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今年の講演テーマは何?から読み解く2025年のデータマネジメント・トレンド

Last updated at Posted at 2025-12-15

この記事は インフォマティカ Advent Calendar 2025 の記事として書かれています。

はじめに

データマネジメントのエバンジェリストを務めるもりたくです。

今年も、一昨年昨年に引き続き私が2025年に登壇またはプロデュースした講演内容を振り返りつつ、そこから見えてくる今年のデータマネジメント・トレンドを読み解きます。

近年のデータマネジメントの進化は、AIの発展に比例して加速しています。2024年が「生成AIの衝撃」だったとすれば、2025年は間違いなく「AIエージェント元年」として、AIエージェントがあらゆる技術の話題を席巻した年と言えるでしょう。AIは単に言葉やコンテンツを生成するだけでなく、自律的に思考し、ツールを使いこなし、業務を完遂する「エージェント」へと進化しました。

本記事では、私の2025年の講演活動を振り返りながら、今年起きたデータマネジメントの地殻変動を5つのトレンドで紐解いていきます。

2025年の講演実績リスト(抜粋)

2025年に私が登壇またはプロデュースしたデータマネジメント関連イベントから、特徴的な10件をピックアップしました。実際にはこれ以外にも多くのパートナー企業イベントで登壇の機会をいただきましたが、主要なものは以下の通りです。

No 時期 イベント名 主催者
1 1月 Microsoft/AWSデタマネ勉強会 Informatica
2 3月 データマネジメント2025 JDMC
3 3月 日経オンラインセミナー 日経
4 4月 Databricksデタマネ勉強会 某ベンダー
5 5月 データ&アナリティクスサミット2025 Gartner
6 7月 FDUA(金融データ活用推進協会)勉強会 FDUA
7 9月 Data & AI Summit Informatica
8 10月 データ活用セミナー 三菱電機
9 11月 JDMC個別セミナー JDMC
10 12月 問題解決セミナー マジセミ

以下、主要イベントの講演タイトルと共に、各セッションの概要を5つのトレンドとして紹介していきます。

1. 先進企業で広がる AI のためのデータマネジメント、そしてデータマネジメントのための AI とは?

毎年恒例となった春のJDMC(3月)では、2024年の先進企業におけるデータマネジメント事例を振り返りながら、データマネジメントのグローバル標準についてご紹介しました。

現代はすでに、生成AIがGenericなAI(汎用的なAI)として定着し、誰もがクラウド上で簡単に利用できる時代です。しかし、そのAIが必要とする「企業データの準備」は十分に進んでいないという厳しい現実があります。実際、生成AIプロジェクトの92%が技術的な問題を抱えながら推進されており、本番運用へ移行できずに悩んでいるグローバルのCDO(最高データ責任者)が67%にも上るという調査結果があります。

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生成AIの本番活用を阻む最大の課題はデータの問題であり、特に「データ&AIの品質」および「ガバナンス」への対処が重要であることが、世界中のCDOへの調査から明らかになっています。

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従来の機械学習や深層学習を基礎とする予測AIの次世代として、自然言語を理解する生成AIが登場しました。しかし、AIにとってのデータの必要性は変わらないどころか、その重要性はむしろ増していると言えます。

そのため、AIが必要とする「適切にマネジメントされたデータ」、すなわち「AIレディなデータ」の準備こそが、2025年のデータマネジメントにおける至上命題となっています。

イベントでは触れませんでしたが、Gartnerの「Hype Cycle for Artificial Intelligence 2025」における「AI Ready Data」と「AI Agent」の位置関係を確認してみると、興味深い因果関係が見えてきます。関心のある方はぜひ検索してチェックしてみてください。

では、「AIレディなデータ」とは何でしょうか。私はAI時代に求められるデータの要件として3つのRを提唱しています。企業がAIを本番業務で活用するためには、以下の要件をすべて網羅していくことが重要です。どれか一つでも欠ければ、信頼できるAIを整備することは困難だからです。

  • Relevant(関連性あるデータ): AIの目的に直結するデータが過不足なく揃っているか?
  • Robust(堅牢なデータ): 欠損や誤りがなく、品質が安定しているか?
  • Responsible(責任あるデータ): プライバシーや倫理規定が守られているか?

