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8.実施項目・打ち上げ後の実施項目⑥ RSP-03におけるフェージング現象の技術的整理

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Last updated at Posted at 2026-02-21

1. 背景

RSP-03は2025年9月19日の地上局運用以降、通信回復※を目的とした試験運用を継続していた.

  • GMSK ↔ AFSK 切替による通信
  • HKビーコン監視
  • リアクションホイール駆動によるアンテナ展開再試行
  • 12月落成試験へ向けた安定受信方法の模索、提出用データ蓄積

1月中旬以降、欧州のSatNOGS地上局OE6ISPさんよりHKビーコンの途中断続(fading)の指摘があり、現象の技術的検証を開始した.

当時のリーマンサット・プロジェクト公式発信

出典:https://www.facebook.com/rymansat/posts/pfbid0376gisSnSCCFNLeAoKe8AVXwMpSARtQFLZqtTnYU7gtwyEZsZRqVJ9QKpfWQTVfLsl

2. HKビーコン電波のフェージングの発生

SatNOGSの地上局OE6ISP局およびDwingeloo観測局より、

  • CWビーコン途中断続、GMSKデータの周期的強度低下
  • パス中に数十秒〜数分間隔での変化

が、急に発生したとの連絡を受けた.
 ※RSP-03 HKビーコンフォーマットhttps://rsp03.rymansat.com/assets/pdfs/RSP-03_HK_Beacon_Format(JP)_Rev1R2.pdf

※Dwingeloo https://www.camras.nl/ は、SatNOGS地上局のコミュニティ内でRSP-03含む当日打ち上げられた兄弟人工衛星がどれも観測不可能な状況を察していただき、Dwingelooでの観測を始めていただけた. 感謝!

※OE6ISP局とは、SatNOGS地上局で2×21エレメント(クロス八木)に加えLNAアンプ2段(LNA利得22 + 24 dB)でRSP-03を観測いただいていた.こちらよりRSP-03の微弱な電波の観測サポートを依頼した.
image.png

※SatNOGS Grafana観測結果
https://dashboard.satnogs.org/d/bey91a8bwwxz4f/rsp-03?orgId=1&from=now-6M&to=now&timezone=utc&viewPanel=panel-166

観測者OE6ISP;Stefanさん、PI9RD;Dwingeloo CAMRAS 期間と回数を示す

筆者は、地上局の狙いを機密性を保ちつつ、かつ観測結果の有効性を先方へ伝えつつ、情報のやり取り、本データのような技術検証をやり取りすることで信頼を得て、お互いの興味になることを学びあえる関係性に変わっていった.2025年10月~2026年2月の5ケ月間のやり取りをやり切った.以下詳細と公開できる範囲での情報を記載する.今後の開発の参考として残します.


突然のOE6ISP-Stefanさんからの2025年11月8日連絡

電波の強弱が発生しているとの連絡いただきました.

  • 主回転+二次回転の仮説 RSP-03自身がコマの回転と首振り?
  • 観測結果の中央部の薄緑色の線が断続線になる
  • 赤線部分の間隔、推定2~5秒程度受信が急激に弱くなる状況
その後、Dwingelooからも H:垂直偏波、V:水平偏波を示し、40回以上の観測で毎回受信強度が異なっている点を指摘いただいた.

通信が何らかの理由で不安定になり、これが続く場合、十分な運営ができなくなる懸念を伝えてくれた


RSP-03の実際の角速度データ 

アンテナ展開のためZ軸を主体にリアクションホイール(RW)を回転させ、遠心力でアンテナに刺激を与え、改善することを目論んで幾度となく対策を図った
ただし、本記事で解析対象とする欧州上空(Dwingeloo観測時点)ではRW回転は動作していない.
理論的には、RWを停止すれば内部トルクは消失し、衛星の角運動量は保存され、RW回転前の状態に戻るはず.
しかし、過去のRW回転制が履歴が姿勢状態に影響を残している可能性があるが、本記事では、Dwingeloo観測データに基づく偏波解析を主軸として回転状態を考察する.

