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【まとめ】NAND / SSD関連の出来事【2021年】

Last updated at Posted at 2021-12-21

はじめに

 あと一週間強で2021年も終わりです。時間の経過がほんとうに速いです。

 昨年(2020年)に続き今年(2021年)も、NANDフラッシュメモリおよびSSDに関連するニュースや出来事を取り上げてこの業界の1年を振り返ります。「そんなこともあったなあ」と感じていただければと思います。ちなみに昨年(2020年)のまとめ記事はこちらです。

 この記事は半導体Advent Calendar 2021(22日目)の記事です。1つしか扉が開かないアドベントカレンダーですが……

インデックス

  • ChiaによりSSDの品薄状態発生
  • NANDフラッシュメモリの層数は鈍い
  • PlayStation 5のM.2スロット開放
  • 業界再編の動きは見えず
  • NVMeリビジョン2.0が発表されたものの……
  • PCIe Gen5がコンシューマ市場にもデビュー
  • 2021年のSSD店頭価格推移

ChiaによりSSDの品薄状態発生

 2021年春(5月頃)、Chia[1]と呼ばれる暗号資産(仮想通貨)の「ファーミング(farming)」を目的としたストレージの大量購入により、ストレージ特に大容量品の品薄状態と価格急騰が起こり[2]、SSDも影響を受けました。

 Bitcoinなどの既存暗号資産(仮想通貨)では計算能力がモノを言うのに対し、このChiaはストレージ容量がモノを言う(読み書きの速度も大事だそうですが)アルゴリズムであるため、まず大容量HDDの品薄・価格上昇が発生し、その後SSDに影響が及びました。

 ご存知の通り、NANDフラッシュメモリを記憶メディアとするSSDには寿命が存在します。このため、Chiaのファーミング用途での製品利用を保証対象外とするSSDメーカーが現れました[3]

 逆に、このワークロードに最適化したのか「Chiaのファーミング向け」を謳う製品を発売するメーカーまで現れました[4]

 半年ほど経過した現在ではこの影響は見られませんが、この突発的な品薄・価格急騰にはびっくりしました。今後もこのような事態が起こり得るのかもしれません。

 [1] Chia Network
 [2] AKIBA PC Hotline!、大容量HDDが品薄・急騰で購入制限をつけるショップも、反面6TB以下は小幅な動きで特価もあり、2021年4月28日(2021年12月12日閲覧)
 [3] Tom's Hardware、"Mining Chia Will Kill Your Warranty on Galax SSDs"、2021年4月29日(2021年12月12日閲覧)
 [4] TeamGroup、"The Most Powerful Tool for the New Crypto Craze; The Incredibly Durable T-CREATE EXPERT PCIe SSD"、2021年5月4日(2021年12月12日閲覧)

NANDフラッシュメモリの層数増加は鈍い

 NANDフラッシュメモリそのものの技術開発に目を向けると、2021年は層数増加のニュースは少なく、それ以外の技術で記憶密度の向上を実現した発表が目立ちました。

 2021年のNANDフラッシュメモリの層数増加発表は、2月に開催された国際会議ISSCCでのWestern DigitalとKioxiaのグループによる162層の3D NANDフラッシュメモリの発表[5]のみです。

 MicronとSK hynixは、昨年(2020年)末にそれぞれ176層の発表を済ませており、今年は周辺回路とメモリセルを縦方向に配置する技術による記憶密度向上などを発表しました。Circuit Under Array (CUA)とかPeriphery Under Cell (PUC)などと呼ばれる技術です。Yangtze Memory Technologies (YMTC)のXtackingも、周辺回路とメモリセルの配置に限ればこれらと同じと見ることができます。

表1:2021年末時点での主要メーカーの3D NANDフラッシュメモリ開発状況(層数に着目したもの、発表ベース)

メーカー(グループ) 層数 世代 2021年の層数増加発表
Samsung 17x 7 --
Western Digital & Kioxia 162 6 [5]
Micron 176 5 --
SK hynix 176 7 --
Yangtze Memory Technologies 128 -- --

