Arweaveから派生したAO(Actor-Oriented)は、Web3 そして AI 領域において、覇権を握る可能性を秘めたコンピューティング・レイヤーです。
ただし、従来のブロックチェーンとは設計思想の根本が異なり、独自概念も多いため、初学者にとってはその全体像を捉えるのが難しいという課題があります。
私自身、AOの特徴を人に説明しようとするたびに、その複雑さに直面してきました。
そこで本記事では、AOの思想・構造・技術・ユースケースを包括的に理解できるよう、創設者 Sam Williams 本人によるロングインタビューの翻訳を掲載します。
AOを知るうえで、これ以上ない出発点になるはずです。
まずは、「AOとは何か?」という問いに対し、その創造者の言葉から直接、全体像を掴んでみてください。
AO とは何か(簡単な例から)
※ティーザー部分だからこのセクションは読み飛ばして OK です
Sam: 金融プリミティブの最も基本的な表現は、オンチェーン上で実装されてきました。しかし、それらのインタラクションをなぜ行うのかという理由は、オフチェーンに存在していたのです。AO では、ネットワーク内部で任意の規模の計算処理をホストでき、それにスマートコントラクト同様の保証を与えることができます。そのため、ロジックや意思決定を外部ではなくネットワーク内部に組み込んだシステムを構築でき、同時にトラストレスな保証も提供可能になります。
簡単な例を挙げましょう。AO 上にプロセスを持っていて、あなたの保有資産を特定のポートフォリオ比率で表現したいとします。たとえば、あるトークンに 80%、残りをステーブルコインなどに 20%といった構成です。このとき誰かがあなたにトークンを送ると、AO 上のプロセスが即座に反応し、レンディングプロトコルのように、インテリジェントかつトラストレスにポートフォリオの再バランスを自動で行ってくれます。
でも、それはあくまで基本的な例にすぎません。もしフルオンチェーンのアルゴリズム取引ファンドを構築したいとしたら、どうでしょうか?シンプルなケースでは、そのファンドはビットコインの価格を追跡し、それに応じて注文内容を調整します。市場全体がビットコインと 相関係数 0.82 程度で連動しているため、マーケットニュートラルなポジションを維持するのに有効です。このようなファンドを AO のプロセスとして構築すれば、スマートコントラクトによる保証のもとで自律的に稼働させることができます。ユーザーはトークンを預け、エージェントが戦略を実行し、最終的にはファンドマネージャーを信頼することなくトークンを引き出すことができます。
はじめに
Host: Web3 は、まさにまっさらなペトリ皿を提供してくれます。私たちの役割は、優れた技術を、優れた価格で見つけて投資することです。そして AI もまた、ある意味でリバタリアン的ですよね。従来では実現できなかったユースケースを、次々と可能にしていきます。数億人規模のプレイヤーたちが、モバイルを通じてこの世界に入ってくるのです。
今後 12 ヶ月で私が強気になれる個人的な理由について話す前に——よし、それでは始めましょう。皆さん、The Blockcrunch Podcast の最新エピソードへようこそ。ホストの Jason Choi です。エンジェル投資家であり、Tangent の共同創業者でもあります。
※ 免責事項:このエピソードの内容は、いかなる金融アドバイスでもありません。また、私たちの発言は所属企業の公式見解を示すものではありません。なお、番組内で言及される資産を私たち自身が保有している可能性もあります。
最近、分散型ストレージネットワークの Arweave が、新たなハイパーパラレルコンピューター「AO」の立ち上げを発表しました。これは、彼らのビジョンにおける次のフェーズです。彼らはこの AO を「ばかげたほどスケーラブルなネットワーク」と表現しており、私はこの表現がとても気に入りました。私自身、2018 年からスケーラビリティをテーマに取り組んできたこともあり、大いに興味を惹かれました。
今日は、AO とは何か? そしてそれが次なるクリプトのダークホースとなり得るのかを深掘りすべく、Arweave 創設者の Sam Williams さんをお迎えしています。Sam、ようこそ番組へ。
Sam:呼んでいただき、ありがとうございます。
AO 前史: データの永続ストレージ + 決定論的 VM = ?
Host: AO の話に入る前に、まず Arweave の背景を簡単に振り返りたいと思います。Arweave はもともと、人々が情報をインターネット上に永続的に保存できる手段を提供することを目的に始まりました。私自身、それはとても魅力的なビジョンだと感じました。その Arweave が、どのような歴史を辿り、どのようにして AO に発展していったのか、簡単にご説明いただけますか?
