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【まとめ】NAND / SSD関連の出来事【2024年】

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はじめに

 2025年最初となるこの記事では2024年のNANDフラッシュメモリおよびSSD業界を振り返りたいと思います。

 なお過去の振り返り記事はこちらになります。

もくじ

  • 技術:各社最新3D NANDフラッシュメモリの量産を開始
  • 製品:PCIe 6.0対応データセンター向けSSDが登場へ
  • 製品:コンシューマ市場ではカードと外付けストレージが高速化
  • 価格:2024年のSSD店頭価格推移

技術:各社最新3D NANDフラッシュメモリの量産を開始

 2024年は、次世代3D NANDフラッシュメモリの発表よりも既に発表されていた世代の量産開始発表が多く行われました。Samsungの第9世代V-NAND[1][2]、Micronの第9世代品[3]、SK hynixの321層品[4]、などです。

 これらの発表でみられたのが、3D NANDフラッシュメモリの層数をそのアピールにあまり使用していないことです。これは、2023年のFlash Memory Summit (FMS)のキーノート講演でSK hynixが321層の3D NANDフラッシュメモリの開発を発表した一方で、Kioxiaは3D NANDフラッシュメモリの技術開発の方向性のうち層数増加よりも二次元的なセル密度の向上などのほうがより高い投資対効果を得られるなどと説明したことによるものだと推測されます。各社層数を増やす技術開発は続けているものの技術的困難度の高さは重々承知していて渡りに船とばかりこの流れに追従したものと考えられます。

 3D NANDフラッシュメモリに係わる2024年のニュースで層数に明確に触れているのは、既に「321層」と発表していたSK hynixの量産開始発表と、2025年2月に開催予定のInternational Solid-State Circuits Conference (ISSCC)でSamsungが予定している発表(講演番号30.1)のタイトルに"4XX-Layer"(400層台)という記述が確認できたこと程度だと思われます。

 今後は学会発表や展示会そして大きなマイルストーン到達(例えば500層や1,000層)を除き3D NANDフラッシュメモリの層数は明示されない可能性が高いと考えられます。もちろん、たとえ物理的に500層積層されていても実際にその500層全てがデータの記録に利用できるとは限らないのですが。

 最後に、これまでに各社が発表した(発表予定の)3D NANDフラッシュメモリの層数の変遷を表にしたものを示します。これは2020年のFMSでの講演内容[5]をベースに作成したものです。

Samsung Kioxia/WD Micron SK hynix YMTC
24層 24 24
32 32 36 32
48 48 48
64 64 64 72 64
92 96 96 96
128 128 (128) 128 128
176 162 176 176
236 218 232 238 232
286 276
321
400 <

 [1] Samsung Semiconductor, "Samsung Electronics Begins Industry's First Mass Production of 9th-Gen V-NAND", April, 2024
 [2] Samsung Semiconductor, "Samsung Begins Industry's First Mass Production of QLC 9th-Gen V-NAND for AI Era", September, 2024
 [3] Micron Technology, "Micron Announces Volume Production of Ninth-Generation NAND Flash Technology", July, 2024
 [4] SK hynix, "SK hynix Starts Mass Production of World’s First 321-High NAND", November, 2024
 [5] Jeongdong Choe, "Technology Trend: NAND & Emerging Memory", Flash Memory Summit 2020, August, 2020

製品:PCIe 6.0対応データセンター向けSSDが登場へ

 Micronは、2024年8月に開催されたFuture of Memory and Storage (FMS)の基調講演の中でPCIe 6.0対応SSDの開発を発表しました[6]。実際に製品が市場に出るまでにはまだ時間がかかるかと思いますが、データセンター向けそしてエンタープライズ向けは着実にPCIe 6.0対応に向けて進んでいます。

 またPCI-SIGがPCIe 7.0の仕様策定と並行してPCIeの信号を光接続で送受信する技術に関する検討会を設立しました[7]。データセンター内の高速ストレージネットワークにはEthernet接続ベースのものがありますが、これは電気信号の限界(速度や消費電力など)を見据えた光接続ベースへの動きのひとつと考えられそうです。そのスケールゆえにコストが最も重要なデータセンター市場で普及する時期は読めませんが……

 データセンター向けSSDの容量は、Enterprise and Data Center Standard Form Factor (EDSFF)のうち厚みのある形状の採用やQLC NANDの採用により3桁TBに到達しました[8][9][10]。容量増加はデータセンターでの容量密度向上という明確なメリットがあります。一方で価格やフォームファクタの電源容量などの課題もあり今後このまま増え続けるのかどうかはわかりません。

