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8.実施項目・打ち上げ後の実施項目⑦ RSP-03再突入解析 SatNOGS観測TLE追跡と落下モデル構築の記録

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Last updated at Posted at 2026-02-23

1. 背景 ー CelesTrakからSatNOGS TLE追跡へ

2025年9月、RSP-03はISS放出後、約400km級の低軌道を周回を開始した.
2026年2月、再突入がCelesTrakで警告が発せられ、軌道高度は徐々に低下し、最終的には大気圏へ再突入する.
CelesTrakの平均高度推移を見ると、再突入直前には高度が急激に減衰している様子が確認できる.
赤がRSP-03.予測では高度200kmを約150日目で下回っているのがわかる.
20260216-3_J-SSOD#32_ALT (1).png

CelesTrakは主にSpace-Track公開TLEを基にしており、再突入末期の精度は必ずしも十分とは言えない.SatNOGS側管理者のFredyさんより、「SatNOGS観測網で受信を追跡しTLE更新が可能」との連絡をいただけ、今回はその記録と検証を行った.まずはSatNOGS観測方法の紹介とその後、大気との空気抵抗を計算して「ざっくり」とした計算を元に落下までを計算してみました.目的は、あくまで記録です.しばしお付き合いください.

2. SatNOGSによる最終観測と衛星の回転挙動

再突入直前の最終観測は以下である.
観測局:4615 - yellowstone_yagi
観測ID:Observation #13416844
時刻:2026-02-16 11:17:39 UTC
信号状態:Good
TLE : RSP-03
1 65732U 98067XL 26047.47285800 .00000000 00000-0 34736-3 0 05
2 65732 51.6084 153.5345 0007960 327.1992 98.0671 16.50433221 08
(推定高度近地点高度 ℎ𝑝 ≈ 133.01 km)
(遠地点高度 ℎ𝑎 ≈ 143.38 km)
(平均(半長軸−地球半径) 𝑎−𝑅𝐸 ≈ 138.20 km)
https://network.satnogs.org/observations/13416844/

この観測では、ドップラー補正された信号が確認できるが、その後は、明確な信号が観測されていない.
RSP-03のバッテリー切れにより停波したかもしれないし、衛星高度はTLE計算すると138Kmとなっており、大気との摩擦などで衛星の姿勢変化が発生し、姿勢が不安定な状況であったことは間違いない.
その状況は、2/15 9:03UTCのDwingeloo観測で以下のような情報をいただき、激しく衛星が回転していることがわかっていた.約10秒周期で垂直、水平の電波の受信強度が変わっていることがわかる. 

Observation #13406959/#13406961

image.png

また、衛星突入時点の2月16日 7時5分のDwingelooの観測(PI9RD)が衛星の最終情報である.他、PE0SATさん、Stefanさんらに(下段)観測いただいた結果が残されている.感謝!
https://dashboard.satnogs.org/d/bey91a8bwwxz4f/rsp-03?orgId=1&from=now-90d&to=now&timezone=utc

ここから少し、SatNOGSの技術を紹介する.

2.1 SatNOGS論文の紹介(BEESAT-9再突入)

再突入運用に関する技術背景として、TU Berlin と Libre Space 様が 2024 年国際宇宙会議(IAC 2024)で報告した論文
“BEESAT-9 Re-Entry: Applying Lessons Learned from Operating Previous BEESAT Re-Entries” があります.
この論文では、同一シリーズの 1U CubeSat を複数機連続して再突入まで運用した経験から得られた知見がまとめられている.

📄 論文リンク(外部)
BEESAT-9再突入論文(ResearchGate)※英文
https://www.researchgate.net/publication/385654988_BEESAT-9_Re-Entry_Applying_Lessons_Learned_from_Operating_Previous_BEESAT_Re-Entries

本論文中の3.1 章では具体的な再突入運用方法や、SatNOGSネットワークを用いた観測データ処理・TLE生成について述べられていますので、必要な方はリンク先をご参照ください.

2.2 BEESAT-9で示された再突入時の典型現象

BEESAT-9 の再突入運用では、SatNOGSネットワークと独自生成TLEを組み合わせることで、最終高度 100 km付近まで通信・追跡が継続された.以下は論文や関連コミュニティ投稿から引用できる興味深い現象です.

  • TLEの迅速な陳腐化への対応
    再突入段階では軌道が急速に減衰するため、NORAD公開のTLEは短時間で精度を失います.
    これに対しドップラーシフトから軌道要素を生成する STRF(Satellite Tracking RF)ソフトウェアを用い、リアルタイムに更新する手法が有効であったと報告されています.

