1. 背景:フェージング現象とFFT解析の提案
11月中旬以降、欧州局(OE6ISP)より、HKビーコン受信時の断続的フェージング現象が指摘された.
これに対し、以下の仮説を提示してきた.
【仮説1】:アンテナ放射パターンのNull面による強度低下
【仮説2】:アンテナ未展開により筐体面からの部分放射のみとなる影響
Stefanさんより、
- IQデータから受信強度(エンベロープ)を抽出し、低周波成分をFFT解析することで回転周期と対応を確認できるよ
との技術的提案をいただいた.
他衛星での検証事例もあるとのことで、RSP-03でもDwingeloo局のIQデータを用い、今回検証を実施した.
2. 仮説の再整理
RSP-03の放射パターン解析(437 MHz)より、
https://rsp03.rymansat.com/assets/pdfs/RSP-03_AntennaPattern.pdf
Antenna Radiation Pattern アンテナ展開時
- +Z方向には相対的に利得の低い領域が存在する.
- 4つの方向に電波強弱がある.つまり1回転中に4回強度ピークが発生する可能がある.
フェージング現象の推定原因
【仮説1】:+Z方向のNull面
姿勢によっては地上局方向がNull面に入る可能性がある.
よって、衛星が回転すると、Null方向が周期的に地上局へ向くことが考えられる.
【仮説2】:アンテナ未展開によるさらなる偏波
アンテナ未展開時は、筐体X/Y面方向からは部分放射.
この場合、1回転中に特定の面のみ強く放射という挙動になる.
3. 検証方法 (chatGPT利用)
3.1 解析フロー
Dwingeloo IQデータに対し、以下を実施.
- I/Qデータ読み込み
- バンドパス処理(CW帯域抽出)
- 絶対値 → 受信強度エンベロープ
- 低周波成分抽出
- Welch法によるPSD解析 Power Spectral Density(パワースペクトル密度)
※PSD (a.u./Hz)は 正規化した信号です.
※Welch法(ウェルチ法):信号のパワースペクトル密度(PSD)を安定して推定するための手法.データを複数の小区間に分割し、各区間に窓関数を適用.それぞれFFTを計算.スペクトルを平均化.効果としてランダム成分を減らし、周期成分を強調できる.
pythonコードで freqs, pxx = welch(env_norm, fs=env_fs, nperseg=nperseg) にて処理
3.2 周期と周波数の関係
$$
f = \frac{1}{T}
$$
3.3 主回転想定値
90秒の場合:IMU合成値 4deg/s
$$
𝑇 = 90s
$$
$$
𝑓 =\frac{1}{90} = 0.01111Hz
$$
4. 12月5日(回転安定ケース)解析結果
出力ピーク:
f=0.01111 Hz period=90.00 s
f=0.01667 Hz period=60.00 s
f=0.05000 Hz period=20.00 s
・・・
図:PSD全体
図:超低周波部を拡大 ~0.05Hz 数値は電波送信の変動周期
5. 結果の物理的解釈
5.1 90秒成分 0.0111 Hz
主回転周期に対応.
角速度換算:
$$
ω=\frac{360}{T}
$$
$$
𝜔=\frac{360}{90} = 4.0 deg/s
$$
Grafanaのピーク時の角速度と整合.
5.2 20秒成分 0.05000 Hz
90秒回転の1/4周期成分.
$$
\frac{90}{4}= 22.5s
$$
観測では約20秒付近.
これは、前述のAntenna Radiation Patternで示したさらなる偏波は、
1回転中に4回強度ピークが現れる可能性を示唆.仮説2と整合.
5.3 主回転・副回転・高次成分の整理
前節では 12月5日の PSD 解析で
- 90秒(0.01111 Hz)
- 60秒(0.01667 Hz)
- 20秒(0.05000 Hz)
が明確に観測されました.
ここでは整理して、各周期成分が意味するものを説明します.
5.3.1 主回転の候補:
- 90秒 ≒ 4.0 deg/s
Grafana で得られる角速度データからも、12月5日は約 ±4 deg/s 付近で安定していることが分かっていました.
5.3.2 副回転と高調波の意味
FFT の性質上、ある基本周波数(主回転)に対して
- 2倍(60秒 = 0.01667 Hz)
- 4分の1(20秒 = 0.05000 Hz)などの高調波成分が発生します.
これは物理的に、
主回転の周期に加えて、衛星の 形状・放射パターンの周期的変化が複数回/回転で観測される
ことと理解することが可能である.
特に 20秒成分は、90s ÷ 4 = 22.5s に近く、
アンテナ未展開時でもX/Y 4方向からの部分放射になっていると推定しました.
6. 他の観測日との比較(12月7日、11月12日、1月8日)
ここでは、「回転が比較的安定」な 12月5 日と、他の日を比較し、周期成分の変化や傾向を観察します.
6.1 12月7日 回転安定ケース 2つ目
12月7日は 12/5ほど明確な主ピークは出ませんでした.
特に、
- 90秒以外のピークが弱い
- 低周波全体がフラット
という傾向です.
これは、
- 回転がより安定し、強い周期変動が抑えられている
可能性があります.
6.2 11月12日 X,Y角加速度が増加
低周波雑音が優勢で、明確な周期が出にくい状態でした.
- 回転がランダムに近い
- 振動が多い
ことが反映されていると考えられます.
6.3 1月8日 Y軸角速度が増加
- 90秒以外のピークは増加
- 中高周波成分の比率がやや高い
という傾向でした.
これは主回転が安定した後でも 微細な回転変動や制御の揺らぎがあることを示している可能性があります.
6.4 比較まとめ(12月5日を中心に)
| 日付 | 主ピーク | 備考 |
|---|---|---|
| 12/05 | 0.0111 Hz (90s) | 安定した主回転、4面偏波成分あり |
| 12/07 | 明確な主ピーク弱い | 12/5と同様.回転安定に近い |
| 11/12 | 低周波雑音優勢 | 姿勢制御前後の乱れ |
| 01/08 | 90s付近ピーク散漫 | 微細回転・変動あり |
観測日ごとに周期スペクトルの形や強度分布が異なり、単一の周期だけでなく「複数の回転パターン」が存在していることが示唆されます.
7. まとめ
- IQデータから受信強度を抽出
- FFT解析で90秒周期を明確に検出
- 20秒成分は4面放射を示唆
- 仮説1・仮説2と整合的
**フェージングは偶発的ノイズではなく、衛星回転 × 放射パターンで説明可能である可能性が高い.**と結論づけました.
関連記事リンク
0. 初めに — リーマンサット RSP-03 受信チャレンジの歩み
8.実施項目・打ち上げ後の実施項目⑥ RSP-03におけるフェージング現象の技術的整理
8.実施項目・打ち上げ後の実施項目⑦ RSP-03再突入解析 SatNOGS観測TLE追跡と落下モデル構築の記録