観測されたRSP-03角速度データ例

3. IMU構成と解析方法

姿勢制御系には、Bosch製BMX160を用いたIMUが3基搭載されている.各IMUは角速度(X, Y, Z)を計測するできるため、角速度は合計9系列(3基×3軸)として取得される.
注意点として、Grafanaの角速度は観測日が離散しており、パス中の瞬間的な姿勢遷移(角加速度)を直接議論できるほどの時間分解能はない.
そこで本稿では、Dwingeloo観測で見えるフェージングのパターンと、同日の角速度の大きさ(回転の強さ)の関係を、主に定性的に比較する.

IMUは基板中央および対角配置され、冗長構成となっている.
【出展】リーマンサット・プロジェクト Rymansat Project 動画
#5 宇宙は地に足がつかない…姿勢制御系開発 ~超小型人工衛星RSP-03開発ウラ話14連発【RSP-03技術講演会】
https://www.youtube.com/watch?v=ZrFVXNdodF4&t=2936s

4. 検証に用いるデータ

本稿で用いるデータは以下の4つである.

  • Dwingeloo観測:H(垂直偏波)とV(水平偏波)に分けた受信強度[dB]の時系列(複数パス)
  • SatNOGS観測ID:各パスの識別子と観測日時
  • SatNOGS Grafana:IMU角速度(X/Y/Z, deg/s)の時系列(日にちごとの疎で存在)
  • 運用メモ:リアクションホイール回転コマンドのアップリンク操作の実施日・軸(X/Y/Z)

前述のDwingeloo観測のGMSK HKビーコンに加え、観測時の受信強度[dB]の変化を提供いただいた(10月6日~1月15日まで19データ 修正)2/16再突入前までの情報頂きました

5. フェージングの定義

バッテリー低電圧による送信出力の不安定さを懸念したが、各電圧の観測された数値は安定していることから電源不足が主因である可能性は低いとし、送信系の課題としてアンテナが十分に伸びきっていない(構造未公開)と推定していたことから、Dwingelooデータを考察し、フェージングが発生する3つの仮説を立て検証することした.

Dwingelooデータの考察にあたっては、

  • 本来はdip間隔Δt(秒)を測りたかったが、観測ごとのノイズ・欠測の影響が大きく断念した.
  • 代わりに本稿では、各パスの受信強度プロットを目視して比較した.
  • HとVのどちらか一方、または両方が短時間で顕著に落ち込む.(谷が形成される)
  • 特にHとVの乖離が大きくなる区間(片偏波だけ落ちる)を重視する

受信強度変動の仮説(3つ)

電源不足による送信出力低下をまず疑ったが、同期間の電圧データは大きなドロップを示さず、少なくとも本稿の範囲では「バッテリー出力が主因」とは言いにくい.
一方でアンテナ展開の不完全である可能性が高い状況から、次の仮説を置く.

【仮説1】衛星の姿勢により、地上局方向に対して“受信が著しく落ちる指向性の谷(Null方向)”が現れ、それがフェージングとして観測される.

【仮説2】アンテナの部分展開等により偏波成分が安定せず、回転に伴いH/Vのどちらかが選択的に弱くなる(H/Vの入れ替わり、乖離が増える).

【仮説3】低仰角や地表反射・環境ノイズの影響で、特定偏波(特にV側)が見かけ上不安定に見える場合がある.

RSP-03のリアクションホイールは、本来は星座観測、撮影用に姿勢制御するためのものであり、宇宙空間であっても高速な回転は起こしにくいと考察した.
ちなみにリアクションホイール動作で実回転角速度はy軸4.6deg/sが最大で発生しているが、これは約80秒/回転とゆっくりした回転である.

