先日投稿したプログラミングが大好きなWeb系エンジニアの50代以降のキャリアに関する考察という記事は、かなり拡散して色々な方に読んで頂いたようなのですが、ネット上の反応を見る限り、フリーランスエンジニアというワークスタイルに良くも悪くも歪んだイメージを持ってしまっている方が多いというか、実体験を伴わない聞きかじりの情報に影響されて誤った認識を持ってしまっている方がかなり多いという印象でしたので、こちらの記事ではそういった誤解に対する私なりの反論というか見解を述べさせて頂こうと思います。
誤解1:案件や顧客は全て自分で探さなければならない
一昔前の、例えば「業務委託案件を探す手段が@SOHOくらいしか存在しなかった時代」は、案件を探すのは確かに大変でしたし、高単価案件は一部の「人脈の広い人」でないと中々見つけられない状況でした。
しかし、2010年辺りからWeb系エンジニアの需要が爆発的に拡大するにつれて、「フリーランスエンジニア専門のエージェント会社」が急激に増加&成長していったことにより、「とりあえずエージェント経由であれば案件はほぼ必ず見つかる」というか、「平均レベル以上のフリーランスエンジニアであれば仕事に困ることは無いという状態」になっています。
もちろんエージェントを経由すると手数料を引かれてしまいますし、田中さんの「フリーランスエンジニアの単価を決める」という記事で説明されているような高額単価の案件はエージェント経由では獲得出来ませんが、少なくとも「案件や顧客は全て自分で探さなければならない」という状況ではありませんので、2018年現在、若くて平均レベル以上のエンジニアにとっては「フリーランスになっても案件が無かったらどうしよう」という心配は「完全に杞憂になった」と言い切ってしまって差し支えないと思います。
誤解2:納品するまでお金を貰えない
こちらも一昔前までは「請負契約」が多かったので、支払いに関するトラブルが多く、それによって「フリーランスエンジニアは大変」という「負のイメージ」が形成されてしまったということは事実だと思います。
実際私もフリーランスエンジニア1年目の時にタチの悪いお客さんに引っかかって、「請負契約」だったためにかなり面倒な支払いトラブルを経験しましたが、現在の主流は完全に「時間精算」の「準委任契約」ですので、ある程度名前の知られている信頼性の高い企業の案件であれば、支払いでトラブルが発生するということは滅多にありません。
もちろん現在でも「請負契約」で受注した場合はそういうトラブルに巻き込まれる可能性はありますが、それが嫌なら「準委任契約」にしておけば良いだけですし、私もここ数年はほぼ全ての案件は「準委任契約」ですが、その間に支払いでトラブルになった経験は今のところゼロです。
請負契約と準委任契約の違いについては下記の記事がとても参考になると思います。
請負契約と準委任契約、どっちで契約すればいいの?〜請負契約・準委任契約・労働者派遣契約の違い〜
誤解3:正社員に戻ってはいけない(戻れない)
なぜか多くの人が「フリーランスが正社員に戻るのは"負け"を意味する」みたいに考えているようなのですが、私が「転職ドラフトで1000万円超えのオファーを2度貰ったエンジニアが「評価された理由」と「正社員で働く意味」について考えてみました。」という記事で説明させて頂いたように、現在は「フリーランスエンジニアと正社員エンジニアのメリットとデメリットを客観的に比較して、その時々の状況に合わせてどちらかのワークスタイルを自由に選択できる時代」です。
つまり「正社員」と「フリーランス」というワークスタイルは相反するものでもなければ不可逆なものでもないので、例えば「週3日は正社員として勤務して、残りの2日はフリーランス案件に対応する」という「ミックススタイル」でも全く問題無いわけです。
フリーランスエンジニアを経験したことが無い人は、フリーランスになることを「数十年ローンを組んで一軒家を購入する」くらいの一大事みたいに考えてしまう傾向があるようですが、実際には「周辺環境は魅力的だが少々治安の悪いエリアの賃貸物件に引っ越しする」程度のことでしかありません。
「引っ越した先がいまいちだったらまた別の物件に引っ越せばいいだけの話」なので、「正社員に戻った方がメリットがある」と判断したならいつでも好きなタイミングで正社員に戻ればいいですし、「過去にフリーランスエンジニア経験があることによって正社員転職における面接時の評価が下がる」という話は聞いたことがありませんので、フリーランスになることを警戒し過ぎる必要は全くありません。
実際私も、例えば「転職ドラフト」では今までに1000万円超えの正社員オファーを3回頂きましたが、「フリーランスでいるよりもメリットが大きい」と判断できるオファーを頂ければ、いつでも正社員に戻るつもりです。
