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BigQueryとClickHouse、どちらを選ぶべき?用途別の向き不向きを徹底比較

Last updated at Posted at 2025-10-22

BigQueryとClickHouseの基本概要

BigQueryは、Googleが提供するフルマネージドのサーバーレスデータウェアハウスです。ペタバイト規模のデータに対してSQL分析を実行でき、インフラの管理が不要です。Google Cloud Platform(GCP)の各種サービスとの統合が容易で、プロプライエタリなクエリエンジンを使用しています。主にバッチ分析や定期的なレポート生成などの用途で設計されています。

ClickHouse Cloudは、ClickHouse Inc.が提供するフルマネージドのOLAPデータベースサービスです。オープンソースのClickHouseをベースとしており、低レイテンシのクエリ処理を特徴としています。インフラ管理が自動化されており、ストレージとコンピュートが分離されたアーキテクチャを採用しています。なお、オープンソース版のClickHouseをセルフホストすることも可能ですが、本記事では主にClickHouse Cloudを前提として説明します。

どちらもカラム指向のストレージを採用していますが、設計思想としてBigQueryはバッチ分析向けでリアルタイム分析には最適化されていない一方、ClickHouseはリアルタイム分析を主要なターゲットとしています。

BigQueryとClickHouseの比較一覧表

観点 BigQuery ClickHouse Cloud
提供形態 Google Cloudが提供するフルマネージドのサーバーレスDWH ClickHouse Inc.が提供するフルマネージドOLAPサービス(オープンソース版のセルフホストも可能)
設計思想 大規模データのバッチ分析を想定 リアルタイム分析や高速集計を想定
ストレージ構造 Capacitorフォーマット(カラム指向)
ストレージとコンピュートが完全分離
MergeTreeファミリー(カラム指向)
ストレージとコンピュートが分離。データパーツを自動マージ
データアクセス プロプライエタリ形式で生データファイルにはアクセス不可 オープンソースベースのため、データ形式が公開されている
分散処理基盤 Dremelエンジンを基盤とした分散クエリ実行
リソース割り当ては自動
自動的なクラスタ管理とスケーリング
クエリエンジン 標準SQL(SQL:2011準拠)をサポート
最適化は自動
独自SQL方言+ベクトル化実行エンジンでCPU効率高い
クエリ速度 ペタバイト級でも安定だが、起動オーバーヘッドがあるため小規模クエリは遅め。サブセカンド処理は困難 サブセカンド応答が標準。BigQuery比で最大約4倍高速とされる
同時実行性能 スロット管理で制御、バッチ中心の設計 秒間数百〜数千クエリの高頻度アクセスに対応
リアルタイム性 リアルタイム分析に最適化されておらず、Streaming Insertでも数秒の遅延が発生 秒単位の取り込み・可視化が可能(低レイテンシ、リアルタイム分析に最適化)
スケーラビリティ 完全自動スケール、ユーザーは意識不要 自動スケール対応、コンピュートリソースを動的に調整
運用負荷 サーバーレスで運用不要。バックアップ・冗長化も自動 フルマネージドで運用負荷は最小限。バックアップ・冗長化も自動
必要スキル SQL/GCP操作のみで利用可能 SQL/ClickHouse固有の構文知識
コストモデル 非圧縮データサイズ課金がデフォルト(圧縮ベースは約2倍)。スキャン量課金($5/TB)+クエリごとに追加課金 or 定額スロット制 圧縮後データサイズ課金。コンピュート時間課金(クエリコスト含む)。総コストは最大60%低いとされる
コスト最適化ポイント クラスタリング・パーティション設定でスキャン量削減 圧縮率が高くストレージコストを抑制可能。コンピュートの自動停止機能

アーキテクチャの違い

データストレージ

  • BigQuery: Capacitor(カラムナーフォーマット)を使用し、データはGoogle Cloudのストレージ層に分散保存されます。ストレージとコンピュートが完全に分離されており、独立してスケール可能です。データはプロプライエタリな形式で管理され、生データファイルへの直接アクセスは提供されていません。
  • ClickHouse Cloud: MergeTreeファミリーのテーブルエンジンを使用し、ストレージとコンピュートが分離されたアーキテクチャを採用しています。データパーツを効率的にマージしながら保存する仕組みで、高い圧縮率を実現しています。オープンソースベースのため、データ形式は公開されています。

分散処理

  • BigQuery: Dremelエンジンをベースとした分散クエリ実行基盤を採用。数千ノードに自動的にクエリを分散し、実行時に動的にリソースを割り当てます。ユーザーはスロット(処理単位)を意識するだけで、詳細な管理は不要です。
  • ClickHouse Cloud: クラスタ管理が自動化されており、データの分散やレプリケーションは透過的に処理されます。ユーザーは詳細なクラスタ設計を意識せずに利用できます。

クエリエンジン

  • BigQuery: SQLベースで、標準SQL(SQL:2011準拠)をサポート。クエリの最適化は自動的に行われます。
  • ClickHouse: 独自のSQL方言を持ち、ClickHouse固有の関数や構文が豊富です。ベクトル化実行エンジンにより、CPUキャッシュを効率的に利用します。