イベント中に、参加企業がこの「3R」の要件を現状どの程度満たせているか、成熟度アセスメントを行いました。その結果を共有します。

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ここで衝撃的な事実が明らかになりました。データマネジメントに関心の高いJDMCの参加者でさえ、AIレディデータの準備状況は全体で20%程度だったのです。特に「データ品質を可視化してマネジメントしている」と回答した企業はわずか7%にとどまりました。これは非常にショッキングな数字であり、今後多くの日本企業がデータ品質に本腰を入れて取り組む必要性を示唆しています。

あらゆる企業がAIレディデータを実現するためには、「AIのためのデータマネジメント」に取り組む必要があります。構造化・非構造化データを問わず、より包括的なデータマネジメントの実践が肝要です。

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特に注意すべきは、後回しにされがちな「データ&AIガバナンス」です。従来、ガバナンス活動はビジネスサイドから「余計で面倒な作業」と捉えられがちでした。「今はまだ早い」と先送りされてきたガバナンスですが、もはやオプションではなく、全企業が取り組むべき必須事項へと変化しています。

EU圏などを中心にAIに関するハードロー(法的拘束力のある規制)の整備が進んでおり、GDPRと同様、遵守しなければ巨額の制裁金リスクを負う時代になっているからです。

こうしたAIとデータマネジメントの密接な関係の中で、AI自体がデータマネジメント活動を支援する存在にもなりつつあります。それが「データマネジメントのためのAI」です。

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AIが生成AI、さらにはAIエージェントへと進化し、遂行可能な業務が増えるほど、必要とされるAIレディデータの量や種類も増加します。それに伴い、管理対象となるデータが増え、データマネジメントのワークロードも増大します。この負荷に対応するためには、活動そのものを省力化する仕組み、すなわち「データマネジメントのためのAI」が不可欠です。

今後は、データエンジニアリング、品質管理、MDM(マスターデータ管理)、データカタログ、マーケットプレイス、アクセス管理など、あらゆるデータマネジメントサービスを選定する際に、「AI機能が搭載されているか」「将来的に拡張されるロードマップがあるか」を見極めるべきフェーズに入ったと言えます。

2. 最新事例から学ぶ AIエージェント、生成AI時代のモダン・データマネジメント

11月のJDMC個別セミナーでは、AIのためのデータマネジメントの中でも、特に「AIエージェント」にフォーカスした内容をお話ししました。ここでは、2025年5月に開催されたInformatica Worldで紹介された興味深い事例を取り上げます。

ぜひ押さえていただきたいトレンドは、AIエージェントに本格的に取り組む先進企業ほど、泥臭いデータマネジメントに回帰しているという事実です。

例えば、GE Aerospaceのような企業では、AIエージェントを本番稼働させる前に、エージェントが利用するデータプロダクトの信頼性と透明性を向上させるため、徹底的なメタデータ管理やデータ品質管理に取り組んでいます。

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彼らは「メタデータが整備されていなければ、人間もAIもデータを信頼して使えない」、ゆえに「メタデータはデータ以上に価値がある」という強い信念を持っています。

この取り組みから、今後は「人のためにデータカタログ(メタデータ)を整備するよりも、AIエージェントのためにデータカタログを整備する」ニーズが高まっていくと私は提言しています。

また、AIエージェントのためのデータマネジメントにおいて、メタデータ管理と同様にニーズが高まっているのがマスターデータ管理です。

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その重要性を示唆するのが、同じくInformatica Worldで登壇したNUTANIXのSenior Vice Presidentの話です。

彼らが利用しているSalesforceのある1つの取引先アカウントには、なんと30もの異なる名前が設定されていたそうです。この状態でAIエージェントに業務を任せたらどうなるでしょうか。誤ったデータを引用したり、ハルシネーション(もっともらしい嘘)を引き起こしたりするリスクが高まります。

そこで彼らは、継続的にクリーンなデータを管理できるよう、データガバナンスとマスターデータ管理に全社レベルで取り組んでいると語っています。

イベントでは他にも、多くの先進企業がAIエージェントの実装前にデータマネジメントに取り組んでいる事例や、逆にデータマネジメントを軽視してAIエージェント導入に失敗した事例などを紹介しました。