Sam: もちろんです。私たちは約 4 年前に気づきました。「もしデータを永続的に保存できるマシンと、決定論的な仮想マシン(VM)があれば、計算を通じて再現可能な状態(reproducible state)を作り出すことができる」と。つまり、決定論的 VM・入力ログ・初期状態を組み合わせ、それらを分散的に保存することで、実質的に「無料で」分散型コンピューティングの仕組みが手に入るのです。
私たちはそれを SmartWeave と名付けました。もともとは、私ともう一人で午後に書き上げた約 150 行の JavaScript による概念実証(PoC)から始まったのです。しかし、その最初のバージョンによって、私たちは気づかされました――「このマシンは、既存の分散型コンピューティングを遥かに凌駕する可能性を秘めている」と。
このモデルにおける核心的なイノベーションは、計算処理を後の段階に延期するという発想でした。当初は「読み手」に処理を委ね、最終的にはコンセンサスの外部へと切り離していきました。これにより、ノードはコンセンサスセットに属さなくとも、非同期的に計算状態を提供できるようになります。これは極めて強力な概念です。
データのコンセンサスと実行を切り離すことで、スマートコントラクトの実行中に任意の量の計算処理を可能にできます。その結果として、ユーザーが結果を待つことを厭わない長時間実行型のコントラクトも実現可能になり、ネットワーク自体は止まることなく前進し続けるのです。
当時、このテーマについて語っていたのは、ほとんど私たちだけでした。コンピュータサイエンスには、これを表す専門用語があります。「遅延評価(lazy evaluation)」です。CoinDesk は「Arweave はスマートコントラクトに対して “怠惰なアプローチ”(lazy approach) を取っている」と記事に書きましたが、正直あまり建設的とは言えませんでした。同じような発想を持っていたのは、後に Celestia となる LazyLedger くらいのものでした。
SmartWeave から AO への発展: Hyper Parallel Computing
それ以来、私たちはこのモデルに可能性があることを認識していましたが、当時はまだ完全にスケーラブルな計算モデルとは言えませんでした。そして 2022 年頃、SmartWeave が、かつて「コントラクト」と呼んでいた他のプロセスに対して非同期にメッセージを送れるようになれば、任意の計算処理を並列に実行できるということに気づいたのです。
今日のスマートコントラクトシステムは、グローバルに同期されたステートを前提として設計されています。そのため、たとえローテーション制であっても、ネットワークに書き込む役割を担う単一のリーダー(ノード)を選出する必要があります。結果として、この設計がスケーラビリティの限界を生み出しているのです。
しかし、Arweave をメッセージバスとして利用し、互いにメッセージを送信できる非同期かつ並列的なスマートコントラクトがあれば、必要な数だけ並列スレッドを立ち上げ、それぞれがメッセージを通じて連携することが可能になります。そして、これこそが真のブレークスルーなのです。
約 1 年前、ベアマーケットのさなかに、私たちにはじっくり考え、構築に集中する時間がありました。私たちはこの問題の解決に全力を注ぎ、そしてそれは実際に機能しました。私たちが最終的に構築したものは、本質的には「分散型スーパーコンピューター」です。AO では計算能力を追加すれば、出力も比例して増加します。これは、ブロックサイズやコンセンサスの制約によって、たとえ計算資源を増やしてもスループットが向上しない Ethereum や Solana のような従来のチェーンとは根本的に異なります。
そこで私たちは、Arweave をメッセージングレイヤーとして活用し、任意の数の並列仮想マシンを動かせるシステムを構築しました。興味深いのは、Arweave に記録された「計算の履歴」そのものが、コンピューターとしての土台になるという点です。それこそが、私たちが構築したものなのです。
Host: それは本当に面白いですね。LazyLedger に関する話も特に印象に残りました。実は、私たちは彼らが Celestia に移行する前に投資していたんですが、あなたが同じようなコンセプトに取り組んでいたとは知りませんでした。あなたの視点(フレーミング)はとても魅力的です。
AO の仕組み: ローカルステートとメッセージ
Host: あと、あなたが指摘していたように、Ethereum ではバリデーターをいくら増やしても、プロポーザーが 1 人しかいないからスピードは上がらない。でも AO では、アクターを増やせば増やすほど処理が速くなる。それこそが、AO の“無限のスケーラビリティ”の核心なんですよね?