 なお、Samsungは来年(2022年)2月に開催予定のISSCCで第8世代V-NANDに関する発表を行う模様です(講演番号7.4)。

 講演タイトルに層数の記載はありませんが、今年(2021年)6月のプレスリリースで「200層を超える第8世代設計の動作チップを確保した」と発表しており[6]、世界初の「200層を超えた動作するチップの発表」となる可能性があります。

 [5] キオクシア、キオクシアとウエスタンデジタル、第6世代の3次元フラッシュメモリ技術を発表、2021年2月19日(2021年12月12日閲覧)
 [6] Samsung Newsroom、"[Editorial] Extraordinary Innovation for a More Unforgettable World: The Story Behind Samsung's Pioneering V-NAND Memory Solution"、2021年6月8日(2021年12月12日閲覧)

 その他には、1メモリセルへの4ビット記録(QLC)を超える5ビット記録[7]や6ビット記録[8]、そして600層を超える積層[9]などが、国際会議や展示会のキーノートで言及されました。

 ただこれらは、将来展望、原理確認、技術アピールなどと考えられ、将来どの技術が主力になるか(残るか)は不透明です。

 [7] Tom's Hardware、"5-Bit PLC SSDs Not Coming Until 2025, or Later: Western Digital"、2021年6月12日(2021年12月12日閲覧)
 [8] PC Watch、"「キオクシア、3D NANDフラッシュで6bit/セルの超多値記憶を確認、2021年7月27日(2021年12月12日閲覧)
 [9] SK hynix、"SK hynix CEO Seok-Hee Lee Talks about the Future of Memory Semiconductor and SK hynix's Management Strategy"、2021年3月22日(2021年12月12日閲覧)

PlayStation 5のM.2スロット開放

 Sony Interactive Entertainment (SIE)は、PlayStation 5 (PS5)に搭載したM.2スロットを、7月末にベータプログラム登録者向けに[10]、そして9月には全ユーザに[11]開放しました。

 使用可能なSSDはPCIe Gen4x4接続のM.2 NVMe SSDで、加えてシーケンシャルリード性能として5,300 MB/s以上を求め、ヒートシンクを推奨して詳細な図面まで示すなど[12]、発熱対策を含めて入念な準備の上で開放したことが伺えます。

 これを受けて、Western Digital SN850をはじめSamsung 980 PROまで、各社このPS5を意識したと思われるフラッグシップSSD+ヒートシンクという製品を投入し、SSD特にM.2 SSDがより幅広く知られるようになりました。影響力は絶大です。

 [10] ファミ通.com、PS5の記憶容量を拡張するM.2 SSDの利用可能条件が公表。まずはベータ版ファームウェア2.0で対応開始、2021年7月30日(2021年12月12日閲覧)
 [11] PlayStation.com、"PS5 September System Software Update launches globally tomorrow"、2021年9月14日(2021年12月12日閲覧)
 [12] Sony Interactive Entertainment、"How to add an M.2 SSD to a PS5 console"、2021年12月12日閲覧

業界再編の動きは見えず

 昨年(2020年)はIntelのNANDフラッシュメモリ関連事業をSK hynixが買収するというビッグニュースがありましたが、今年は一転、特筆すべき動きはありませんでした。

 Western DigitalやMicronがキオクシアを傘下に入れようと動いている(いた)ことやその進捗は時折報じられる程度でした[13]。キオクシア(ホールディングス)の状況は、自身の上場(IPO)や大株主である東芝の動きもあり想像以上に複雑そうです。

 半導体業界全体を見渡すとM&Aはまだまだ盛んですが、NANDフラッシュメモリおよびSSD業界は少なくとも表面的には平穏でした。

 [13] The Wall Street Journal、"Western Digital in Advanced Talks to Merge With Kioxia in $20 Billion-Plus Deal"、2021年8月25日(2021年12月12日閲覧)

NVMeリビジョン2.0が発表されたものの……

 現在PCIe接続SSDの多くはNVMeと呼ばれるインターフェースプロトコルに準拠したものです。

 このNVMe仕様を策定しているNVM Expressは、2021年6月にメジャーリビジョンアップとなるNVMe 2.0仕様群を発表[14]しました。1.4bから2.0へのジャンプです。