結論として、2025年に見えてきたモダン・データマネジメントとは、「人のためだけでなく、AIエージェントに業務を委託するためのデータマネジメント」という新たなニーズへの対応であると言えます。

3. マルチAIエージェント時代に備えて、より重要性が増していくデータマネジメント

Informaticaの日本年次イベントであるData & AI Summit(今年から名称変更)では、さらに一歩先の未来、マルチAIエージェントの世界について触れました。

特定の業務のみを行う「シングルAIエージェント」であれば、個別ツール内の対応で完結します。しかし、ビジネスは複数のシステムや業務が連鎖して成り立っています。

異なる専門性を持つ複数のAIエージェントが、組織やシステムの壁を越えて協調し、複雑なタスクを完遂する「マルチエージェント」の世界では、共通言語となるデータマネジメントが決定的に重要になります。

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その協調を支える技術として注目されているのが Model Context Protocol (MCP) です。今後、企業はMCPを通じてあらゆるエージェント、ツール、モデル、アーキテクチャがつながる世界を目指していくことになるでしょう。

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しかし、接続技術だけでは信頼できるマルチAIエージェント環境は構築できません。異なるAIエージェント同士が「共通の言葉」で対話できる基盤の整備が必要であり、そのためには企業のエンタープライズアーキテクチャの中にデータマネジメントレイヤーを組み込むことが不可欠です。

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より自律的で事業横断的な業務サポートが期待されるマルチAIエージェント時代に備え、各企業は全社的なデータマネジメントにより一層注力する必要があります。

このデータマネジメントレイヤーの実装時に意識すべきなのが、「データ・バリューチェーン」という新しい概念です。

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データから価値を生むプロセスは、単にデータを収集してDWHへ蓄積すればよいという単純なものではありません。収集したデータを各アプリケーションやAIエージェント間で連携し、クリーンに整備し、個人情報や機微データを保護する。さらに、誰もが検索・理解できる状態にし、最終的な利用へとつなげる。そして、これら全ての活動を自動化し、データ・バリューチェーンを超高速に回せるようにする必要があります。

これこそが、来るべきAIエージェント時代に求められるデータマネジメントレイヤーの技術要件です。

4. データ&AIの理想の世界

11月の講演では、AIエージェントのためのデータマネジメントを実践している理想的な事例として、製薬大手Sanofi(サノフィ)を紹介しました。

Sanofiは6月のInformatica WorldでInnovation Awardを受賞したデータ&AIのモデル企業の一つです。CEOのPaul Hudson氏は、Ted Talk「Leadership in the age of AI」にも出演するなど、AI活用の最先端を走っています。

彼らはデータメッシュのプラクティスを採用し、社内で「AIレディなデータ(データプロダクト)」を整備することに成功しています。

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その結果、現在では卓越したAIの世界を実現しています。

その一つが、Youtube動画「Sanofi – VivaTech 2025 Day 3: AI Revolution at Sanofi」でも紹介されている、「plai」というAIサービスです。「AI版Instagram」とも称されるこのサービスは、社内の利用可能なデータを部門横断的に集約し、AIを活用してタイムリーなインサイトやパーソナライズされた「もしも(What-if)」のシナリオを提供します。「もし製造スケジュールを1ヶ月前倒ししたらどうなるか?」といった高度な分析を、誰もが手軽に行えるとのことです。

plaiを通じて、現場からCEOに至るまで、あらゆる意思決定者がシンプルなUXでデータに基づいた判断を下せるようになり、驚くべき変革を実現しています。

さらに、彼らはAIエージェントの活用にも成功しています。

臨床試験のデジタルツインを実現するAIエージェントが、仮想の患者に対して何千通りものシミュレーション(In Silicoテスト)を実施。これにより、高リスクな患者群を事前に特定し、試験の失敗確率を低減させています。その他にも、新薬製造ラインの在庫最適化エージェントや、生産性向上エージェントなど、多数のAIエージェントが既に活躍しています。 詳細はYoutube動画「Sanofi – VivaTech 2025 Day 1: All in on AI」などで語られていますので、ぜひ参照することをお勧めします。