Sam: その通りです。分散型ネットワークには、3 つの主要な構成要素があります。私たちは従来のブロックチェーンノード構造を分解し、それぞれのコンポーネントが水平方向にスケーリング可能になるよう再設計しました。そして、それらを再構成し、Arweave をベースの決済レイヤー(settlement layer)として組み込んだのです。
システムは 3 つのレイヤーで構成されています:コンピュートユニット、スケジューリングユニット(データ可用性などを含む)、メッセージングユニット。これらはそれぞれ水平方向にスケーリング可能で、組み合わせることで得られるのは、単なるコンピュートネットワークではありません。概念的には、ひとつのコンピューターそのものとなるのです。分散 OS 理論では、これを「単一システムイメージ(single system image)」と呼びます。複数のマシンで構成されたクラスターが、ユーザーからは一台のマシンのように見えるという発想です。これこそが、AO の本質です。
AO の各プロセスはローカルステート(状態)を持ちます。他のプロセスのメモリを直接読み取ることはできません。なぜなら、それを実現するには同期されたグローバルステートが必要となり、大きなボトルネックを生むからです。その代わりに、プロセス同士はメッセージによって通信を行います。たとえば、あなたがあるコントラクトにトークンを送ると、そのプロセスはまずあなたに対して「クレジット受領」というメッセージを送り、さらに送信者側には「デビット処理が行われました」という別のメッセージを返します。
すべてのメッセージは非同期で処理されるため、待機やロックは一切ありません。まるで、ひとつの巨大なマシンを扱っているかのような感覚になります。
Host: Ethereum はこのアイデアの概念実証でした。全世界が科学計算機を共有しているようなものです。その中でプログラムを構築でき、それらは相互作用できますが、あなたはこれを大規模にスケールアップしました。テストネットは現在何台で動いていますか?Ethereum は、このアイデアの概念実証(Proof of Concept)でした。イメージとしては、全世界がひとつの科学計算機を共有しているようなものです。その中でプログラムを構築し、相互にやり取りすることはできますが、あなたはそのモデルを圧倒的なスケールで拡張しました。現在、テストネットは何台のマシンで動いているんですか?
Sam: 現在はおよそ 220 台のマシンで稼働しています。そして、その計算能力はユーザーの処理にフル活用することが可能です。本格的にスケールした際には、数万台規模のマシン群が動くことを想定しています。まさに、“民主化されたスーパーコンピューター”が現実のものになるのです。
AOのアクター指向モデル(EthereumやSolanaとの違い)
Host: 開発者の立場から見ると、特に Ethereum や Solana のスマートコントラクトに慣れ親しんでいる方にとって、これまでの経験は AO にどの程度応用できるのでしょうか?あるいは、根本的な違いがあるとすれば、それはどのあたりですか?
Sam: ひとつ大きな違いがあります。それは、共有メモリが存在しないという点です。その代わり、すべての処理はプロセス間のメッセージを通じて調整されます。とはいえ、多くの面でこの仕組みのほうが、大規模なシステムにとってはむしろ直感的なのです。
共有メモリとは、2 人の人間が直接会って、情報をやり取りするようなものです。ただし、そのやり取りが成立するには、両者とも一時的に動きを止める必要があります。これを、グローバル経済全体の規模で行わなければならないと想像してみてください。それが、Ethereum や Solana のモデルなのです。
AO はアクター指向の仕組みです。計算の各単位は「アクター」として機能し、メッセージの送受信によってやり取りを行います。これは、ちょうどこのポッドキャストのセッティングと似ていますよね。Telegram で私があなたにメッセージを送り、あなたは都合がついたときに返信し、お互いに待ち時間なくスムーズに調整することができました。
AO という名前は、Actor-Oriented computing(アクター指向コンピューティング)の略称です。
AO のベースレイヤーは、VM に依存しない設計(VM-agnostic)になっています。理論上は、EVM、Solana VM、あるいは Bitcoin Script でも、望めば利用できます。ただし私たちは、より高レベルなインターフェイスとして AOS(AO System)を構築しました。これは、分散型オペレーティングシステムとして機能します。
AOS では Lua を使用しています。あまり一般的な言語ではありませんが、非常にシンプルかつ直感的です。テストネットの公開からわずか 3 週間で、約 5,000 人の開発者が参加しました。フィードバックも非常に好評です。
AOS の仕組みは、従来のスマートコントラクトプラットフォームとは根本的に異なります。開発者は、まるで SSH にログインするかのように、プロセスに直接アクセスします。そこにはコマンドライン環境があり、受信メッセージを確認しながら、ハンドラーを対話的に追加し、リアルタイムでプロトタイピングを行うことができます。準備が整ったら、そのコードを不変(immutable)な状態に固定できます。それまでは、ライブで自由に編集・デバッグを続けることが可能です。この開発体験は、既存のスマートコントラクト開発と比べて劇的に改善されており、多くの開発者から非常に高く評価されています。
Host: 2018 年に Solana の Anatoly にインタビューしたとき、私はまさに「ゼロからイチ」への飛躍を感じました。そして今、あなたが AOS について語るのを聞いて、あのときと同じ感覚を覚えています。これは、分散コンピューティングにおける基盤的なジャンプ(飛躍)だと感じます。
非技術的なリスナーのために「アクター指向」をもう少し理解しやすくしたいと思いました。ChatGPT に 5 歳児向けに説明してもらったところ、こんな回答でした:
「たくさんの人がいる大きな部屋を想像してみてください。その人たちはみんな“アクター”です。場所から動くことはできませんが、お互いに声をかけ合って仕事を進めます。一人ひとりが得意なことを持っていて、何かしてほしいときはメモを送ります。メモを受け取った人がそれを読んで、行動を起こします。誰もその場から動かないけれど、全体としてうまく連携してシステムが動いているんです。」
この説明、正確に表現できていますか?