 [6] Micron, "Micron Develops Industry’s First PCIe Gen6 Data Center SSD for Ecosystem Enablement", August 5, 2024
 [7] PCI-SIG, "PCI-SIG(R) Exploring an Optical Interconnect to Enable Higher PCIe Technology Performance", August 2, 2024
 [8] Western Digital, "Driving AI Innovation: Western Digital Reveals New Solutions and Delivers Keynote at #FMS2024", August 5, 2024
 [9] Solidigm, "Solidigm Extends AI Portfolio Leadership with the Introduction of 122TB Drive, the World’s Highest Capacity PCIe SSD", November 13, 2024
 [10] Phison, "SC24: Phison Disrupts Data Deluge with World’s First PCIe Gen5 128TB Class PASCARI Data Center SSD", November 13, 2024

製品:コンシューマ市場ではカードと外付けストレージが高速化

 2024年のコンシューマ向けSSD市場では、PCIe 4.0対応製品の充実が進んだ一方でPCIe 5.0対応SSDは広まりを見せたとは言えませんでした。Kioxiaは年末に漸くPCIe 5.0対応M.2 SSDを発表した[11]ものの、Samsungは結局PCIe 5.0 x 4レーン接続可能な製品を発表しませんでした。最新CPUにはCPU直結のストレージ用PCIe 5.0レーンを備えるものもありますが、予算がストレージではなくGPUに使われたと推測できます。

 SSD以外のNANDフラッシュメモリ搭載ストレージ関連では、Western Digital (WD)が4 TBのSDカードを発表した[12]ほか、そのWDとSamsungがmicroSD Expressカードを発表しました[12][13]。SD/microSD ExpressはCFexpressとならんでPCI Expressを物理層に採用したカード形状のリムーバブルメディアです。

 これによりカードメディアの高速化が進むと考えられますが、一方でThunderbolt 5対応外付けSSDも発表されています[14]。WindowsのUSB4 Version 2 (USB 80Gbps)対応も進んでいます[15]。高速大容量という点では、発熱対策の困難度が増しかつ体積に制限のある機器内蔵型メディアよりも自由度の高い外付けストレージデバイスのほうがより普及の可能性を秘めていると言えます。ホスト側の対応接続ポート数が増えるかどうかもカギを握ると考えられます。

 [11] キオクシア、PCIe 5.0に対応したパーソナル向けSSDの発売について、2024年12月16日
 [12] Western Digital、ウエスタンデジタル、「NAB Show 2024」において M&Eワークフロー向けの製品を展示、2024年4月12日
 [13] Samsung、サムスンの新しいmicroSDカード、モバイルコンピューティングやオンデバイス(On-device)AIの新時代に向けた高性能と大容量を提供実現、2024年2月28日
 [14] OWC、OWC Envoy Ultra Thunderbolt 5ポータブルSSD発表、2024年9月12日
 [15] Microsoft, "Announcing Windows 11 Insider Preview Build 23615 (Dev Channel)", January 11, 2024

価格:2024年のSSD店頭価格推移

 最後に、2024年を通じてのSSD店頭価格推移(個人調べ)をまとめます。

 調査方法は、これまで通り複数の小売Webサイトでの販売価格(税込)を毎週調査してその単純平均を算出する、という定点観測です。調査期間は2024年年頭から12月第3週(12/15週)までです。

 分類は、SATA SSD (6Gbps) およびPCIe 3.0 / 4.0 / 5.0接続のNVMe SSDの3種類とし、それぞれ容量帯別の単純平均値を示します。

 実際の価格はメーカーなどによりピンキリですし、この調査では新旧モデルの区別やセールの有無などでの調整もしておらず最安値でもありません。さらにこの値は単純平均値です。この価格で購入できることを保証するものではないことにご注意ください。

SATA SSD (2.5 inch)

 まずSATA SSD (6Gbps)です。M.2ではなく2.5インチケース品に絞っています。8 TB品は製品数が少ないので省略します。

SATA 6Gbps SSD(2.5インチケース品)2024年年間平均価格推移
図1:SATA 6Gbps SSD(2.5インチケース品)2024年年間平均価格推移

 4 TB品を除くと2024年末の価格は2023年末とほぼ同じなのですが、夏ごろは数千円レベルで2023年より高値の水準が続きました。主に円安の影響です。4 TB品は製品数の少なさもあり価格が乱高下しています。手を出すのは怖いですね。

 今後SATA SSDの新製品がどれだけ登場するかは不透明ですが、1 TB品や2 TB品はこの価格帯で推移するものと思われます。

NVMe SSD (PCIe 3.0)

 次にPCIe 3.0接続対応NVMe SSDです。こちらはM.2形状のみでかつヒートシンクなしです。

PCIe 3.0接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)2024年年間平均価格推移
図2:PCIe 3.0接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)2024年年間平均価格推移

 こちらも1 TB品と2 TB品は数千円程度2023年より高値で推移しました。ボリュームゾーンと思われる2 TB品の価格上昇は消費者としては厳しいです。同容量帯のSATA SSDと比較するとやはり数千円高価のようです。ただ、あえてPCIe 3.0 SSDを購入する動機は少ないと考えられます。

