シリーズ「その数字、誰の話?」 ― 公的統計を47都道府県で確かめる
① 47都道府県ランキング(1位が条件次第で37位になった)
② 何年働けば「2000万円」が要らなくなるのか(26県は0年だった)
③ 「地方は安い」は九州だけだった
④ このシミュレーターの作り方(手打ちゼロでも1箇所間違えた)
⑤ 持ち家が得とは限らない(維持費を足すと6県で逆転)
⑥ 1人なのに2人より高い県(宮崎・大分・長崎)
★⑦ 倍率1位と金額1位は違う(本記事)
⑧ 「2000万円」が当てはまるのは7.3%(近日公開)
⑨ 安い県ほど介護費の割合が高い(近日公開)
⑩ 年金の地域差(近日公開)
⑪ 月1万円の固定費削減は、生涯258万円だった(近日公開)
TL;DR
- 倍率1位は住居(8.6倍) —— 高知 43,000円 ⇄ 富山 5,000円
- でも生涯差1位は交通・通信(1,264万円) —— 京都 ⇄ 和歌山
- 倍率ランキングと生涯差ランキングは一致しない。倍率で驚くな、金額で見ろ
- 保健医療ですら 2.2倍。沖縄は複数費目で最低側に寄る
先に自分の県の内訳を見る 👉 あなたの老後資金、HOW MUCH?
「県によって住居費は何倍も違う」——そう聞いて驚くのは正しいです。実際、最高と最低は 8.6倍でした。
ただし、その次にやるべき読み方が抜けがちです。倍率がいちばん大きい費目と、生涯でいちばん差がつく費目は、別物でした。
何を計算したか
第1回と同じく、必要額の骨格は次の式です。
必要額 = 月の不足額 × 258ヶ月 + 800万円
今回は必要額そのものではなく、費目ごとの県格差を見ます。
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| データ | 47都道府県の費目別支出(アプリ初期表示と同じ・cons に合わせてスケールし千円丸め) |
| 比較 | 各費目の 最高県 ⇄ 最低県 |
| 倍率 | 最高 ÷ 最低 |
| 生涯の差 | (最高 − 最低)× 258ヶ月 |
これは精密な家計診断ではなく、どの費目の地域差が「見た目」と「金額」でどう違うかを見る比較です。
倍率1位は住居。8.6倍だった
| 費目 | 最高 | 最低 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 住居 | 高知 43,000円 | 富山 5,000円 | 8.6倍 |
| 被服・履物 | 兵庫 15,000円 | 沖縄 3,000円 | 5.0倍 |
| 交通・通信 | 京都 70,000円 | 和歌山 21,000円 | 3.3倍 |
| 家具・家事用品 | 石川 20,000円 | 沖縄 8,000円 | 2.5倍 |
| 教育・教養娯楽 | 奈良 37,000円 | 秋田 16,000円 | 2.3倍 |
| 保健医療 | 富山 24,000円 | 沖縄 11,000円 | 2.2倍 |
| その他(交際費等) | 石川 49,000円 | 沖縄 23,000円 | 2.1倍 |
| 光熱・水道 | 山形 31,000円 | 鹿児島 17,000円 | 1.8倍 |
| 食料 | 東京 95,000円 | 沖縄 64,000円 | 1.5倍 |
住居だけが桁違いに開いています。高知と富山を並べると、同じ「持ち家世帯の住居費」でも月の景色がまったく違います。
ただし、この 8.6倍の主因は「高知の家が8.6倍高い」ではありません。低位県では固定資産税などが消費支出に入らず住居費が小さく出ることと、高知の住居費が家賃相場(約4.3万円)と同水準まで乗っていることの組み合わせです。
でも生涯でいちばん効くのは、交通・通信だった
同じ「最高 − 最低」を、老後の長さ(258ヶ月)に伸ばすと順位が入れ替わります。
【生涯の差】(同じ目盛り・概算)
交通・通信 ████████████████████████████████████████ 1,264万 ← 金額1位
住居 ██████████████████████████████ 980万
食料 ████████████████████████ 800万
その他 ████████████████████ 671万
教養娯楽 ████████████████ 542万
光熱水道 ███████████ 361万
保健医療 ██████████ 335万