Sam: 実際、私が先ほど挙げた例とそれほど違いはありません。アクター指向設計の人間的直感を捉えています。私たちはみな、社会の分散計算システムのアクターで実際のところ、私が先ほど挙げた例とも大きくは違いません。アクター指向設計の“人間的な直感”をうまく捉えています。私たちは皆、社会という分散型計算システムの中のアクターです。それぞれが個別に行動しながら、全体として物事が進んでいくのです。「動き回れない」という部分は、私なら使わないかもしれませんが、それ以外はかなり的を射ています。
ユースケースから見る AO: DeFi コンポーザビリティとスケーラビリティ
Host: 先ほどコンポーザビリティについて触れていましたが、共有メモリがないとなると、その柔軟性に影響は出てくるのでしょうか?たとえば、DeFi プロトコルとやり取りしたり、流動性を引き出したりといった操作は、AO 上でも問題なく実現できるんでしょうか?
Sam: もちろん可能です。実際、すでにそうした事例が出始めています。初期の DeFi アプリは、予想どおり AMM(自動マーケットメイカー)のようなものが中心です。ただし AO では、各 AMM ペアが独立した非同期プロセスとして動作します。つまり、各トークンペアが 1 つの CPU コアをフルに使えるということです。これは、Ethereum と比較してはるかに高い処理性能を実現します。
複数のペアを並列に立ち上げて、その間で裁定取引(アービトラージ)を行うことができます。これは、スケーラビリティのために複数のオーダーブックを同時に運用している伝統的な金融取引所(TradFi)と同じ発想です。そしてもちろん、それらの間で裁定を行うボットも稼働可能です。つまり、従来の DeFi におけるコンポーザビリティはそのままに、今では圧倒的に高い計算能力を備えた環境でそれを実現できるというわけです。
Host: 興味深いですね。単に DeFi をスケールさせるだけでなく、その計算モデル自体を再構築しているということですね。それと、「ハイパーパラレルは単なるバズワードではない」ともおっしゃっていました。その点について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?
Sam: もちろんです。現在の多くの“並列処理型”ブロックチェーンは、Solana と同様のアプローチを採用しています。つまり、メモリの一部をロックして、その範囲だけを分離して実行するという方式です。たとえば Monad は、Solana スタイルの EVM とも言える設計で、競合しないトランザクションを 1 つのブロックにまとめることで、限定的な並列性を実現しています。
しかし、それでもなお、1 台のマシンの中で並列処理をしているに過ぎません。一方、AO はまったく異なります。共有メモリではなくメッセージングによって調整を行いながら、任意の計算処理を複数のマシンにまたがって並列実行できるのです。
これにより、長時間かかる複雑なタスクの実行が可能となり、AI ユースケースに最適です。
Host: さて、ここから先の話です。AO は今後どこに向かっていくと思いますか?
