本記事は Engineering Manager Advent Calendar 2023 の2日目です。
はじめに
この記事は、以下のような状況にある人へのヒントです。
- マネージャーになりたいのにならせて貰えないと悶々としている人
- マネージャーに任命されたけど上手くいかないので自分には向いていないと感じられている人
- マネージャーになりたくないのでどうすれば避けられるか気になっている人
既にエンジニアリングマネージャーを何年か経験されている方で、どうすれば後任を増やすことが出来るか日々悩まれている方にも参考になるかも知れません。
なお、本記事でのマネージャーは、マネジメントする人(マネジメント役割を担う人)全般を想定しており、特定の役職は指していません。
要点
- 向き不向きは、固定された絶対的なものではなく、相対的なもの
- 嫌いじゃないなら向いている可能性がある
- 向いていないと感じるのは習熟度が要因のことも多い
- 扱える量と質を見誤ると失敗確率が上がる
- 上司から求められていることが何なのか次第でやることは変わってくる
自己紹介
わたしは、合同会社DMM.comで二次元事業のエンジニアリングマネジメントに携わっています。
今年でIT業界歴20年、組織マネジメントは合計して8年ほどになり、ここ1年間は統括部長として担当事業の開発職全体(エンジニア、デザイナー、ディレクター)をマネジメントしています。
向き不向きを性質だと捉えない方がよい
性質は、遺伝子レベルで決まっている先天的な要素を指しています。
例えば、お酒を飲める量や必要な睡眠時間・朝型・夜型などです。これらは経験や努力で変えられません。
また生まれながらに持っている気質も、個々人で違いはあれど、日常生活に支障がない程度であれば不利に働くことは無いと考えています。
性質・気質を土台として、その人の現在の能力や考え方を形作っているものに、幼い頃から物心つくまでに育った環境、その後の多様な経験があると思います。
色んな物事に対して、最初から上手くできた、たまたまやってみたら周りの人達に褒められた、何故だか分からないけど楽しさを感じるなど、皆さんも何らかの経験が1つ以上はあるのではないでしょうか。
嬉しさ楽しさを感じたから、その行為を繰り返しやりたくなる。
何度か繰り返して出来ることが当たり前になると、嬉しさ楽しさも減ってくるので、より難しいことをやりたくなったり、飽きて他のことに移ったりする。
これはどのような物事にも当てはまり、"マネジメントする事"も例外では無いと考えています。
このように捉えると、向き不向きとは、一般的に"上達する際の速さ"を言っているだけであり、しかもその時に自分の周りに居る人との差でしかないことが分かってきます。
身体性を求められたり年齢による区分がされているスポーツ競技のようなものでは影響が大きいのかも知れませんが、勝ち負けや明確な基準が決まらない類のものには考えすぎない方がよいのではと思うのです。
嫌いじゃないなら大丈夫
嫌いだと感じる物事に対しては、距離を取ろうと離れたり避けてしまうと思います。
上手くマネジメントが出来るようになるためには、上達することが必要で、上達するためには何度も繰り返し経験することが必要になってくるので、嫌いだと避けていると試行回数が足りずに上達しないからです。
なので、いわゆる主要なマネジメント業務のことを嫌いじゃなければ、向いていないと決めつけないでよいと考えています。
また、ありがちな誤解として、少しやってみたけど楽しさを感じられないということがあります。
これはマネジメントに限らないことですが、例として新しいゲームをプレイする時の感覚が分かりやすいかも知れません。
何事もルールが分からないと楽しめないことが多く、ルールが分かってもコツが掴めてくるまでは楽しいと感じないものです。
やり方が分からなかったり慣れていないから面倒だと感じ、その感覚を嫌い/苦手だと錯覚することも多い印象です。
ルールの把握とコツの習得には一定の期間や回数が必要となり、その習得にはやはり個人差があるので、自身の閾値を超えるまでは楽しさを感じられない状態になります。
