JDLA Deep Learning for Engineer(通称:E資格)にこの度挑戦し、無事合格しました。筆者はこれまで数多の資格試験に挑戦してきましたが、受験資格の取得にまず試験団体認定の講座を受講することが必要というタイプの資格試験に挑戦するのは今回初めてです。忘れないうちに今回受験資格取得のために受講した講座や試験対策についてdumpしておこうと思います。
執筆の動機
- E資格は受験資格を取得するためにJDLA認定の講座の受講が必要であったり、書籍の参考資料が少ないなど、筆者が受験時に情報収集に苦労したため
- JDLA認定の講座は作成している団体によって価格に若干の違いはあるものの、筆者が受講した講座は30万円を超えている講座であったため、コストパフォーマンスの点で実際問題どうなのか考察してみたいため
- 身近にE資格を検討している同期の友人が居るため、忘れないうちに情報共有が出来る様に参考になりそうな内容をまとめておきたいため
そもそもE資格とは?
一般社団法人JDLA(日本ディープラーニング協会)が実施している資格試験です。試験の説明として「ディープラーニングの理論を理解し、適切な手法を選択して実装する能力や知識を有しているかを認定する。」と記載されています。(参考)
同じくJDLAが実施しているG検定に関する記事も過去に執筆しました。
試験の概要
受験資格
E資格は試験その物の出題内容もG検定などに比べると高度な内容が問われますが、まず超えなければならない関門がJDLA認定の講座を過去2年以内に修了していることを求められることだと思います。認定プログラムは参考に紹介が出ています。筆者は勤務先の教育部門が扱っている講座を受講しました。勤務先で教育として受講出来たので自己負担は発生しませんでしたが、総額で30万円ぐらいの受講料が取られる講座であったため、自己負担の場合はそもそも受験資格を得るという関門を超えるのが大変だと思います。(学割なども有る様ですが、それでも高額です。。。)
試験の詳細
- 試験形式: 多肢選択式CBT試験を試験センターで受験
- 試験時間: 120分
- 問題数: 100問程度
- 受験料: 33,000円(一般の場合で、学割や会員割の受験料は若干割引が有ります)
- 筆者は2020#2の中止の影響で2021#1を半額で受験出来るキャンペーン期間中に受験資格を得たので16,500円で受験出来ました。ただ、それでも高額です。。。
- 合格率: 例年7割弱ぐらいで推移しています。今年は過去最高で8割弱の合格率でした。
- 合格点: 合格点は非公表
- 合格点は公表されていませんが、結果通知のメールに記載されている分野別得点率の平均を見る限り7割ぐらい取れないと合格にならないのではないかと推察しています。(あくまで筆者の意見)
試験の出題範囲(シラバス)
2021年の出題範囲(シラバス)は下記の通りとなっています。シラバスは毎年内容が見直されている様です。
-
応用数学
- 線形代数
- 確率・統計
- 情報理論
-
機械学習
- 機械学習の基礎
- 実用的な方法論
-
深層学習
- 順伝播型ネットワーク
- 深層モデルのための正則化
- 深層モデルのための最適化
- 畳み込みネットワーク
- 回帰結合型ニューラルネットワークと再帰的ネットワーク
- 生成モデル
- 強化学習
- 深層学習の適応方法
-
開発・運用環境
- ミドルウェア
- 軽量化・高速化技術
試験対策
試験対策として以下の教材を利用しました。
実際に学習に用いての感想を記載していますが、これはあくまで筆者個人の感想です。
認定講座
JDLAの認定講座として富士通ラーニングメディアの講座を受講しました。筆者が受講した時は、AI STANDARDが作成している教材を使用していました。E資格の受験資格を得るためには、機械学習実践講座 → 深層学習実践講座 → E資格取得対策講座の順に受講する必要が有りました。3つの受講が終わって初めて受験申込時に必要な修了者ナンバーが発行されます。
機械学習実践講座
Pythonの基礎からDeep Learningを除く古典的な機械学習アルゴリズムを扱った講座です。SVMやパーセプトロン、決定木などのアルゴリズムそれぞれの処理の流れを解説すると共に、scikit-learnを使ってデータ分析の課題演習を解いてデータ分析の方法を学ぶなど実践的な講座です。Jupyter Notebookを使ったテキストも要点が簡潔にまとまっていて分かりやすく、学びやすい印象です。最終課題はデータ分析による課題解決方法の考察といった内容で、合格すれば晴れて修了です。但し、3つの講座の中で最も受講期間が長く、扱う内容のボリュームも多いためか、受講費用が198,000円と大変高額です。社内の講座と言っても社員1人が半期で使える教育予算は上限が決まっているため、承認を通すのが大変です。故にE資格受験資格を得る上で最初にして最大の関門がこの講座と言っても過言では有りません。。。