性能比較:速度とスケーラビリティ

クエリ速度

  • ClickHouse Cloud: 単純な集計クエリでは、数億〜数十億行のデータに対してサブセカンド(1秒未満)での応答が標準とされています。ベクトル化実行エンジンにより、CPU効率の高い処理を実現しており、BigQueryと比較して最大約4倍のクエリ速度を発揮するとされています。
  • BigQuery: ペタバイト級のデータに対しても安定した性能を発揮しますが、クエリ起動のオーバーヘッドがあるため、小規模なクエリでは相対的にレイテンシが高くなる傾向があります。サブセカンド(1秒未満)のクエリ処理は困難とされています。

クエリ同時実行性

  • ClickHouse: 高い同時実行性を持ち、秒間数百〜数千のクエリを処理できます。高頻度でクエリが発生するダッシュボードやAPIバックエンドに適しています。
  • BigQuery: バッチ分析や定期的なクエリを前提とした設計で、スロット管理により同時実行数を制御します。

リアルタイム処理

  • ClickHouse Cloud: データ挿入からクエリ可能になるまでのレイテンシが低く、秒単位でのリアルタイム分析が可能です。リアルタイム分析ワークロードに最適化されています。
  • BigQuery: リアルタイム分析ワークロードには最適化されていません。Streaming Insertを使用した場合でも、データが利用可能になるまでに数秒程度のバッファリング時間が発生します。秒単位の応答を求めるリアルタイム分析用途には不向きです。

image.png
出典:ClickHouse,inc.

スケーラビリティ

  • ClickHouse Cloud: 自動スケーリング機能を備えており、ワークロードに応じてコンピュートリソースを動的に調整します。アイドル時には自動的にスケールダウンしてコストを削減します。
  • BigQuery: 完全に自動でスケールし、ユーザーが意識する必要はありません。データ量やクエリ負荷に応じて透過的にリソースが割り当てられます。

運用・コストの違い

運用管理

  • BigQuery:

    • インフラ管理が完全に不要(サーバーレス)
    • バックアップ、冗長化、セキュリティパッチなどはすべてGoogle管理
    • データベース管理者(DBA)が不要で、分析者が直接利用できる
    • 運用負荷はほぼゼロ
  • ClickHouse Cloud:

    • フルマネージドサービスのため、インフラ管理は不要
    • バックアップ、冗長化、セキュリティパッチなどはClickHouse Inc.が管理
    • クラスタのスケーリングやメンテナンスは自動化
    • 運用負荷は最小限で、SQLとClickHouse固有の構文知識があれば利用可能
    • (オープンソース版をセルフホストする場合は、インフラ運用の専門知識が必要)

コスト構造

  • BigQuery:

    • ストレージ料金: デフォルトでは論理バイト(非圧縮データサイズ)で課金されます。圧縮データサイズベースの課金も選択可能ですが、リスト価格の約2倍になります
    • クエリ料金: オンデマンド分析ではスキャンしたデータ量に応じて課金($5/TB)されます。これに加えて、クエリごとに追加のコストが発生します。または定額のスロット課金モデルも選択可能
    • 初期費用なし、使った分だけ課金される従量課金制
    • クエリの最適化(パーティション分割、クラスタリング)により、スキャン量を削減してコストを抑えることが可能
  • ClickHouse Cloud:

    • ストレージ料金: 圧縮後のデータサイズで課金されます。総コストはBigQueryと比較して最大60%低いとされています
    • コンピュート料金: 稼働時間ベースで課金され、クエリコストは別途発生せずコンピュート料金に含まれます
    • アイドル時の自動停止機能により、使用していない時間のコストを削減可能
    • 高い圧縮率により、ストレージコストを抑えられます
    • 初期費用なし、使った分だけ課金される従量課金制
    • (オープンソース版をセルフホストする場合は、サーバーコストと運用人件費が主なコスト要素)

コスト比較の考え方

コストは使用パターンに大きく依存します:

  • ストレージ課金方式の違い: BigQueryは非圧縮データサイズ課金がデフォルト(圧縮ベースは約2倍の価格)、ClickHouse Cloudは圧縮後サイズ課金
  • クエリコストの扱い: BigQueryはクエリごとに追加課金が発生、ClickHouse Cloudはコンピュート料金に含まれる
  • クエリ頻度が低い場合: BigQueryの従量課金が有利な可能性
  • クエリ頻度が高い場合: スキャン量ベースの課金では総コストが増大しやすく、ClickHouse Cloudや定額スロットモデルの検討が有効
  • データ量とアクセス頻度: 大量データへの頻繁なアクセスがある場合、コストモデルの違いが顕著に現れます

image.png
出典:ClickHouse,inc.