Sam: 私たちはそれを「自律金融(Autonomous Finance)」と呼んでいますが、この概念はまだ進化の途中です。現代の金融システムは、人間の思考・判断の集積によって成り立っており、価格は集合的な期待の産物です。一方、現在の DeFi にあるのは主に「決済プリミティブ」――送金、スワップ、レンディングといった機能に限られており、そうした行動の背後にある意思決定や戦略はオフチェーンにとどまっています。
AO はこの構造を変革します。金融の意思決定プロセスそのものを、オンチェーン上にインテリジェントに組み込むことが可能になるのです。
AO 上で、パーソナル・ファイナンス・エージェントを想像してみてください。たとえば「トークン A を 80%、ステーブルコインを 20% 保有する」というポートフォリオを定義します。誰かがあなたにトークンを送ると、AO のプロセスが即座に、しかもインテリジェントかつスマートコントラクトの保証付きで保有比率を自動的に再調整します。
さらに応用すれば、自律的なトレーディング・ファンドを構築することも可能です。このプロセスは BTC の価格をリアルタイムで監視し、それに応じて注文を調整。すべてがフルオンチェーンでトラストレスに稼働します。ユーザーはトークンを預け、ファンドマネージャーを介さずに取引が実行されるのです。これは金融モデルにおける大きなパラダイムシフトです。
Host: おっと、ひとつ確認させてください。自律ファンドの例では、AI ボットのトレーニングやメンテナンスはオフチェーンで行われ、結果だけがオンチェーンに反映されるのでしょうか?それとも、学習から実行まで、すべてのプロセスがオンチェーンで完結するのですか?
Sam: オフチェーンである必要はありません。望めば、トレーニング自体をオンチェーンで実行することも可能です。これは、スケーラビリティの制約から、現在のブロックチェーンには不可能な領域です。
主な理由は 2 つあります:
実行がコンセンサスに結びついていること。これは LazyLedger も私たちも早い段階でボトルネックだと認識していました。
共有ステートが並列性を制限してしまうこと。AO ではステートを各プロセスに分離することで、任意のプロセスが非同期かつ独立に実行できます。
明示的にメッセージを送らない限り、複数のプロセスは互いをブロックすることなく同時に動作します。初期状態では非ブロッキングであり、それが現在のシステムと根本的に異なる点です。
AOのセキュリティ:PoAからPoSへ
Host: セキュリティについてお聞きします。AO は、Ethereum 上の DeFi と同等のトラストレスな保証を提供できるとのことでしたが、それはどのように実現されているのでしょうか?
Sam: AO の本質は、Arweave 上に構築された単なるデータプロトコルです。プロセス、メッセージ、仮想マシンを定義し、すべてが Arweave に保存されます。つまり、Arweave のコンセンサスアルゴリズムと長期的なデータ整合性をそのまま引き継いでいます。
ライブ計算に関しては、AO は現在テストネット上で Proof of Authority(PoA) を採用しています。開発者は自分が信頼するキーを選び、そのキーがログへの書き込み権限を持ちます。これは、誰がステークを保有しているかに関係なく Ethereum が状態の正しさを保証している仕組みに似ています。
最終的には、各サブネット(コンピュート、スケジューリング、メッセージング)を保護するために、分散型の Proof of Stake(PoS)ネットワークへと移行する予定です。これにより、以下の性質が保証されます:
Liveness(可用性):メッセージが検閲されることなく書き込まれ、処理され続けること
Validity(正当性):メッセージや計算結果が改ざん不可能であること
AO において特に強力なのは、各プロセスが自らのセキュリティパラメータを選択できる点です。現在 Ethereum を使う場合、たとえ 100 ドルの送金であっても、640 億ドル相当のステークによるセキュリティを毎回“購入”しているようなものです。これは明らかに非効率です。
一方 AO では、あるプロセスが「このやり取りの経済的価値は最大でも 100 ドルだから、それを保護するのに必要なステークは 1 万ドルや 10 万ドルで十分だ」と判断できます。ユーザー自身が必要なセキュリティ水準を定義できる——これは極めて大きな構造的転換です。
Host: これらのセキュリティパラメーターは、コンピュートユニットにも適用されるのですか?
Sam: はい。メッセージングユニットは、メッセージの偽造が行われないように、ステークによって保証されます。同様に、コンピュートユニットも、その状態証明(ステート・アテステーション)が正当であることを、ステークによって保証します。これらのユニットは、メッセージングユニット同士と同じように、互いに通信を行います。
「ブロックチェーントリレンマ」 とAO
Host: この話題を「ブロックチェーントリレンマ」に結びつけたいと思います。データ可用性・決済・実行の分離といったモジュラー設計が登場した後でも、人々は依然として「スケーラビリティ」「セキュリティ」「分散性」という三つの観点からシステムを位置づけています。AO はこのトリレンマにおいて、どこに位置すると考えますか?