6. 各要因での考察

Dwingeloo GMSK HKビーコンデータ(上述、再掲)

image.png

【1】角速度が小さい場合 (衛星は静止に近いと思われる)

image.png
12/5の観測を示す.約600秒間の観測を表示している.12/5の観測を示す.波形天頂付近に向い、受信は安定する.しかし、V:水平偏波はLOSに向かって受信できなくなっている.

image.png
12/7の観測を示す.観測開始前後の低仰角では水平偏波の受信dBが低下している【仮説3】.その後は安定して受信したが3回目で受信できていない.Null面が存在する可能性を示す【仮説1】.その後、垂直偏波のみ復活【仮説2】

image.png
11月上旬、角速度が大きくなっていた時期である.仰角36度の受信しやすい条件であっても、全体的な受信が数dB低下、時間とともに変動している.HKビーコンの途中で急激に受信低下する様子が捕らえられている【仮説2】.水平偏波、垂直偏波の入れ替わる様子があり、仮説2の部分的に受信の弱い部分が衛星に存在を示すものと推定される

image.png
2026年1月8日でY軸角速度が大きく増えている.11月上旬の角速度の増加に比べると、【3】の時期では観測は【仮説2】のような部分的に電波を発しない部分が見受けられる.
こちらは安定的に垂直、水平偏波の波形に数秒間のフェージングが安定して発生しており、安定した回転をしていても、ある面の電波の指向性の無い部分があることを裏付けているのではないかと思われる【仮説2】.
また、水平偏波Hに受信の黄緑色の線の強い部分が見受けられ、地上からの発生られる電波を拾っていそうである【仮説3】

定性的にではあるが、仮説1~仮説3の現象は、Dwingelooの詳細観測結果から推定できた(と思いたい).
今回のような衛星との通信環境が不安定な場合、衛星の姿勢を変えることは不安定な運用となるため注意が必要である

7. 観測結果のまとめ

Grafanaの角速度が比較的大きい時期(回転が強いと推定される日)では、Dwingelooの受信強度プロットにおいてフェージングがパス内で複数回出現し、またH/Vの優劣が途中で入れ替わる事例が見られた.
これは【仮説2】(偏波成分の不安定化)や【仮説1】(Null方向)と整合的である.
一方、角速度が小さい(回転が弱い)と推定される日でも、片偏波だけがLOS側で落ち込む例があり、回転だけでは説明できない要素(【仮説3】や、部分展開による固定的な偏波偏り)も残る.

以上より本稿の範囲では、フェージング)は「バッテリー不足」よりも「姿勢変動+偏波・指向性の変化」によって強く支配される可能性が高い.

8. 御礼・謝辞

たくさんの方のご協力によってさまざまなミッションを受信いただき、RSP-03衛星が機能を果たし続けたことを証明できましたことに感謝し、そのミッションの充実からリーマンサット運用チームの「あきらめない姿勢」につながり、そしてなによりもリーマンサットメンバーの「祈・念」が通じ、おかげさまで2/16の再突入までこぎつけることができました.

私自身もSatNOGS観測はおまけ的なつもりで前述記事のデコーダー作成に始まったのですが、SatNOGSの皆様、CAMRAS tema、OE6ISP含むアマチュア無線家の皆様のご支援、それを翻訳しながらRSP-03の運営にかかわれたことを喜びといたします.

もう一つ、再突入に当たり、SatNOGS網を使ったTLE追跡技術に追いてQiita記事を書こうと思います(続く)

関連記事リンク

0. 初めに — リーマンサット RSP-03 受信チャレンジの歩み
8.実施項目・メンテナンス⑤ SatNOGSデコーダでの欠損値処理の実装メモ
8. 実施項目・打ち上げ後の実施項目⑥-2 RSP-03におけるフェージング現象の技術的整理 追加
8.実施項目・打ち上げ後の実施項目⑦ RSP-03再突入解析 SatNOGS観測TLE追跡と落下モデル構築の記録

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