づけによる活動よりも、
質が高く、集中力が高く、楽しく、継続性がある、と言われている。
特に、クリエイティブな作業に対しては、
内発的動機づけの方がはるかに生産性が高いとされている。
(いくつかの実験で示された、とされている)
実験しなくても、自身の実感として、そう感じませんか?
アンダーマイニング効果とは?
内発的動機づけはちょっとしたことがキッカケで、
簡単に外発的動機づけになりさがってしまう、という現象のこと。
人は自分で自分の行動を決めていると自覚している時には、
内発的動機づけが得られるが、
他者から統制されていると感じた時には、外発的動機づけにすぐかわってしまう。
自分の好きでしていた活動(内発的動機)であっても、
にわかに外からの物理的報酬(外発的動機)を与えられると、
今後はその報酬なしで活動をするのがバカらしくなってくる。
(報酬が継続すれば活動は継続したとしても、動機がかわっているため、
「活動の質」がかわってきてしまう)
報酬が動機を阻害する現象
人間とは、かくもヘンテコな生きものなり。
~ 行動経済学まんが ヘンテコノミクス より~
では、アンダーマイニング効果を防止するには?
東京オリンピックの無償ボランティアとか、
やりがい搾取とか、なんかブラックな話を推奨したいわけではない。
金銭的報酬があってはいけない、というわけではない。
または、言語的な報酬=褒める/称賛するなども、
場合によっては「褒められるために活動する」ことになるため、
無償であれば良いというわけでもない。
子供が科学に興味を持つエピソード
- ある子供はなぜ夕日は赤いのか、興味をもって図書館で調べていました
- お母さんは「エライ!」と褒めました
- お父さんはお小遣いもあげました
- 子供は・・・
ちょっと待って。
なぜ子供は「夕日が赤い理由を調べようとした」の?
- 自分が興味をもったから。
- 純粋な知的な好奇心から。
- 調べて新しい知識を得ることが嬉しかったから。
褒めることも、お小遣いをあげることも、必ずしもNGではない。
でも、最も注目するべきは「調べた行為」「勉強した行為」ではなくて、
「興味をもったこと」「好奇心があること」「学習による喜び」のほうでは?
あなたがお父さん、お母さんなら、子供にどのように接しますか?
Qiitaへの記事投稿のモチベーションや質をあげるには、どんな報酬が良い?
個人開発のモチベーションを高めるには?必ずしもサービスでのお金儲けが必要?
企業内のボトムアップ活動を促進するためにはマネージャはどう促す?
まとめと後書き
アンダーマイニング効果を認識しておかないと、
他の人への促しにおいても、
自分自身のモチベーション向上においても、
良かれと思った報酬や施策が、
かえって逆効果を産む場合がある。
内発的動機に火がついたのなら、
それを安易な外的報酬で消さないように
報酬を与える際には細心の注意をはらわないといけない!
必ずしも、無償が良いとか、やりがいを全面に出すとかではないし、
Qiitaでお金を稼ぐというのも全く否定をしているわけではない。
方法や設定を間違えたら逆効果になるよ、という話。
個人的には、個人開発しているスマホアプリ/PCソフトについて、
なぜ無償提供で作っているのか?という理由を、
初めてヒトコトで言語化できたような気がして、
一度まとめておきたいテーマであった。
(アプリ/ソフトを売れば儲かるよね、よくと言われる。
売って稼ぐよりも、多くの人に使って欲しいから?
人のため、そんな聖人みたいな理由じゃないよね、の違和感。
自身の内発的動機がアンダーマイニング効果によってかわるのを
防止するため、そう、自分のためなんだ!という観点は大きい。
もちろん、どうせ大した金にはならない、という理由も大きい)
また、Qiitaそのものについて言及すれば、
どのような外的報酬(称賛)を与えるか、ということについて、
お金よりも栄誉のほうがしっくりくる印象はある。
(お金がダメとは言っていない。前向きな検討はおおいに称賛の気持ち。
お金でうまい方法を設定するのは難しい。投げ銭とかはいいと思う)
Qiitaの殿堂は、「殿堂入り」という「栄誉」ならば
投稿者の内発的動機を阻害せずに、ほどよく称賛でき、
良記事を促進する仕組みになるのでは?
という思いも込めて、自身の内発的動機だけで作ったサイトだ。
思想も汲んでご覧いただければ大変嬉しい。
最後に、
この記事は一応ポエムのタグをつけているが、
個人開発の「設計思想」や、
自身の開発プロセス(モチベ管理)を考える上で考慮するべき事柄、
人間の心理学的な観点からサービス開発時の構造上の設計ミスを防ぐノウハウ、
などとして、ソフトウエア開発にかなり密接に関わる内容と考えている。
(23話ある行動経済学の話のなかで、
最も関係性の高いものを選んだのだから)
この記事が、誰かの動機の阻害を、未然に防いでくれることを願う
おしまい。