Sam: 素晴らしい質問です。AO は、トリレンマ上の単一のポジションというよりも、「ベースレイヤーのフレームワーク」です。ユースケースに応じて、求められる要件に合わせて独自のトレードオフを設計することができます。
たとえば、以下のような構成が可能です:
Bitcoin をシーケンサーとして使い、Arweave に決済する構成:Bitcoin レベルのセキュリティを実現する
スラッシングを備えたステークノード構成を用いて「活性(Liveness)」を担保する構成。
Twitter で「afat」と名乗る Internet Computer の開発者が、AO に関する優れた記事を実際に執筆しています。彼は、ICP(Internet Computer Protocol)が「ワールドコンピューター」を構築しようとしてきたと指摘した上で、AO のローンチを目の当たりにしたとき、それがまさに自分たちが思い描いていたビジョンそのものだと気づいたと述べています。ただし、それを実現したのは自分たちではなく、別の誰かだったのです。
彼は、AO を一点で示すのではなく、広範なトレードオフの領域を覆う陰影付きのエリアとして描いたグラフィックを作成しました。これは非常に重要なポイントです。AO では、各プロセスが自らトレードオフ空間における最適な位置を選ぶことができるのです。それこそが、AO の持つ圧倒的な強みです。
Host: ええ、そのスレッドを見かけたと思います。Internet Computer Protocol チームの関係者が AO について肯定的に語っているのを見て、正直驚きました。というのも、それはある意味で彼ら自身の利益に反する発言だったからです。ですが彼らは、「これはまさに自分たちが構築しようとしていたものだ。しかし、それを先に実現したのは別の誰かだった」と率直に述べていました。
Sam: 彼らの名誉のために言えば、ICP コミュニティの多くの真剣な開発者たちは、AO が登場した際、驚くほどオープンマインドな姿勢を示しました。彼らは AO と ICP を比較するスレッドを投稿し、AO が優位性を持つ点まで丁寧に指摘していました。特に「コンセンサスと計算の分離」という、ICP モデルには存在しない構造を理解するのには少し時間がかかったようですが、最終的には本当に温かく受け入れてくれました。
もちろん、中にはもっと部族主義的な立場を取る人もいます。Twitter のスレッドでは「自分は AO じゃなくて ICP 一筋」といった発言も見かけました。それでも全体としては、非常に興味深い議論を巻き起こしたと思います。
なぜAOはLua言語を選定したのか?
Host: 先ほど、AO は拡張性があり、たとえば Bitcoin のセキュリティを活用したり、EVM や SVM を使うこともできるとおっしゃっていました。それを踏まえると、最初の言語として Solidity や Rust ではなく Lua を選んだのは意外でした。なぜ Lua だったのですか?
Sam: AO を使うときは、まるでログインして利用する感覚です。チャットクライアントを起動したり、友人と一緒に何かを作ったり、メッセージを送ったりする。そういったインタラクティブで柔軟、かつ扱いやすい体験は、他の多くのスマートコントラクト言語には見られません。
今日のスマートコントラクト言語の多くは、システムプログラミングの系譜にあります。つまり、最大限の効率性を求めて設計されています。でも、それって私は本末転倒だと思うんです。
Arweave 以前、私は分散オペレーティングシステムの設計を研究しており、博士課程に在籍していました。面白いことに、AO は当時私が構想していた分散型 OS そのものですが、当時はそれを構築するためのツールがまだ存在していませんでした。その頃は、C やアセンブリを多く書いていました。
今でも C は大好きです。完全な制御が可能で、マシンと直接対話できます。しかし、Solidity や Rust のような、システムプログラミングの伝統に根ざした言語で、数十億ドルを扱うコードを書き、なおかつ完璧なセキュリティを求めるというのは、非常に無理のある話だと感じます。
たとえば Rust は、パフォーマンスという点では非常に優れた言語です。ただ、それはブロックチェーンにおいて使える計算資源が極端に限られていたからこそ必要とされていたものです。もし今後、ハイパーパラレルな計算環境によってこうした制約が取り払われるのであれば、私たちはプログラミングに対する前提や期待を見直すべきです。もっと高い抽象度で開発すべきなのです。