深層学習実践講座
深層学習(Deep Learning)の主要なモデルの解説や画像認識タスクの演習などを扱った講座です。機械学習実践講座同様Jupyter Notebookをベースとした教材で学習を進めます。PythonのライブラリであるKerasやOpenCVを実際に用いて画像処理やモデルの構築・学習などを体験出来ます。但し、講座で使う学習用環境がGPUに対応しておらず、CPU上でKerasを実行するため、必然的に複雑なモデルの学習は試せないか、1epoch回して終了となります。矢張り、Deep Learningの各種モデルの理解を到達目標に設定している講座で、なおかつ受講料も10万円近くすることを考えれば、受講者一人一人に(受講期間だけでも)GPUが利用出来る環境の提供が有っても良いのではないかと思います。。。しかも、E資格ではKerasやscikit-learnなど特定のライブラリで実装したモデルが問題に出題されることは有りません。故に後述するE資格受験対策講座で実際にE資格に出題される分野の例題を目にしたときにそれまでの講座の内容との難易度や粒度のギャップに遭遇します。。。もう少しE資格の内容に寄った講座になってくれればと願うばかりです。。。機械学習実践講座と同様に最終課題が設定されており、合格すれば修了となります。
E資格取得対策講座
E資格の例題解説テキストと最後の修了テストから成ります。修了テストは講座の提供元が設定した合格点に達しなければ修了になりません。。。最後の関門と言えます。なぜならば、ここまでscikit-learnやKerasで学んできたそれぞれのモデルのPythonによるスクラッチ実装が実際の試験では出題されるとこの講座を受講して始めてすることになるからです。また応用数学の問題でも、行列の特異値分解など大学の線形代数学の授業で(筆者は)習わなかった内容など初見の内容、エントロピーなど大学の情報通信理論の授業などで習ってはいるけれど、記憶の彼方に葬り去られた内容などがE資格の試験では出題されることがこの講座の例題解説でサラリと触れられています。。。この講座を受講して始めてE資格の試験形式の詳細が分かります。機械学習実践講座や深層学習実践講座も認定プログラムの講座として扱うのであれば、少なくともそれぞれのモデルのスクラッチ実装を扱って欲しいものです。
講座を受講して
3つの講座を受講して、まずE資格の受験資格を得るという最初にして最大の関門がこの資格には待ち受けています。加えて、筆者は受験料を半額になるキャンペーン期間中に受験資格を得たかったため、なかなかタイトなスケジュールとなりました。。。講座1つ1つの受講料が高額で教育として受講する時に上司の承認を貰うのもなかなか大変です。。。今回この認定プログラムを選択した理由は勤務先の教育プログラムとして受講出来る講座がこの3つだけだったため、選択肢が無くこの講座を受講しましたが、もし、自腹を切って受講して受験資格を得る必要が有るならば、もう少し講座を吟味して、特にモデルのスクラッチ実装について詳しく解説が有り、応用数学についてもしっかり解説が有り、受講料がもう少しリーズナブルな講座を選ぶと思います。。。
対策書籍
E資格対策の書籍として現在販売されている唯一の書籍です。E資格の出題範囲それぞれの例題解説と模試1回分が掲載されています。
(画像: https://book.impress.co.jp/books/1118101176 より)
出題範囲の例題について解説されている書籍はこの書籍以外に今現在販売されているため、有用な対策教材と言えます。筆者はPDF版1の電子書籍を購入しました。しかし、現在の所誤植が多く、この訂正票を参照しつつ読了する必要が有ります。誤植が訂正されてより良い書籍となってくれることを願います。
模試
AVILENのE資格本番模試も活用しました。間違った問題の復習機能、解答解説などもセットとなった模擬試験です。価格は27,280円と少々高額となりますが、E資格は対策の教材(特に実践形式の教材)は少ないため、受験前に解いて間違えた所を復習しておきたい教材です。解答解説は動画とPDF形式で配布されており、PDFの解説は図解なども使って解説されています。主催元のAVILENは以下の特徴的な猿のロゴで有名な企業です。全人類のための統計学という公開講座をやっており、コロナ前に筆者も参加したことが有ります。
(画像: https://avilen.co.jp/ より)