習熟度をどうやって上げるか
楽しさを感じるためにはコツが掴めてくる必要があると言いました。
ではコツを掴むまで習熟度を上げるにはどうすればよいでしょう。
マネージャーになるには、マネジメントが出来ないといけない、マネジメントが出来るようになるためにはマネージャーになる必要があるのように、いわゆる「鶏が先か、卵が先か」のジレンマに陥っている方はいませんでしょうか。
もちろん具体的な業務(人事評価、契約、事務手続きなど)においては、実際に経験しないと身につかないことも確かですが、事前に全てを出来るようになっている必要は当然ありません。
上司が教えれば出来ると思われることが重要です。
出来ると思われるための準備としては、セルフマネジメントが有効です。
いわゆる自己管理です。他者をマネジメントする手前の段階です。
自分一人の範囲内における、時間・タスク・スケジュールに対して目標を設定して計画を立て、自分が定めた期限に間に合わせる・品質に達するように体調やモチベーションを維持して実行し、計画と実績の差を分析して次に向けた改善策を考える。
「PDCAを回す」と表現されることが多いですが、この表現のままだと抽象度が高すぎるのと、実績を記録していなかったり改善に繋がる振り返りをしていない場面に遭遇することが余りにも多いので、PDCAを回すと言いがちな人は要注意です。
セルフマネジメントの習熟度が何年かけても一向に上がらない場合は、マネージャーには不向きかも知れません。
扱える量と質を見誤らない
セルフマネジメントの習熟度が上がってくると、マネージャーに任命される機会が出てくると思います。
その際、自身の専門領域のみが対象なら質の部分は問題ないはずですが、どの程度の量(人数やタスクの総量)が扱えるかは、上司もご自身もやってみないと分からないことがほとんどでしょう。
組織体制においては、細かく少しずつ微調整するようなことはマネジメントコストがかかり過ぎてしまうため、既にある体制において任命され引き継ぐ場合、同じ規模のまま担当領域を分けるやり方が多くなりがちです。
習熟度にも繋がる部分ですが、調べながらや細かく考えながらでないと進められない領域が担当の半分以上を占める場合、そこから更に新しい領域を担当するのは時期尚早だと思います。
習熟できているタスクの状態を言い換えるなら、手順や観点をいちいち考えなくても無意識で瞬時に思いついたり言葉が出てきたり実行できる状態です。タッチタイピングでキーを打てる状態のようなことです。
求められる質が違うものに対して、既に出来ている経験済みのものと同じと捉えて量を見積もってしまうと、途端にうまく回らなくなるので要注意です。
この時点での失敗(量や質を見誤った失敗)は、向き不向きの話ではなく、習熟度の問題です。
期待値を把握し調整する
マネージャーに任命された場合、そこには必ず任命した上司がいると思います。
そして、先ほどの扱える量と質の話にも繋がりますが、どの領域をどのくらい任せるかも上司次第だと思います。
この時、事前に信頼されている度合いが高いほど多くを一度に任されることもあるかと思いますが、全てを一度に満たす必要は無く、求められる範囲にどこまで応えるかは自分で決めてよいのです(勝手に自己判断する訳ではなく、相談の上で交渉して調整するという意味)。
特に自身が経験ずみなのか未経験かは、上司も全てを詳細に把握していることは稀だと思いますし、別の誰かが担当した事だったり、実際に経験はしたものの状況が全く異なっていたりと、人の記憶は曖昧で不確かなものです。
安請け合いした後で大きく失敗すると、大きく担当領域が変わる可能性も考えられるので、どこまでは確実に出来て、どの部分はチャレンジであるかサポートがどの程度必要かを見極めて相談することが必要です。
おわりに
記事を読む前に持たれていた向き不向きについての思い込みが、少しでも軽減できていれば幸いです。
少しでも興味を持って頂けた方は、過去のアドベントカレンダー記事もご参考ください。