 ただ、このNVMe 2.0の目玉機能や仕様分割(トランスポート依存内容の分離など)は、主にデータセンターやエンタープライズ市場向けであり、それ以外の市場では当分利用されない・対応コントローラを含む製品が出てこないと思われます。

 NVM Expressが発行したNVMe 2.0の解説図[15]内の"New Features for NVMe 2.0 Specifications"には、新機能・特徴としてZoned Namespace (ZNS)、Key Value (KV)、Endurance Group Management、Rotational Media、の4つが記載されていますが、いずれもデータセンターのような大規模ストレージシステムで効果を発揮する機能です。

 強いてあげれば、Key Value (Store)が最も幅広い市場で使用される可能性が高そうです。

 とはいえ、データセンターやエンタープライズ市場で最初に実用化された技術が年月を経てコンシューマ市場に「おりてくる」こともあります。数年後にこれらの技術がコンシューマ市場で使われる日が来るかもしれません。

 なお、記事投稿日(12/22)時点での最新リビジョンは2.0aです。

 [14] NVM Express、"NVM Express Announces the Rearchitected NVMe® 2.0 Library of Specifications"、2021年6月3日(2021年12月12日閲覧)
 [15] NVM Express、"NVMe® 2.0 Specifications - THE NEXT GENERATION of NVMe Technology"[PDF]、2021年12月12日閲覧

PCIe Gen5がコンシューマ市場にもデビュー

 2022年に向けて注目になりそうな話題としては、PCIe Gen5がコンシューマ市場にもデビューしたことでしょうか。

 PCIe Gen5は、Gen4でAMDに先を越されたIntelが威信をかけて(?)世界に先駆けてコンシューマ市場に投入しました(第12世代Coreプロセッサ[16])。PCI-SIGが策定するM.2仕様最新版は記事執筆時点ではまだPCIe Gen5に対応していませんが、PhisonやMarvellがPCIe Gen5対応コントローラを発表していますので[17][18]、Phisonのプレスリリースにあるように2022年中にゲーミングPC向けなどにPCIe Gen5接続対応M.2 SSDが発売されてもおかしくありません。

 まずは、システムとしてのPCIe Gen5レーン数も限られるためPCIe Gen5x2接続(物理帯域はPCIe Gen4x4と同じ約8 GB/s)からでしょうか。これであればNAND側に必要な帯域がPCIe Gen4x4向けと同じで済むこともメリットです。この場合、データアクセス性能は今のPCIe Gen4x4接続SSDと同程度(シーケンシャルリード最高7,000 MB/s程度)です。

 PCIe Gen5x4接続になると物理帯域は128 Gbps (16 GB/s)になります(M.2で使用可能なPCIeのレーン数は最大4)。この帯域を使い切るには容量がかなり大きくなり(4 TB超?)、価格が大変なことになりそうです。

 [16] インテル、インテル、第12世代インテル® Core™ プロセッサー・ファミリーを発表 世界最高レベルのゲーミング・プロセッサー、インテル® Core™ i9-12900K プロセッサー登場、2021年10月28日(2021年12月12日閲覧)
 [17] Phison Electronics、"Phison is Enabling Custom PCIe Gen5 SSDs to Ship in 2022"、2021年9月28日(2021年12月12日閲覧)
 [18] Marvell、"Marvell Introduces Bravera SSD Controllers to Enable the Highest Performing Data Center Flash Storage Solutions"、2021年5月27日(2021年12月12日閲覧)

2021年のSSD店頭価格推移

 最後に、2021年を通じてのSSD店頭(小売)価格推移(個人調べ)をまとめます。

 調査方法は、複数の小売Webサイトでの販売価格(税込)を毎週調査してその単純平均を算出する、というものです。調査期間は2021年年頭から12月第1週(12/4)までです。

 分類は、SATA SSD (6Gbps) およびPCIe Gen3x4接続とPCIe Gen4x4接続のNVMe SSDの3種類とし、それぞれ容量帯別の単純平均値を示します。