実際のお金を扱う金融プリミティブや、資産を運用する AI エージェントを構築する際に、メモリの割り当てやポインタの解放のような低レベルの操作に気を取られるべきではありません。そんなことに脳のリソースを割くべきではないのです。
Lua は、私たちが求めていたものをまさに提供してくれます。シンプルで直感的、かつ高レベルな抽象化です。基本的には JavaScript に似ていますが、本質的な部分だけを残して削ぎ落とされた言語です。あの「クレイジーな部分」は存在しません。メモリ管理を気にする必要もなければ、危険なガス最適化に悩まされることもありません。そこにあるのは、純粋なロジックと豊かな表現力だけです。
Host: 素晴らしい指摘です。多くの Solidity 開発者は、ガスの最適化だけのためにインラインアセンブリに切り替えることになります。しかしそれは、リスクが高く、非常に低レベルな手法です。その結果、本来はシンプルで済むはずのアプリ構築が、必要以上に複雑になってしまいます。
Sam: まさにその通りです。アセンブリでコードを書くのは、コンピューターを単なる電卓として使うようなものです。確かに効率は得られますが、お金を扱う場面では非常に危険です。これは「いつ起きてもおかしくない大惨事」の温床であり、そして実際に頻発しています。だからこそ、巨大な監査業界が存在するのです。
Host: 開発者ではないリスナーのために、良い例えを挙げるとすれば――車を運転しようとしているのに、ハンドル操作やアクセルを踏むだけでなく、同時にエンジンの内部調整までリアルタイムでやらなければいけないようなものです。それが、低レベル開発の感覚です。
Sam: まさにその通りです。運転中にエンジンの内部までリアルタイムで調整しなければならない、究極のマニュアル車のようなものです。
AO 初期のプロジェクトや開発者動向
Host: 最後に、エコシステムとコミュニティの話題に移りたいと思います。AO に興味を持つ開発者が多いようですが、どんなアプリケーションやプロジェクトが実際に動いていますか?また、他のチェーンでは実現不可能だったユースケースは存在するのでしょうか?
Sam: はい、実際にもう動いています。中でも注目すべきは、フルオンチェーンのアリーナ型ゲームです。単なるトークン決済がオンチェーンなのではなく、ゲームロジックのすべてが AO 上に存在しています。プレイヤーの移動、攻撃、エネルギー管理など、すべてがネットワーク内で処理されているのです。
興味深いのは、開発者たちがこのゲームを 24 時間 365 日プレイする AI エージェントを構築し、それらを競わせていることです。より強いエージェントが他を上回ることでトークンを獲得しており、ボット同士の PvP のような構図になっています。彼らはこれを通じて、テストネットでの信用(cred)や reputational score を得ようとしているのです。
テストネットのローンチ前に Arena を構築したのは、単にゲームが開発者にとって魅力的だからという理由だけではありません。それ以上に重要なのは、ゲームが経済行動の根源的な仕組みを内包しているからです。競争、インセンティブ、評判といったメカニズムは、まさに市場の基盤にあるもの。言い換えれば、DeFi とは、構造化されたゲームデザインに他なりません。
今日はアリーナでボットが戦っています。しかし明日には、それが分散型・オンチェーンのインテリジェントな市場へと進化するでしょう。仕組みは同じ——より優れたエージェントを作った者が、より多くを稼ぐのです。
人々はオンチェーンのソーシャルシステムにも取り組んでいます。まだ詳しく話せないプロジェクトもありますが、たとえば Twitter 風の要素を備えた分散型チャットルームがあります。会話をしながら、その場でトークンを送ることができるんです。
テストネットが始まってまだ数週間しか経っていませんが、すでにエコシステムの芽が見え始めています。Arweave のときは、この段階に到達するまでに 2〜3 年かかりましたが、AO は 1 ヶ月足らずでそこに辿り着いたのです。
AO の今後:タイムラインとビジョン
Host: それは本当に印象的ですね。きっと多くのリスナーが「今後のタイムラインはどうなっているのか?」と気になっているはずです。AO の次なる展開は何でしょうか?また、大きなマイルストーンはいつ頃訪れると見ておくべきでしょうか?
