はじめに
世界が新型コロナウイルス感染症に振り回された2020年もまもなく終わります。
そこで今回は、NANDフラッシュメモリおよびSSD関連のニュースやトピック(主にコンシューマ向け製品に関するもの)をピックアップしながら、2020年を振り返ります。
まとめ
- 3D NANDフラッシュメモリの層数は3桁へ
- PCIe接続M.2 SSDのデータアクセス性能が大幅に向上
- QLC NANDフラッシュメモリ搭載SSDの増加でM.2 SSDの容量は8 TBに
- リムーバブルメディアのデータアクセス性能も大幅に向上
NANDフラッシュメモリは層数が増加
今年の(今年も?)NANDフラッシュメモリの進化は3D NANDフラッシュメモリにおける層数の増加が主体でした。
まず1月に、Western Digital (WD)とKioxiaがそれぞれ112層の3D NANDフラッシュメモリを発表しました[1][2]。1世代前は96層でしたので、WDとKioxiaの連合は層数を初めて3桁に乗せたことになります。
[1] Western Digital、「ウエスタンデジタル、BiCS5 3D NAND技術でストレージ分野のリーダーシップを強化」、2020年1月30日(2020年12月14日閲覧)
[2] Kioxia、「第5世代3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASHTM」の開発について」、2020年1月31日(2020年12月14日閲覧)
これに対して3月に、Micronが四半期決算報告資料の中で128層の3D NANDフラッシュメモリの量産開始の見通しを発表しました[3][4][5]。
[3] AnandTech、"Micron to Start Volume Production of 128-Layer 3D NAND with RG Architecture This Quarter"、2020年4月1日(2020年12月14日閲覧)
[4] Micron、"Fiscal Q2 2020 Earnings Call Prepared Remarks"、2020年3月25日(2020年12月14日閲覧)
[5] Micron、"Fiscal Q4 2019 Earnings Call Prepared Remarks"、2019年9月26日(2020年12月14日閲覧)
続く4月には、中国のYMTCが128層の3D NANDフラッシュメモリを開発したと発表しました[6]。YMTCは「メモリセルを実装したチップと周辺回路を実装したチップを別々に作製して貼りつける」というXtacking技術を採用しています。
[6] Yangtze Memory Technologies、"YMTC Introduces 128-Layer 1.33Tb QLC 3D NAND"、2020年4月12日(2020年12月14日閲覧)
その後、秋まで大きな発表はありませんでしたが、11月にMicronが176層3D NANDフラッシュメモリを発表しました[7]。
[7] Micron、"Micron Ships World's First 176-Layer NAND, Delivering A Breakthrough in Flash Memory Performance and Density"、2020年11月9日(2020年12月14日閲覧)
すると、12月にSK hynixが同じく176層の3D NANDフラッシュメモリを発表しました[8]。
[8] SK hynix、"SK hynix Unveils the Industry's Most Multilayered 176-Layer 4D NAND Flash"、2020年12月7日(2020年12月14日閲覧)
このように、3D NANDフラッシュメモリは200層目前のところまで層数を増やしました。SK hynixは、この176層3D NANDフラッシュメモリについて、2021年2月に開催予定の国際学会(ISSCC)で発表するようです。
そして、つい先日、Intelは自社イベントの中で144層3D NANDフラッシュメモリ(TLCおよびQLC)を使用したSSDを発表しました[9]。
[9] Intel、"Memory & Storage Moment 2020"、2020年12月16日(2020年12月17日閲覧)
開発に成功したことの発表であったり、実際に市場に製品を投入することの発表であったりと、パッと見ではわかりにくいところもありますが、いずれにしても各社層数を増やす技術開発を進めていることがわかります。
M.2 SSDの性能が大幅に向上
データアクセス性能については、PCIe Gen4の普及が進んだことと新コントローラの登場により、シーケンシャルリードやシーケンシャルライトの最大バンド幅が7,000 MB/s台に到達したことが、2020年最大のトピックでしょう。