  • GNSSデータによる検証
    BEESAT-9 は唯一オンボード GNSS 受信機を搭載しており、SatNOGSドップラー生成TLEと GNSS 軌道データを比較・検証することができた.これにより再突入直前の位置精度評価と通信継続性向上が実現された.
    ※GNSS 受信機(Global Navigation Satellite System Receiver)とは、GPSなどの衛星測位信号を受信して、自分の位置・速度・時刻を計算する装置

  • 終盤での物理現象
    論文や関連投稿では、再突入 30 分前までの最終テレメトリが 102 km 付近でデコードされたこと、高温センサ値が 89 ℃〜187 ℃ まで急上昇したこと、角速度が 50°/s を超えるなどの例が示されている.
    こうした知見は、SatNOGS ネットワークを活用した運用が再突入直前までのデータ蓄積・通信継続に寄与することを強調している.

2.3 RSP-03で実施するための技術的比較と課題整理

RSP-03 の再突入解析において、BEESAT-9で示された手法・現象と比較すると、いくつか重要な点が指摘できる.
○ TLE生成と追跡基盤

  • BEESAT-9 は STRF や GNSS を活用して TLE を逐次生成・検証できた点が再突入追跡の質を高めていた.
  • RSP-03 では GNSSは搭載しておらず、観測ベースでの TLE 生成に依存するため、精度評価が限定的になること.

○ 物理挙動と送信機特性

BEESAT-9 では最終テレメトリから:

  • 高温・角速度増加といった再突入段階特有の物理変動
  • これによる通信品質の変化
    が記録されているのに対して、
    RSP-03 では:
  • 電波出力低下やフェージングが観測されるものの、
  • それが姿勢制御系の影響なのか、送信機出力劣化なのか、
  • あるいは単純な距離・ドップラー変動なのか
    の切り分けが困難であった.
    したがって RSP-03 の終盤信号低下に対し、BEESAT-9 のような 物理センサ連携や GNSS を用いた内部状態との突合ができていない点が懸念として残ります

○ 意味論的な観測限界
RSP-03 の信号は アメリカ上空2/16 11:17 UTC を最後に明瞭な受信がなくなったのだが、これが

  • 突入による遮蔽/ドラッグ増大
  • フェージングやスピンによるアンテナゲイン低下
  • 電源低下による出力減衰
    などの、どの要因によるものかは再突入直前でのデータが得られておらず、それ以降を推定する方法がない.
    SatNOGS観測ではその直後のObservation #13416831 2026-02-16 11:33UTC 仰角63度にて、バーチカルアンテナでが受信がなされていないこと.
    TLE更新が追いついていないが、南アフリカObservation #13417303 2026-02-16 11:53UTC 仰角43度、Discornアンテナと受信感度は弱い可能性があるが観測できていないことから、
    アメリカ上空の観測を最後に停波または再突入影響で通信ができなくなったと判断する.

2.4 ここまでのまとめ

BEESAT-9 再突入論文は、SatNOGS ネットワークを活用した再突入追跡の先行例として非常に有用です.
ただし RSP-03 では GNSSを内蔵せず、アンテナ受信強度が弱く、各地上局でのHKビーコン追加的な観測情報が得られないため、BEESAT-9 と同様の精度評価や因果関係の裏付けができないままとなっておりました.
本記事では、その限界を踏まえつつ、最終的に、どうRSP-03が落下したかを検証することとした.

3. SatNOGS追跡TLEによる高度推移

※ここからはchatGPTを用いた考察となっております. あくまで検証してみたというレベルでお付き合いください.
SatNOGSでTLE追跡をした経緯はこちらを参照ください(英語になります).
https://community.libre.space/t/rsp-03-re-entry/14407/14

2026.5.6 訂正)TLE計算を補完した青線、オレンジ線を点に変更
SatNOGS観測時に使用されたTLEを用いてSGP4伝播を行い、2026-02-16の高度推移を再構築した.
SatNOGSコミュニティで更新されたTLEを用い、各TLE更新時点の平均高度を点として整理し、2026-02-16前後の高度低下傾向を可視化した。
早速、検証結果を示す.

rsp03_reentry_trend_refined.png

SatNOGS観測時刻に合わせてSGP4/TLEで10秒間隔で推定高度(青)を算出した.低高度では周回に伴う高度の上下が残るため、青1点につき前後10分の最低値から下側包絡線(橙)を抽出し、減衰トレンドを表示している. さらに大気密度の指数増加を仮定した近似モデル(次に説明)で、包絡線(緑)を示す.