Sam: セキュリティに関わる部分は、決して急いで進めることはありません。コア仕様が今後変更されないと確信できるまでは、メインネットとは正式に呼ばないつもりです。
私たちは、真に機能するプロトコルを構築することに信念を持っています。しかし残念ながら、暗号業界はその原点から逸れてしまいました。プロトコルとプロダクトの境界は曖昧になり、本来の意味が薄れてしまったのです。本来、プロトコルとは、誰もが自由に協調のために使える中立的な言語であるべきです。もしそれが頻繁に変わるのだとしたら、それはもはや中立ではなく、ただの“変更可能な製品”に過ぎません。
本物のプロトコルは、ユーザーに対して権利を保障するものです。たとえば、18 か月前に Ethereum がプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へ移行した際、それ以前にマイニングを行っていたユーザーたちは、一夜にしてその権利を失いました。結果として、総額 80 億ドル相当の GPU が無価値になったのです。それは、本来プロトコルがすべきことではありません。
誤解しないでください。私は Ethereum が本当に大好きです。ICO にも参加しました。当時のキャッチフレーズは「Ethereum はワールドコンピューター」でした。それを見て、「これは最高だ、自分も参加したい」と思ったんです。マイニングしていたビットコインを使って出資しました。
Ethereum は本当に素晴らしいものを生み出しました。スマートコントラクト、そして DeFi。でも、それは「ワールドコンピューター」ではありません。プロトコルを目指してはいますが、ユーザーに強い権利を与えているとは言えません。今もなお、数々の変更が予定された長いロードマップを抱えており、そのことがシステムとしての保証を損ねているのです。
AO では、メインネットと呼ぶ前にプロトコルが真に安定していることを確認したいと考えています。目指しているのは、以下の状態です:
現時点ですでに動作していること
私たちの介入がなくても、将来にわたって動作し続けること
必要に応じて、任意の規模までスケールできること
こうした条件が満たされて初めて、ユーザーに「権利」が生まれるのです。
私たちが見たいのは、次のような光景です:
人々がコンピュートユニットを稼働させるデータセンターを立ち上げること
メッセージの転送を担保するために、大量の資本がステーキングされること
そして、それが実現するのはただ一つ、ユーザーが「足元のルールが変わらない」と信頼できるときだけです。
これは少し物議を醸す意見かもしれませんが、ロードマップというのは、スローモーションで進行するラグプル(詐欺的撤退)です。なぜなら、その本質は「今あなたが使っているシステムは、いずれ取り上げられる」と宣言しているようなものだからです。
ちょうど、Ethereum が PoS に移行したときに、GPU マイナーたちが一夜にして切り捨てられたのと同じです。システムが常に変わり続けるなら、それはもはや“プロトコル”ではありません。ただの“プロダクト”であり、アップデートを繰り返しているだけなのです。
AO は任意にスケーラブルで、かつ以下のことが可能です:
任意の仮想マシン(VM)を接続する
ステーキングとセキュリティの設計を自分で選ぶ
だからこそ、私たちはついに、ユーザーに本物の保証を与える安定したプロトコルを提供できると信じています。
おわりに
Host: 素晴らしい締めくくりですね。ロードマップをそんなふうに捉えた人は初めてです——スローモーションのラグプルとは、本当に鋭い洞察です。Sam、今日は番組来ていただき、AO のビジョンを丁寧に語ってくれて本当にありがとうございました。今後の最新情報を知りたい人は、どこをチェックすればいいですか?
Sam: 最新情報は @AOtheComputer を Twitter でフォローしてください。また「AO Computer Club」という分散型コミュニティもあります。こちらはより技術的で、雑誌やメーリングリストのような雰囲気です。開発者にとっては最適な場所でしょう。もちろん、公式サイトは ao.dev から、または任意の Arweave ゲートウェイ経由で ao.any からアクセスできます。
Host: 今日は本当にありがとうございました、Sam。最高に刺激的なセッションでした。
Sam: 素晴らしかったです。呼んでいただき、ありがとうございました。
【Arweave Japan とは】
Arweave Japan は Arweave / AO の日本語ビルダーエコシステム構築を目的とした分散型組織です。
【Arweave / AO とは?】
Arweave は無制限にスケール可能な分散型ストレージであり、AO は Arweave 上に構築された無制限にスケール可能な分散型スーパーコンピュータです。Arweave と AO を使って既存のブロックチェーンでは実現不可能であった実用的なプロダクトが開発できます。
イーサリアム L1 のリステーキングによってセキュリティが担保され、TVL はローンチ数ヶ月で 1000 億円近くまで上がり、今後数兆円規模の市場が期待されます。完全フェアローンチされた AO のトークン設計によって、この流動性は AO 上のプロジェクトが活用することができ、ビットコインと同じ半減スケジュールでミントされる AO トークンは開発者やプロジェクトが受け取れる仕組みとなっています。
Web2 を置き換えるレベルで実用的なプロジェクトが構築できる唯一無二の分散型プロトコル AO で開発することはグローバルの第一線で活躍する非常に大きなチャンスとなっています。
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