受験してみての感想
正直なことを言えば、実装問題がからっきしダメだったので試験終了後、8月にリベンジになるかもしれないなと一抹の不安がよぎりましたが、合格通知が届いたのを見た時は心底安堵しました。試験の詳細な内容を公開することは禁止されているため、詳細は書けませんが、模試だと応用数学(線形代数)の問題から始まる物が多いですが、当然本番はそんなことは有りません。実装の問題が延々と続くことも有ります。。。また、筆者が受験したテストセンターでは試験前にメモ用紙代わりに油性ペン2本と下敷きのような板を渡されます。間違えた時に消せない上に、焦って殴り書きすると書くスペースが無くなってしまうなどのハプニングも有り、試験中何度も冷や汗が出ました。。。しかし、一発で合格することができ、本当に良かったと思います。問題は100問程度出題されるため、2時間の試験時間と言ってもあまり余裕は有りません。詰まった問題は(後で見直すにチェックを入れて)後回しにするなど、** 詰まった問題にあまり時間を使い過ぎず時間内に全問解く**ということは重要だと思います。筆者は時間内に全問解答する様に心掛けました。E資格に折角合格したので、今後はDeep Learningや機械学習の様々なアルゴリズムの実装まで追えるエンジニアになれる様に精進を重ねたいと思います。筆者は実装部分の理解が追い付いていない部分が多々有ったこと、線形代数の深い理解がこの分野の真の理解に必要なこと、新しい技術を追いかけるには論文を追えなくてはならないということをE資格の受験から感じました。今後は今まで出来ていなかった内容の勉強に取り組めればと思います。
まとめ
E資格についての簡単な解説と受験までに筆者が実施した試験対策についてまとめました。筆者の対策はあくまで試験に合格するためにいかに最小限度の労力で合格するかということに特化しすぎていた様に思えます。本来ならば後述する書籍などを熟読し、実装や応用数学についても完璧な状態で受験することが望ましいと思いますが、何分仕事をしながらの受験ということもあり、少々横着をしてしまいました。よくこの資格のコストパフォーマンスについて触れている記事を見掛けますが、この資格はコストパフォーマンスから見れば決して良いとは言えないと思います。寧ろ同じJDLAが実施しているG検定やStudy AIが実施しているAI実装検定 A級などの方がコストパフォーマンスは高いと思います。しかし、日頃ライブラリを用いて各種モデルを構築して学習させるなどのタスクに取り組んでいるとブラックボックスとして扱いがちな各々のモデルをスクラッチから実装出来る知識を資格の勉強を通して出来たり、最近の新技術の動向に敏感な問題が出題されたり、原理原則に立ち返った数学の問題が出題されるなど、AI技術を真に理解するとはどういうことなのか改めて考えさせられる機会を与えてくれる資格であると思います。筆者はこの資格に挑戦して良かったと思います。
今後に向けて
E資格対策として再読、熟読しようと思って叶わなかった書籍をこれから順番に読んでいこうと思います。合格者の体験談を読むと以下に挙げる書籍を熟読して試験に臨んだという受験者もいます。ただし、ただ合格するだけなら熟読できていなくても大丈夫だと(筆者は)思います。。。(書籍の画像はAmazon.comより)
これまで取得したAI/データサイエンス関連資格
これまでAI/データサイエンス関連資格と巷で紹介されている資格のうち、以下の資格を取得しました。
- 統計検定 2級
- Pythonエンジニア認定データ分析試験
- AI実装検定 A級
- JDLA Deep Learning for GENERAL 2020#2(G検定)
- AI実装検定 S級
- JDLA Deep Learning for ENGINEER 2021#1(E資格)
- 参考: 本記事
今後取得したいAI/データサイエンス関連資格
今後以下の資格に挑戦したいです。
- 画像処理エンジニア検定 エキスパート
- データベーススペシャリスト
- 統計検定準1級
- 統計検定1級
- Jetson AI Specialist
- TensorFlowデベロッパー認定
2021/3/19追記: 後日談
E資格 / G検定を取得すると申請出来る富士通ソフトウェアマスター AI認定を申請してみました。
2021/10/30追記: Open Badgeを取得してみた
Open Badgeという物が発行されました。これはブロックチェーン技術を応用して偽造を難しくした新しい合格証明とのことです。
-
2021/3現在インプレスのサイトでPDF版の電子書籍販売は停止しています。(2021/10現在再開) ↩