忘れてはならないのは、彼らの成功が一足飛びに実現したわけではないということです。彼らのデータマネジメント・ジャーニーは、地道な活動の上に成り立っています。地に足をつけて泥臭いデータマネジメントを積み上げながら理想の世界を目指した彼らのアプローチは、多くの日本企業にとって参考になるはずです。

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5. モダン・データマネジメントを支えるアーキテクチャとソリューション

最後に、これらを技術的に支えるアーキテクチャと最新ソリューションについて触れます。前述の通り、データ・バリューチェーンの全てを網羅するデータアーキテクチャの実装が重要です。

AIエージェント時代において、データは一箇所には留まりません。Databricks、Snowflake、AWS、Google、Azure、そしてオンプレミス。データはあらゆる場所に散在し、それぞれの場所で最適なAIモデルやツールが稼働しています。これらがサイロ化したままでは、マルチエージェントの協調と信頼の確保は不可能です。

あらゆる技術要素をモジュール化し、相互運用可能で、あらゆるユースケースに対応でき、プロダクト・オリエンテッドかつAIドリブンなアーキテクチャを実装する必要があります。

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それを迅速に実装するための選択肢の一つが、Informaticaのデータマネジメントクラウド「Intelligent Data Management Cloud (IDMC)」です。

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IDMCはこの2025年に大きな進化を遂げており、特に「データマネジメントのためのAI機能」や「AIエージェント機能」がアップデートのたびに拡充されています。

目玉機能の一つが「CLAIRE Agents」です。Informaticaはデータカタログ、データ統合(ETL)、データ品質、マスターデータ管理、データガバナンスなど、包括的なデータマネジメントサービスを提供していますが、それらの活動を自然言語で相談しながら自律的にサポートしてくれるAIエージェントの実装を進めています。

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この「データマネジメントのためのAIエージェント」の世界観をデモ動画で公開しています。最先端のデータマネジメントがどのようなものか、ぜひご覧ください。

データ活用の目的を共有すれば、実施すべきデータマネジメント活動をAIがプロアクティブに提案・サポートしてくれる世界です。データパイプラインやデータリネージュの自動生成、データ品質スコアの自動チェック、クレンジングルールの生成と実行など、2026年には多くの専用エージェント「CLAIRE Agents」が我々の活動を強力に支援してくれることが期待されます。

ぜひ楽しみにお待ち下さい。

おわりに

以上、2025年に私が登壇・プロデュースしたデータマネジメント関連イベントを振り返ってきました。

数多くの講演を通じて、そして多くの先進企業の皆様との対話を通じて見えてきたのは、技術がどれほど進化しても、その根底にある「データ」の重要性は変わらない、むしろ増しているという真理です。

2025年のトレンドを総括すると、私たちが持ち帰るべきメッセージは以下の3点に集約されます。

AIエージェントの「知性」は、あなたのデータの「品質」で決まる。
AIエージェントは魔法使いではありません。彼らが正しく自律的に働くためには、メタデータ管理やマスターデータ管理といった「泥臭いデータマネジメント」への回帰が不可欠です。

データマネジメントこそ、AIを「最強のパートナー」にすべき業務である。
増大する管理コストに対抗する手段もまたAIです。AIエージェント時代には、人の手による管理から脱却し、AIと共にデータを守り育てる体制へのシフトが求められます。

「つなぐ」アーキテクチャが、組織とAIの可能性を最大化する。
シングルエージェントからマルチエージェントへ。サイロを超えてデータとAIをつなぐ「データ・バリューチェーン」の構築が、次世代の競争力の源泉となります。

2025年は、AIが「魔法」から「実務」へと定着し始めた年でした。AIエージェントという新しい同僚と共に働く未来は、もう始まっています。

しかし、その同僚が優秀な成果を出せるかどうかは、私たちが提供する「データ」にかかっています。「No AI without Data(データなくしてAIなし)」。この言葉を胸に、2026年も皆様と一緒に、信頼できるデータ環境を築いていければと思います。

来年も、データの力で日本を元気にしていきましょう!

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。 本記事がデータマネジメントを推進する皆様にとって、未来を切り拓くヒントになれば幸いです。

なお、各講演の詳細を知りたい! ともし関心を持っていただいた方がいましたら、Twitterのもりたくまでご連絡ください。

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