ワークスタイルというのは「活用するもの」であって「縛られるもの」ではないので、フリーランスというワークスタイルに誇りを持つ必要もなければ、正社員というワークスタイルに誇りを持つ必要もありません。状況を客観的に判断して、メリットが大きい方に柔軟に動けばいいと思います。
誤解4:正社員エンジニアの数倍稼がなければならない
この「迷信」にどうも多くの人が影響されてしまっているようですが、「数倍」という計算には合理的な根拠がありません。
例えばネット上の情報では「フリーランスは退職金が貰えない」ことを「数倍」の根拠にしているケースが多いですが、エンジニアというのは「スキルアップのために数年程度で転職するのが当然」で、「多額の退職金を貰うことをそもそもライフプランに含められない職種」なので「正社員だと退職金が数千万貰える」という前提自体が無意味です。
また、エンジニアの場合は、(地域にもよりますが)基本的に「個人事業税」は課税されませんのでこれを比較計算に組み入れるのも誤りですし、他には「フリーランスは有給休暇がない」という点を根拠にする計算も多いですが、準委任契約の場合の精算時間は大抵は140〜180時間なので、営業日数の多い月であれば例えば2日休んでも140時間は超えますので、「フリーランスエンジニアの有給は実質的には存在している」という状況なのでこの計算も誤りです。
また、経費に関しても、オフィスを専用に借りる場合は別として、エンジニアの場合はフリーランスになったからと言って支出が激増するようなこともありません。(「技術書の購入費」や「仕事関係の接待交際費」は「経費」として控除出来るのでこの点はむしろ正社員よりも有利です)
また「iDeCoの節税効果」は、正社員よりも掛け金上限の多い自営業者の方に圧倒的に有利に働きますので、この点も比較に含める必要があります。
つまり、フリーランスエンジニアが正社員エンジニアと収入が大体同じ程度になる水準としては「社会保険が全て自己負担になってしまう分」を考慮するだけで良いというのが実際のところなので、「正社員時代の収入の2割〜3割増で大体同じくらい」と考えてよいと思います。
例えば正社員時代の給与が年間500万円だった方であれば、フリーランスで600〜650万円あれば十分に同水準ですし、これは月単価としては55万円程度なので、フリーランスエンジニア案件としては「いくらでもある」というか「ジュニアレベルのエンジニアの単価」ですので、「平均以上のレベルのエンジニア」の方がこの単価を上回ることは容易です。
それ以外にも、雇用保険の心配をしている方も多いですが、心配なら民間保険に入ればいいですし、2017年に発足した「フリーランス協会」に年会費を払って加盟すれば、「所得補償」の保険に数割引きで加入することが可能です。
フリーランス協会所得補償制度|日本初!フリーランスの方のための所得補償制度ができました。
誤解5:常駐は負け。リモートワークしてこそフリーランス
「働く場所を誰にも強制されずに自分で自由に選べてこそフリーランス」みたいな「哲学」をお持ちの方とか、そういう「宗教」に入信されている方がいらっしゃるようですが、「リモートワーク」に関しては最近はむしろ「優秀な人に正社員として長く働いてもらうために」会社側が積極的に制度を整備するようになってきており、正社員でも普通にリモートワークが可能な会社がどんどん増えてきていますので、「働く場所を強制されたくないからフリーランス」というのは本末転倒というか、世の中の変化が見えていないというか、「"フリー"という単語に引きずられすぎ」です。
かつては確かに「請負契約による在宅案件をやるのがフリーランス」というイメージがありましたが、少なくとも現在の「正社員でもフルリモートで働ける会社が増えてきた」という状況においては「リモートワークは最早フリーランスというワークスタイルの代名詞ではない」ので、「常駐でもリモートワークでも都合の良い方を選べばいいし、リモートワークしたいからといってフリーランスになる必要なんてもう無いし、フリーランスになったからといってリモートワークにこだわる必要も無いよね」という、時代に即した考え方に変えていった方が良いと思います。
実はデメリットが多い!? リモートワークのメリット・デメリットを解説
まとめ
- エージェント経由であれば案件や顧客を自分で探す必要はない。
- ただし高額案件はエージェント経由では受注出来ないので地道な人脈開拓は常に必要。
- 信頼出来る取引先との準委任契約であれば支払い時のトラブルは滅多に発生しない。
- フリーランスと正社員のメリット/デメリットを比較して、その時々の状況に応じて最適なワークスタイルを選択すればよい。
- 「正社員の数倍稼ぐ必要がある」は迷信。正社員の1.2倍〜1.3倍程度稼げればほぼ同額。
- リモートワークはもはや「フリーランスエンジニアというワークスタイルの代名詞」ではない。常駐でもリモートワークでも自分の好きな方を選べばよい。
最後に
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