2020年12月時点で日本国内で購入できる製品(というか私が実店舗で確認した製品)としては、Samsungの980 PRO[10]、Western DigitalのWD_BLACK SN850[11]、そしてPhisonのPS5018-E18コントローラ[12]を搭載した製品(例:CFD販売CSSD-PG4VNZシリーズ[13])、が挙げられます。
[10] Samsung, "Samsung SSD 980 PRO", 2020年12月14日閲覧
[11] Western Digital, "WD_BLACK SN850 NVMe SSD", 2020年12月14日閲覧
[12] Phison Electronics, "PS5018-E18", 2020年12月14日閲覧
[13] CFD販売、「CSSD-PG4VNZシリーズ」、2020年12月14日閲覧
これまでPCIe Gen4接続対応とはいえ最大バンド幅が5,000 MB/s程度でしたので、PCIe Gen4 4レーン接続の物理帯域約8 GB/sに見合った性能(シーケンシャルアクセスのバンド幅が7,000 MB/s程度)の製品が登場して店頭で購入できるようになったことは大きなニュースです。
上記3製品の価格は、検索した限りでは1 TBモデルがおおよそ25,000円から30,000円の範囲内のようです(2020年12月17日時点)。この価格が1年後にどうなっているかも注目ですね。
上記製品の他にも、2020年12月時点では日本国内での購入は難しそうですが、ADATAがXPG GAMMIX S70[14]という製品を発表しています。ADATAは2020年のCESにおいて複数社のコントローラを搭載したPCIe Gen4対応SSDを展示していました[15]。
[14] ADATA, "XPG GAMMIX S70", 2020年12月14日閲覧
[15] PC Watch、「ADATA、リード最大7,000MB/sのPCIe 4.0 SSD試作機を展示」、2020年1月10日
QLC NAND採用製品増加によりM.2 SSDの容量は8 TBへ
2020年は、コンシューマ向けでもQLC NANDフラッシュメモリを搭載したSSDが増加しました。
これまではIntelの660pシリーズやSamsungの860 QVOシリーズ程度でしたが、インターフェースにかかわらず、これら以外のメーカーからもQLC NANDフラッシュメモリ搭載SSDの発売が相次ぎました[16][17]。
[16] CFD販売、「CFD EG1VNE シリーズ」、2020年12月14日閲覧
[17] Micron、"2210 QLC SSD With NVMe"、2020年12月14日閲覧
このようにQLC NANDフラッシュメモリ搭載SSDが増加した結果、M.2 SSDの最大容量は8 TBに到達しました[16][17]。
[16] Sabrent、"Rocket Q 8TB NVMe PCIe M.2 2280 Internal SSD Solid State Drive (SB-RKTQ-8TB)"、2020年12月14日閲覧
[17] Corsair、"CORSAIR MP400"、2020年12月14日閲覧
ゲームコンソールへのSSD採用が相次ぐ
2020年には、PlayStationシリーズとXboxシリーズの両方に新機種が登場するという大きなイベントがありました。その両機種が、ともにストレージに"SSD"と呼べるものを採用したということ[18][19]は特筆すべきだと考えます。
両機種ともに、NANDフラッシュメモリベースストレージの採用により、シーンチェンジを含め前世代の機種とは劇的に異なるゲーム内体験が実現された、としています。
[18] Microsoft、"Xbox Series X: A Closer Look at the Technology Powering the Next Generation"、2020年3月16日(2020年12月14日閲覧)
[19] PlayStation.Blog、「PlayStation(R)5:ハードウェア技術仕様の追加情報を公開」、2020年3月19日
リムーバブルメディアも大幅に高速化
PCIeの高速化は、SDカードやCompactFlashに代表されるリムーバブルメディアの後継規格にも大きな影響を与えました。
SDカードの規格策定を行うSDアソシエーションは、5月に、物理層にPCIe Gen4を採用した規格"SD 8.0"を発表しました[20]。この規格をベースとしたSD Expressの物理的最大バンド幅は、PCIe Gen4 2レーンの32 GT/s(約4 GB/s)です。
[20] SDアソシエーション、"SD EXPRESS DELIVERS NEW GIGABYTE SPEEDS FOR SD MEMORY CARDS" (PDF)、2020年5月19日
