少数派だが確かに存在する「読みづらい」派
前回の記事でユニバーサルデザインフォントなんてものはない?というテーマを取り上げたが、今回はUDフォントの一つであるUDデジタル教科書体に絞って考えることにする。
UDデジタル教科書体に関しては制作過程等をまとめた本である『奇跡のフォント』が出版され、このフォントを信奉する人が増えた印象がある。
しかし、Xを覗けば「UDデジタル教科書体が読みづらい」と嘆く投稿が定期的になされている印象だ。
かくいう私も、UDデジタル教科書体で組まれている掲示物を医院で見かけた時(向かいの壁で2~3m離れていた)、文字は見えていても内容が頭に入ってこないという経験をし(その近くにあったUD新ゴの掲示物は小さい文字でも内容が読み取れた)、このフォントには何らかの欠点があるのではと感じた。
Xには具体的に読みづらさを指摘する投稿がいくつかあるので、本記事ではそれらについて検証してみたい。
太くて読みづらい
まずは「太くて読みづらい」という指摘だ。
Windowsで搭載されている2ウェイトのうち、特にBウェイト(太字)に関して太過ぎるという投稿が目立つが、中にはRウェイト(標準)も含めて太いと感じている投稿もあるようだ。
では、UDデジタル教科書体の太さは他のフォントと比較してどの程度なのか。
これについてはWindows搭載フォントの太さを調べてみたの記事で、「一(いち)」「ー(長音)」の太さを比較している。
UDデジタル教科書体のRウェイトに近い太さのフォントは「HG丸ゴシックM-PRO」であるが、HG丸ゴシックM-PROの場合は懐が広めのフォントであるのに対し、UDデジタル教科書体は懐があまり広くなく、余計に黒さが目立つ。
上記2つに加え、近い太さのゴシック系フォント3種(游ゴシックM、BIZ UDゴシックR、MS ゴシック)を並べたのが下図である。

文字によってはMS ゴシックに近い太さを持つものすらあり、Rウェイトでも十分太いことがおわかりいただけるだろう。
元々「デジタル」と銘打っているだけに、画面上の白背景黒文字で見やすいことを踏まえデザインしているふしがあり、さらにディスレクシアをターゲットの一つにしていることから文字サイズ大きめでの本文組みを主用途として想定した結果、一番細いRウェイトであっても太めになってしまったと考えられる。
よって、書籍等の本文組みに用いる際は注意が必要である。
個人的には、Rウェイトを10pt以下の本文に使うべきではないと考える。
特に、教育現場ではインキを用いた複写機が多用され、この場合さらに文字が太ることも考慮しなければならない。
(ちなみに前述の『奇跡のフォント』も小サイズの本文組みでこの書体を用いており、読みづらいと感じた人も少なからずいただろう。)
この状況を改善するには、Rより細いウェイトを別途リリースするか、バリアブルフォントの製品化でRより細いウェイトを設定するしかないが、何年か前のイベントで開発者がバリアブルフォントの開発を想定しておらず、細ウェイトのリリースは絶望的と言える。
学習用字形にこだわらない用途であれば、よりウェイトが細いクレー(オープンフォント版としてKlee Oneが無料で使える)の方がふさわしい場面もあるだろう。
傾いて見える
傾いて見えるという意見もちらほら見かける。
これに対して2つの点で分析を試みたい。
一つ目は漢字における教科書体特有の右上がり横画について。
手書きに寄せている教科書体だから横画が右上がりになるのは必然なのだが、問題はその角度である。
そこで、一般的な教科書体(游教科書体)と、UDデジタル教科書体に近い等幅線系手書き体(Klee One)、それにUDデジタル教科書体の3フォントに関して横画の角度を調べてみることにした。

すると、UDデジタル教科書体の横画の傾きは、抑揚のある一般的な教科書体とほぼ同じ角度になっている反面、等幅線系手書き体と比べると角度が1度ほど大きくなっていることがわかる。
漢字においてUDデジタル教科書体が傾いて見える原因の一つは、この横画の角度であると考える。
当初傾きについて上記の点のみに着目していたが、もう一つ、ひらがな・カタカナにおける文字の傾きの有無も考慮すべきだと感じた。
これについては中心線を引いてみたいところだが、どうしても主観が出てしまうところなので、游教科書体との比較(単独五十音表と重ね合わせ五十音表、ひらがなのみ)の掲示にとどめたい。果たしてあなたの目にはかなが傾いて見えるだろうか。



爪で黒板を引っかいたときのような感触
ツリーがつながっていないが、凍結された私のアカウントがこの方とやり取りした時に出てきた感想である。
どう解釈すべきか悩ましい感想だが、「不気味の谷現象」のようなものがこのフォントで生じている可能性があるのではと推察する。
(フォントにおける「不気味の谷現象」とは何だ?ということになるが、一例として挙げるなら、視覚補正のないGUのロゴのような要素がUDデジタル教科書体の文字の中にあるのでは?という意味)
目が滑る、均等すぎる
具体的な指摘の中で多く投稿されているものに「目が滑る」といった表現がある。
これに関しては私見の域を出ないのだが、文字を認識する手がかりが人によって異なるせいではないかと考えている。
UDデジタル教科書体は、余計な装飾を取り除いて骨格を見やすくすることに注力されている。
こうしたフォントは、骨格ではなく輪郭の形状から文字を識別することが得意な人にとっては識別の手がかりが大きく失われることとなり、「目が滑る」といった感想につながるのではないかと考える。

文字の認識特性に関するこの仮説が研究等で検証されることを願いたい。
余談になるが、ロービジョンの中でも視野欠損などを伴う場合、文字ごとの形状が大きく異なるフォントの方が識別しやすいことが高橋貴子氏の検証によって指摘されている。
数字フォントの比較だが、視認性に優れているとされるFrutigerより、Futuraの方が6や9を判別しやすいという。先端が丸まっている6や9は他の丸まった部分を持つ数字(3,5,8など)と混同する可能性があるが、先端が伸びた6や9は他に混同する数字が無いからであろう。
前掲の「形状で識別」に近い例ではないかと考える。
マイノリティとマイノリティの対立としないために
最後に、私がこの記事を書くきっかけとなったTwitter上のやり取りを挙げておく(元投稿者のツイートが何年も止まっているので、紹介しても支障が無いと判断した)。
開発者がこんな調子で突き放すのであれば、マイノリティのために作ったフォントが新たなマイノリティを生むだけである。
この開発者も最近はUDデジタル教科書体が読みづらいと感じる人に多少理解を示す投稿を行っているが、それでも太さ(Bウェイト)や組版のせいにする傾向が時折見られ、UDデジタル教科書体の改善の余地(上記漢字の傾きの件についてはX上で開発者に投げた)については曖昧な姿勢を見せている。
ユニバーサルデザインは独善であってはいけない。そのことを強く申し上げ、この記事のまとめとしたい。