 実際の価格はメーカーなどによりピンキリですし、この値は単純平均値でもありますので、この価格で購入できることを保証するものではないことにご注意ください。

SATA SSD (2.5 inch)

 まずSATA SSD (6Gbps)です。M.2ではなく2.5インチケース品に絞っています。

SATA 6Gbps SSD(2.5インチケース品)年間平均価格推移
図1:SATA 6Gbps SSD(2.5インチケース品)年間平均価格推移

 グラフには8 TBモデルは表示していません(Samsungの870 QVOが90,000円程度です)。

 全体的に見ると、年間通して下落傾向を示したのは4 TBモデル(3,840~4096 GB)のみで、その他の容量帯は夏頃に若干値上がりしたように見える程度でほとんど値動きがありませんでした。夏頃の値上がりは世界的な半導体供給逼迫の煽りを受けたものかもしれません。

 2022年にNANDフラッシュメモリメーカーが新世代製品を投入した時に、2 TBや4 TBモデルがどこまで値下がりするか、がポイントでしょうか。

 1 TBモデルが平均で10,000円を切るかどうかが気になりますが、性能を維持したままここから1,000円値下がりするには時間がかかりそうです。

NVMe SSD (PCIe Gen3)

 次にPCIe Gen3x4接続対応NVMe SSDです。こちらはM.2形状のみでかつヒートシンクなしです。

PCIe Gen3x4接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)年間平均価格推移
図2:PCIe Gen3x4接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)年間平均価格推移

 グラフには4 TBモデルは表示していません(90,000円から100,000円程度です)。

 こちらはSATA SSDと異なり年間通じて全容量帯が下落傾向を示しています。500 GB程度の容量帯でも数百円のレベルで値下がりしています。

 PCIe Gen3接続製品はかなりこなれてきて成熟期を迎えつつあります。コントローラを含むNANDフラッシュメモリ以外の構成部品の価格は安定していると考えられます。このため、価格変化はNANDフラッシュメモリの価格変化が最も大きなウェイトを占めることになります。

 1 TB品の価格がSATA SSDの1 TB品の価格とそう変わらないところまで来ていますので、2022年にはほぼ同価格になることが予想されます。

 2 TB品は27,000円ぐらいまでは下がるかもしれません。

NVMe SSD (PCIe Gen4)

 最後にPCIe Gen4x4接続対応NVMe SSDです。こちらもM.2形状のみでかつヒートシンクなしです。

PCIe Gen4x4接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)年間平均価格推移
図3:PCIe Gen4x4接続M.2 SSD(M.2、ヒートシンクなし)年間平均価格推移

 こちらもグラフには4 TBモデルは表示していません(110,000円程度です)。

 こちらもGen3接続製品と同様に全容量帯で年間通じて下落傾向を示しています。2 TBモデルは年始から約10,000円下落しています。

 一方500 GBモデルや1 TBモデルの価格の下落幅が思ったより小さいです。これは半導体需要の世界的な高まりを受けたものだと考えて良さそうです。PCIe Gen4接続に対応したコントローラは、最先端ではないものの先端半導体製造プロセスを使用していますので、影響を受ける可能性が高いからです。

 個人的には1 TBモデルが安くなると嬉しいのですが……

まとめ

 今回の記事では、NANDフラッシュメモリやSSDにまつわるニュースや出来事を取り上げて、2021年を振り返りました。

 2022年に向けて世界的にはまだまだ不透明感が強いですが、そんな中でも技術は着実に進歩しています。

 NANDフラッシュメモリについては、今年(2021年)技術的に大きなブレイクスルーの発表がなく、その分来年(2022年)何か起きてもおかしくありません。

 SSDとしても、PCIe / NVMe SSDがPCIeの世代的に2世代目(Gen3からGen4)になりコンシューマ向けでは成熟期に入り始めた一方で、ハイエンド(データセンターやエンタープライズ)向けは日々進化を続けています。

 SSDに限らず、領域による技術の境界が近年は曖昧になりつつありますので、ハイエンド向け技術が早期にコンシューマ向けに姿を変えながら適用される可能性もあります。

 2022年も目が離せません。

ライセンス表記

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この記事はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

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