被服 █████████ 310万
家具家事 █████████ 310万
倍率ランキングと、生涯差ランキングは一致しませんでした。
| 費目 | 倍率 | 生涯の差(258ヶ月) |
|---|---|---|
| 交通・通信 | 3.3倍 | 1,264万円 |
| 住居 | 8.6倍 | 980万円 |
| 食料 | 1.5倍 | 800万円 |
| その他(交際費等) | 2.1倍 | 671万円 |
| 教育・教養娯楽 | 2.3倍 | 542万円 |
| 光熱・水道 | 1.8倍 | 361万円 |
| 保健医療 | 2.2倍 | 335万円 |
| 被服・履物 | 5.0倍 | 310万円 |
| 家具・家事用品 | 2.5倍 | 310万円 |
住居は倍率では圧倒的1位ですが、月額の絶対差は 38,000円。
交通・通信は倍率 3.3倍でも、月額差は 49,000円あるので、258ヶ月では住居を追い越します。
住居の月差 38,000円 × 258 ≒ 980万
交通・通信の月差 49,000円 × 258 ≒ 1,264万
倍率で驚くな、金額で見ろ。 これが今回の1メッセージです。
ここも「京都=車社会」とは読みません。京都は交通・通信費が高い県でした。家計調査では交通と通信を合算した費目なので、個別要因まではこのデータだけでは分かりません。 和歌山の低さは、生活費総額自体が最下位クラスであることとセットで見る、が今言える範囲です。
📊 この記事の数字は、元データをそのまま公開しています 👉 都道府県別 老後資金ランキング 2026年版
47都道府県 × 4条件の一覧と CSV です。出典を明記いただければ、転載・引用は自由です(CC BY 4.0)。
「倍率が大きい=家計を支配している」ではない
エンジニアの感覚だと、比率の大きいバグから潰したくなります。家計の県格差でも同じ罠があります。
- 比率が大きい費目は、分母(最低県)が小さいときに膨らむ
- 金額が大きい費目は、分母が大きくても分子との差が残る
住居の話は先に書いたとおり、分母側(富山など)が統計上小さく出やすいのが効いています。第5回で維持費を足すと景色が変わったのも、同じ系統です。交通・通信は倍率こそ控えめでも、京都側の月額水準が高いので生涯差が厚く残ります。
おまけ:沖縄は「安い」の顔が費目で違う
最低側に何度も出てくるのが沖縄です(被服・家具・保健医療・その他・食料)。
ただし住居の最低は沖縄ではなく富山、交通・通信の最低は和歌山です。
「沖縄は全部安い」ではなく、費目ごとに最安の県が違う。これも倍率だけ見ていると見落とします。
自分の県の内訳を開く 👉 あなたの老後資金、HOW MUCH?
正直な注意点
- 費目は家計調査ベースの県平均です。 個人の通勤手段・持ち家の維持費・実家同居などは入りません
- 持ち家の住居費は実態より小さく出やすいことがあります(固定資産税が非消費支出のため)。賃貸や維持費を足すと順位は動きます
- 生涯の差は「その費目だけが258ヶ月続く」とみなした機械的な換算です。必要額全体の感度分析ではありません(感度はアプリ内の★表示)
- 精密な生活設計ではありません。 読み方の罠を示すための比較です
次回
「老後2,000万円」が当てはまる条件は、全通りのうち 7.3% だけでした。 次回は、3,008通りを数えた結果を扱います。
よかったら教えてください
- あなたの県で、いちばん高い費目は何でしたか?
- 倍率で見ると驚く費目と、金額で見ると効く費目は一致しましたか?
内訳はアプリの途中までスクロールすれば見えます。高知と富山の住居、京都と和歌山の交通・通信が、今回の対比の核です。
47都道府県 × 世帯 × 持ち家/賃貸 × 生活スタイルで必要額を計算して、何を変えると必要額がどれだけ変わるかを並べて表示します。無料・登録不要・金融商品の勧誘は一切ありません。
作者メモ
- 数値は
data.jsのcatをconsにスケールし、アプリと同じ千円丸めした値 - 生涯差=(最高−最低)×258ヶ月。必要額の式と同じ月数
- 旧メモの「住居の最低=徳島」は誤りで、正は 富山(検算で訂正)
この記事は連載「その数字、誰の話?」の第7回です。全11回で、47都道府県のデータを使って老後にまつわる思い込みを1つずつ検証していきます。次回以降を読み逃したくない方は、フォローしていただれると届きます。