また、CompactFlashやCFastなどの規格策定を行うCompactFlash Associationでは、物理層にPCIe Gen3を採用したCFexpressを策定しています。CFexpressには大きさなどが異なるType A, B, Cの3種類がありますが、2020年は、このうちType B(PCIe Gen3 2レーンで物理的な最大バンド幅は16 GT/s、約2 GB/s)を採用・対応した映像機器とカードが続々と発表・発売されました[21][22]。加えて、CFexpressの中で最も小さいType Aを採用した機器とカードも発売されました[23][24]。
[21] Transcend、「CFexpress カード CFexpress 820」、2020年12月14日閲覧
[22] キヤノン、「デジタル一眼レフカメラのフラッグシップ機"EOS-1D X Mark III"を発売 キーデバイス一新により最高約20コマ⁄秒の高速連写と高精度AFを実現」、2020年1月7日
[23] ソニー、"α7S III with pro movie/still capability"、2020年12月14日閲覧
[24] ソニー、「世界初次世代メモリーカード規格のCFexpress Type A対応カードを発売」、2020年7月29日
業界再編の動き
2020年、業界に関する最も大きいニュースは、やはりIntelのNANDフラッシュメモリ関連事業をSK hynixが買収するというものでしょう[25]。
Intelは、NANDフラッシュメモリ開発に関するMicronとの合弁解消に続き今回ビジネスそのものを売却することで、メモリビジネスとしては3D XPointとそれを採用したOptane SSDおよびOptane Memoryに注力するものと思われます。
[25] SK hynix、"SK hynix to Acquire Intel NAND Memory Business"、2020年10月20日
また、キオクシアホールディングスが2019年8月に発表した、キオクシアホールディングスによるLITE-ONのSSD事業の買収が2020年7月に完了予定と発表されました[26]。
[26] キオクシアホールディングス、「台湾・LITE-ONテクノロジー社のSSD事業の買収完了の予定について」、2020年6月30日
その他
その他にSSDに関連したトピックとして2つ挙げたいと思います。
ひとつは、いわゆるStorage Class Memory (SCM)とNANDフラッシュメモリの「棲み分け」が進んでいることです。
今年6月に"Green500"で世界1位を獲得したPreferred NetworksのMN-3は、プロセッサコア(MN-Core)へのデータ供給バンド幅を満たすべくIntelのOptane DC Persistent Memoryを採用しています[27]。これは、DRAMを補完する大容量メモリの構築方法として、NANDフラッシュメモリベースのSSDではなくStorage Class memory (SCM)をベースにした製品を採用したケースです。
[27] 日経XTech、「「世界1位を取るとは夢にも思わず」、PFNの省電力スパコン「MN-3」快挙の舞台裏」、2020年7月13日
またIntelは既にOptane MemoryとNANDフラッシュメモリを組み合わせたストレージドライブを製品化していて[28]、ノートPCなどへの採用が進んでいます。
[28] Intel、「インテル(R) OptaneTM メモリー H10 & ソリッドステート・ストレージ」、2020年12月16日閲覧
図1のようなSCMを加えたストレージ・メモリ階層の図をご覧になったことがあるかと思いますが、この図に示される「棲み分け」が進んでいることがわかります。
もうひとつは、NVMe SSDをケースに格納してUSBやThunderboltで接続する製品が多くなったことです。これは、NVMe SSDのバンド幅に対してUSBやThunderboltのバンド幅が追いついてきたことが主な要因です。
現時点で入手が容易なPCIe接続SSDはPCIe Gen3 4レーン接続(PCIe Gen3x4)のNVMe SSDです。PCIe Gen3x4の理論最大バンド幅は約4 GB/sですから、その実効バンド幅を考えると、Thunderbolt3やUSB 3.2 Gen2x2であればSSDの性能を十分に引き出せることがわかります。
実際、PCIe Gen3x4接続のSSDでも3 GB/sを超えるバンド幅を記録するのは限られたアクセスパターンの時であり、逆に2 GB/s未満のバンド幅になることも多いため、このような使いかたが多くなってきたと考えられます。
まとめ
今回の記事では、NANDフラッシュメモリやSSDにまつわる今年のニュースやトピックを取り上げて、2020年を振り返ってみました。
2020年は社会に大激震が走った年となりましたが、そんな中でも、NANDフラッシュメモリの技術が進化しただけでなく、SSDを取り巻く様々な技術も進化していて、現在進行形で様々な変化が起きています。2021年も目が離せません。
ライセンス表記
この記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。