 コンシューマ向けSSDとしては、PCIe 3.0 SSDは早晩メインストリームからは姿を消すものと思われます。

NVMe SSD (PCIe 4.0)

 次にPCIe 4.0接続対応NVMe SSDです。こちらもM.2形状のみでかつヒートシンクなしです。

PCIe 4.0接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)2024年年間平均価格推移
図3:PCIe 4.0接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)2024年年間平均価格推移

 このグラフを見るかぎり、2024年最も価格が安定していたのはこのPCIe 4.0接続のSSDでした。このことからも、コンシューマ市場における2024年のメインストリームはPCIe 4.0接続のSSDだと言えます。2023年末とほぼ同レベルの価格で推移し、年間での価格変化も4 TB品を除けばほとんどありません。こうして図にしてみると、PCIe 3.0接続SSDの価格とほとんど変わらないですね。

 2025年も引き続きPCIe 4.0接続のSSDがコンシューマ市場のメインストリームであると思われます。

NVMe SSD (PCIe 5.0)

 最後にPCIe 5.0接続対応NVMe SSDです。こちらもM.2形状のみでかつヒートシンクなしをメインに調査しました。

PCIe 5.0接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)2024年年間平均価格推移
図4:PCIe 5.0接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)2024年年間平均価格推移

 ようやく製品数が増えてきたPCIe 5.0接続SSDですが、まだ価格が下がる局面にはなく高値安定という状況に見えます。4 TB品の価格は10万円前後なのでこのグラフでは見えないですね(比較しやすいように縦軸を固定しているため)。PCIe 4.0接続SSDの同容量製品の価格と比べるとおよそ2倍のようです。

 PCIe 5.0接続SSDは、搭載コントローラやNANDフラッシュメモリの違いにより最高性能が12~14 GB/sレベルの製品と10 GB/sレベルの製品の2グループが存在します。後者のほうが割安ですが、PCIe 5.0接続SSDは最高性能を求める用途での需要が当面多いはずで、高性能品に注目が集まるものと思われます。

 マザーボードが備えるPCIe 5.0接続M.2スロットが増えて、かつ製品が増えれば、2025年は価格下落の局面に入る可能性もありそうです。

価格比較

 最後に、500 GB、1 TB、2 TB、4 TBの4つの容量帯について、SATA、PCIe 3.0 / 4.0 / 5.0の各製品の年始と年末(12/15週)での平均価格差を示します。

 あくまでも私が調査した範囲内での比較結果であることにご注意ください。

表:2024年容量帯別SSD平均価格比較表(単位:円)

容量帯 SATA PCIe 3.0 PCIe 4.0 PCIe 5.0
500 GB 年始 6,301 7,793 8,797 ---
年末 7,628 9,363 9,495 ---
価格差(下落率) 1,327(▲21%) 1,570(▲20%) 698(▲8%) ---
1 TB 年始 11,214 13,309 13,650 28,977
年末 10,865 15,953 14,103 30,840
価格差(下落率) 349(3%) 2,644(▲20%) 453(▲3%) 1,863(▲6%)
2 TB 年始 21,612 20,373 23,876 49,986
年末 24,278 26,130 24,993 52,296
価格差(下落率) 2,666(▲12%) 5,757(▲28%) 1,117(▲5%) 3,410(▲7%)
4 TB 年始 52,952 38,480 53,150 92,591
年末 61,097 50,025 48,242 93,464
価格差(下落率) 8,145(▲15%) 11,545(▲30%) 4,908(9%) 873(▲1%)

注:下落率は「(価格差)÷(年始平均価格)」の百分率表記(小数点以下四捨五入)。▲は値上がりを示す。

 2023年は全ての容量帯および接続種別において年末時点で年始から値下がりしていましたが、2024年は一転してほぼ全てにおいて値上がりしています。

 その中でもPCIe 4.0接続SSDの値上がり率が10%未満に抑えられていることがポイントです。今購入を検討するならまずは製品数も多いPCIe 4.0接続SSDですね。性能を追求するならPCIe 5.0接続SSDが選択肢に挙がりますが、自分のシステムでその価格に見合うだけの性能が本当に欲しいのか、得られるのか、を精査する必要がありそうです。

まとめ

 今回の記事では、NANDフラッシュメモリやSSDにまつわるニュースや出来事を取り上げて、2024年を振り返りました。

 身近なコンシューマ向けでは、この2024年もPCIe 5.0 SSDはあまり市場に広まらず、外付けストレージの種類増加や大容量化そして高速化が目立ちました。

 先端技術開発はデータセンターやエンタープライズ向け製品が先導する形で続いています。ハードウェアはもちろんソフトウェアの役割もより一層大きくなることが予想されます。

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