はじめに
IBMのPowerサーバーの AIX環境では、仮想区画(LPAR)を複数作成して柔軟にシステムを運用することができます。
各LPARにAIX OSをインストールしたり、フィックスの適用(TL/SP の更新)を行ったりする際、1台ずつメディアをマウントして作業するのは非常に手間がかかります。
そこで活用されるのがNIM (Network Installation Management)ですが、lpp_source や SPOT など、特有のリソース名が多く登場し、どのような役割分担になっているのか、理解が追いつきませんでした。
NIMとはどのような機能なのか、主要なリソースの役割、そして代表的な運用シナリオについて整理した内容を私なりにまとめてみました。
この記事は以下の資料を参考に作成しています。
- IBM Documentation (AIX 7.3) "Network Installation Management"
- IBM Redbooks "NIM from A to Z in AIX 5L" (英語)
NIMとは
NIMとは、ネットワーク経由でAIXのOSインストール、ソフトウェアの導入、フィックスの適用、バックアップ・復元を一元管理するための仕組みです。
新しいLPARにOSを導入する際は通常、物理メディアや仮想光学デバイス(Virtual Optical Device)を用意する必要がありますが、NIM環境を構築しておけば、ネットワークブート(BOOTP / DHCP / TFTP / NFS)を利用してサーバーからクライアントへOSを直接配信・インストールすることができます。
これにより、以下のようなメリットが得られます。
- メディアレスでのOS導入: 物理メディアや個別ISOのマウント作業が不要に
- 複数区画への一括展開・管理: 多数のAIX LPARに対して、同一バージョンのOSや修正パッケージを素早く配布できる
- システムバックアップの集中管理: ネットワーク経由で各LPARのシステムバックアップ(mksysb)を取得・保管できる
NIMの基本構成要素(マスターとクライアント)
NIM環境は、大きく分けて2つの役割で構成されます。
1) NIMマスター (NIM Master)
NIM環境全体を制御・管理するAIXサーバーです。
OSのインストール資材(パッケージやブート用ファイル)を一元的に保持し、クライアントからの要求に応じてリソースを提供します。1つのNIM環境には通常1台のNIMマスターが存在します。
2) NIMクライアント (NIM Client)
NIMマスターからOSやソフトウェアの提供を受ける対象のAIXマシン(LPAR)です。
NIMマスター側にクライアント情報(ホスト名、IPアドレス、MACアドレスなど)を事前に定義しておくことで、マスターからの遠隔操作やネットワークインストールが可能になります。
SPOTのAIXレベル(バージョン / TL / SP)は、NIMマスターのレベルを超えることはできません。
NIMで混乱しやすい3大リソースの役割
NIMを勉強する中で混乱したのが、「NIMリソース」と呼ばれる各種オブジェクトの使い分けです。
特に重要な3つのリソースについて、その役割を整理しました。
1) lpp_source (Licensed Program Product Source)
- 役割: インストール用パッケージ資材の保管庫
- イメージ: 「AIXのインストールDVDの中身をそのままサーバーのディスクにコピーしたフォルダ」
AIXのOS基本パッケージや追加ソフトウェア(fileset)、APAR フィックスが格納されたディレクトリです。クライアントはこのディレクトリから必要なソフトウェアパッケージを取得してインストールを行います。
2) SPOT (Shared Product Object Tree)
- 役割: クライアントが起動・インストール作業を行うための「ブートイメージ生成元 兼 AIX実行環境」
- イメージ: 「作業に必要な道具箱と、インストール作業をこなす職人」
NIMクライアントがネットワーク起動する際に必要なブートイメージの生成元であり、起動後に NFS でマウントされる AIX の /usr ファイルシステム相当の共有ファイルツリーです。
installp や BOSインストーラー(bosinst)などの基本コマンド、ライブラリ、カーネルエクステンションが含まれており、クライアントはこの SPOT をメモリ・NFS上で実行環境として使いながら、lpp_source や mksysb からデータを取り込んでインストールを進めます。通常は lpp_source をもとにNIMマスター上で生成されます。
3) mksysb リソース
- 役割: AIXのOS全体バックアップイメージ
- イメージ: 「環境まるごとのクローン・スナップショット」
特定のAIX LPARから取得したOS領域(rootvg)のバックアップファイルです。NIMリソースとして登録しておくことで、同じ構成のLPARを複製(クローニング)したり、障害時のリストア作業をネットワーク経由で素早く実行したりできます。
※ mksysb からの復元・インストール時にも、ネットワークブートとインストーラー実行のために SPOT がセットで必要になります。
3つのリソースの関係性まとめ
| リソース名 | 何が入っているか | 主な用途 | 備考 |
|---|---|---|---|
| lpp_source | インストールパッケージ群 | OS・ソフトウェアの導入、フィックス適用 | パッケージ資材の格納場所 |
| SPOT |
/usr 相当の共有ファイルツリー |
ブートイメージ生成、インストール実行環境 | BOSインストールの必須リソース |
| mksysb | rootvgのバックアップイメージ | 同一環境の複製、障害復旧 | 展開時もSPOTとセットで使用 |
NIMを使った主な運用シナリオ
NIMを導入すると、日常のAIX運用において以下のような作業がスムーズに行えるようになります。
1. 新規LPARへのAIXクリーンインストール(rte インストール)
SPOT からネットワークブートしてインストーラー環境を起動し、lpp_source のパッケージをディスク(rootvg)へ展開する標準的な導入方式です。
2. マスターイメージからのLPAR複製(mksysb インストール)
初期設定済みLPARの mksysb を新しいLPARへ展開することで、クリーンインストールより大幅に短時間で同一構成を複製できます。ブート用に SPOT が必要な点は同様です。
3. メンテナンス(TL/SP適用)の一括実行
新しいTL/SPのフィックス資材を lpp_source に追加し、稼働中のクライアントへリモートで一括適用します。
まとめ
NIM は、複数のAIX環境を効率的かつ統合的に管理するための非常に便利な機能です。
NIMの概念を理解することで、新規LPARの構築からフィックス適用・障害復旧まで、AIX運用のあらゆる場面でスムーズに作業を進められるようになります。