本記事は Engineering Manager Advent Calendar 2021 の11日目です。
#自己紹介
わたしは、合同会社DMM.comで電子書籍事業と同人事業のエンジニアリングマネジメントに携わっています。
エンジニアリングマネージャー(EM)の担当領域は、所属会社やその時々の状況や個人のスキルによって違いがあると思いますが、主要な領域は、ピープルマネジメントです。1on1は普段から実施しているマネジメント手法の1つで、今年は昨年よりも相対的に数が減ったものの、昨年は500回以上実施していたりします。
#はじめに
本記事は「心理的安全性」が実は良く分かっていない人に対するヒントです。
必要な知識や技術を身につけていない人が「私が、その知識を知らない・技術が出来ないのは、心理的安全性が足りないからだ」と言っている場合、99%の確率で本人の努力不足が原因で、他責にしているだけです。
必要な知識や技術を身につけており、発揮できていた時期があるのに、出来なくなっている場合、要因の1つとして心理的安全性が不足している可能性があります。
組織やチームとして推奨する行動規範や価値観を示しているにも関わらず、行動する人が極端に少ない場合、要因の1つとして心理的安全性が不足している可能性があります。
同じ失敗を繰り返し、改善や成長が進まない場合、要因の1つとして心理的安全性が不足している可能性があります。
#先に、結論
他人に役立つ行動(仕事)をするためには、本人が危険だと感じない状況や環境を作り維持する必要がある。
※自らが危機に瀕している時に他のことに構ってられない。
危険だと感じる程度(閾値)は個人毎に異なっており、物事における状況や、対人における関係性によっても変わってくる。
挑戦しない方が得だ(まだマシだ。生き延びる可能性が高い)と学習してしまうことが、安全性が不足している状態。
#生物としての安全
マズローの欲求段階説
マズローの欲求段階説は、自己実現論とも言われますが、4段階目までは非常にシンプルに考えることができ、1段階ずつ比較していくと納得感があると思います。下の段階(階層)が満たされないと上の欲求が芽生えて来ません。
段階(階層) | 欲求の内容 | 欲求を満たす方法 |
---|---|---|
4 | 承認(尊重)の欲求 (Esteem) | 褒められる、認められる、評価される |
3 | 社会的欲求 / 所属と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging) | 会社やコミュニティに属する、パートナー関係を作る |
2 | 安全の欲求 (Safety needs) | あらゆる面での危険や脅威の排除 |
1 | 生理的欲求 (Physiological needs) | 食事・睡眠・排泄など、生存に不可欠な行動 |
会社に属している人や事業を運営している人が、他者へ貢献すること(仕事)に意識を向けるためには、3段階目までの欲求がある程度満たされている必要がある訳です。
なので、仮に安全性が100%満たされた場合においても、帰属できている感覚や愛されている感覚が少ない、いわゆる孤独を感じている状態だと、他者へ貢献すること(仕事)に意識を向けることが難しくなると考えています。
危険や脅威を感じると他のことを考えられなくなる
欲求は、人間における生存本能に直結していると考えられます。
生存が脅かされるような何かに対しては、逃げるか避けるか戦うかの行動をする訳ですが、それによって意識(注意力)を対処すべき危険や脅威に集中するため、物理的にも心理的にも視野が狭くなり、他のことに注意を向けることが難しくなります。
危険や脅威を感じていない状態が、安全の欲求が満たされた状態と言えますが、自らの生命に直結するような危険や脅威の他にも、所属や関係を脅かされる不安に繋がる物事や、それらが起こった先の経済的安全性も含めた影響も無視できません。
どんな物事や人に危険や脅威を感じるかは個人差がありますので、価値観の理解に努めることが重要になってきます。
#物理的安全と心理的安全
ソフトウェアの開発や運用の業務では、物理的な危険を伴う状況は比較的少ないですが、事故に対する注意喚起がされるような機器や場所(現場)では、物理的な安全に配慮する必要があります。
また、体に不調をきたすような職場環境(机、椅子、空調、騒音など)を整えることも、物理的な安全性を高めると言えるでしょう。
心理的安全性は、Google re:Work『「効果的なチームとは何か」を知る』の、「効果的なチームに固有の力学を突き止める」から引用すると、以下の通りです。
心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。
対人関係においてリスクある行動を取ったとき、大丈夫じゃない結果として想像できるのは「所属するチームや組織・会社・コミュニティから排除されたり、関係性が壊れる」ことでしょう。
排除されないと自らが信じられるためには、そもそものリスクある行動が利己的でない(自らの利益のためだけで無く所属する他者を思って行動/発言している)と他者から信じてもらうことが必要です。
なので、個人の認知の仕方と、関わる人達における相互理解が必要となってくる訳です。
大前提として、自らの利益のためだけを追求して、時間を使っている状態の無知や無能(成長のための挑戦でなく、最低限の知識やスキルを獲得するための努力不足)、ネガティブな発言、他の人達の仕事を邪魔する行動は、見極めた上で然るべき対処をする必要があります。
所属組織への貢献を目的とする、過渡期としての、無知(知りたいが、まだ知らないだけ)、無能(まだ期待値に達していないが経験が積めていないだけ)や、一見ネガティブ(忖度せずロジカルに正しいと考える意見を言う、すんなり従わない)な行動は、VUCAな現代ビジネスにおいて必要だと認識が広がってきているからこそ、心理的安全性が声高に語られるようになってきていると理解しています。
#セーフティとセキュリティ
日本語の「安全性」は、英語ではセーフティとセキュリティに該当し、コンピューター用語辞典においてデータ等の安全性に対してはセキュリティが用いられているようです。
心理的安全性(Psychological Safety)や安全の欲求(Safety needs)は、どちらもセーフティが使われているものの、ビジネス継続のための外部からの脅威に対処するためセキュリティを考えることは、日々安心して仕事するために必要なことだと考えています。
直近では「Apache Log4jの任意のコード実行の脆弱性(CVE-2021-44228)」がゼロデイ脆弱性として業界的にかなり大きなセキュリティ関連の話題となっています。もし自身のクレジットカードが不正使用されたりアカウントが乗っ取られたりすると通常業務での心理的安全性を考える余裕は無くなることが容易に想像できると思いますので、普段からのセキュリティ対策と共に脅威が顕在化した際の迅速な対策も気をつけたいものです。
#おわりに
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#参考文献