青点・橙点は、TLE更新時点の高度推定値を示す。青点はSatNOGSコミュニティで更新されたTLE、橙点はSpace-Track由来のTLEである。

複数のTLEは各時点で独立に推定された軌道モデルであり、これらを連続線として接続すると、物理的に不自然な上下動が生じる。そのため、本図ではTLE値を点として表示した。

緑線は、大気密度が高度低下とともに指数関数的に増加し、抗力による高度低下が加速するという仮定に基づく包絡線近似である。実線部分はTLE点群の傾向に基づく近似、点線部分は最終TLE以降の外挿領域を示す。

近似モデル

大気密度を指数関数で近似する:

$$
\rho(h) \propto e^{-h/H}
$$

ここで

  • $h$ :高度
  • $H$ :スケールハイト(Scale Height)

とする.


抗力支配下での高度減衰

抗力が支配的であると仮定すると、高度の時間変化は近似的に

$$
h(t) = H \ln(u_0 + bt)
$$

と表される.

パラメータの意味

  • $u_0$ :初期条件に依存する定数
  • $b$ :減衰率に関係する定数
  • $H$ :大気スケールハイト

このモデルは、LEO衛星の再突入直前の高度減衰挙動を簡易的に説明するための指数大気モデルに基づく近似式である.

平均二乗誤差が最小になるようにHを3~20で変化させて、以下の数値を得た.

  • H≈17.3 km
  • u0≈7129.49
  • b≈−0.24276 /sec(= -873.92 /hour)
  • t は 2026-02-16 09:00:00 UTC を t=0 とした経過秒(seconds)

このモデルは、再突入末期に向けて、減衰が加速するという物理直感と整合します.

TLE追跡による受信される電波の品質情報

SatNOGSコミュニティチャット "RSP-03 re-entry" 英文です.
https://community.libre.space/t/rsp-03-re-entry/14407/14 (再掲載) では
アマチュア無線家の前回のフェージング情報に続き、オーストリアのOE6ISP氏の落下中のリアルな投稿をいただいた

“CW and GMSK still active, very strong signal up to 25 dB, but significant short-periodic QSB.”

これは、再突入直前に CW(連続波)および GMSK モードの両方が受信可能であり、
しかも信号レベルが周期的に変動する特徴(QSB)があるという観測報告です.
単純に弱い信号というだけでなく、信号の性質や強度変化の傾向がわかる貴重な実測例でした.

  • 2月15日 日本時間13:31 CW,GMSK HKビーコンを取得
    image.png

image.png

  • 2月16日 日本時間17:40 しっかりCWデータが受信できている
    image.png

4. 再突入推定時刻の算出(ChatGPTによるモデル構築)

上記ログモデルを用い、120 km / 100 km / 80 kmの到達時刻を推定した.
※ここでは高度のみの推定であり、位置推定は含まない.
推定結果は、

  • 120km到達:2026-02-16 16時台(UTC)日本時間 02-17 1時台(+9 JST)
  • 100km到達: 同日 18〜19時台(UTC) 日本時間 02-17 3時台(+9 JST)
  • 80km到達: 同日 19時以降(UTC) 日本時間 02-17 3時以降(+9 JST)
    という結果となった.
    80km以下は一般的に熱的崩壊領域と考えられるため、本モデルでは80km到達時刻を事実上の再突入目安とした.
    前述のアメリカの11:17UTCの観測を最後に最大8時間程度は地球を5,6周、周回しながら終末を静かに、燃え尽きたと想像する

5. おおよその落下地域・地点の推定(衛星は流れ星へ)

高度モデルから0km到達まで外挿することは可能である.
しかし、

  • 再突入末期のTLE誤差は急増する
  • 単一TLEからの長時間外挿は信頼性が低い
  • 大気密度変動(太陽活動、局所変動)を無視している
    という問題がある.
    よって、本記事では落下地点の推定は行わない、できないと判断した.

落下地点推定には、再突入直前の最終TLE、もしくは実測軌道決定、高精度大気モデル(NRLMSISE-00等)、数値積分による弾道解析、が必要であり、今後の課題とする.

6.まとめ

本記事では、CelesTrak高度推移を起点とし、SatNOGS観測TLEを用いて再突入直前まで追跡、最終観測(4615 - yellowstone_yagi)を確認、ChatGPTを用いた簡易落下モデルを構築し、再突入時刻のみを推定を行った.

落下地点の精度には課題が残るため、本稿はここで一旦終了とする.
今後、より高精度な解析を継続予定である.

謝辞

  • SatNOGSコミュニティ、開発者の皆様
  • TLE更新・追跡で助言いただいた Fredy Damkalis さん
  • 再突入期の受信状況を共有いただいた Dwingeloo、PE0SAT、Stefan (OE6ISP) さん、他、観測者の皆様

0. 初めに — リーマンサット RSP-03 受信チャレンジの歩み
[8.実施項目・打ち上げ後の実施項目⑥ RSP-03におけるフェージング現象の技術的整理]
(https://qiita.com/estima5633/items/e47a3b8a63c40303abb6)

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