概要
シリーズ最終回となる今回は、あらためて“運用・監視”という仕事に立ち返ります。
第1回ではその価値が軽視されてしまう現状を、
第2回ではそこから“技術の面白さ”を見出した体験をお伝えしました。
そして今回は、会社と個人、両者の視点から見た「アサイン」とキャリア設計のあり方を考えます。
現場で支える仕事の本質を見つめ直しながら、
「誰がどのようにこの経験を活かせるのか」を掘り下げます。
過去の記事
はじめに
これまでの2回を通して、運用・監視という仕事を“現場”から見てきました。
そこには軽視されがちな印象もありながら、
実際には多くの学びと成長のきっかけがあるという現実がありました。
そしていま振り返ると、
この業務は単なる出発点ではなく、キャリアを形づくる原点だと感じます。
同時に、その“原点をどう活かすか”は、
個人だけでなく会社の関わり方にも大きく左右されると思うのです。
運用・監視は「結果」ではなく「設計の一部」
多くの現場では、運用・監視は「システムが完成した後の運用フェーズ」と見なされがちです。
しかし本来、運用・監視は設計段階から考慮すべき仕組みです。
「何を、どのように、どの粒度で見るか」
「障害時にどこで止まり、どう復旧できるか」
──これらは単なる手順ではなく、設計思想そのものです。
現場で学んだのは、「見えていないことが一番怖い」ということ。
安定して“動かし続ける”には、設計そのものに「見る仕組み」を組み込む必要があります。
運用・監視は、後付けの仕事ではなく、システム品質を支える基礎構造なのです。
「運用・監視は簡単」という誤解
「運用・監視は誰でもできる」「見るだけの仕事」──
そう言われることがあります。
けれど実際には、現場判断と責任感が最も問われる仕事でもあります。
数多くのアラートや対応の中で、
“何が本当に重要か”を見極める。
この積み重ねが、システム全体のリズムを支えています。
また、“止まらないように気づく”という予防的な視点も重要です。
それは単なる監視ではなく、異常を想像し、先手を打つ技術です。
この視点が、のちの設計・構築に大きく生きてきます。
現場で培った“見る力”が設計を変えた
運用・監視で培った“見る力”は、構築や設計にそのまま活きました。
ログを読む力、違和感に気づく力、全体を俯瞰する力。
それらはすべて、現場での実践を通じて磨かれたものです。
構築をしていても、
「この設定を入れると監視の目が届かない」
「この構成では障害時に切り分けが難しい」
──そんな判断が自然にできるようになりました。
運用・監視は“気づく技術”であり、
それがあるからこそ“壊れにくい設計”ができるのです。
アサインという現実と、そこにある責任
とはいえ、理想と現実の間にはギャップがあります。
企業が運用・監視をアサインする理由はさまざまで、
必ずしも「育成の意図」だけではありません。
スキルバランス、案件のタイミング、現場の安全性など、
経営上・組織上の都合が背景にあることも少なくありません。
そのため、
「まずは運用・監視で慣れてほしい」
「今は構築案件がない」
──そんな説明のもとで配属されるケースもあります。
問題は、その“先”が共有されないまま時間だけが過ぎることです。
意図の説明やステップの提示がないまま1年・2年と続くと、
本人は「この先どうなるのか」と不安を感じ、
結果としてモチベーションが下がってしまいます。
会社と個人、双方に求められる姿勢
アサインとは、単なる“人の配置”ではなく、キャリア設計の一部です。
会社には、個人よりも大きな裁量と強制力があります。
だからこそ、その力を“責任ある形”で使うことが求められます。
- キャリアの方向性を明示すること
- 定期的に状況を確認し、軌道修正すること
- 変化や成長に合わせて柔軟に再設計すること
こうした取り組みがあるだけで、
アサインは“固定”ではなく“成長の助走”に変わります。
一方で、個人にもできることがあります。
「なぜ自分がここにいるのか」を理解し、
その環境でどんな経験を積めるかを自分なりに設計していくこと。
この“会社と個人の両輪”が揃ってこそ、
アサインはキャリアの礎になります。
経験は一つの道であって、唯一の正解ではない
ここまで書いてきたことは、あくまで私自身の経験を通じて感じたことです。
もちろん、運用・監視を経験しなくても、
ユーザー視点や運用を意識した設計・構築をしている人は多くいます。
要は、“経験したかどうか”ではなく、
“現場の想像力を持てるかどうか”だと思います。
私にとってはそれが「運用・監視」でしたが、
別の人にとっては「設計」「開発」「セキュリティ」かもしれません。
それぞれの立場でシステムを支える視点を持つこと──
それがエンジニアの本質だと思います。
おわりに
運用・監視とは、“支える技術”であり“想像する力”を育てる仕事です。
それは「簡単な仕事」ではなく、
システムを理解し、人を支え、未来を防ぐ仕事。
そして会社がその仕事を任せるなら、
キャリアを描く責任をともに負う覚悟が必要です。
運用・監視で培った“気づく力”は、
やがて設計での“考える力”につながり、
それが再び現場で“支える力”へと循環していく。
新人もベテランも、その循環の中で視点を持ち寄り、
“止まらない仕組みを作る文化”が生まれていく。
──それこそが、私がこの仕事を通して感じた「運用・監視という原点」の意味です。