BigQueryが向いているケース

BigQueryは以下のようなケースで適しています。

  1. バッチ分析中心の用途:日次・週次の定期レポート生成など、リアルタイム性を求めないバッチ分析が中心の場合。BigQueryはリアルタイム分析には最適化されていないため、秒単位の応答が必要な用途には不向きです。
  2. 超大規模データの分析:数百TB〜ペタバイト規模のデータを扱う場合、BigQueryの自動スケーリング機能と分散処理能力が活きます。クラスタ管理を避けたい場合に有効です。
  3. クエリ頻度が低い用途:月に数回〜数十回程度のクエリ実行であれば、従量課金モデルがコスト効率的になる可能性があります。
  4. GCPエコシステムとの統合:Google Analytics、Firebase、Cloud Loggingなど、GCP内のサービスとの緊密な連携が必要な場合、BigQueryとのネイティブ統合が利点になります。
  5. 運用リソースが限られている組織:DBAや専門のインフラエンジニアが不在で、データベース運用に人的リソースを割けない組織には、フルマネージドのBigQueryが適しています(ただし、ClickHouse Cloudも同様にフルマネージドです)。
  6. 急激なスケール変化への対応:データ量やクエリ負荷が予測困難で急激に変動する場合、サーバーレスの自動スケーリングが有効です。

ClickHouse Cloudが向いているケース

ClickHouse Cloudは以下のようなケースで適しています。

  1. リアルタイム・低レイテンシ分析:データの挿入から数秒以内にクエリ結果を得る必要があるリアルタイム分析ワークロード。ミリ秒〜秒単位の応答時間が求められる用途に向いています。

  2. 高頻度クエリワークロード:秒間数百〜数千のクエリが発生するシステムや、ユーザー向けダッシュボード、API経由の分析など、クエリ頻度が高い用途。

  3. 時系列・ログデータの分析:アクセスログ、IoTセンサーデータ、アプリケーションメトリクスなど、大量の時系列データを継続的に取り込み、高速に集計する必要がある場合。

  4. インタラクティブな分析ダッシュボード:リアルタイムで更新され、ユーザーが対話的に操作するダッシュボードやレポート機能。低レイテンシが重要な要素となります。

  5. コスト予測可能性を重視:クエリ頻度が高く、スキャン量ベースの従量課金では予算管理が難しい場合。コンピュート時間ベースの課金モデルを好む組織に適しています。

  6. アイドル時間が多いワークロード:定期的に高負荷になるが、それ以外の時間は使用しないパターン。自動停止機能でコストを最適化できます。

  7. マルチクラウド・オンプレミス要件:特定のクラウドベンダーへの依存を避けたい場合。オープンソースベースのため、将来的にセルフホストへの移行も可能です。

  8. 大規模データの継続的取り込み:1秒あたり数GB〜数十GBのデータを継続的に取り込み、即座に分析可能にする必要があるシステム。

まとめ:両者の選択指針

BigQueryとClickHouse Cloudは、どちらも強力なフルマネージドデータ分析基盤ですが、それぞれ異なる設計思想と強みを持っています。

選択の軸

ワークロードの特性

  • バッチ分析中心: BigQueryのサーバーレスアーキテクチャが適している
  • リアルタイム分析中心: BigQueryはリアルタイム分析ワークロードに最適化されておらず、秒単位の応答を求める用途ではClickHouse Cloudの方が適している
  • クエリ頻度: 低頻度ならBigQuery、高頻度ならClickHouse Cloudが有利な傾向

運用体制

  • 運用リソースが限定的: BigQueryとClickHouse Cloudはどちらもフルマネージドで運用負荷が低い
  • インフラの細かい制御が必要: ClickHouseのオープンソース版をセルフホストする選択肢もある
  • どちらもマネージドサービスを提供: 運用負荷の観点では同等

コスト構造

  • クエリ頻度が低い: BigQueryの従量課金が合理的な場合が多い
  • クエリ頻度が高い: ClickHouseや定額スロットモデルの検討が有効
  • データアクセスパターン: 大量データへの頻繁なアクセスではコストモデルの違いが重要

エコシステム

  • GCP中心: BigQueryのネイティブ統合が便利
  • マルチクラウド対応: ClickHouse Cloudは複数のクラウドプロバイダーで利用可能
  • データの可搬性: オープンソースベースのため、セルフホストへの移行も可能で自由度が高い

技術選定のポイント

  1. 要件の明確化: リアルタイム性、クエリ頻度、データ量を整理する
  2. PoC(概念実証)の実施: 実際のワークロードで両者を評価する
  3. TCO(総所有コスト)の試算: ライセンス、インフラ、運用コストを含めて比較
  4. 将来の拡張性: データ量やユースケースの成長を見据える
  5. 組織の技術スタック: 既存の技術選択との整合性を考慮

最終的に

どちらを選択するにしても、自社の要件、予算、運用体制、技術スタックを総合的に評価することが重要です。一概にどちらが優れているということはなく、ユースケースによって最適な選択が異なります。

両製品とも活発に開発が続いており、新機能の追加や性能改善が継続的に行われています。技術選定後も、定期的に最新の情報をキャッチアップし、必要に応じて再評価することをお勧めします。

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